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2021年09月25日(土) ■ |
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『エリア50代』 |
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KAAT DANCE SERIES 2021 × Dance Dance Dance @ YOKOHAMA 2021『エリア50代』@KAAT 神奈川芸術劇場 大スタジオ
いやーこういう企画、全公演観たくなりますよね。通いたかった……。
先週に続き『Dance Dance Dance @ YOKOHAMA 2021』(DDD2021)のプログラム、“50代の技と身体と思い”を届ける『エリア50代』です。出演者は全員50代(十市さん談:スタッフも50代で揃えてます!)小林十市さんと近藤良平さんが日替わりゲストを迎えます。この日のゲストは伊藤キムさん。
ステージ上手には“エリア50代”と書かれた寄席文字のめくり台(後述十市さんのエッセイに画像あり。初日のみ撮影OKだったそうです)。該当作品の出演者と年齢が書かれた名ビラがめくられていくという粋な趣向です。柳家花緑 × 東京シティ・バレエ団『おさよ(落語版ジゼル)』もあったし、こういうところディレクターのカラーが出ていていいですね。ちなみにめくり担当の方は和服姿の女性で、どこからともなく現れて、どこへともなく去っていくという不思議な存在でした。本当にどこから? という感じだった。その都度現れる場所も違った。当日パンフレットにクレジットもないし、どなただったのでしょう。
開演15分程前から、演者がステージに出てきて各々アップを始める。ストレッチをするひと、振りのおさらいをするひと、うろうろダラダラしている(ように見える)ひと。コソコソおしゃべりしたりして、本番へピークを持っていく迄のルーティンにも個性が出ます。皆さんシャイなのか踊る前の緊張からか、声がちいさい(微笑)。でも全員ピンマイクを装着していたので大丈夫。作品中台詞があった近藤さん以外もピンマイクをつけていたのは、アップを含むプレトークでハンドマイクを持つと支障があるからでしょう。アフタートークでは全員ハンドマイクを使っていました。
出順はくじ引き。直前迄順番がわからないので、どのくらいアップやストレッチをしておけばよいか、どうやってテンションを持っていけばいいか等、皆さん探り探りの様子。観客は呑気に面白がります。全員いちばん最初に踊りたいとのこと。ここ迄一度もトップバッターをひいたことがない十市さん、「今日はくじを引く順をアミダで決めましょうよ」といいだす。急遽スタッフがアミダを紙に描いて持ってくる。そのアミダが複雑で、「あれ、こっち?」「出口一緒になんない?」とひと騒動。すっかり和やかな雰囲気に。丸められた紙が入ったクリアボックスが三つ運ばれてきて、アミダで決まった順に箱を選びます。紙を開くと……伊藤→近藤→小林の順に決まり、イエーイと喜ぶ伊藤さん、めちゃくちゃ悔しがる十市さん、ニコニコしてる近藤さん。個性出るわー。
後日知ったところによると、結局全公演ゲストの方がトップバッターを引いたそうです。うまいこと出来てる。十市さんはずっと「最初に踊ったことない」「いちばんに踊りたかった」といっていました。先に踊って他のふたりの踊りをリラックスして観たいということもあったのでしょうが、他に理由があったことはアフタートークで判明します。いつもゲストがトップバッターになるので「まさか、くじに……」と疑いだす十市さん(笑)。見かねた(?)伊藤さんが「いっぺんにやるってのはどう?」といいだす(笑)。一瞬それいい! と思ったかはさておき、「照明さんがたいへん」「装置(小道具)がないの、キムさんだけなんですよ」と現実的な理由で却下となりました。それでは本番!
