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2002年03月28日(木) good morning! 2

奈津子はエレベーターを降りると足早に、マンションの廊下を自分の部屋へと向かって歩いていた。
そのカッカッカッ・・という靴音が、彼女の怒りの度合いを表している。
(ったくもう! なんだってのよ、当日の朝になって何が「今日の取材はキャンセルだ」よ! ふざけんなっての! 前もって予定が変わったのがわかってんなら連絡ぐらいよこしなさいよ! なんのために休日返上で名古屋まで行ったと思ってんの! ホテル素泊まりしに行ったわけじゃないのよ! まったく、せっかくの土・日に、可愛い息子を一人で家に留守番させて・・!)
頭の中で悪態をつきながら、玄関のドアに鍵を突っ込む。
そして、鍵がカチャリと開くと同時に「は〜・・」と溜息が漏れた。
(って言ったって、その可愛い息子はどうせまた「大好きなお兄ちゃん」のところに行ってるに決まってるわよね・・。どーせ男の子なんて、母親よりお兄ちゃんとかお父さんの方がいいのよ、ふん。あー、ほんとにまったく男の子なんて・・)
思いつつドアを開いて「あら?」と玄関の靴が目に入る。
タケルのスニーカーの隣に、タケルのより少し大きめの男物の靴・・。
「ヤマトが来てるの? めずらしー」
思わず呟いて、リビングに入って辺りを見渡し、まだ寝てるのかな?もう10時だけど・・と思いつつ、タケルの部屋を覗いてみる。
「・・と、いない。おっかしいわねえ」
首を傾げる奈津子の耳に、バスルームから、シャワーの音とともになにやら声が聞こえてきた。
朝からお風呂?と思いつつも、バスルームの扉に近づく。
中からタケルのくすくす笑う声と、ヤマトの「こいつー」とか言いながら笑う声が聞こえた。
(げ・・。あの子たち、今でも一緒にお風呂入ってるの!?)
思わず眉をひそめる奈津子の耳に、さらに信じられない会話が続く。

「だから、だめだって・・」
「だってー・・」
「おい・・」
「だめ?」
「やめろって」
「いいでしょ?」
「こら、タケル・・」
「・・・・」
「口、つけるなよ」
「どうして?」
「汚ねえだろ」
「汚くなんかないよ」
「こら、なめるな・・」
「あ、へんなカンジ?」
「よせよ」
「飲んでいい?」
「だめだよ」
「どうして」
「だから汚ねえって」
「飲みたい・・」
「おまえなあ・・」

「あ、あ、あ、あんたたちーーー!!!! 何やってんのおぉおぉ〜〜〜!!!」

「は?」

鼻息荒く、バスルームの扉を蹴り開けて、思わず絶叫する奈津子の動きがぴたりと止まった。
「あら・・っ?」
浴湯に浸りつつ、シャワーの先を持って浴槽から顔を出しているタケルと、その外でボディソープで身体を洗ってるヤマトが目を丸くして奈津子を見ている。
「あ、おかえり」
にっこりと微笑むタケルに、思わず「ただいま・・」と答えてしまう。
頭の中で想像した光景とまったく違う兄弟の入浴風景に(何を想像したんだ・・)固まりつつも、恐る恐る奈津子が聞く。
「な、何やってんの・・?」
「風呂、入ってんだけど?」
至極あたりまえなヤマトの答えに、思わず頷く。
「そ・・・そうよね」
「お母さんこそ、どうしたの? 早かったね?」
「あ、ああ、仕事キャンセルになっちゃって・・。あ、それよりタケル、今なにか飲む、って・・」
母の問いに不思議そうな顔をして、「ああ、コレ」とタケルがシャワーを指差す。
「咽喉かわいちゃったから」
「き、汚いわよ。水だったら冷蔵庫のを飲みなさいよ」
「な? だからやめとけって」
笑顔でタケルに言うヤマトをふと見上げ、そのままつい下の方へ視線が行ってしまい、そこで一瞬釘付けになって慌てて奈津子がバタン!とバスルームの扉を閉める。
(やだ、もう、あたしったら、実の息子たちにいったい何考えて・・)
思わず真っ赤になって、脱衣所の壁になついて疲れた顔で頭を抱える。
その背に、ヤマトが扉越しに声をかけた。
「ああ、掃除やら洗濯やらしておいたから。ゆっくりしてていいよ、母さん」
「あ、ありがとう・・」
そうね、ちょっと疲れ気味なのよね・・と、気を取り直してリビングに行くと、部屋はきれいに掃除機がかけられ、ベランダでは洗濯ものが春の風にはためいている。
(ほんとだ・・。タオルやらシーツまで・・。ありがたいわあ・・)
明るい日差しの中で真っ白に翻るシーツを眩しそうに見て、ああそうか二人で頑張って家事をしてくれて、それで汗をかいたからお風呂・・なのね?と正しい解釈をして、急速に幸福感に満たされて、ベランダに出て“うー・・ん”と伸びをする。
なんだか仕事のウサも、これですっかり晴れそうだ。

