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「おい・・・・・」 小さく呼びかけると、゛う・・ん”と、少しだけ身じろぎした。 が、それでも依然目覚めようとしない弟に、俺はやれやれ・・と肩をすくめる。 「タケル・・」 べッドの端に腰かけて、枕に突っ伏すように顔を埋めているタケルの耳元に、今度はそっと囁くように呼ぶ。 ファンの女の子たちが聞いたら腰くだけにでもなりそうな、低く甘い美声なのに(自分で言うな)ささやかれた当の本人は、それでも構わず小さな寝息をたてている。 たしかに、夕べは遅かった。 土曜日の夜にマンションにやってきたタケルと、近所のレンタルビデオ屋に行って2,3本映画のビデオを借りて、リビングの明かりを消して一つ毛布にくるまって、オールナイトシネマを楽しんだ。 これで、タケルが高校生にでもなっていたらワインでも開けて(・・・え?こうこうせい?)もっと艶やかで、甘ったるいムードたっぷりの大人 の夜も楽しめるんだろうが。 何せ相手はまだ中学生になったばかりで、しっかりコドモなものだから、やれジュースおかわりだの、ポテトチップスが欲しいだの、あんまり色気はなかったのが。 まあそれはそれで、もちろん楽しかったし、よしとしよう。 それでも、映画の合間にふざけてキスをしてみたり、自分の足の間に風呂上がりでいい匂いのするタケルの身体を抱きしめたりしつつ、兄弟のスキンシップだけはしっかりとっていた。(・・・兄弟の・・・・?) どうも、最後に見た映画がちょっと怖かったのか、眠る時はそりゃもうしっかりと、俺の身体にしがみついてきて。 せまいシングルベッドで、抱き合うようにして眠った。 なんだか何とも言えず、わけもなくイケナイ衝動にかられそうになりつつも、肩口で安心しきった顔で眠る弟の寝顔を見つめているうちに、気がついたら朝になってしまっていた。 腕枕をさせられた腕が、心地よく痺れて。 なんか、天国とジゴクが同時にやってきたような、真夜中と明け方を過ごしたのだ。 そんなわけで、こっちは、とっとと朝は起きられたのだが、タケルの方はもう10時になろうかというのに、まだ安眠をむさぼっている。 日曜日の朝。 天気がいい。 布団を干したら、さぞかし気分がいいだろう。 平穏で満ち足りた朝。 カーテンから漏れる日差しはあたたかくてやさしくて、気持ちよさそうに眠るタケルを起こすのは何だか忍びない。 いつまでも、好きなだけ眠らせてやりたいが。 けど、困ったな。 もう朝メシできちまったぜ? おまえの好きな、トロトロのやわらかめのスクランブルエッグとフレッシュトマトにアスパラガス。 オレンジジュースもほどよく冷えてございます。 でもって、デザートのプリンは俺のお手製なんだけど。 うまいぜ、きっと。 ああ、トーストはお前が起きたら焼くから。 だから、起きろって。 思いつつ、指先で金色のやわらかい髪をそっと梳く。 指の間を擦り抜ける金糸が、なめらかに落ちていく。 まるで、天使のような金色だな。 硬質な髪質の父や母や自分にも似ていない、やわらかな天使の猫っ毛。 何度か髪にふれていると、伏せられた睫毛が微かに震えた。 長い睫毛だなあ。 女の子みてえだよな。 いや、女の子だって、ちょっといねえよな。こういうの。 睫毛まで少し金色がかっていて、その先に光がとまっているかのようだ。 頬はうっすらと桜色で、肌の色は透き通るように白くて。 でも病的なそれじゃなく、生まれつきの、みずみずしい白。(どんな?) 肌はやわらかくて、それこそ赤ん坊の頃と変わらないような。 頬から顎にかけてのラインに、まだ幼さを残している。 手の甲でそっと頬のあたりにふれると、くすぐったそうに小さく笑みをこぼした。 