Scrap novel
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2002年06月27日(木) |
カタオモイ(すみません、またしても本のCMです・・) |
かなわない恋をした。 立ち往生の断崖絶壁。 一生片想いで終わる恋。 いっそココから飛び降りて、終わりにできれば楽なのだけど。 想いは、アナタを傷つけるから、 やはり僕だけのものにしておこう。
そして、僕は自分と決めごとをした。 哀しいガラス細工のようなこの恋の忘れ方。
もしも、お兄ちゃんに好きな人ができたなら、 その人の好きなところを全部聞いて、 その人の素敵なところを全部覚えて、 一つ残らず全部覚えて、 そして自分の嫌いなところを全部言って、 どうしたってかなわないとそう思って、 かなわないから、あきらめようとそう思って。 強く強く強く、思って、 そして、 一人で膝を抱えて泣こう・・・。 たくさん泣いて、ひとしきり泣いて、 苦しいくらい泣きつづけて。 もう一粒の涙も流せなくなった頃。 アナタにサヨナラしよう。
もうこの想いは、この世に存在してはならない。 錘をつけて、海の底に沈めて、溺れさせて、 眠らせよう。 深く、深く、深くに。
もう春が近いというのに、風はまだまだ冷たくて、吐き出す息も白いまま。 剥き出しの足は芯から冷えて、徐々に感覚がなくなってきている。 指先も凍りつきそう。 なんだかそんなことだけで、心が切なくなってくる。 タケルは、中学校の正門の道路をはさんだ前にあるバス停から、ぼんやりと門を抜けて下校してくる生徒たちを眺めていた。 今日は、パソコンルームにも行かず、かといって家に帰る気分にもなれず、ここにこうしているけれど、だからといって兄を待っているというわけでもなかった。 ただなんとなく・・・。 どこにも居場所がない気がしただけのこと。 タケルの心を映すかのように空はどんよりとした青灰色で、雲は厚くて、まだ3月だし、もう一度雪でも降らせてみせようか、と思案しているように見える。 「タケルくん?」 ふいに背中から声をかけられて、はっと驚いたように振り返る。 「ヒカリ・・ちゃん」 タケルに名を呼ばれた少女は、首を傾けるとにこりと笑った。 「デジタルワールドに行ってると思ってたから、びっくりしちゃった。こんなとこで会えるなんて」 「あ、ヒカリちゃんも行かなかったの?」 「そ、だからここにいるの」 「あ・・・・ だよね」 「どうしたの? 変だよ?」 タケルを見つめて、ヒカリがくすくす笑う。 「今日はお兄ちゃんと約束があったから」 その言葉に少しドキリとして見つめると、ヒカリが、ほらここのところデジタルワールドも平和だしね。と言い訳のように言った。 「参考書、一緒に見てもらおうと思って」 「そう、なんだ」 「タケルくんも、ヤマトさんと?」 「え、あ、ううん。僕は・・・・」 約束なんかはなくて、と慌てて言いかけた時、ふいにヒカリを呼ぶ太一の声が聞こえた。 見ると、道を挟んだ正門の前で、太一がこちらに向かって手を振っている。 「お兄ちゃん!」 ヒカリはタケルを振り返ると、タケルくんも行こうと声をかけ、先に立って横断歩道を兄に向かってかけていく。 反射的にその声についていこうとして、タケルは少し遅れて正門を出てきた人影に、びくりと足をとめた。 「あら、ヒカリちゃん」 「あ、空さん、お久しぶりです。ヤマトさんも!」 「太一を待ってたの?」 「はい、お兄ちゃんに参考書選んでもらう約束してたんです」 「え〜、太一に選んでもらうの? 大丈夫かな?」 大げさに驚いてみせる空に、太一が唇を尖らせて反論する。 「何だよ〜空! 俺だって小学校の参考書ぐらい選べるぜ!」 「ついでに自分のも買っておいたらどうだ?」 「うるせぇな」 ヤマトの横槍にムッとする太一に、くすくす笑いながらヒカリが言う。 「それで、お二人はこれからデートなんですか?」 ひやかすようなヒカリの言葉に、空がヤマトをチラッと見上げて、少し頬を赤らめて“いやねぇ”と困ったように笑うと、ヤマトも若干照れたような笑みを浮かべた。 