などとさわやかに思いつつも、ん?何かひっかかるものが・・と考えかけて、さっきバスルームで見たヤマトのハダカがばっと脳裏に甦る。
(あの子ったら・・。立派になって・・)
なんてことをつい思ってしまい、息子の成長を喜びつつもぽっと赤面してしまう奈津子さんは、まだまだ“オトメ”な可愛い30代なのだった。


END






花菜さんの「奈津子さんで」のリクに答えてみました。
・・が。なんだこりゃ?な内容ですみませぬ。
やはり、ヤマトVSナツコは怖すぎるし、コメディでいこうと思ったら、
なんかそれも中途半端な・・。
少しブラック入ったコメディってことで(笑)いかがなもんでしょう?

ところで、事の真相やいかに・・?
ご想像におまかせしたいと思います。わはは。(風太)






2002年03月05日(火) happy morning!

朝、お兄ちゃんより先に起きてリビングへ行くと、お父さんが新聞を読みながら、コーヒーを飲んでいた。
あれ? いつ帰ってきたのかな?
ゆうべは夢中で(・・・)気がつかなかった。
「おはよう」
「ああ、来てたんだな」
「父さん、いつ帰ってきたの?」
「ほとんど朝だったかな。それよりおまえらこそ、朝がたまで何やってたんだ?」
「え・・! 何って・・」
「何か、物音やら話し声がしていたぞ」
「あ、そそ、それは、せ・・・」
「せ?」
「せ、せみのからあげ・・・」
「はあ?」
「じゃなくて・・・せ、セロテープをこう・・・こうやって」
「顔に?」
「う、うん。顔に貼り付けて、あはは、変なカオ・・・って」
「それ、一晩中」
「うん・・一晩中」
思わず俯いて、しどろもどろになる僕の後ろで、お兄ちゃんの部屋のドアが開いた。
「あれ? 親父、帰ってたのかよ」
「ああ、ヤマト。おまえら何だ。セロテープを顔にこうやって・・・」
「はあ?」
素っ頓狂な声をあげるお兄ちゃんに、僕が小声で説明する。
「父さんが、ゆうべ一晩中、何してたかって」
「ああ」
助けを求める僕に、なんだそんなことかという顔をして、お兄ちゃんはいたって明るく、きっぱりと言った。
「セックス」
「は?」
「おおおおおおおにおにおにおにいちゃん!!!」
父さんのとぼけた顔とは対照的に、僕は真っ赤になって大慌てで何か言おうとして、思わず舌を噛んでしまった。
何とかその場を取り繕うとする僕を尻目に、父さんはのんびりと言った。
「おまえなー、ヤマト・・・タケルはまだ小学生なんだから、こいつの前でそういう冗談言うなよ。ほら見ろ。かわいそうに真っ赤になっちまって・・・」
「あ、そうか。悪ぃ。まだウブな(死語?)ガキだもんなー、タケルは」
そう言いつつも、僕の耳元で“ウブなガキのわりには、凄かったじゃん。ゆうべ”と、意地悪を言うことも忘れない。
「さあて、行くか・・」
父さんが早々と出勤していって、僕はホッと胸を撫で下ろした。
「お兄ちゃん・・」
上目使いに抗議する僕をよそに、お兄ちゃんは涼しい顔をして言う。
「ま、こういうことは、本当のことを言っておいた方が、かえって怪しまれないんだって」
そ、それはそうかもしれないけど、何かが違うような気もする・・・。
「いいじゃねえか。別に。やましいことしてるわけじゃなし」
からっと明るく言うお兄ちゃんに、寝不足でぼんやりした頭でしばらく考えて、それからゆうべのことをしっかり思い出し、赤面しながらやっと言った。
「してるよ。充分。やましいコト・・・」