かわいいな・・。 こんな無防備な顔見せるのって、俺だけになんだろうな・・。 そう思うと、たまらなく嬉しい。 コイツときたら、誰といても、いつもやわらかく微笑んでるクセして、反面、心は結構かたくなで頑固だ。 悩みも自己完結型。 俺にだって、何でも相談してくれるってわけじゃない。 つーか、どちらかって言うと、聞かなきゃほとんど話してなんかくれねーんじゃないか・・? そういうのが成長だと喜ぶべきなのかもしれないが・・。 正直、ちょっと、兄としては、淋しいんだぜ? なんでも、一人で抱え込むなよ。 もっと甘えろよ。 いくらだって、甘えさせてやるのに。 泣いたっていいんだ。 俺のとこで泣くなら、別に恥かしいことなんかじゃないんだぞ。 弟が、兄に甘えて悪いわけがない。 むしろ、あたりまえのことじゃねえか。 そういや、 おまえの泣き顔、しばらく見てねえぞ。 おい、こら。 意地っ張りの、 タケル。 指先で、さくらんぼのような唇をそっとなぞる。 くすくす・・と笑って、肩をすくめた。 「こら・・・・タケル・・・」 眠りが浅くなってきたのかと思い、脅かさないようにそっと呼んだ。 微笑んだ口元が、その声に、答えようとゆっくりと動く。 おにいちゃん・・・・と。 「う・・・・・ん・・・・・大輔・・・・・・ぅん・・・」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・がーん! お・・・起こさねば・・。 俺のタケルが、なんでまた大輔なんかの夢を・・・。 いや、でも、大輔の夢を見てるからって、こんなに気持ちよく寝ているコイツを起こすのも、なんだか大人気ないというか・・。 いや、しかし、いったい、夢の中で何を・・・・。 もしかして、あんな事やこんなことをしていたらどうする! やはりここは、兄の権限で、どうにか阻止せねば!(何をだよ・・) だ、だが・・・。 タケルの安眠を兄の権限だけで、いや、兄だからこそ、いや、それはエゴだ、いけない。落ち着け、ヤマト! ああ、しかし。くそおぉおお、大輔のヤツ・・・!
「はい、もしもーし、本宮でーす。あら、ヤマトくぅんv どしたのぉぉv え?大輔? はい、いるけど。・・・・大輔ー! ヤマトくんからデンワ」 「ヤマトさん?・・・・ちわっす、大輔ですけど・・・・ どしたんすかあ?」 『おまえなあ! 大輔!』 「・・はい?」 『勝手に人の弟の夢の中に出てくんな!!』 「・・・・・はあ?」 『今度出てきたら、ブッ殺すからな!』 「・・・はああ??? ちょちょっとヤマトさん! ヤマトさ・・・・・(がちゃん!) ツーツーツー・・・・ 」
「な、なんなんだ・・・・・今の・・・?」
END
ゴメン。大輔・・・・・・。 だって、ほら、兄、バカだから・・・。
オマケ。
「お兄ちゃん・・・機嫌悪い?」 「いや、別に」 「僕が寝坊したから怒ってる?」 「別に、そういうわけじゃ・・・」 「そう? あ、スクランブルエッグおいしいよv お母さんのよりずっと美味しいv」 「そ、そうか・・?v」 「ねえ、どうしたの?」 「お、おまえさ。なんか夢見てた? 起きる寸前」 「起きる寸前・・? なんだっけ・・・?あ・・・・ああ! 思い出した! 大輔くんがねえ」 「(ピク)大輔が・・・?」 「伊織くんとジョグレスしてね」 「はあ?」 「ナンデマタコンナモンになる夢」 「・・・・は・・・はあ??」 「すっごい面白かったんだよー。土偶と埴輪とトーテンポールを足したみたいなデジモンでねえ」 「はあ・・・・・」 「伊織君は、大輔さんのせいでこんなデジモンになっちゃったじゃないですか!とか言って怒るし、大輔くんは、オマエの方こそ、タケルとジョグレスしたって土偶だったじゃん!とか言って」 「は・・・はあ・・・」 「でねー」 「た、楽しい夢でよかったなあ・・・。は、ははは・・・・・(スマン、大輔・・・)」
