京のいけず日記

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2006年08月31日(木) 薄情

落書き絵私が見舞いに行くと、
角部屋の窓から庭が見渡せる病室のベッドで、父は気持ち良さそうに寝ていた。

父の鼻先に顔を近づけて、呼吸を確認する。

父の胸が規則正しく上下するのに安堵をつく。
何だかおかしい。


そうして。ベッドのそばの丸椅子に腰掛けて、昼下がりのゆっくりとした時間を、何も喋らず、ただじっと父の傍に居る。

定員6人の部屋は住人が3人。いずれも年配の男性ばかりで静かな部屋だ。
今日はまだ誰も面会の人が来ないのか、話し声もしない。

30分…、1時間… 2時間… 止まったままの時間が過ぎていく。
父は変わらず、穏やかな寝息を立てている。

今日はこのまま起こさずに声もかけずに帰ろうか…。
お尻を浮かせた矢先に血圧計を手にした看護婦さんが入ってきた。

彼女は父のベッドの傍に立つと、優しい声で言った。
「○○さぁーん、ご気分はどうですか?血圧、計りましょうね」
逞しい腕に支えられて、やせ細った父の上体が起き上がる。

「お… なんだ。おまえ来てたのか」
「うん。さっきから…。あんまり気持良く寝てるから…」

起こさなかった。
私がもらした言葉に気づいて、彼女が申し訳なさそうに笑う。
「ごめんねー。気持よく寝ているところ起こして」


悪いこと言ちゃった。
気まずさを笑いで隠して、ふと思う。

私は何て薄情者だと。

テキパキとした彼女の問いかけに、父がぼそぼそと答える。
父は夢の世界から帰還したのだ。

もし、あのまま声もかけずにただ見守っていただけだとしたら…
父は気持ちよさと引き換えに、そのまま亡くなってしまう事もあるかもしれない。
妨げないのがいいのだろうと、私が勝手に思い込んでいるだけだ。

いつだって。…そうなんだ。
私には押しのけて踏み込んでいく情というものがないんだろうか。


父はとみに意欲を失いつつある。
酒も、競馬も…、好きな野球チームの中継も、囲碁も、昔話も…
感じたり、考えることじたいが面倒なようだ。

穏やかな終焉に向かって、
年老いて辛くないように、有り余る欲や、重い荷に振り回されないように、
体力や、気力や、記憶や、感情や、さまざまなものを
神様が取り上げていくのではないか…。そう思う。

欲しくもないと思う者の口に食物を運ぶ。
たまさかの安らかな眠りを妨げ、健康な人の日々の時間割に合わせる。
疲れて気力を喪失している者を励まし、手取り足取りやらせる。

大切にするとはどういうことだ。
良かれと思ってやったことを幸せだと思ってくれるだろうか。

生きて欲しいのではなく、
自分のために生きていて欲しいのかもしれない。

どこか諦めた感情で、ただじっと状況を見つめているだけの薄情な私がいる。
辛い姿を見るのが嫌なだけの、弱い臆病な私がいる。

情けない。


2006年08月24日(木) 近況報告

1ヶ月以上も放置してしまいました。ちゃんと生きてます。
時おり覗きに来て下さった皆さん、すみません。

不調の輪から抜け出せたかというと… 残念ながら状態はほぼ変わらず。
ゆるやかな下降線を辿っているという感じがします。
ということで近況報告。

【病身の父のこと】
入院後、今は仮退院しています。
治療するではなく、進行を最小限にとどめるという目的で、副作用の少ない弱い抗癌剤治療を始めました。

皺だらけの骨と皮の体。
痩せた為に飛び出したように見える目。
固形食が入らず膨らんだ腹。

男前だった父も、一昨年亡くなった母も、姿形だけをいうなら、まるで仏画に描かれているような餓鬼の姿に似ている…。といえば、とんだ親不孝者か。

神様も、仏様も、絵を描いた人もきっと優しかったに違いない。
子どもの頃、忌み嫌うように恐ろしかった餓鬼の姿に、今はおかしみや慈しみを感じる。

病気の如何に関わらず、年老いて天寿を全うするということは…
こういうことなのかな。

…こらっ。罰あたり! ワシャ、まだ死んどらんぞ。

【仕事運】
教室関係は夏休みが終わって本日より始動。
派遣の方は秋よりまた新しい三ヶ月がスタート予定かな。
いつまで続けられるか分からないけれど、声が掛かるうちはガンバロと思う。
万事、運、人任せ。転換期かとも思うが心が定まらない。

【家庭運】
夏休みも、毎日、部活命の我が家の中高生。
仕事が休みで、やっと一人の時間が日中もてると思ったのに。もぉ。
出たり入ったり。やれ昼ごはんだ。やれ朝錬だ。
もうすぐ夏休みも終わると思ったら、こちらもしっかり仕事再開です。

【健康運】
…って、おみくじか。
昨日の朝、トイレにてヤバイことに。刺すような腹痛。冷や汗。血圧急降下。
まずいなぁ…と思う間もなく、一瞬気を失ったようで…。
痛さで気がついたら、お尻丸出し、トイレの床に頭があり、なんと足が上になってスリッパが飛んでいた。

おでこにはお岩さんのような紫色のタンコブが… あれは何だったんだろう。
夜まで何も食べずにすましたら、治まったみたいです。お医者さん嫌い。 



先日、子どもの夏休みの宿題で地元散策にお付き合いしてきました。

渡月橋付近の写真 ←渡月橋付近

禁門の変の時、長州が天龍寺に軍を構えたな、とか。
山あいの寺から東山は大文字山麓の金戒光明寺を眺めて悦に入ったり、とか。
かと思えば伊庭八郎の征西日記を思い浮かべたり…。


どこに居ても My World ☆
そのうち妙なビョーキも始まると思います。では。では。


Sako