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2022年10月28日(金) ■ |
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SQUAREPUSHER JAPAN TOUR 2022 |
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SQUAREPUSHER JAPAN TOUR 2022@Spotify O-EAST
東京2日目(ツアー最終日)。
振替公演は、まず主催者が用意した申請フォームに希望振替日を入力送信することから。同時に、チケットを持っていたけどもう行かない/行けない人には払い戻しについてのアナウンスがあった。申請〆切日の翌日に、確定日のお知らせと、日時・整理番号が記された確認証画像の表示用URLが届く。結構いい番号だったので、振替の際変わっちゃったらヤダなーと思っていたけど、同じ番号のままだった。
さて当日、関所は3箇所。まずEASTの階段下で確認証画像を見せる→通常の入場口(階段上)でチケットをもぎる→ロビーでドリンクチケット購入。
最初のチケットが発売されてからかなりの時間が経っている。スマホの機種変更やアプリの更新忘れで電子チケット(Zaiko、スマチケ)を表示出来ない人や、振替日を申請することすら知らなかった人、果ては紙チケットを失くした人というのが一定数いた模様。振替日についてのアナウンスはしっかり行われていたと思うけど、それでも文句をいう人はいたようだ。2年半のブランクはやはり長かったなと思うが、ハード/ソフトが移り変わる早さも考えものだなと思う。都度対応していたスタッフの方々には頭がさがる。
今回は休みがとれなかったので(…)18:00の開場には間に合わず。18:15くらいになんとか入場、人波をかき分けフロアに向かうとまだ空き気味。18:30〜真鍋大度、19:00〜Hudson Mohawke、20:00〜転換、20:15〜Squarepusherとおおよそのタイムテーブルが周知されていたので、遅れて入る人も多かったのかも。最前(下手側端)を確保。ハッとしたのはフロアにバミリがなかったこと。後ろから押してくる人がいなくなったことはコロナ禍における数少ない好影響だけど、今回もバミリがないにも関わらず押されることがなかった。
入場BGMもクラブ仕様、この感覚久しぶり。思えばEASTに来たのは3年前の『WXAXRXP DJS』以来? このときTSUTAYAだったEAST、今ではSpotifyか……などと物思いに耽ったり、坂本龍一の「Rain」(『ラストエンペラー』ost)のリフをサンプリングしたミックスが流れて教授がんばれとしみじみしたり。ステージには既に要塞みたいなトム用のセットが置かれており、その前にDJブースが用意されている。トムのセット、お立ち台に沢山脚が生えたゴツいタチコマみたいだな…てか『ブルー・ソネット』のタランチュラだな……等と他人と共有出来なさそうなことを考える。この夏のフェス(Primavera Soundとか)から使っていたセットで、お立ち台が高いのでコーストのデカいフロアでも映えただろうな。
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オンタイムで真鍋さんスタート。ブレイクビーツからアンビエントなサウンド迄、30分という短い時間で景色やストーリーが浮かぶような展開。起承転結のしっかりしたDJ。from Rhizomatiksなんだから自前のVJも使えばいいところ、オープニングを堅実に務めた印象だった。格好いい。ハドモが出てきて笑顔で真鍋さんの耳元で何か話し、ヘッドフォンを自分で繋いでから肩をポンと叩きハケていく。真鍋さん終了と同時に再度登場。律儀にマスクをしっぱなし。
この夏〜秋ホントよく聴いた最新作『Cry Sugar』からのナンバーを交えつつ、ハピコア通り越してバカコアみたいな展開でめちゃ面白かった。強制的に赤い靴履かされる感じ。Warpは変な子ばっかりいていいわね〜好き〜! VJも相当バカで、Aphex Twinからの引用かなというあの“顔”や、『Cry Sugar』アートワークのドラッギーな映像と速いBPMでアゲるアゲる。彼目当ての客も多かったと思われかなり盛り上がった。
余談。来日中のハドモのinstaストーリーズ面白かったな〜。呑みの画像は全てオールフリーや零ICHI等のノンアル、新幹線に喜び、富士山に喜び、買ったお菓子やら魚河岸に行ったのか水槽内の蟹を撮ってたり。トイレの流水音がRoland製だ〜! って動画も載せてた(笑・そりゃウケるよね……)。日本を離れた土曜には機内から「世界でいちばん高いタワー!」とスカイツリーを撮っていた。急遽決まったようだし結構無理してスケジュール入れてくれたんじゃないかなあ。楽しんで帰ってくれたのなら何より。
「ハドモよかったー!」てなザワつきが残るなか、スタッフがどやどやと出てきて転換開始。基本のセットは出来ているので、DJブースを片付けたり配線を直したりする程度。このときのBGMも、よりどりみどりのブレイクビーツでよかった。誰が選んでたんだろう。いつの間にやらマスク姿のトムが出てきていて、こまごま自分でセッティングしている。フツーにふらっと出てきたので気づいてない人も多く、気づいている人はそっと見守っていて、歓声も起こらない。いつものことですね(微笑)。今回はお面もマントもプロテクターもなく、物販にもあったWarpのロンTを着ていた。
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Rhizomatiksとのコラボ「Terminal Slam」MVのセンター街映像がステージ背面いっぱいに映し出されると大歓声。天井高いと映える! コーストがなくなったのは本当に残念だし、大型レイヴが出来る屋内スペースが減ったことも大きな痛手だが、「Terminal Slam」を渋谷で観られたことは本当に嬉しかった。まるまる流される映像にしばし見入っていると、猫背でベースをだいじそうに抱えた長身がスタスタと出てきた。マスクは外している。手をあげ「こんばんは!」(日本語)。応えるフロア。どよめきのなか四つ打ちのビートが繰り出され、ベースがビートを刻み……ここでトラブル、音が停まる。再度仕切り直すもやはり停まる。だ、大丈夫?