「待ち合わせより、大分早く来ちまったな・・」 ヤマトは腕時計を見ながら、ふうと溜息をついた。 平日の日暮れ。といっても春のためか、まだまだ日は高い。 間近にせまった母の日のプレゼントを一緒に見て欲しいと、タケルから珍しく平日に呼びだされた。 それだけで、バンドの練習もあっさりパスして、一つ返事で了承してしまうのだから、我ながら本当に弟には甘いと思う。 けど電話越しに、 『何がいいかわかんなくて・・。ねえ、お兄ちゃん。お願い。一緒に来てv』 なんて、ハートマークつきでねだられては・・・。 公園のベンチに腰を降ろし、足を組んで空を見上げる。 いい天気だ。 ゆうべは、試験が近いものだから、めずらしく遅くまで勉強していた。 おかげで、今頃になって、すこぶる眠い。 ヤマトは公園で遊ぶ子供を見ながら、ふああと大きくアクビをした。 どうせまだ約束まで時間がある。少し、寝るか・・。 そう思い、腕を組んで目を閉じた。 鳥のさえずる声と、日差しのあたたかさにすぐにでも眠りに落ちかけたヤマトの耳に、ふいに子供の泣き声が飛び込んできた。 「うわあああ・・・・・ん! おにいちゃああぁーん! 待ってえ、待ってえええ!」 思わずハッと目を開ける。 (タケル!) 目の前で、1年生くらいの男の子がへたり込んで泣いていた。 苦笑いする。 なんでタケルなんだよ。アイツはもう5年だろーが。そんな小さい子みたいな泣き方するかよ。 と自分相手に思わず呆れてしまう。 で? ヤマトは大泣きしている子を見て、それから辺りを見回した。 公園の出口あたりで、バツが悪そうに立っている4年生くらいの少年が目に入る。 「おい」 ちょうどいい具合に目が合ったので、軽く手招きしてみせた。 ぶすっとした顔で、仕方なく少年が戻ってくる。 「お兄ちゃん!」 「お兄ちゃん、じゃねえ! 泣くなよ、みっともない!」 戻ってきてくれたものの怒鳴られて、1年生がまた大泣きする。 ぽろぽろ溢れて頬を伝う大粒の涙と、それを一生懸命拭う、まだ小さい手。 タケルもこんなだったっけな。 思いつつ、ポンとその頭に手をのせて、「おい、泣くなよ・・」とやさしく声をかけてやる。 涙顔で驚いたような顔でヤマトを見上げ、その子はまたわっと泣きだした。 「あ・・・おいおい」 「あー、俺知らねえもん」 「ちょっと待てよ。おまえの弟なんだろーが」 「知らねーよ。そんな泣き虫! 大嫌いだ!」 「おい、おまえ!」 「アンタには関係ないだろっ」 「目の前で泣いてるのに、ほうっておけないだろうが」 「ほっとけきゃいいんだ、そんなヤツ!」 兄の一言にまた、わあああ・・んと大きな声で泣き出す子を困ったように見下ろし、ヤマトは仕方ないなというように、その子をひょいと自分の足の上に抱き上げた。 驚いたように泣くのをやめて、膝の上に抱き上げられた子がヤマトを見上げる。 ヤマトに、自分の坐るベンチの隣をクイと指差されて、兄の方が憮然としつつも、 しようがなしにそこに腰かける。 「だってさあ・・・。そいつのおかげで俺いっつも損ばっかだもん! 今日だって、せっかく友達んちに呼ばれたのに、こいつがへばりついてきたおかげで邪魔だからって、俺だけ仲間にいれてもらえなかったんだぞー! 今日だけじゃない、この前だって、その前だって、俺、こいつのおもりばっかでさ! もお、友達も相手にしてくんなくて、さんざんなんだ、アンタになんかわかんねーよ! ああもう、うざいよ、オマエなんか! 本当にもお、どっか消えちゃえ!」 