それを見ながら、ふと、タケルの姿がないことにヒカリが気づく。 「あれ、タケルくん?」 「タケル?」 「今まで一緒にいたんだけど・・」 その言葉に、視線を巡らし、ヤマトはバス停の後ろにある公園の木陰に、弟の白い帽子を見つけた。 「どうしたんだ? タケル」 太一の不思議そうな声に、何かを考え込むように口元に手をやると、ヒカリは次の瞬間、急に笑顔になって兄の腕を取った。 「じゃ、お兄ちゃん行きましょ! そうだ。空さんも一緒に来てもらえません?」 「え?」 「だって、ほら、お兄ちゃんだけじゃ、やっぱり不安だし」 「おい。ヒカリ!」 「ねっ、空さん! お願いします!」 「え・・・・ でも・・・」 両手を合わせてさらににっこりするヒカリに、心底困った顔の空がヤマトを見上げる。 が、ヤマトの視線はまだタケルに向いたままで、空は、強引なヒカリの手に太一とともにぐいぐいと背中を押され、仕方なく歩き出した。 「じゃあ、ヤマトさん」 「え? あ。ああ・・・」 ヒカリの声に我に返って遅れて答えると、正門をしばらく行ったところで兄と空を待たせたヒカリが、ヤマトの前に駆け戻ってくる。 「あの・・・」 呆然としたまま立ちつくしていたヤマトに、ヒカリが少し早口に言った。 「タケルくん、今日も昨日も給食ほとんど残しちゃったんです。顔色もよくないし・・・ちょっと心配だったから」 じゃあ、とそれだけ言って踵を返し、兄と空の元へ走り寄るヒカリを眉をひそめて見送ると、こちらに向かって、お願いしますというようにぺこりとおじぎをした。 それに戸惑ったような笑みを返して、ヤマトはともかく道路を渡ると、木の陰に身を隠すようにしている弟の元へと急いだ。 その後ろにそっと歩み寄り、俯いている耳元にからかうように言う。 「・・オイ、おまえのおかげで、デートが台無しになっちまったぞ? どうしてくれるんだ?」 言われて、ハッと弾かれたように、タケルが顔を上げてヤマトを見上げる。 そのあまりに動揺したような見開かれた瞳に、ヤマトの方が驚いて一瞬言葉に詰まる。 「ごめん! お兄ちゃん。僕、帰るから!」 そういい残して立ち去ろうとした腕を、ヤマトの手が慌てて捕まえると自分の方を向かせ、困ったように微笑んだ。 「バカ・・・ 冗談だよ」 「だって・・・ デート・・」 「一緒に帰るかって、それだけだ。別に約束があったわけじゃない」 それでも泣きそうな瞳が、ヤマトを見上げている。 「追いかけてよ・・・」 「もういっちまったよ」 「でも・・」 言ってチラリと太一たちの行ってしまった方向に目をやり、ふいに空が振り返った気がして、タケルは自分がひどいことをしたような、いたたまれない気持ちになって、また俯いた。 「ごめん・・・ 僕だって、約束なんかしてないのに、いきなり来て・・・」 だから、何をそんなに気遣う必要があるのかという顔をして、ヤマトが帽子の上からくしゃっとタケルの頭を撫でる。 「別に、いつでも来りゃいいさ」 やさしく言われて、ほっとしたようにタケルがやっと顔を上げる。 「ウチ、来るか?」 「ううん。今日はお母さん早いから」 「そうか・・・・じゃ、送っていくよ。それともどこか行きたいとこあるか?」 ヤマトの問いに、小さく首を横に振る。 “じゃ、行くか”と言ってタケルの肩を促すように触れて、ヤマトはその身体が冷えきっていることに気づくと、薄着の肩にふわっと自分の着ていたコートをかけた。 「お兄ちゃん・・・」 「いつから待ってたんだよ。こんなに冷え切って。おまえ、風邪ひきやすいんだから、もうちょっとあったかくしとかねえと駄目だろ」 少し叱るように言って、少々乱暴にその肩を抱き寄せる。 「お兄ちゃん、恥ずかしいよ・・・」 まだ中学校の真ん前でもあるし、人目もあると言うのに、別段気にしない兄に、タケルが抗議するように赤くなる。 「いいだろ、兄弟なんだから」 「フツーしないよ。兄弟で」 「そうか?」 あっさり返され、肩をすくめる。 バンドをやっていることもあって、とにかく校内では、兄は結構有名人であるのに、本人はあまりそういうことに興味はないらしい。 