しかしこういうときのトムは強い。冒頭ツイートの通り手をあげ「two minutes!」と叫び、お立ち台からの階段をタタタッと駆け下りてステージ袖にハケていった。軽い足取りで戻り、階段を駆け上がる。ソフトの再起動を始め、「カウントダウンして! こっちは英語でいうから皆は日本語で!」(英語)と腕を振る。トムは「ten!」といい、フロアは「じゅう!」という。なんじゃこの光景……楽しい〜! しかし「1」迄いってもソフトは立ち上がらず。あちこちから「がんばれー!」の声が飛ぶ。
……やだエモい、これ、初来日のときと同じじゃないの。いや初来日行けてないけど(てかフジの2日目で観るつもりだったんでLIQUIDROOM Shinjukuの前夜祭は諦めたんだよ)このときの音源は結構出回っていて(今でもYouTube等で聴けます)、何度聴いたかってくらいなのでよく憶えているのだ。今でもよく聴くし。このときトムはフロアから飛ぶ日本語に英語で返事をし、アンコールで湧くフロアに「one minite, 」と応えてセッティングをしていた。このときもフロアから「がんばれー」と声が飛んでいた。その後もフジや『Ultravisitor』ツアーでも「がんばれー」といわれていたな…何故……このときの様子も『Do You Know Squarepusher』や野良音源で聴けるので、気になる方は探してみてほしい。
ようやくスタート。トラックを走らせてベースを弾く……てかベース? それはベースですか? ピアノの音がします。スネアの音がします。シンバルの音がします。最初はトラックの方だと思っていたが、どう見てもベースと音が同期している。
いやさ……サンプリングした音素材をベースで鳴らしてるといえば簡単だけどさ、ベースの音程と実際に鳴っている音程が一致している訳ではないのよ。何をやってるかはわかるけどどうやっているのかがさっぱり分からない。チューニングしてたけどその意味は?……ここでハタと気付く。ちょっと! これ正に「Come on My Selector」MVの「何台もの楽器をどうやって一度に弾くんですか?」を体現してるじゃん! エモい!!! おまえ…何をやってる……最高か!!!(泣)
あっこのリズムトラックよく使ってたやつ! 『Ultravisitor』で全編使われてたスネアの音! 『Burningn'n Tree』のリズムが入ってる気がする……これ超〜初期のじゃない? 『Male Pill』シリーズ? この頃ってテープ編集してたんじゃなかったっけ? これらの音素材をいちいちサンプリングしたの(いやマルチから拾えるのかもしれんけど)!? そもそもレコーディングに使った機材の音をライヴ用にわざわざベースに置き換えてその場で“演奏”するって、バカなの!?(褒めてる)
ベースを置いて卓に向かってからもそれは続く。音素材の断片は既知のものでも、使い方は全然違う。聴き憶えのあるフレーズやパーツはあるけど、曲の成り立ちが音源とは全く違う。そもそももう違う曲だろ。殆どがインプロだったと思われる。そんでずっとBPMが速い。「Chin Hippy」くらいの速さがずーっと続く。しかし4〜8小節毎にキチンと展開やブレイクがある。割れる。こういうところ、通り名を体現している。スクエアだし、フロアを湧かせたい、観客が騒いだり笑っているとうれしい、という思いが素直に感じられる。何度も叫んでフロアを煽る(客を休ませない/甘やかさないともいう)。ビートはますます強力になる。
かろうじて原型が残っていた(何の曲かの判断がついた)のは「Anstromm Feck 4」と再びベースを持ってからの「Oberlove」「Nervelevers」、アンコールの「Come on My Selector」くらいか。最新作『Be Up A Hello』からの2曲はBPMも落とし、メロディの美しさを際立たせるサウンド。超メロウ。トムのロマンティストな部分が垣間見られた。
手首を骨折してからのトムがベースを弾くのは初めて観たので(一昨年のはDJセットだったから)まずはちゃんと(というのもアレだが)演奏出来ていたことに安心する。今回使用したベースは1本のみ、初めて見るもの。手首に負担がかからないように新調したものだろうかなどと思いつつ観ていたが、あんま関係なさそう…今のモードに合わせて自分で(ここだいじ)カスタマイズしたやつだな……と考えなおす。こことか後から見てトリハダ立ちましたよね……怖い! こんな魔改造したベース、2本はいらんだろう。
暴力的、破壊的と評されることも多いが、その裏にはこうしてベースを改造したり、コツコツプログラムを書いたりと、地道で緻密な作業がある。コロナ禍によるロックダウンがあったから、家にいる時間が長かったから、というだけではないだろう。いつでもトライアンドエラーを繰り返し、実験を重ねている。享楽的でもなく、破滅的でもない。
前述のハード/ソフトの話じゃないが、目まぐるしく更新していくエレクトロニックミュージックのシーンにおいて確固たる個性を持ち続ける。強烈なリズムトラックの創り手、優れたメロディメイカー、剛腕のベースプレイヤー。こんな音楽家、他にはいない。10代からレイヴの現場で育ち、ハタチそこそこでデビューし、膨大な作品を世に出してきたキャリアは伊達じゃない。
今のモードで『Big Loada』からのナンバー聴けたのもエモい(こればっかり)。「これまでにやってきた己の強みを再構築したデッキバトルという感じであまりにも強い。」というこの方のツイートに深く頷く。トムはいつでも“今”を見せてくれる。『Be Up A Hello』からのナンバーだって、延期されずに一昨年やっていたら全然違うものになっていただろう。
ライゾマのヴィジュアルもよかった。ハレーションギリギリなのに色飛びしないグリッチ。ビートと完全に同期していた照明との相乗効果も抜群。トムの音をガッツリ視覚化してくれた。当初とは違う会場で仕様諸々の変更もあったと思うが、素晴らしい仕事ぶり。
「ありがとう、東京!」(日本語)と叫び、マイクを持って真鍋さんを呼び込み(英語。ハドモはいなかったのか呼ばれなかった)、深いお辞儀を何度もし、大きく手を振り、フロアに手を拡げ、胸に手を当ててうんうんと頷き、最後は投げキッスもいただけました。手でハートマーク作ってた気もするがそれは幻覚かもしれん。前述したように今回はほぼ普段着、自然体に見えた。でも自然体でこんな音を繰り出し続けるって、恐ろしいことだよ……。は〜どっから切ってもトムだった。有難う! 有難う! エモが過ぎる! 気の早い話だけどまた来てね!