一気にまくしたてられ、今度は大泣きせずにクスン・・と小さく鼻を鳴らして、弟の方がかなしそうに小さく言う。 「ごめんなさい・・・」 その言葉に、兄の方はちょっと言いすぎたというような顔をして、こっちも泣き出しそうな目をした。 弟の方の頭を軽く撫でて、ヤマトが静かに言う。 「母さんは?」 「仕事」 「そっか・・」 「夜まで帰らないから。学校から帰ったら、オレずっとこいつのおもりなんだ・・ こいつのこと、本当は・・そんなに嫌いじゃないけど・・でももう、ウンザリなんだ」 本当は好きだとは、照れがあって言えないらしい。 「俺もそうだったぜ? もっとも、おまえくらいの年にはもう別々に暮らしてたけど」 「別々に? なんで?」 「親が離婚したから」 「そう・・・なんだ」 「しようがねーけどな」 言って笑う。 確かに今は、本当にしようがなかったんだとそう思っている。 だけど、あの頃はまだ・・。 今、コイツのそれを言っても、それこそしようがねえけど。 「俺もさ。2年生くらいの時、学校の帰りに毎日、弟を保育園に迎えにいってさ。それから、ずっと面倒みてたんだぜ。よく泣くし、甘えてひっついて離れねーし、とにかく手がかかるヤツで。おかげで友達とは遊べねえし、それどころか宿題もできねえし、おまけにトイレまでついてくる」 「イライラしなかった?」 「した」 「だろ?」 「ああ」 笑いながらうなずくヤマトに、どこかほっとしたような顔をして兄が少し笑顔になる。 そうか、たぶん、こんな風に誰かに愚痴りたかったのだろう。 色々、兄はツライもんだ。 親に我慢を強いられるばかりで、ちょっとキレかけていたのかもしれない。 ヤマトがそんなことを考えていると、唐突にその子から問われた。 「じゃあ、弟のこと大嫌いだった?」 一瞬おどろいたような顔になり、それからだんだんに笑みを浮かべて、ヤマトが答える。 「いいや、全然」 「じゃあ、何?」 「すっっげーーーー可愛かったv」 力いっぱい言われて、まんまるく目を開いたその子は、しばし呆然とし、それから思いっきり吹き出した。 「笑うな」 「だってさあ、あははは・・・。お兄さん、変わってるねえ」 「悪かったな」 あまりの爆笑に思わず仏頂面をして、ヤマトがジロと隣を睨む。 まあ、だけど、きっとこんなにウケるところを見ると、案外コイツも同じ穴のムジナなのかもしれない。 照れがあって、ストレートに「弟が可愛い」とは言えないだけなのだ。 いや、それがもしかするとフツーなのかも。 「おい、こら」 「ははは・・・。何?」 「兄貴も色々ツライけど、弟も小さいなりに色々考えててツライんだぞ」 「えっ」 「兄ちゃんだろ、わかってやれよな」 「あ・・・」 「おまえに嫌われたらどうしようって、そう思いながら追いかけてきてるのかもしれないぜ?」 ヤマトの言葉に、その膝の上にいる弟をじっと見る。 泣きはらした赤い目がすがり付くようだ。 本当はうざいなんて思ってない。 消えられたりしたら困る。 淋しいのは弟だって同じだ。 いや、小さい分きっと、もっとだ。 そして、こいつが本当にいなくなったら、淋しいのはむしろ自分の方だ。 思うけど、そういうの、どうしてやったらいいかわからない。 声をかけるのをためらっていると、それを見ていたヤマトがやおら膝の上にいる子の頭をポカリ!と軽く殴った。 驚いて、うわああああん!と泣き出す弟を見て、はっとして、兄の方がヤマトの上から奪いとるようにして弟を抱き上げる。 「何すんだ、ヒトの弟に!」 「悪い、手が滑った」 「お兄ちゃあああん」 「よしよし、泣くな・・」 言いながら、いったん地面に降ろし、背中に小さい身体をおんぶする。 睨みつけようとして目が合ったヤマトは、やさしい目で笑んでいた。 