しかし、兄のコートを肩に羽織って、その肩を抱き寄せられて赤くなっている自分は、周りから見ればいったいヤマトの何に見えるやら・・・・。 「ちょっと、石田くんの隣のアノ可愛い子、誰?」 「肩なんか抱いちゃったりして!」 「女の子に興味がないと思ったら、もしやアレ?」 「ええ? でも武之内さんとつきあってるんでしょ?」 後方から、女の子たちのヒソヒソ話が、聞くつもりもなく耳に入ってくる。 武之内さん。という言葉に、ぴくりと反応してしまう自分が情けない。 けれどもうそんなに公認の中なのかと思うと、胸がぎゅっと痛くなり、タケルは心の中で重い溜息をついた。 「どうした?」 黙り込んでいる弟を心配して、ヤマトがその顔を覗き込む。 その腕からスッとすり抜けるように身体を離すと、タケルは公園を取り囲む、1メートル余りの高さの植え込みのコンクリートの縁へとひらりと飛び乗った。 「おい、危ないぞ」 手を差し伸べるヤマトに、小さい子じゃないだからと笑って、バランスを取りつつ、早足に歩く。 公園の入り口に来て途切れたそこから飛び降りようとした瞬間。 ヤマトの両手がタケルの腰を支えて、ふわりと抱き上げた。 「おにい・・・・」 抱き上げられたタケルより、ヤマトの方が驚いた顔をした。 なんて、軽い・・・・・。 ストンと地面に降ろされ、瞳を見開いたまま、タケルがヤマトを見上げてくる。 「おまえ・・・軽すぎるぞ。ちゃんとメシ食ってんのか?」 心配そうな声にギクリとして、けれどもそれは表には出さず、タケルは肩をすくめてニコッと笑った。 「だって、いくら食べても太らない体質なんだもん。しょうがないでしょ? これでも、結構食べてるんだよ」 「本当か?」 「うん!」 「タケル?」 「・・・何?」 「おまえ、なんか俺に話したいこととか、あるんじゃないのか?」 見透かすような蒼い瞳に見つめられても、タケルは動揺を顔には出さず、微笑んだまま言った。 「やだな、何もないよ。お兄ちゃん、心配症なんだから」
つづく・・。
続きは本を読んでくださると嬉しいですv この後40ページくらい続きます。 オイ!と思われた方も多いかと。スミマセン〜; またしても、本のCMでござりました。 これが一冊めに出した本「Tear」です。 その後、本のタイトルを考えるのが面倒で、2,3・・・とつづくわけです。 今、原稿に苦しんでるのは3ですが、微妙に話つながってないような。 この「Tear」は、まだ在庫はどっさり(・・涙)あるのですが、夏コミは人様のスペースに委託なので、新刊あるんだったらそんなにたくさん置けないでしょうし、そしたらイベント売は高石田祭に出すくらいしかないのかなあ・・と いうわけで、通販で買っていただけたらとこんなところに・・。スミマセン。
ちなみに本代400円(小為替か、為替買うのがメンドウだよーという方は 80円切手で5枚でもOKですv)+送料200円(切手)です。 送付先は、メールで確認してくださいませv
つうわけで、原稿にもどります・・。 しかし、間に合うのか。私・・。
あ、この話の前の方の詩は一応書き下ろしなんです。 が、今気がついたけど、2行ほどだけ銀色夏生さんをパクってるような部分があるかも・・。なんか読んだことのあるフレーズだ・・。(おい)
「あれえ・・?」 図書館の自動ドアを出るなり、思わず声が出てしまった。 「お? 雨か?」 少し遅れて出てきた兄が、驚いたように空を仰ぐ。 図書館の窓からさっき見た空は、確か晴れていたようだったけど。 でも今も空は明るいとこを見ると、さっきから降っていたのだろう。 音のしない静かな室内で、どうも空の色に騙されてたみたいだ。 「空、明るいしな。通り雨だろう」 「うん」 「どうする? 走ってバス停まで行ってもいいけど、結構降ってるしな」 「うん」 どうしよう?と言いながら、まだ空を見る。 少し待てばやみそうかな。 後ろから出てくる人をよけるように、兄は僕の肩に手をかけ、そっと自分の方に引き寄せた。 さっとカサを差してく人たちに、ちょっと羨ましい気もしたりする。 でもカサを持参してる人がいるってことは、今日の天気予報で「はれのちにわか雨」とか告げていたのかもしれないなあ。 