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・SQUAREPUSHER - JAPAN TOUR 破壊的なアンサンブルにフロアは爆発! テクノロジーを意識し、レイヴの狂騒にジャズ・ベーシストとしての技巧を重ね、エレクトロニック・ミュージックをライヴのダイナミズムで増幅!┃BEATINK.COM BEATINKさん、ときどき惹句が煽りすぎ(笑)。 「過去曲のフレーズや初期のアシッド・ハウスを彷彿とさせるパーツを挿入する場面はあったものの、懐古的な印象はまったくない。テクノロジーを意識し、レイヴの狂騒にジャズ・ベーシストとしての技巧を重ね、エレクトロニック・ミュージックをライヴのダイナミズムで増幅させる稀有な存在であることをあらためて見せつけた」 駒井憲嗣さんによる1日目のレポート
・Squarepusher - @渋谷 O-EAST┃ele-king 「もうひとつ、さすがだなと思ったのは、おそらく大半の曲が未発表か、もしくはその場で生成したものだったこと。(略)スクエアプッシャーはあくまで前を向いている」 小林拓音さんによる1日目のレポート
・トムさんはSNS等に積極的ではないので、主に真鍋さんのinstaから動向を知っておりました。大阪は初日を終えての詰めがあったのか音沙汰なしでしたが、名古屋、東京は終演後呑みに行った模様。てか真鍋さんちょこちょこアップしてくれて有難う……(手を合わせる)。全てを終えての打ち上げでは座敷でくつろぐトムと、笑顔でスニーカーを手に座敷に上がろうとしているハドモの姿が。笑う
・てか靴を脱いで家にあがる日本式に戸惑って「靴下も脱ぐのか?」といっていた22歳が打ち上げの座敷でくつろぐ47歳に…感慨深い……いい加減自分が気味悪いが待った分いわせてくれ!
・いやそれにしても、ほんとBEATINKさんがんばってくれた。SMASHさんにも感謝、感謝です。これからも素敵な音楽を届けてください。足を運びます!
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2022年10月15日(土) ■ |
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M&Oplays『クランク・イン!』 |
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M&Oplays『クランク・イン!』@本多劇場
岩井秀人は当初から岩松了の影響を公言していて(「・アーティスト・インタビュー:岩井秀人(ハイバイ)┃Performing Arts Network Japan)、その後岩松作品の演出も手掛けている。今作はその返歌のようにも感じた。ハイバイドアはノブだけの扉だが、今作のドアにはノブすらない。
劇中何度も登場人物たちはドアを開閉する。撮影を待つ3人の俳優たちと、主演女優のマネジャーの控え室。登場人物が自身の感情を表すかのようにドアを開閉する。苛立ちをぶつけるように激しく開ける。秘密を知られないようにそっと閉める。何度も何度も開閉されるドアは、音だけでその存在を示す。やがてその音は、幽霊(死者)のように存在感を増していく。ドアに守られていると信じ込んでいる登場人物たちには、監督の妻とプロデューサー(生者)の存在が影を落とす。死者と生者、ふたつの岸から「不在の人物」が登場人物たちを追いつめる。音響オペレーターは、舞台の外部から、観客の目が届かないところから、登場人物を操るように開閉音を演奏する。
そして別荘。やはり観客の目が届かない場所に「つめこまれている」俳優とスタッフたちのことを思う。そこからひとりだけ抜け出し、やがては現場の中心となっていくであろう人物は、死者を生者のもとに仕わし、生者を死者のもとへ送り出す霊媒師のようでもある。
繰り返される「ポシェット」という単語、主演女優が口ずさむ歌の内容、世間から隔絶された撮影場所。時代と映画の内容を窺う。SNSや匿名掲示板で拡散される噂から、「映画」が生まれる環境は時代錯誤なものだということが浮き彫りになる。岩松さんが描くハラスメントへの視線は、断罪の焦点が常にぼやける。罪に問われるのは直接手を下した者か、そうなる関係性をつくった者か? 人間関係はやはり一筋縄ではいかず、滑稽だ。