怒鳴りかけたのをはっとやめて、それから少し考えて、指先で鼻の頭を掻いた。 ヤマトの意図を察したのだろう。 「じゃあ・・・。俺、帰るわ。そろそろ母さん帰ってくるし」 「おう、気をつけてな」 軽く手を振るヤマトに、その子はちょっと頬を赤らめると小さく『ありが とう・・』と言った。 「じゃあ!」 「またな」 「うん」 行きかけて、ふと振り返る。 「ねえ、お兄さんの弟って、今どうしてんの?」 「ああ、もうすぐ来る。今からデート」 「おとうと、とお?!」 「悪いか」 「まさか、今でも“可愛い”とかー?」 「ああ? そうだな、昔よりももっとな。すげー可愛いぜ!」 「あははは・・ やっぱ、お兄さん変わってる! じゃあなー!」 「・・・・ほっとけ」 背中の弟をおぶいなおして、まだ幼い兄が帰っていく。 夕暮れが近い。 自分たちもあんなだった。 まだ幼くて、でも、弟のことになるとなぜか一生懸命だった自分を思いだす。 疎ましいと思ったことも、少しはあったんだろうか。 あまり記憶にはないけれど。 既に遠くなった思い出の中で、それは美化されてしまったのか。 ・・・いや、そうでもないか。 それよりも、その小さい手で何度癒されてきたことだろう。 大切で、大切で、たからもののようだった。(むろん今も) 遠い記憶をたどるヤマトの視界が、ふいに真っ暗になった。 ベンチの後ろからそっと近づいてきた人影に、ふいに目隠しされたのだ。 「だーれだ?」 「・・・・・・・・空」 「・・なんで空さんなんだよ! 声でわかるでしょうが!」 「だったら、こういう古典的な・・・」 手を取り除いて見上げると、真上から見下ろした形で、タケルが微笑みながらも目を真っ赤にしている。 いやーな予感・・。 「・・・・・・・・・おまえ、いつからここに来てた?」 「・・・・・15分くらい前、かな?」 「・・・・・・・・」 ってことは・・・。 「全部、聞いちゃった・・」 「なんで、声かけねーんだよ!」 「え?だって、かけづらかったし、それに・・」 「それになんだよ」 思いっきり赤面して、だけどもそれをタケルに見られたくないヤマトがさっさとベンチを立って歩き出す。 「あ。待ってよ、お兄ちゃん」 慌てて追いかけて、兄の袖をくいと掴む。 「だって、本当はお兄ちゃんも僕のこと、疎ましがってたのかなってそう思ったら・・ねえ、待ってったら!」 タケルの言葉に、ヤマトがぴたりと立ち止まる。 そして、本当に困ったような顔をして、くしゃくしゃっと弟の髪を撫でた。 「馬っ鹿だな」 「え?」 「んなわけ、ねーだろ?」 低く言って、それからあたりに誰もいなくなっていることを素早く確認すると、小さな顎を指先でひょいと持ち上げ、ちゅ・・と短く口づける。 「ほら行くぞ。日が暮れちまう」 「え、え、え、ちょ、ちょ、ちょっと、お兄ちゃんてば!」 タケルが、一瞬呆然とし硬直し、それからカッと赤くなって慌ててヤマトに走りよる。 照れている時の兄は、本当に怒っているかのようだ。 言葉少なで、そっけない。 でも、僕もね。 でも、僕もそういうお兄ちゃんが好きなんだよと、タケルは心で呟いた。
他人より少し〈少しか?)兄バカで、 ちょっと変わってる(おい)お兄ちゃんが。
END
兄バカ、第2弾でした〜v 楽しかったあv(風太)