またしても再録・・・・。
bbsでちょこっとお話がでたのでこれを機会に。
「good morning!」の前フリ的なお話でした。
いやいや、胸をはってカミングアウト(?)するヤマトが頼もしい?
そして、パパは相変わらず大ボケ・・。
けっこう楽しんで書いてしまったお話でしたよ。(風太)


2002年03月01日(金) good morning!

「おーい、ヤマト。朝刊どこだぁ?」
日曜の朝。
大あくびをして、父がリビングから息子の部屋に声をかける。
今日もまた日曜というのに出勤だ。
とりあえず新聞くらいは目を通していかないとなと思うのだが、いつもテーブルの上に置かれているそれが見当たらない。
その上、いつもは乱雑に何もかもが散らばってるリビングがきれいに片付けられている。
父は首を傾げると、薄く開いているヤマトの部屋のドアに気づき、そっと中を覗き込んだ。
ヤマトのベッドに、ヤマトのものではないやわらかそうな金のくせっ毛が見える。
(やれやれ、また来てるのか・・・まったく、いつまでたってもお兄ちゃんっ子だな)
笑みを浮かべて、そうっと部屋に入り、ベッドの脇に起こさないように腰掛ける。
ヤマトの姿は部屋の中には見当たらず、朝っぱらから何処に行ったんだか・・と心の中で呟いて、まだ気持ちよさそうに寝息をたてている二男の顔を見つめた。
母譲りのやさしい顔立ち。
まだあどけなさが残る輪郭は、口の減らない生意気盛りの長男に比べて幼くて、そして可愛い。
幼い頃に別れてしまったせいか、なんだかいつまでも赤ちゃんのような気がしてしまう。
そっと起こさないように髪に触れると、くすっとタケルが目を閉じたまま、夢を見ているように微笑んだ。
そして目が醒めないままに、両手を差し伸べ、父の頬に触れる。
「ん・・・おにい・・ちゃ・・ん」
甘く呼んで、ゆっくりと目を開いた瞬間。その瞳はまん丸に見開かれ・・・
「うわあああぁあぁ〜〜〜〜!!」
「タケル!!!!」
ちょうど外から戻って玄関で靴を脱ぎかけていたヤマトは、タケルの悲鳴(?)に慌てて靴も脱がずに自分の部屋のドアを蹴り上げた。
「てめえ! 親父、何してやがる! 俺のタケルに!!」
「ヤマト! おまえ、靴・・・!」
「うるせえ!」
靴を脱ぎつつも怒鳴るヤマトの剣幕に、父は驚いた顔のまま、のんびりと言った。
「いや、俺はだなあ、単にタケルにおはようのキスをしようと・・・」
「んなもんすんなっ! しなくていい! 変態オヤジ!!」
「おまえ、自分の親に向かって変態たぁ・・! ん?」
「なんだよ!」
「おまえ、今“俺のタケル”って」
「お・・! 弟、が抜けただけだ、慌てたから!」
「ふむ。俺の“弟”のタケル・・か。なるほど」
顎に手をあてて考えてみて、一応納得する父に、真っ赤になったヤマトが怒鳴る。「そんなことはいいから、さっさと仕事行けよ、オラ!」
父の背中に回ってその背を押すようにして部屋から追い出し、玄関へと追いやると父の鞄を放り投げる。
それをぱし!とキャッチすると、ヤマトのトゲのある視線に仕方なく“まだ出勤までは時間があるのになァ・・”とブツブツ言いつつも、父は溜息混じりに玄関で靴を揃えた。
「別に、息子にちょっとチュウするぐらい、いいと思うんだがなぁ・・」
「ブッ殺すぞ」
「はいはい。じゃあ、行ってくるな」
「おう」
父が玄関のドアを開ける気配に、ヤマトの部屋からバタバタと慌しい音がして、身体にシーツを巻きつけただけのタケルが慌てて見送りに駆け出してくる。
「あ、あの・・いってらっしゃい」
頬を染めて言うタケルに、ポンポンと頭を叩くようにして父が嬉しそうな顔をする。
「じゃあな。こわ〜いお兄ちゃんには気をつけろよ」
「何!?」
「いやいや。・・・あ、ヤマト」