その滑稽さを笑いとして観客に伝えるには、演者の技術が必要になる。その点は秋山菜津子がズバ抜けている。間抜けなマネジャーとのやりとり(あのシーン以降、多くの観客は「差し入れどうなった?」「ラスクじゃなくフルーツだよー!」と脳内でずっと叫んでいたのではなかろうか)、監督との鞘当て、共演者に対する不信。常に不安定な線上を歩き乍ら、面倒くさいが憎めない人物を演じる。しかし面倒くさい。総じて人間は面倒くさいということでもある。
彼らは何にとり憑かれているのか。映画の完成か、亡くなった女優の秘密を明かさないことか。映画を世に出すため、ドアを開ける。秘密を隠すため、ドアを閉める。「クランク・イン!」なんてポジティヴな言葉が、これ程不穏な響きを孕むとは。完成しなかった数多の映画の亡霊が、やはり映画に殺された数多の人々、戦争で亡くなった市井の人々とともに、生き残った人々を見つめているようでもあった。
ボートに乗って行方不明になり、その後遺体が発見。連想するのはやはりナタリー・ウッドのことだ。事故死から水死、そして不審死と、没後41年の今も新証言と再捜査が繰り返されている。彼女も映画に、ショウビズに殺されたのだろうか、と思う。
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余談。先日NHK『鶴瓶の家族に乾杯』のゲストが吉高由里子さんが出てたんですが、行ったところというのがゴリゴリウチの田舎でして、あの道を吉高さんが! あの喫茶店で吉高さんが! といちいち感動して観てました。いや〜あんな誰もいないとこによく来たなというか何故この地域を選んだのか。出演作とも全然関係ないのに。不思議。
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2022年10月10日(月) ■ |
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『国際芸術祭「あいち2022」』その他 |
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『国際芸術祭「あいち2022」』その他
どんだけいやがらせがあったかって話ですな。今回多様性でいえば過去イチあったと思うけど、韓国からの出品が一作品もなかったことは国際芸術祭のあり方として疑問が残った。
という訳で、こちらはブツブツいうコーナー。いや、今回いいたいことがちょこちょこあってな……。
・名称変更 ダサい。
・開催エリアの変化 ずっと会場だった名古屋市美術館が入っていない。なんでかと思えば前回県と市が揉めたからですってヨ〜。アホか。あの市長ほんとロクなことしない。今回のテーマになった『I Am Still Alive』の作者である河原温作品を数多く所蔵しているのが市美術館なのに……黒川紀章設計の建物も、白川公園のなかにあるというロケーションも大好きなところ。朝イチの新幹線で名古屋に行って、開場する迄公園を散歩するのも込みで毎回の楽しみだったのに。
そんなこんなで県と市の分断というか、名古屋は協力せんって空気を端々に感じました。
・ガイドマップや案内サイン等がすごくわかりづらい 公式グッズが今迄にないくらいダサかったのもショックでしたが(選挙運動グッズみたいなデザインなの。例年はなんかしら買いたいなと思わせるかわいいグッズがあったのよ)、そもそも情報を整理するためのデザインというものが、全体的に不親切で横柄だった。 この作品が観られるのはどこ? 経路は? 作家のプロフィールは? それらを連絡する導線が整備されていない。 パフォーミングアーツに関しても、チケットに書いてある開演時間=集合時間だったりして、それに関する説明もなく、受付で訊いたら「巻いて進んでるんで早く来たらその分早く出来ますよ〜」なんていわれる雑さ。巻いてっていい方もさあ……。 こういう張り紙も、なんかすごい意地悪。来場者から何度も質問されたからかもしれないけど、もうちょっと書き方というものがあるだろうよ。
周辺情報を追っていないTAさんから「なんか、前回と雰囲気が違う。行政が入った〜って感じがひしひしと伝わる」なんていわれてブンブン頷く。親切なボランティアさんもいたし、スタッフさんはせっせと働いていたし、現場はがんばっていたけれど、それだけになんかなあ。悲しい。人質にされた予算は現場にちゃんと使われたのかな〜どこに中抜きされちゃったのかな〜なんて、こっちも意地悪く考えちゃいました。
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いい話もしよう。
・Suicaが使える 地下鉄でも在来線でもバスでも使えた。便利〜!
