切実に、 - 2006年04月27日(木) 小さく身体を丸めて、 腰椎からの髄注に耐える小柄な女性の手を握りながら。 巧いタイミングで声をかけることができずに、 張り詰めた緊張と沈黙を与えてしまったような気がした。 時折、ふ、と張り詰めた空気を和ませる柔らかな声で、 先輩が背中側から彼女の名前を呼ぶのを、 自分は追い掛けるようにして声を重ねていた。 自由に動く彼女の右手に自分の左手を繋ぐと、 縋るように力が込められるのが分かった。 その腕はとても頼りなく戦慄いていて、治療とはいえ、酷く苦痛なのが伺えた。 包帯で固定されて指先しか出ていない彼女の左手を自分の右手で包むと、 ピクリと指先が震えた。 不安と痛みと、それから孤独と。 彼女が耐えなくてはならない現実は、はっきりした終わりも見えなくて。 それはあまりにも辛いだろう。 だけど、終わった後に彼女が呟いた言葉に、痛いくらい切実な想いを知った。 「これで良くなるなら、ね。」 生きていたいと願う気持ちの重さを、イヤというほど想い知らされた。 ... IC - 2006年04月18日(火) バッドニュースを告げる場に同席して。 そのあまりの衝撃に、自分の方が負けそうになった。 大丈夫だと言われて信じていたのに、それを根底から覆される絶望感。 平静を保っているように見えて、隠し切れない動揺と困惑と戸惑いが、 彼の胸の内側に渦巻いているのに気付いてしまったから。 ガラガラと希望が崩れ落ちる音が聞こえた気がした。 バッドニュースを伝えるテクニックというものがある。 それは情報を提供する側と受け取る側の状況によって大きく左右されるとはいえ、 基本的な流れや、大まかな基準は、実はそういった基本に沿っているのだと思う。 それを多分、医師たちは充分考えていて。 自分が一番言いたくないであろう事柄を、 相手が一番知りたくないであろう事柄を、 それでも包み隠さずに真っ直ぐに伝える姿勢は正しいと思う。 ただ、その瞬間の相手の反応に、自分が引きずられてしまっただけだ。 バッドニュースを伝えるのは医師の役目だろう。 予後不良だと、余命が幾許もないと、 そう告げることができるのは医師しかいないというのが、 医療従事者たちの間で暗黙の了解だ。 相手の絶望感に満ちた眼差しを、 何の障害もなく正面から受け止める役割を担う医師たちの気持ちが知りたいと想った。 そう頭の中では解っていても、 医師から告げられた言葉の意味を理解した瞬間の患者の衝撃は酷く重くて苦しくて。 たった一人でその事実を聴くしかなかった彼の、 その想いをどうやって受け止めたら良いかが、自分にはまだ解らなかった。 自分が真っ直ぐに立っているので、今は精一杯だった。 ... 気持ち。 - 2006年04月13日(木) こんな人たちと、同じ現場で働けることを誇りに想って。 これから出逢う人たちの、 その長かったり短かったりする人生の、 ほんの一部分を共有できることがどれだけ凄いことか。 考えただけで眩暈がした。 全ては自分の心の持ちようなのだとしたら。 笑っていられるだけの余裕を持っていたいと切実に想った、 ... スタート地点。 - 2006年04月05日(水) 急激な刺激を受け、慌てて活動を始めた脳細胞に、 ふわふわとしていた感覚がいつの間にか消されていた。 現実がようやく意志を持ち始め、緩やかだった休息の日々を凌駕する。 何度経験しても慣れない新しいスタートの感覚に、 今回は溜息ではなく無理矢理にでも口角を引き上げることにした。 何はともあれ、 この場所をスタート地点にしようと自分が選んだだけでなく、 向こうから自分を選んでもらえた事実は嬉しかったのだから。 ...
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