図書館の玄関から少し外に伸びたひさしの下で、僕らは少し途方に暮れた。 中に戻るのも今更で、かといって走ってくには降りすぎている。 「ここでちょっと待つか?」 「うん」 言われてこくんと頷くと、僕が濡れないようにそっと自分の背中の後ろに、僕を庇うようにして兄が立つ。 「お兄ちゃんが濡れちゃうよ」 「俺はいいよ」 「いいって、なんで・・」 「おまえ、下ろしたてだろ。スニーカー」 あ、めざとい。 確かに、今日初めて履いたんだけど。 何も言わないから、気づいてないのかと思ってた。 そういうの。 やけに嬉しいよ、お兄ちゃん。 ナナメ後ろから、ふれるかふれないかのぎりぎりのところに唇を寄せて、兄のグリーンの制服の肩口あたりにキスをした。 それに感付いたのかはわからないが、振り返らずに、兄の手が偶然にさわったようにして、僕の手の先をそっと握った。 繋いだというよりは、指先だけちょっと絡めただけのような触れ方に、どきんと胸の奥が鳴る。 好きだよ、といわれたような気がして、今度はちゃんとその肩に甘えた。 そのままじっと(人が見たらなんと思ったことだろう。でもおかげさまで、ほとんどその間、人の出入りはなかったんだ)兄の肩の後ろと僕のこめかみあたりと、兄の右手と僕の右手の指先だけを微かにふれあわせたまま、雨がアスファルトの路面を流れていく様を見ていた。
今日は、雷もないあたたかな雨だから、僕は安心して幼い日の雨の記憶をたぐる。 ぱしゃぱしゃと水を踏み鳴らすコドモの長靴に、鮮明に青いカサが頭の中に浮かび上がった。
一人、公園で遊んでいたら、突然雨が降り出した。 それも、叩きつけるようなひどい雨で、僕は逃げ惑うように駆け出して。 でも、真新しい靴を濡らしたくなくて、僕は裸足になって、泣きながら走っていた。 母に手を引かれ、同じカサに入って歩いてくコドモの長靴がうらやましくて、ずぶ濡れの自分がなんだかみじめで・・・。 もういいや・・となんだか急に投げやりになって、靴を胸に抱えたまま、走るのももうやめて、とぼとぼと裸足で歩き出した。 お母さん、怒るかな。 お父さんも怒るかな。 せっかく、新しい靴、買ってもらったのに。 一日でこんなにしちゃって。 喧嘩しないといいな。 こんなことで、まさか喧嘩なんかしないよね? でも。 雨が目に入る。 泣いてないよ、雨だよ。 と、よその軒下の猫に言い訳する。 ほんとだよ、雨なんだから。 もう一度言おうとした僕の上から、ふいに水の雫が途切れた。 えっ?と驚いて、上を見ると、真っ青な空のような、青い色がそこにあった。 そして。 その下に、真っ青な空のような、あたたかでやさしい瞳が笑ってる。 「びしょ濡れだなあ、何してんだよ・・・風邪ひくぞー」 偶然会ったように言うけれど、少し息があがってる。 走ってきたの? 僕を探して? 思った途端、どっと涙があふれて、僕は大人用の大きな青いカサを少し重そうに持っている小さな兄にしがみついて泣き出した。 「お兄ちゃあん!」 「な、なんだ、泣くことねーじゃん。ばっかだなあ」
「おい」 「え?」 「え?じゃねえよ。聞いてなかったか?」 「あ・・うん。ごめん」 「中もどるか? しばらくやみそうにねえから」 「あ、うん。どっちでも」 「疲れたか?」 「んー。どうかな。そうでもないかな・・」 「そっか。寒くねーか?」 「えーと、うん」 「腹は? へってねえか?」 「んっと・・・。あ、へってない、みたい」 僕の返事に、兄は苦笑する。 「なんだよ」 「なんだよって、何・・?」 不思議そうに聞き返す僕に、兄は思わず吹き出した。 「はっきりしねえなあ」 はっきりしてないのは、確かに僕の短所だけど。 笑うとこじゃないでしょう。っていうか、笑いすぎ。 憮然とした顔の僕に、まだ笑って言う。 「じゃあさ」 じゃあ、何? 「ヒマつぶしに、キスでもするか?」 はい? どっちでも、と冗談で答えようと思ったのに、今度はきっぱり答えてしまった。 「うん」 「はっきりしたヤツ」 どっちだよー、お兄ちゃん。 だってね。 なんか条件反射で、うなずいて。 それに僕もなんとなく、そうしたいって。少し思ってた。 ・・・なんてことは、言えないけど。 でも、はっきりしない僕の、これだけは、一番はっきりしてること。 あの頃から、ずっと好きだよ。 あなたのことがずっと好きだよ。 少しも変わらず、大好きだよ。 心の中で唱えながら、少しずつ目をとじる。 軽く、身を屈める様にして、ズボンのポケットに両手を突っ込んだまま、兄はそっと僕の唇にキスをした。