わざわざ画像張るもんでもないがせっかくなので(?)。 新幹線で朝ごはん。チキン弁当風おにぎりというものを初めて見たので買ってみた。チキン弁当だった。おいしかった。 お昼はちょっと外に出て、セントラルパークでランチもいいわねえ。名古屋名物若鯱家のカレーうどんもささっと食べられていいかな? そういえば本場のあんかけスパゲティ食べたことない、チャオ行ってみたい! なんて相談していたが、そんな時間などなかった。展示を観きれん! 観きれん! と観ているうちにパフォーミングアーツの時間が迫り、結局芸術文化センター地下のデリで買った唐揚げと玉子焼きをベンチに座って10分で食べた。一応旅行なのに。虚しい。それの画像は勿論ない。 カレーうどんには翌日一宮でようやくありつく。すごいまろやか〜これは愛知の味? それともこのお店の味? おいしかった〜。
・リャビーナ 名古屋に行くとほぼ毎回寄るロシア雑貨店。開いててホッとした。コロナで中止していたカフェも再開しており、白樺ジュースを飲めました。おいしかった! グラスも、ホフロマ塗りのトレイもかわいい。買いものもしたけれど、商品の紹介をする度マダムが「今いろいろいわれてますけど…」「いろいろ大変なところですけど…」と付け加えるひとことが悲しかった。
・コンパル 名古屋駅からいちばん近いメイチカ店に行ったら大行列。サンロード店に行ってみるもやはり行列、20分程並ぶ。いつの間に行列の出来る店に!? いつもあっていつも入れる安心と信頼の喫茶店というイメージだったが。 かろうじてモーニング(ハムエッグトーストサンド)。ひと切れTAさんのエビフライサンドと交換。自分でつくるアイスコーヒーも好き。 そのエビフライサンド、お土産にするのが恒例。一宮から名古屋に戻り、新幹線に乗る直前くらいにテイクアウトしようと思っていたが、日曜日だったため閉店が早く買えなかった。無念。朝行っといてよかった、TAさんがエビフライサンド頼んでよかった。有難う有難う。
中途半端に空いた時間で一宮駅前の名鉄百貨店をうろうろしたり、市立中央図書館で絵本を読んだり出来たのも楽しかったです。年々乗り物酔いが酷くなってて、春には目眩でぶっ倒れて初めて救急車で運ばれたこともあり、新幹線はこだまでのんびり往復。それでも帰りは酔う。
・「あいち2022」注目作品を巡る。コロナ禍のいま考えたい「STILL ALIVE」┃美術手帖
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おまけ。『I Am Still Alive』シリーズを始め、“河原温作品”はtwitter上でも展開されています。2009年1月に、“I AM STILL ALIVE”とだけツイートするアカウント(@On_Kawara)が開設され、「中の人」は本人? いやなりすましだろうと話題になりました。2014年6月に氏は亡くなりましたが、その後もツイートは続き、2018年7月8日を最後に停止しました。その後もOn Kawaraを名乗るアカウントは開設されては消え、始まっては停まり、現在生きているアカウントはこのひとつ(@IsOnKawara)。“I GOT UP”の時差から考えて、中の人はNY在住かな。
・カワラ・オンたち:アーティストとツイッター・ボット┃奥村雄樹┃AMeeT 最初のアカウントの「中の人」について……てか今になって初めて知った。7年経っている。この記事を書かれた奥村雄樹さんは、あいち2022に『7,502,733』を出品しています。
・ツイッターを見てたら @On_Kawara が2018年7月8日かぎりでツイートをやめていることが話題になってた。┃okumura yūki @oqoom 同じく奥村さんのツイート。その「中の人」が2018年でツイートを停止した理由はこちらのスレッドで。
@IsOnKawaraはいつ迄続くか。そして後続は現れるか。1966年以降、経歴も姿も消した河原温。自身の死後も作品は生き続けるということを勿論考えていただろうが、こうした手法で自分の作品が続いていくことを、どこ迄予想していただろう。さて、彼のメッセージに呼応するものとして開催された『あいち2022』は、いつ迄生き続けるだろう。
余談。 ・<三宅健とめぐるアート。3>河原温「孕んだ女」 「生と死」を見つめ続けて┃東京新聞 TOKYO Web 今回の流れで見付けた記事。おお、三宅くんが河原温を……
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2022年10月09日(日) ■ |
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『国際芸術祭「あいち2022」』2日目 |
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『国際芸術祭「あいち2022」』2日目
名古屋に一泊し、翌日はお初の一宮会場へ。
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■オリナス一宮 1924(大正13)年竣工の旧名古屋銀行一宮支店(設計:鈴木禎次)。
・奈良美智 大好きな夜の羊たち、「Fountain of Life」に再会出来てうれしかった! 案内サインも本人画ってところににっこり。
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■つむぎロード 普通に住人の憩いの場となっている様子。日曜日だったからか、駅前やアーケード街にはいろんな遊び場が設けられ、キッチンカーも出店していた。遊ぶこども、ビールを飲む大人たちを眺めるのも楽しい。
・バリー・マッギー どこに作品が? とトイレの裏側にまわると巨大な壁画。作品を送ってきたのではなく、作家本人がここにいたという痕跡にはやはり心を動かされるものがある。
■一宮市役所 ロビーが展示場。
・眞田岳彦『あいちNAU(綯う)プロジェクト』 羊毛産業が盛んな愛知で、300人の参加者が縒り合わせた大綱。樹木のように力強いが、ひとつひとつの糸は柔らかく繊細。
■旧一宮市スケート場 スケートが盛んな愛知県ならではの遺構!