■伊藤キム(56)『このままフェードイン』 振付・演出:BOXER & Hagri ジャケットとパンツ、ノースリーブのシャツ、スリッポン。登場時と同じ服で(何なら家からこの格好で来たんじゃないのとも思わせる)、ピンマイクだけ外してもらうとするりと始められました。まさにフェードイン。音楽に合わせふわりと身体を揺らす。軽く跳ねる。滑るようなステップ。穏やかなままの表情。深夜、クラブ、ハウスミュージック……あっという間にイメージが眼前に現れる。感覚的にはいちばん自分の嗜好と近い音楽とダンス。音楽が誰のものかわからなかった。格好よかった、知りたい! ご本人は自然体のまま(そう見える)時間と空間を引き寄せていく。いや、時間と空間の方が彼の方に吸いついてきたかのよう。クラブで「うわっ、このひと、いいな。雰囲気もダンスも」と一歩下がって眺めている錯覚に陥りました。そういう意味でも、欲求を喚起させる作品だった。音楽にも、ダンスにもどっぷり溺れたい。つまりそれは、快楽。
■近藤良平(53)『近藤良平』 振付・演出:MIKIKO ブラウン管のテレビ、ちいさな卓袱台、ちいさな椅子、ノートパソコン(Mac)、アコーディオン、トイピアノなどが運び込まれる。タイトルがタイトルなので、近藤さんがこれ迄の人生で触れてきたものたちなのだなと思う。テレビで流れていたのは『トムとジェリー』。英語ではなかったので、近藤さんが幼少時住んでいた南米版かな?(後に判明) スーツに着替えて登場した近藤さん、椅子に座ったり、Macを操作したり、楽器を演奏したり。そうした動作にMIKIKOさん特有の手の動き、足のスライドが加わる。あーまさにMIKIKOさん! と同時に、圧倒的に近藤さんのダンスになっている。細やかな振り、なのに全体像はダイナミック。これはすごい。 終盤に流れてきたのはThe Bangles「Walk Like an Egyptian」。「エジプト人のように歩きなさい」……帰宅後検索して、コーランに「道を歩くなら、正々堂々と歩きなさい」という教えがあることを知る。近藤さんの、MIKIKOさんの、あらゆるひとの人生を思う。感動的な幕切れでした。
■小林十市(52)『One to One』 振付:アブー・ラグラ 音楽:モーリス・ラヴェル『亡き王女のためのパヴァーヌ』、ガブリエル・フォーレ『パヴァーヌ』 衣裳:キャロル・ボワソネ=ラフォン テーブルを使ってのダンス。腰に負担がかからないようにという配慮もあるのかもしれないが、両手で激しく叩くと演説を行っているようにも見えるし、身体を委ねると机そのものがパートナーのようにも見える。とてもドラマティック。テーブルに衣裳がひっかかるハプニングあり。一瞬のことだったのでこれも振付? などと思う。長い裾がドレスのようで素敵だけど、踊りづらそうな衣裳ではある。 しかしその衣裳をして伸びる腕、脚、身体の線の美しさ。逆の意味でダンサーの力を思い知る。 故人を偲ぶようにも、自身の身体、年齢と向き合っているようにも感じられる選曲と表情。王女のための曲ではあるが、やはりここはベジャールさんを思い出す。ひいてはダンサー本人にも。ひとは誰でも生まれた瞬間から死へと向かっている。何を思っている? 想像力が掻き立てられる。そう、今回のお三方は、観る側の想像力を自由に解き放ってくれるダンサーだった。
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プレ/アフタートークで面白かったこと、印象に残ったことなどおぼえがき。便宜上内容が前後していたり、編集しているところもあります。間違い等ありましたらお知らせ頂ければ助かります。
伊藤:聴いてきた音楽はツェッペリンとか。バンドもやった、ギター担当 小林:こどもの頃はジュリー、西城秀樹、洋楽だとデュランデュランとか
世代は同じだけど微妙に路線が違ってて、普段どんな曲で踊ってるんですか? と訊かれた伊藤さんが「Underworldとか…」といったら、ふたりからも観客席からも反応が薄くてボソッと「あ、知らないか……」と寂しそうにいってたのにちょっとウケた。し、知ってます! 大好きです! と手をあげたくなった(いらぬアピール)。
伊藤:靴は現場のゲンさんの作業靴。靴底の溝を、自分でフェルトで埋めて履いてるの。いろいろ試してみたけどこれが丁度いい 近藤:僕はアサヒのクーガー。滑り具合、フロアとの引っかかり具合。これがいちばん。この三本線がいいんですよね(本番では違う靴を履いていた) 小林:今回僕、靴下なんです。靴下で踊るの初めて(靴談義に参加したそうだったョ)
近藤:(踊り終わってアフタートークに出てきた十市さんを見て)着替えるの早かったねー! 小林:衣裳はアブー・ラグラのところにあったISSEY MIYAKEのもので、四枚重ね着している。着るのがたいへんなので最初から着てる、だから最初に踊りたい(笑)脱ぐのはバーっと脱げる。本番で引っかかっちゃった、二回 近藤:あっ! と助けに行きそうになった。伊藤さんの衣裳(ジャケットで、裏地がコバルトブルーのサテン生地)素敵ですね 伊藤:以前『禁色』という作品を上演したんですけど、そのときの相棒の白井剛のジャケット。サイズも丁度よかったから
白井剛さん! 横町慶子さんとの『Liebesträume(リーベストロイメ)〜愛のオブジェ〜』、キム・ソンヨンさんとの『原色衝動 ダンサーズ イン ザ パラダイス』が印象深い。伊藤キム+輝く未来のメンバーでもあった方ですが、伊藤さんが白井さんの衣裳を着ていることにも、「相棒」といっていたことにもなんかグッときたなー。 『禁色』というキーワードに反応する観客が結構いた。逃して悔やんでいる、再演してほしい作品のひとつです。