雨はやさしいヴェールのように、それをそっと隠してくれた。
あの青いカサ。 今は、どこにいったのかなあ・・・。
END
「あ、それ、まだウチにあるぜ、オヤジのだから」 小さなお兄ちゃんは、タケルが濡れないように無理してパパのカサを持っていったんだよというお話でござんした。
何でSS書いてるんだ、ワタシは。 日記エディタでパスワード打ち込んで、日記を書きに入ったはずが、パスワードまちがえてSS日記の方に入っちゃったんだよ。なので、せっかくなので、何か書いていこうかと・・・。 思いつきで書いたので、まとまってなくてゴメンナサイでした(風太)
2002年06月05日(水) |
Holy night (スミマセン、本のCMなの) |
『お兄ちゃんが好きなんだ・・・』
あの、まだ浅い春の日から、もうすぐ初めてのクリスマスがくる。 僕は6年生になり、新しい年が明けて、もう一度春がめぐってくれば、中学生になる。 お兄ちゃんは好きなバンド活動を少しずつセーブして、けれど、そう切羽つまることもなく日々を送っている受験生。 5年の時からのクラス替えはなく、持ち上がりのままの6年は、また大輔くんやヒカリちゃんたちと同じクラスだ。 京さんは中学生になり、伊織くんは4年になった。 一乗寺くんは、エスカレーター式にそのまま私立の中学へ進む。 みんな、それぞれ、そんなに大きな変化もないまま、1年が終わろうとしている。 父と母が仕事に多忙なのも相変わらずで、それでも連絡だけは取り合っているらしく、食事などもたまに一緒にするらしいが、復縁にはほど遠く、そして僕もいつのまにかそんなことは考えなくなっていた。 きっと今のこの距離が、2人にとっては一番心地よく、相手を思いやれる距離なのだろうと思う。
デジタルゲートは、あの最後の戦い以来、僕らの前に開かれることはない。
そして、 そして、僕とお兄ちゃんといえば。 あれからそのまま、相変わらずの『仲のいい兄弟』だ。 違ったことといえば、そう、キスの長さと深さが少し増えた、そのくらい・・・。
「なあ、ライブ、来いよ」 「うん・・・ でも、大輔くんと約束しちゃたし・・」 「俺の方が先に約束してたはずだぜ?」 「約束はしてないよ? 予定が入らなかったら行くって言っただけ。みんなでパーティするっていうんだもん。久しぶりにみんな揃うのに、僕だけ行かないのもつまんないでしょ」 「・・・わかったよ。じゃあ、パーティ終わったらウチで待ってな。せっかくのイブなのに、こっちも一人じゃつまんねえだろ」 「ん。わかった・・」 ヤマトのマンションの玄関で帰ろうとするタケルを引き止めて、腕を取ってヤマトが自分の方に振り向かせる。 その両手がタケルの冷たい頬を包み込み、そっと同じ色の瞳を見つめ合う。 ゆっくりと目を閉じてやさしいキスを待つと、ヤマトが小さく笑って、顔を寄せ、そっとふれるだけのキスをした。 それきりでは足りないというように、白い手が追いかけるように兄の首に回され、ヤマトの腕が、細い腰を抱き寄せると、熱い吐息とともに深い口付けが交わされる。 何度も何度も、合わせては離され、確かめるようにまた口付ける。 ふいにその唇が外され、ヤマトの手がタケルの白いセーターの下のカッターシャツの襟を開くように、鎖骨のあたりにもキスをする。 タケルが小さく声を上げて咽喉を反らすと、タケルの腰を抱く腕に力が込められ、そして、それは・・・。 何の前置きもなく、唐突に離された。 抱き寄せる腕が解かれ、タケルは解放されて、少しフラリとバランスを崩す。 それをヤマトの手が支えると、タケルはゆっくりと少し哀しそうに瞳を開いた。 「じゃ・・送ってくから」 「・・・・・・うん」 何事もなかったように微笑む兄に、タケルもそれを見上げて微笑みを返す。 コートを羽織って、そっと背中を促されて、温かい腕に肩を抱かれても、タケルはどこか寒さを感じずにはいられなかった。