・アンネ・イムホフ『道化師』 氷を張っていないリンクはパイプがむき出しで、歩くのにもひと苦労。これだけでも貴重な体験。大型スクリーンには踊るダンサーの映像、ラインアレイスピーカーによる音響も抜群。リンク上に観客が降り、スケーターではないダンサーを観るというギャップも面白い。
■旧一宮市立中央看護専門学校 設備がほぼそのまま残っているので、ベッド、機器洗浄のためのシンク、資料が集められた図書室や標本室に作品が展示されている。
・小杉大介『赤い森と青い雲』 そこにいたであろう患者と付き添い、医療従事者の会話。病院ではなく看護学校なので、本当の病人がいた訳ではないけれど、そこには死の匂いと生への憧れがあるように感じる。
・ケイリーン・ウイスキー『ハッピー・プレイス』『ストロング・クンガ》』 靴を脱ぎ、畳敷きの和室で観る。先住民の文化を奪った侵略者に慣れ親しむ人物は、自然と消費を映像で描く。
・西瓜姉妹(ウォーターメロン・シスターズ)『ウォーターメロン・ラヴ』『ウォーターメロン・アバター』 ハッピーなヴァイブスいと上がりけり! 性的解放を応援するクィア姉妹。前日の百瀬文『Jokanaan』よろしく今度は自分がモーションの人形になってみる。映像と音楽とダンス、ご本人たちも来日し市内を練り歩いた日もあったそうで、現場もんの強さを垣間見ました。
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■国島株式会社 バスに乗って駅から離れた尾西エリアへ。停留所からの道も遠足気分。この辺りから雨が降り出す。昔懐かし、こどもの頃絵本で見る工場はこんなのこぎり屋根だった。今もその姿を残す場所。
・曹斐(ツァオ・フェイ)『新星』 これは全編観たかった〜! レトロ・サイエンス・フィクションのもはや映画。国家プロジェクトの実験により、時空ともに離れ離れになった父子の物語。 観られた場面は父親が俺がお前を実験台にしたのだ、すまん許してくれ〜しかしお前がこれを見たとき俺はもうこの世にはいないのだ〜みたいなことをいってる映像を息子が見つけたところ。ぎゃー先が気になる! レトロフューチャーなロケハンも素敵といったら語弊があるか、1957年ソ連の支援によりつくられた施設だそうです。
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■のこぎり二 こちらものこぎり屋根の工場跡地、平松毛織という会社の用地らしい。外観撮影したかったけど雨が強くなってきており断念。リノベされたカフェやアウトドアショップもあり。 クレジットされていない作品も展示されており、ワークショップも行なっているようだった。芸術祭と関係あるのか、普段からこういう活動の場があるのか、ガイドでは紹介されていなかったので詳細が不明。お客、作家、その家族らしいこどもたちがいて、ハッピーな空間だった。 NIN『The Downward Spiral』のアートワーク等を手がけたラッセル・ミルズぽい壁があったので撮ってみた(笑)。 ・のこぎり二┃一宮市の公式観光サイト IchinomiyaNAVI
・塩田千春『標本室』『糸をたどって』 『標本室』は看護学校の解剖学標本室。拡がる毛細血管にも、腫瘍の増殖にも見える。 『糸をたどって』はのこぎり二。こちらは血飛沫のようにも、胎内のようにも。雨の音も心地よかった。
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真清田神社が会場の近くにあったのでお参りしました。2600年以上前に建造されたとのこと。七五三や結婚式で、着飾ったひとたちがいてにこにこ。
名古屋に戻り、F1GP帰りのひとたちに揉まれ乍ら土産などを買い帰ってきました、これにて終了〜。やっぱり時間が全然足りない!
・一宮会場はアートと一緒に喫茶店モーニングも! 国際芸術祭「あいち2022」レポート┃大竹敏之 Yahoo!ニュース モーニングする時間はなかった! ゆっくり街めぐりしてみたい場所でした一宮〜!
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2022年10月08日(土) ■ |
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『国際芸術祭「あいち2022」』1日目 |
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『国際芸術祭「あいち2022」』1日目
2010年から三年に一度開催されている『あいちトリエンナーレ』が、前回のゴタゴタ(…)から、『国際芸術祭「あいち2022」』と名前を変えて再出発。第一回あいトリから毎回行っていた者としては、ハァ〜という気持ちがありますが、プログラムはやはり惹かれるものが多い。まあな…現場はいつでもいいものをつくろうとしているんだよ……という訳で今回も行ってきました。
それにしても今回、パフォーミングアーツの日程が出るのを待っていて、チケットを確保してから宿を探したらこれがまーどこも埋まってて焦った。ジャニーズ? 学会? と見当付かず調べてみたら3年ぶり開催のF1GPの影響でした。なんとか泊まるとこ見付かってよかった……。
そして出発3日前になって突然小林建樹のライヴ告知(オフラインでやるの6年ぶり、単独では8年ぶり!!!)があり、予約開始が出発当日の10:00からというので慌てた慌てた。9時過ぎに名古屋駅着、岐阜から来るTAさんとおちあって、10時の開館ジャストから芸術文化センターに入る予定だったのです。結局センターのロビーでチケットをとった(笑)。
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■愛知芸術文化センター会場