「なんだ」
「おまえなあ、タケル泊めるんだったら、パジャマくらい貸してやれよ。ハダカで寝かせてたら腹こわすぞ」
「あ・・・・こいつ、暑がりだから・・はは・・そうだな・・」
ひきつった笑みを浮かべて見送るヤマトに、じゃあなと言って父が出て行く。
バタンとドアの閉まる音に、2人揃って“はあ・・”と長い溜息をついた。
「はー、びっくりした・・・」
「ああ、ヤバかった」
「お兄ちゃん、どこ行ってたの?」
「牛乳買いに。おまえ、朝、パンだったら牛乳ないとやだって言うだろ」
「あ、そうか。ありがと・・」
「あ、そうか。じゃねえよ。おまえもおまえだよ! なんで親父とキス・・」
「だって、まちがえたんだもん! 目つぶってたら、お兄ちゃんと同じ気配がしたから・・」
シーツにくるまったままの弟を玄関に置き去りにして、怒ったようにキッチンへと行きかけて、ヤマトがその言葉にピタリと足をとめる。
その背にタケルが追いついて、後ろから腕を回してぎゅっとしがみついた。
「お兄ちゃんと同じ、やさしい気配がしたんだ。僕を包み込んでくれるような・・だから・・ごめんね?」
「いいけど・・」
甘え口調で、しかも背中にしがみついて言われると、許さないはずなんかない。
やさしく微笑んで、背中に顔を埋めているタケルを振り返る。
それから、ちょっと不思議そうな顔をした。
「あれ? 俺、夜中におまえにパジャマ着せたよな?」
「うん。でも、また明け方、お兄ちゃんに剥ぎ取られた」
「あ・・そう、だっけ?」
考えても、どれが何回目のことだったか思い出せない。〈オイ・・〉
とにかく夢中で。
そんなことを思い巡らせていると、またベッドに逆戻りしたい衝動にかられてしまう。
「・・・おい、いつまでもしがみついてると、今度はそのシーツ引っぺがすぞ」
ニヤリと笑みを浮かべて言うと、タケルはヤマトの言葉に自分の身体に巻きついたままのシーツを見下ろし、真顔で答えた。
「あ、お洗濯する?」
「へ?」
「シーツ、洗濯するんでしょ。じゃ、着替えてくるね」
言って、パタパタとヤマトの部屋に戻り、そのドアを後ろ手にパタンと閉じる
ヤマトはその後姿を見つつ、呆然と取り残されて、仕方なく困ったように鼻頭を掻いた。
―― そうか、わかった。そうなんだ・・・。
タケルが天然なのは、あの親父のせいだ。なるほど。
だいたい、あのシチュエーションで、いい加減気がつかないのもおかしい。
普通、変だと思わないか? 
兄貴の、しかもシングルのベッドに弟が全裸で寝てるんだぞ。
っつうことは、今まで俺もその横で寝てたってことじゃん。
つまり、兄弟でハダカで1つのベッドに寝てるんだぞ、少しは疑えよ、なあ!
そんなことを心の中でブツブツと呟きながら、手持ちぶさたになったので、仕方なく朝食の支度にキッチンに向かう。
けれどまあ、そのおかげで今日も平和な朝なのだし、天気もいいし、タケルは可愛いし、しがみついて鳴く声は色っぽいし、などと思いながらフライパンを用意し、冷蔵庫から玉子を出す。
そして、自分もまた父親似で、けっこう遺伝的にエロ親父なんじゃあ・・?ということは、まあ、この際考えないことにして・・。





苦し紛れの再録で〜す。
(更新がなかなかおぼつかず・・)
半年以上前に書いたものですが、変ですね。この家族。
パパがかわいそうだけど、書く分には楽しかったなあv
パパにとっては、タケルはきっといつまでも小さい子のように写るんだろうなあ・・などど思ったものです。パパタケっつうのもなかなかv
2人でお出かけとかもいいなあv 
ヤマト、やきもちやきまくるだろうなあv
(風太)


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