伊藤:本番前のルーティンは、特にないんですよね……普段の生活の延長で入っていくという感じ。今回の作品のタイトルも『このままフェードイン』 近藤:楽屋で楽器を演奏する。今はカンカラ(三線)を弾いてる 小林:あれいいですよね、今回同じ楽屋なので毎日聴いてる。今日近藤さん、振りのおさらいしてたね。珍しい 近藤:ひとに振り付けてもらうことってあまりないから、確かめようと思って 小林:(今回の公演は、自分でも振付するダンサーが他人に振付してもらうというのがポイントだが)僕、肩書きに振付家と書いてるけど、ベジャールさんの振付をダンサーに伝えたり、レッスン用にアレンジしたりするのが主なんですよね。フラワーアレンジメントならぬ振付アレンジメント(笑)
近藤:(MIKIKOさんとの作品づくり)今年に入ってから電話で依頼した。「………やります」、とちょっと間があった。会って(インタヴューを受ける感じで)ちいさい頃のこととか、何をして遊んだかとか話をして、その後プライヴェートレッスンを……というとなんかいかがわしいことみたいだな(笑)マンツーマンでレッスンを受けた。作品中テレビで流れている『トムとジェリー』はチリ版。なのでタイトルも『Tom y Jerry』。住んでいたのはペルー、チリ、アルゼンチン。MIKIKOさんの振付は手の振りが特徴的。指先迄神経が行き届いている
小林:金森穣くんの振付も結構手や腕を大きく動かすものが多い。そこ迄腕がまわらなかったりして「これが50肩!?」ってなってる(笑)。Noismの自主練しようと思ったら結構忘れてて、覚える、身体に定着させるのがたいへんなのも50代だからかな 伊藤:足がつったり。肉離れが心配 小林:アップにプリエ、タンジュ、ルルベを入れるといいですよ。効果あると思います
・伊藤さんのお子さんが見学に来ていて、お父さんの踊りを見たらあっという間に寝た(微笑)
・いきなり!ステーキには全員行ったことがないそうです(笑)どういう流れでこの話になったんだっけ、アップなしでいきなり踊れるかって話から?
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2015年の『近藤良平のモダンタイムス』以来、6年ぶり。再びステージで踊る十市さんを観ることが出来てうれしかった。あのときはこれが最後かも、と思っていたのだ。実際それ以来、十市さんはひとの作品を踊っていなかったとのこと。今回は次(『A JOURNEY〜記憶の中の記憶へ』)があるからまだ寂しくないよ。いや、あと一公演しかないと思うと寂しいな、やっぱり。
「エリア60代もやりたいんで、僕らが60代になる迄待っててくださいよ」と今回最年長のSAMさん(59)にいったら「ええ、7〜8年後!?」とひるまれた話ウケた(笑)。でも、実現したらうれしいな。ひっそり待ってます、それ迄自分も丈夫でいようと思います。
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・小林十市 連載エッセイ「南仏の街で、僕はバレエのことを考えた。」【第25回】「舞踊の情熱」「エリア50代」、無事終了!┃バレエチャンネル
・エリア50代、ありがとうございました。┃Instagram BOXERさんのinsta
・50代のダンサーが奏でる「エリア50代」スタート、小林十市「記憶と現実 違いすぎ」┃ステージナタリー 十市さんのコメント、「息上がる 記憶と現実 違いすぎ エリア50代」で一句になってるので見出しに全文使ってあげて!
・“エリア50代”が魅せるダンスの現在、SAM&近藤良平「十市さんはいい機会を与えてくれた」┃ステージナタリー SAM「コロナ禍でバーチャルなものが増えていく中で、ダンスはやっぱり生き物だと思うんです。目の前で人が動いていれば波動も伝わるし、感動も伝わる。(略)どんな状況でもダンスは廃れることがないと思っています。」 SAMさんの振付が能楽師の佐野登さんというのにも興味をそそられました。ストリートダンス × 能楽! 観たかったな〜
・「エリア50代」稽古場レポート、小林十市・金森穣・柳家花緑が語る“私とダンス”┃ステージナタリー 小林「20代、30代と培ってきたものはあるけれど、だんだん瞬発力がなくなってきて回復も遅くなってきて、そういう中で日々生活しつつ、でもまだ踊りと向き合っている。そんな今、50代として舞台に立って何ができるのかを見つめ直したい」
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2021年09月18日(土) ■ |
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『International Choreography × Japanese Dancers 〜舞踊の情熱〜』 |
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『International Choreography × Japanese Dancers 〜舞踊の情熱〜』@神奈川県民ホール 大ホール
2012年より三年に一度開催されている『Dance Dance Dance @ YOKOHAMA』、今年のディレクターは小林十市さん。魅力的なプログラムが数々企画されており、しばらく横浜通いが続きます。まずは今作から。「時代を変えた天才振付家たちの傑作に、日本のダンサーが挑む」という惹句、池本祥真が『M』を踊る(!)。勢い込んでチケットをとりました。ガラ形式、構成・演出はディレクター補佐の山本康介さん。『M』以外は初見。といってもこの『M』は、本編とは違った構成なので全部初見といってよい。ところがフィナーレで思わぬサプライズが。ここで、このメンバーであの作品を観られようとは……!