「ねえ、タケル。結局、明日のイブはどうすることになったの?」 食事の後の片付けをしながら尋ねる母に、リビングのソファでテレビを見ていたタケルが振り返る。 「あ、大輔くんちでクリスマスパーティ」 「ヤマトのライブは行かないの?」 「うん・・・ あ、でも、パーティ終わってからお兄ちゃんち行ってもいい? プレゼントもらいに」 「なんだ。お兄ちゃんはもう卒業したのかと思ったら、やっぱりお兄ちゃん子なのね? タケルは」 笑いながら茶化すように言う母に、タケルがちょっと頬を赤くしてフイと顔を反らせてテレビを見る。 「だって、もらえるプレゼントはもらっておかないと。サンタさんは1つしかくれないからね、プレゼント」 「1つあれば十分でしょ。ああ、本当に新しいゲームソフトでいいの? 前に言ってた」 「うん。それで手紙書いておいて」 「わかった。サンタさんにね」 母が笑う。 サンタクロースなんていないことは、もう随分小さい頃に知ってしまったのに、母はそれを知っていて、それでも『今年はサンタさんに何をお願いする?』と聞く。 『手紙を書くから』というので、タケルも承知でそれに答える。 それでも、幼い頃は、母がサンタクロースに手紙を書いているものだと信じて疑わなかったっけ・・・。 でも、手紙には書けないものを、自分はずっとずっと願っていた。 もしかして、叶えて貰えるかと心で強く願ってみたけれど、それはついに一度も叶えられなかった。 サンタはやはりいないんだな・・と心の中で小さく呟いていた。 あれはいつの頃だったろう。 「けど、タケルがいないんじゃ、母さん、イブは家で淋しく一人なのかあ・・」 「あれ? 編集部のパーティは?」 「断っちゃった」 「行きたかったんじゃなかったの? 遅くなってもいいよ。だったら僕、お兄ちゃんとこ泊まるから」 「・・・・そう・・? じゃあ、そうしようかな。一人じゃつまんないし。 あ、でも、クリスマスの夜は、一緒にレストランにご飯食べに行こうね。フンパツするから」 「ん。オッケー」 母の言葉ににっこりと頷くと、母も嬉しそうに微笑んだ。 タケルの心が、そんな母への裏切りに、じわじわと疼くような痛みを訴える。 けれど、そんな痛みは無視して、タケルはとにかくやさしい母のいい息子でいたいと、ごく自然に見える笑みをつくって会話を続けた。
島根の祖母から、プレゼントは何がいい?と電話があった。 父からも同じように電話が入った。 たまたま母の不在の時の電話だったので、両方に「新しいゲームソフト」と答えた。 3つも同じものが欲しいなんてわけはないけど、誰かが忘れるかもしれないし、本当はどうしても欲しいものじゃなかったから。 本当に欲しいものは、願っても望んでも、どうやっても手に入ることはない。 本当に欲しいものじゃなければ他の何もいらないのだけれど、それはやさしい祖母や両親には言い出せず、適当なものを答えてしまった。 そんな自分が、自分で嫌になる。 けど、仕方ない。 サンタクロースは、もうどこを探してもいないのだから。
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てなことで、残り3冊になった「Tear2」の通販CMでござりました。 こんなとこで、スミマセン〜。 ここまでが冒頭で、あと20Pくらいはあったかと・・。 一応、色々あって、最後はめでたく「初夜」(・・・//////)を向かえるというお話でございますv さすがにもう刷らないと思うので、よろしかったら通販してやってくださいませv 送料込み、340円分の切手でお願いします。 送り先は、メールでお問い合わせくださいませ。 インフォメページもあわせて見てね〜v
てなことで、こんなとこで失礼いたしました。 マジメに更新せねばな。うむ。
■完売御礼!!(6/6) スミマセン、完売しました〜アリガトウございましたvvv
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