放課後を待つかのようにして、ヤマトの携帯が鳴った。 <きっと自分の曲とかを着メロにしてるのであろう。この人のことだから・・笑> また、それを待っていたかのように素早くポケットから取り出して、それに答えながら教室の隅に移動する。 「俺だけど。・・うん。ああ、大丈夫だぜ? こっちから迎えにいくから、待ってろよ。・・いいって・・・。うん。・・・・・ん?なーに言ってんだよ、本当にバンドの練習ないんだって。じゃあ後で。帰りに、一緒に晩メシの買い物でもしてくか。・・・んー? おまえの好きなのでいいよ。うん。じゃあ・・・・校門とこにいろよ。誰かに声かけられても、ついてったりするんじゃねーぞ。わかったか? はい・・・じゃあなv」 電話を切ったところで、不審そうな顔で見ているクラスメートの視線にぎょっとする。 「なんだよ!」 照れ隠しに思わず一喝すると、ばらばらと散っていく。 鞄を肩に担いだ、隣の席の男子生徒だけが残って、ニヤリとして大きめのノートをほいと手渡した。 「お急ぎのとこ悪いけど。俺とおまえ、当番。ほい、日誌」 「えー? おまえ書いとけよ」 「何で俺ひとりで書かなきゃねーんだよ。適当に書いたら持ってくのは頼まれてやっから、おまえ書けよ」 ったく・・。と舌打ちしつつ机に向かってノートを広げるヤマトに、隣の席で椅子の上にしゃがむ様な坐り方でノートを覗きながら、男子生徒がにやにやとして言った。 「デートのとこ、悪いねえ」 「デートじゃねえよ」 似たようなもんだけど。 「カノジョだろ? さっきのデンワ」 「カノジョじゃねえって」 「じゃあ何だよ」 とろける様な顔でデンワしてたぜ?と言われて、思わず赤面する。 「弟」 「おとうとぉ〜!! おまえ、もうちょい、マシな嘘つけよー」 呆れるように言われてしまった。 「嘘じゃねえって」 「弟がわざわざケイタイにデンワしてくっか?」 「悪いか」 「いや、悪いとかどうとかじゃなくて。ブキミ・・・」 「あのなあ! 隣でごちゃごちゃうっせんだよ! 文句あんならおまえが書けっ!」 キレるヤマトに、わかったわかったと言いつつ、たしなめるように“いや、俺、字きたねーからさ”などと言い訳する。 仕方なく、再びノートに向かうヤマトに、ふぁあと欠伸を一つした後、ぼそりと言った。 「しかしなあ。弟なんて、俺、何日口きいてねーかなあ」 「なんだよ、喧嘩でもしてんのか?」 「してねー方がめずらしいけど。最近はお互い無視してんなあ。うっとおしいから」 うっとおしい? 考えられないという風に、ヤマトが首を振る。 「・・おまえんち、弟いくつ?」 「中1」 「なんだ、一緒じゃん」 「おまえんとこも?」 「ああ。けど、最近もお本当に生意気でさー。図体ばっかでかくなって。そんなことねえ?」 「そんなことない」 「そっかぁ? 妹とかいるのちょっと羨ましいけど、弟なんて憎たらしいばっかりだぜ。何かっちゃあ、絡んでくるし」 「構ってほしいんじゃねーの」 「はあ? そんな年かよ! だいたい人のもんは勝手にさわって持っていきやがるし」 「貸してやりゃいいじゃん」 「貸したら返さねーよ、アレは! 第一、さわられたくもねえし。口きいたら最後、喧嘩になるのがオチだし。その癖、親の前ではいい子ぶりやがんだよなあ。腹立つ!」 「おまえの前で本音出してるなら、可愛いと思えば?」」 「かか可愛いって! おまえ、あのムサ苦しい汗臭いののどこが可愛いってんだあ! いるだけで、ウゼェよ!」 なんだか、そうとう不満が溜まっているらしい。まあ、男兄弟なんて、大きくなればそんなものかもしれないが。 「そういや、この間もムカついて、思いっきり殴り合った挙句、テレビのリモコン投げつけてやったら目の上あたってスゲエ流血してさあ。母親にはどやされるわ、こづかい没収されるわ、最悪で・・!」 言い終わらないうちにギロッと横目でヤマトに睨まれて、男子生徒が思わず固まる。 「な、なんだよ」 「おまえ、弟殴ったりするのか!」 「へ?」 「最低だな」 「はあ?」 「もっと大事にしてやれよ! 兄貴が殴ってどうすんだ!」 「どどどうすって、普通だろ! 兄弟なら、殴り合いくらいすんだろーが!」 「しないね!」 