妻は燃え盛っているらしい。
だから、そうじもできず、ふとんも干せず、 子供のめんどうも見られず、 食事を作るのがやっとらしい。 そして、夜は夜更かしをして体調が崩れ気味らしい。
あ、なんだ。 いつもと変わりないか。 食事もしきりに手抜きだとあやまってくれるのだが、 いつもとどう違うのかちっともわからない。 言うと怒るので言わないが。
そんなときに非常事態だ。 なんと明日から暖かいのだという。 しかし、僕の薄手のコートはボタンがとれているのだ。 またボタンバトルか。 しかも、敵は臨戦状態だ。
しかし、遠慮ばかりはしていられない。
そして、案の定。
「は?」
「ボタン??」
「つけろ???」
「ここのとこの私を見てよくそんなことが言えるわねえっ」
「キャンバスはリもろくろく手伝わないくせにっ」
そうだった。 それでもめたばかりだった。
しかしねえ、君。 そうやってかちゃかちゃキーボードたたいてるひまにできるでしょうに。 いくら不器用だって、そんなに時間がかかるわけでもないでしょう。
「ナニ言ってんの」 「みんなが期待してるのはボタンつけをする私じゃないんだよ」 「けちぞう日記を書く私なんだよ」
み、みんなって誰?
僕が求めてるのはボタンつけをする妻なんですけど。
今朝は妻の怒声であけた。
「きーっ。やっぱりこの冷蔵庫だめだー」 「冷凍物が全部とけたー」
この人、トラブルに対するキャパが異常に小さいので、 すぐにパニックになる。
だいたい予想はついてたじゃないか。
「だから先週買いに行こうって言ったのに」 「新しいのは木曜日にしか来ないんだよっ」 「今日、生協が来るのにっ」
おお、得意の責任転嫁ですね。 先週一歩も出られないほど忙しいのに、 卒対がらみで出かけなきゃいけないって出かけてった揚げ句に、 全然帰ってこなくて、時間がなくなって食事も満足に作らなかったのはアナタですよ。 どこに冷蔵庫を買いに行く時間があったんでしょうか。
などと指摘しても朝の忙しいときに時間の無駄なので、 だまって洗濯物を干す。 そして、きぃぃぃぃぃっとなっている妻を残し、 冷凍庫のものをすべて詰め込んだような恐ろしい弁当をそそくさと包み、 さっさと家をあとにさせていただきました。
「あれー?冷えてないよ〜」
妙にうれしそうな妻の声。 冷蔵庫に片手を突っ込んでひらひらさせている。
ああ。 ついに。 最近、飛行機が離陸するような音をたてているとは思ったのだが。
壊れた。
洗濯機を買い替えたばかりだというのに。
「ほらほらぼーっとしてないで」 「子供たちはうちの実家で預かってもらうことにしたから」 「駐車場が混まないうちに」
こういうときだけは動きの早い妻。 開店前に、電器屋の駐車場についた。
店に入るとすぐにメーカーから派遣されてきたな、とすぐにわかるおやじにつかまる。
「氷にこだわるならこの機種ですよ」 と、やたら勝手に氷の機能ばかりをおすすめだ。 このメーカーのウリはこれだけなんだな…。
しかし、僕がいちばんこだわるのはもちろんノンフロン。 古い機種は安いが、ノンフロンではないのだ。
「さすがエコな男」 「じゃあ、この新機種の中から選ぶんだね」
新しい物好きで金に糸目をつけない妻は非常にうれしそうだ。 それがちょっと気に障るが、まあ仕方ない。
と、いうわけで結局おやじのおすすめの機種を購入。
「勝手に氷をつくる機能なんていらないけど」 「新しいのにはみんなついてるんだもんね」 「それならいちばん衛生的に思えるこの機種しかないもんね」
部屋がちらかってるのは平気なのに、台所だけはきれいでないと許せない妻らしい発言である。
帰宅するなりうちの冷蔵庫に手を突っ込んだ妻。
「あれ?冷えてるみたい〜」
なんですって? デマですかっ。
でも、夕食のときに飲んだビールは生ぬるかった。
「少しでも冷たくしようとして肉の部屋になんかいれるからだよ〜」 「普通のところにいれておいたコントレックスは冷たいよ〜」 「あー、おいしー」
くそー。
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