ひととおりは観られたが、長尺の映像作品についてはなかなか全編を通して観ることが出来なかった。近辺在住で会期中何度も通えるひとでないと網羅は出来ないな。パフォーミングアーツの開演時間に追いかけられ乍ら、10Fと8F(愛知県美術館)、地下1F(愛知県芸術劇場 小ホール)、地下2F(愛知県芸術劇場 大リハーサル室)を行ったり来たり。
印象に残った作品をおぼえがき。ケイト・クーパー『無題(ソマティック・エイリアシングに倣って)』を観逃したのが無念。今回ガイドマップや案内サイン等がすごくわかりづらい作りだった(こうしたことも含め、運営についてはあとでまとめて書く)。
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・河原温 観ても観ても全容を把握した気持ちにはならない。そうして河原温は生き続けている。
・バイロン・キム『サンデー・ペインティング』 毎週日曜日に空を描くシリーズの、コロナ禍に入ってからの一年間(2020年2月〜2021年2月)。移動を阻まれても、家族と離れても、災害が起こっても、社会不安が膨らんでも、空は変わらず美しい。しかし時に、曇天が作者の心を曇らせ、晴天は人々の心に光をもたらす。ちいさな正方形のキャンバスは、世界へ、宇宙への窓となる。
・リタ・ポンセ・デ・レオン『魂は夢を見ている』 マリンバの鍵盤には、詩人のヤスキン・メルチーと新納新之助が選んだ言葉が刻まれている。鑑賞者は鍵盤を好きに並べ替えて演奏する。詩を生むか、音楽を生むか、どちらにも喜怒哀楽。
・岸本清子 49歳で亡くなった、愛知県出身のアーティストの絵画とパフォーマンス映像。今回初めて知りました。 愛と自由をもって革命を起こそうという情熱は、没後34年の今も強烈なインパクトを観る側にぶつけてくる。参議院選挙に立候補したときの政見放送映像には考えさせられる。目立ちさえすれば勝ち、といった悪ふざけとは違い、真剣であるのは伝わったが……。
・渡辺篤(アイムヒア プロジェクト)『YourMoon』『ここに居ない人の灯り』 「I AM STILL ALIVE」から「I'M HERE」へ。コロナ禍による緊急事態宣言下、孤独を感じているひとたちが撮影した月。ここにいるひとと、「ここに居ない人」。それぞれひとり立つ人間は、同じ月を見ている。 『YourMoon』をそのままポスターにしたものも配布されていました。持ち歩くのが難しく断念。うわん連れて帰って家に飾りたかったよ〜。
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・AHA![Archive for Human Activities/人類の営みのためのアーカイブ]『ドライブ・レコーダー』 いちばん印象に残ったといえばこれ。自動車産業が盛んな愛知県で暮らす、80歳のとある人物の「私的な記録」。 免許取得から約60年、走行距離総計90万km。これ迄乗った車種、ドライブに行った場所、車内で聴いた音楽、それらにまつわる思い出の数々が綴られている。 ひとに見せるという前提なく、コツコツと続けられていた記録に、ある種の感動が宿る。 高齢者の交通事故や免許返納が問題になる昨今。なんというか、全然知らないひとなのに、幸せなドライバー人生を最後迄送れますように、と祈るような気持ちになった。
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・ホダー・アフシャール『リメイン』 映像作品。10数分のものだったので全編観られた。 流れ着いた多くの難民は、オーストラリアに入国を拒否されマヌス島に抑留される。美しい自然を持つ島は監獄となり、彼らから自由を奪い死へと追いやる。海の青、濡れた木々の緑、生命力溢れる濃い色彩は、同時に色濃く死の匂いを放つ。 エンドロールでは亡くなった方の氏名と死因、年齢。『アメリカン・ユートピア』の「Hell You Talmbout」を思い出す。
・ローリー・アンダーソン & 黄心健『トゥー・ザ・ムーン』 月面への旅。宇宙飛行士気分を味わえるVRには行列が出来ており断念。
・リリアナ・アングロ・コルテス『パシフィック・タイム/民衆が諦めたりするものか!』『Still Hair:アフリカ系住民のコミュニティでの髪型とケアの実践の伝統に関する共同プロジェクト』 アフリカン・ディアスポラ(移民)の歴史を辿る旅。女性の髪が暗号や地図として機能していたことを初めて知る。編み込み模様が脱出経路の地図となり、逃れた先での支援者の情報となり、資金源となる金を隠す容器となる。
・ロバート・ブリア『フロート』 とてもゆっくりと動く彫刻。ものすごく遅いルンバみたいな感じでもある。音も殆どしない。 同フロアの他の展示を観ていて振り返ると、真後ろにいたりしてビビる。魂がない筈のものがかわいく見えてくる不思議。 大小4ついる(あるではなく、ついいるといってしまう)ということだったが、3つしか見つけられず。どこか遠くへ散歩に出てしまったのだろうかなんて思う。
・百瀬文『Jokanaan』 やっと観られた! 二分割された画面の左側にはモーションキャプチャーのモデルとなる男性、右にはそれによって動かされている女性のCG映像。一見、男性=ヨカナーン、女性=サロメの図式。 しかし、オペラ『サロメ』の演奏にのせて「私を見て」と唄い上げているのは男性で、女性像はそれを再現しているデータに過ぎない。 サロメ、CGデータ、女性。彼女たちの主体はどこにあるのか、その感情はどこにあるのか。 対して、力の限り唄い叫んでいるように見える男性モデルの声はミュートされ、動きは全てモーションの素材になる。彼はCG、あるいは女性の形代に過ぎないともいえる。 最後彼らは“別れ”ることになる。容器としての肉体。
・ローマン・オンダック『イベント・ホライズン』 1本のオークの木が見つめる100年間。WW1が終わり、WW2が起こり、キューバ革命が起こり、9.11が起こる……。切り株は1日1枚壁に掛けられていくので、98枚は観られた。あと2枚には何が記されたのだろう。切り倒されたことで、樹齢100年以上のこの樹木の命は尽きたことになる。人類の傲慢さにも思いは及ぶ。