「いや、おい、ちょっと」 書き終わった日誌をぱし!と叩きつけるように手渡して、ヤマトが憮然として鞄を肩に担ぎ上げる。 「持っていっとけ」 「いや、持ってはいくけど」 呆然とする男子生徒を置いていきかけて、くるりと振り返ってヤマトが言う。 「あのな中嶋! よーく覚えとけ! そりゃおまえの弟は、ガタイもでかくてムサ苦しくて汗臭くて、ちってもかわいくねえかもしれねえけどな。うちの弟は色も白いし、身体も華奢で、そんなことしたら壊れちまうし、第一、殴らなきゃならないような可愛げのないことなんか言ったりしねえんだよ! 性格も素直でやさしいし、けど他のヤツの前じゃいつも色々気持ち我慢して無理してて・・。でもそういうの、誰かのせいにしたりしないし卑屈になったりしないから、余計ツライ想いばっかするのに、アイツそういうの全部自分の中に溜め込んじまうんだ。とにかく俺がそばについてて守ってやんないと、アイツは、タケルは・・・!」 「あのう・・・・」 弟についての熱弁は延々とそれから続き、中嶋くんは、それから数十分後にやっと、自分がふってはならない話題を彼にしてしまったことに気づくのだった。 (・・・・・・・ブラコンだ・・・・・。こいつ・・・)
「おまえのせいで遅くなったじゃねえか!」 「俺のせいにすんなあ! 40分もしゃべりたおしてたのはおまえだろうが!!」 言い合いながら、職員室に日誌を届けて、校門に急ぐヤマトに中嶋がこそこそとついていく。 さすがに、ああまで言われれば、どんな弟か見てみたくなるのが人情(?)ってもんだろう。 どうせ、鼻たらした小汚いガキか、色の白いモヤシみたいな病的な・・・。 思いつつ、ヤマトに追いついてその肩に手を置こうとした瞬間、校門からひょこと顔を出した影に思わず固まった。 「お兄ちゃんv」 (か・・・) 呼んで、甘えるような表情でヤマトを見上げる。 (か・・・) その金髪をくしゃっと撫でて、ヤマトが「遅くなってゴメンな」と笑いかける。 後ろにいるので表情は見えないが、きっとにやけているのに違いない。 兄の背後にいる中嶋に気づいて、タケルが問うように兄を見上げる。 ヤマトが気づいて振り返って「なんだよ、いたのかよ」と忌々しげに見、いかにもしたくなさそうにタケルに紹介する。 「いっしょに当番だったんだ。隣の席の中嶋・・・。これが俺の弟のタケル」 「コンニチワ。兄がいつもお世話になってますv」 笑顔で言って、ぺこりと頭を下げる。そのしぐさが何とも・・・・。 (か、か、可愛いィィぃい〜〜vvv) 「な、な、中嶋!ですっ」 思わず、ぼ〜と見つめる中嶋に危険を感じたのか、ヤマトがタケルの背にさっと手を回し、「待たせて悪かったな」と促すように歩き出す。 じゃあと軽く会釈して兄に並んで歩き出すタケルが、嬉しそうにヤマトを見上げて、掴まるようにその腕に軽く手を添える。 ヤマトの手が、またくしゃくしゃとタケルの髪を撫でた。
一人取り残された中嶋くんは、呆然と校門に立ちすくんでいた。 そして、ナルホド。と思うのだった。 (そりゃあ・・・。ブラコンにもなるわ・・・・。あんな可愛い弟じゃあ・・・)
ああ、俺もあんな可愛い弟なら欲しい・・・。 そして兄バカと呼ばれたい。 いや、兄バカつーのはちょっと・・。 しかも、弟よか、できれば妹のが。 連れ歩いて自慢するにゃ、やっぱ妹だわな。 けど、 いや、待て。 あんな可愛い弟なら、やっぱいっそ弟でも・・。 つーか。 いいなあ、ヤマト。 あああ、俺もああいう弟なら欲しいぜえええ。 ああ、いっそウチのと取り替えてくれい!
END
と思ったかどーかは知らないけど(笑)
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