当然のことながら、ご婦人方は起きてこない。
お子様がたは全員お目覚めなばかりか、 別のロッジに泊まっていたはずの子供までもうここにいる。 机の上にパンがあるが食べていいかどうかわからない。 まあ、子供たちもテレビを見ているので、まだよかろう。
と、うるさい室内を逃れてデッキにいると、 妻がいちばんちっちゃいの(よそのお宅のお子様)を連れて現れた。 (注:妻は別のロッジ。夫婦が別に寝たのはうちだけ。いや、別にいいんですけど。)
「何携帯いじってんのよ〜」 「ナイショのメールでも送ってんの〜?」
うるさい奴だ。 もう少し寝てればいいのに。
くつろぎの時間は終わった…。
「なんだー、パン食べさせてないの?」 「せっかく出しておいたのに」
いや、食べろともなんとも指示されてませんから。
「えー、それくらい察してよ」
いえ。余計なことすると逆鱗に触れたりしますから。 僕はこの旅行の付属物ですし。 望まれてもいませんし。
てな感じで、起きた順に朝食を食べているうちにすぐにチェックアウトだ。
「あっ。贈呈式やってない」 「けちぞうマグの贈呈式しないとっ」
ぞ、贈呈… もう言われるがままされるがまま。 サインしろのご要望にもお応えして箱にサイン。 「けちぞう」 どうとでもなれだ。
チェックアウト後、舞子のホテルに移動。 近くにお宅のあるけろちゃんさんが荷物を車で運んでくれて、 いっしょに昼食をとる。
その後は、うちには2人しかいないはずなのに、 4人のムスメ達をプールへ。 うーん。なんだかデジャブだ。
しかし、さ、寒い。 子供たちもさすがに寒かったらしく、30分くらいでリタイヤだ。 助かった。
夜はホテルのレストランで。
「もう3回目なのに、いっつも同じホテルに泊まって」 「いっつも同じレストランで食事だよね」 「きっと来年もそうなんだよね」
いいじゃないか、夜景はきれいだし。 中華はうまいし。 アナタだってお友達が近くでうれしいでしょ。
おい、話の途中で寝るな。
妻は今日後半はずっとうとうとしてました。 どうやら寝たのは、今朝の4時ごろらしいから無理もないですね。 起きたのは7時前だもんな。
あげくにアタマがいたいからフロントで薬もらってこいだと。 はいはい。
さて、今日も朝早く起きててきぱきと用意を進める。 旅行に行くときは特に早め早めに用意をしなければ。
「ねー、起きるの早すぎない?」 「何も出発の3時間も前に起きることないんじゃない?」
3時間前じゃないぞ。 2時間45分前だぞ。 だいたいいつも支度が遅くて時間が足りなくなるのはあなたじゃありませんか。
「わかったよ。用意すればいいんでしょ」
2時間後。
まだ行かないのぉ、と上のムスメ。 もうすることがない〜、と下のムスメ。
「おとーさんはいつもけちなのにこういう時間だけは大盤振る舞いだからね」 「文句があるんならおとーさんに言いなさい」
君たちのためを思って早起きしたのに。
なんだかんだ言いながらも出発の時刻がやってくると、 あれを忘れたこれをしてないとぐずぐずする人が出たり。
東京駅で時間がないのに、 わざわざ改札を出て大丸の地下で弁当を買う人が出たり。
大阪で時間があるからとホテルのラウンジでお茶を飲み、 目の玉が飛び出るような値段にぐちぐち言う人がでたり。
しながらもなんとか無事目的地に到着すると、 早速大音量で大騒ぎだ。 子供も大人(注:女性限定)も。
しかし、夕飯のメニュー決めるだけでなんでこんなに大騒ぎになるかね。 心を閉ざしてその場に座っていると、いつの間にか話題は部屋割りに。 なんだかベッドの数がうまくいかないらしい。
「仕方ない。女の子たち5人を一部屋にまとめて寝かしちゃえ」 「でもこの部屋、ベッドが1個あまるやん」 「そうかー。ここに1人大人が寝るしかないね」
ぞくり。
「いちごのためにもその人選が適当でしょう」 「いい?」
え、と。 僕に言ってるんですかね。 もうなんでもいいですよ。 眠れればいいんですから。
「おかーさんたちのおしゃべりはこのロッジだからちょっとうるさいかもしれないけど」 「ドアしめちゃえば大丈夫でしょ」
子供たちと寝るよりそっちが不安だよ。
予感的中。 なんで4人しかいないのに、声があんなにでかいんだ。 ドアしめようとしたら、 子供たちが落ちないようにと移動したベッドがじゃまで閉まらないし。
ビール二缶飲んどいてよかった。 iPod持ってきといてよかった。 ほんとによかった。
ここ3年、毎年この時期は大阪に行っている。 妻の道楽につき合わされているのだ。 4年前に始まった怪しいネットの人たちとの会合。 これがわざわざ大阪で毎年海の日をねらって開かれるのだ。 今年は4家族、大人と子供合わせて15人の集いだ。
「誰もついてきてくれなんて言ってないわよ」 「アンタが勝手に毎年嬉しそうについてくるんじゃないの」
なんだと。 ま、まあ確かに年々楽しみにはなってきているが。
「アンタってさあ、毎年恒例とかに弱いんだよね」 「いつも決まってるとか」 「そういう繰り返しがすきなんだよね」
いや。 決してそういうことではないですよ。 でも、ムスメ達と旅行できるのもあと数年でしょうから。 その機会を逃さないようにしているだけですよ。
「まあ、アンタがついてきてくれれば私は思う存分しゃべれていいんだけどね」
あ、そうだった。荷物にiPodを入れなければ。 これがないとたぶんうるさくて眠れないからな。
妻が上の娘にPHSを持たせたいという。
「どこにいるかわかるやつね」 「学童やめたら、ふらふらどっか行くに決まってるしね」 「せめて友達の家出るときなんかに連絡くれると安心だしね」
そうですね。 アナタ、ものすごく心配性で悲観主義だからね。 子供の安全もだけど、アナタの精神安定のために必要かもしれませんね。
「うちはauだから、これだね。ぴぴっとフォン」 「かわいい〜。もう持たせていい?」
は?学童やめてからって言わなかったっけ? ま、いいですけどね。 僕はけちじゃないから、娘の安全と妻の心の安定のためならかまいませんよ。
「アンタもさ、これに変えれば?」
は?
「これさ、3件までかける電話番号登録できるんだよ」 「で、ボタン押すだけ。アンタにぴったりじゃん」
いやですよ。 僕は大人なんだから、そんなおもちゃみたいなもの使えませんよ。 それに最近は仕事でも使ってるんですから。
「仕事はかかってくるんでしょ。着信は無制限なんだよ」 「うちと、私の携帯と、営業所を登録すればいいじゃんよ」
むむう。 それはもっともだけど、なんだかいやだ。
「あ、メールが打てないか!」 「そりゃ、困るわっ。進化したとはいえ、」 「けちぞうメールにはまだまだがんばってもらわないと!!!」
がんばるって何を…?
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