・和合亮一『詩の礫 2022』 2011年震災時の「詩の礫」、コロナ禍の2020年「Ladder」、ウクライナ侵攻以降シェルターから発信を続けるオリア・フェドロバとの往復書簡「Shelter」。さらさらとスクロールし乍らリアルタイムで読んでいたツイートによる詩が、プリントアウトされ壁一面に張り出されている。その物量。ひとつひとつは140字以下のつぶやきだが、それは確かに礫となり、鑑賞者の心に穴を空ける。 思えば“礫”という言葉を覚えたのは聖書からだった。ダビデはひと粒の石で巨人ゴリアテを倒したのだ。
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今回のメインはこの二作品。あいトリ(…)はパフォーミングアーツのプログラムが毎回面白い。キュレーターは前回に引き続き相馬千秋氏。
・百瀬文『クローラー』@愛知県芸術劇場 小ホール 上演時間は20分、各回鑑賞者(体験者といった方がいいのか)は2人ずつ。ホールは暗幕で二分割されており、車椅子の操作等のガイダンスを受け、ネックスピーカーを装着したあとは別々の入口から入場する。つまりひとりきりでの体験。 真っ暗闇。スピーカーから女性の声が聴こえてくる。ぼんやり立ち尽くしていると、淡い灯りが車椅子を浮かび上がらせる。「乗ってみたいと思いませんか、」と声。事前に説明を受けていたとはいえ、どのタイミングで乗るのかは知らされていないので、この台詞のタイミングで乗るのか、このあと「乗ってください」という声があるのかと迷う。ちなみにTAさんは「ほいほい乗っちゃったあとに『乗ってみたいと〜』っていわれた(笑)」そうで、鑑賞者によって上演時間も多少変動があったのではないだろうか。 車椅子に乗り、指示通りエリア中央に灯った電球を目指す。なんだかハンドリムと車輪が濡れている……? 都度消毒しているからかなあなんて思い乍ら進むと、ピシャ、というような音がする。水だ。フロアに水が張ってある! どのくらいの深さなのか? このまま進んでもいいのか? と迷い、恐る恐る進む。電球を見つめていると、遠くからひとの気配。顔をあげると、スリップ姿の女性が立っている。照明の具合で顔は見えない。彼女はゆっくりと近づいてきて、車椅子の背後にまわり、私の乗った車椅子を押し始める。最後の言葉を合図に、車椅子から立ち上がり、彼女と別れる。最初から最後迄、彼女の顔は見えない。 スピーカーから流れてくる言葉は、身障者の性について。話し手である女性の自慰方法、風俗について。男性には射精介助があるが女性にはない、身障者の女性の性は社会から隠されている。そのことに気付かされる。 前述の『Jokanaan』や『鍼を打つ』(再演希望!)もそうだが、百瀬さんの作品には「容器としての肉体」を再認識させる作品が多いように思う。すなわちセクシュアリティ、ジェンダー、身体の自由/不自由。 鑑賞者の性自認と属性によって受け取り方が変わるかも、という意味ではFestival/Tokyoでやったソ・ヒョンソク『From the Sea』を思い出した。 --- ・国際芸術祭「あいち2022」中村蓉×今井智景×百瀬文が語る、現在を“STILL ALIVE”する身体┃ステージナタリー 「(『クローラー』について)“Still Alive”と言って気になるのは、今まで隠されてきた人たちのAliveの声。社会の中で、何が見過ごされてきたのかということです。」
・アピチャッポン・ウィーラセタクン『太陽との対話(VR)』@愛知県芸術劇場 大リハーサル室 事前情報でVR酔いするかも、とのことだったので、事前に酔い止め服用。VR体験は『ダークマスター VR』以来、2度目。このときよりゴーグルが軽かった気がする。 前半30分映像(映画)鑑賞、後半30分VR体験の二部構成。指定の時間に集合し、まずはガイダンスを受ける。入場すると、フロア中央にスクリーンが吊るされており、表裏で違う映像が流れている。映像中の人物はどちらも眠っている。 その下を、30分前に入った体験者がVRゴーグルを装着した状態でウロウロしている。スタッフが巡回して、近寄り過ぎた体験者の間に腕を差し込み、衝突を止めたりしている。 正直そっちが気になって、映像に集中出来ない(笑)。流れとしては、スクリーンの中で眠る人々が見ている夢の内容をVRで体験する、という印象。 巨大な太陽が地上から生えてくる。荒廃した星を歩いていると、その土地が足元から崩れていく。宇宙空間をふわふわと上昇する。精度はかなりのもの。足がすくむが、徐々に慣れてきて、星を探検するような気分で歩きまわる。さっき自分が見ていたように、後の入場者が物珍しげに自分を見ているかも、と思うのも面白い。 ガイダンスで「他のVR体験者は光の玉の状態でゴーグルに映るので、距離感の目安にしてください」といわれていた。目の前をふわふわと浮いている光の玉は、蛍のようでもあり、実際には近くにいるのに遠くに見える星のようでもある。 今、このVRを一緒に体験している見ず知らずのひとたちがそれぞれひとつの星になる感覚。 浮上するシーンで、星はほぼ全員動かなくなる。上昇する感覚はVRによるものなので、自身の身体を動かすことは可能なのだが、それでも動かない。 巨大な太陽に呑み込まれてしまう星もいる。自然と悼む気持ちが生まれる。やがて自分もそこへいくのだ。 宇宙空間に放り出されたような感覚は不安で仕方なく、怖い。しかしワクワクする気持ちの方が若干上回ったのは、太陽というエネルギーと“対話”したからか。 星が生まれ、死に、また新しい星が生まれる。肉体から離れた意識は、その星を移動していく。 『AKIRA』の鉄雄気分も味わえました(笑)。
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