13名のトップダンサーが揃いました。当初予定されていた8作品のうち、ウヴェ・ショルツ振付、セルゲイ・ラフマニノフ音楽、中村祥子、ヴィスラフ・デュデック出演の『ソナタ』はキャンセルに。振付指導や権利所有者とのやりとりをリモートで行ったものもあり、不安もあったようです。お互いの信頼関係がなければ実現しなかった公演です。
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■『ステップテクスト』 振付・舞台装置・照明・衣裳:ウィリアム・フォーサイス 演出・振付指導:アントニー・リッツィー 音楽:J.S. バッハ 出演:スターダンサーズ・バレエ団(渡辺恭子、池田武志、関口啓、林田翔平) 当初発表されていた石川聖人さんが怪我のため、関口さんに変更。 装置、照明、衣裳もフォーサイスが手がけたというクレジットがある通り、総合芸術としての一本芯の通った舞台作品。客電がついたままのオープニング、カットアップされ刺激的に響く音楽。フラッシュバックするような照明、そして暗転のなか感じとるダンサーたちの気配。彼らは暗闇のなかでも踊っている。 キレのあるエネルギッシュなダンス、疾走とストップモーション、白一色の男性ダンサー、紅一色の女性ダンサーの衣裳が照明の変化で明滅するよう。コンビネーションも素晴らしい、なんて格好いい。 ちょっとアクシデントがありました(怒)。開演前から諸注意のアナウンスに「そんなこといわれなくてもわかってるよー」等と大きな声でしゃべっているおっさんがいたのですが、そいつが開演数分して「なんでこっち(客席側)の電気つけっぱなしなんだよ?」と大声でいい放ちよった。アホ…アホか……出演者に聴こえていないことを祈る! 注意されたのかその後は静かになったのでよかった。ブラボーおやじもいなくならんし(そう、またいたのだ。というか、いないときってなくないか?)、どうにかならんか……。
ここから、転換中に降ろされるスクリーンで出演者や指導者のインタヴュー映像が流れるように。故人の思い出、作品が生まれた背景等、興味深い話が沢山聴けました。
■『二羽の鳩』よりパ・ド・ドゥ 振付:フレデリック・アシュトン 音楽:アンドレ・メサジェ 編曲:ジョン・ランチベリー 出演:島添亮子(小林紀子バレエシアター)× 厚地康雄(バーミンガム・ロイヤルバレエ団) 短い時間でもふたりの関係性、物語が見えてくる。別れ、帰還、悲しみと喜び。儚く美しい。作品紹介の映像では本物の鳩を抱いていました。全編上演だとそうなのかな?
■『A Picture of You Falling』より 振付・テキスト:クリスタル・パイト 作品指導:ピーター・チュー 音楽:オーエン・ベルトン 出演:鳴海令那(Kidd Pivot)× 小尻健太 ナレーションというか台詞の音声が流れる演出。訳文は上演前の映像で流れたので、それを思い出し乍ら観る。ネザーランド・ダンス・シアター(NDT)出身のおふたり。映像でしか知らなかった小尻さんの踊りを、初めてライヴで観られてうれしかったです。迫力があると同時に優雅。
■マ・パヴロワより『タイスの瞑想曲』 振付:ローラン・プティ 音楽:ジュール・マスネ 出演:上野水香(東京バレエ団)× 柄本弾(東京バレエ団) 映像コメントで「観ればわかると思いますが、男性ダンサーは女性ダンサーをずっと持ち上げているので体力的にもハードな踊りです」といわれていました。まさにその通り、リフトが何回あったか……リフトしたまま上下、左右に動かすところも多数。こりゃ大変だ。しかし上野さんは羽根のように軽く見え、柄本さんは軽々とリフトしているように見える。共演も多いふたりなので、安心して観られます。とても華やか。 以前柄本さんがインタヴューで、リフトした女性ダンサーを落としてしまったときの話をされていたのを思い出しました。『ボレロ』初舞台で、直前に雨が降った野外ステージが滑って満足いく踊りが出来ず、終演後突っ伏して泣いたという話もしていたなあ。どちらも共演者に助けられたと感謝を口にしていた。こういうことって忘れてしまいたい、隠しておきたいものでしょうに、それを話して強くなっていく柄本さんは、とても正直で素直な方なのだなあと思います。
■『スパルタカス』よりパ・ド・ドゥ【日本初演】 振付:デヴィッド・ビントレー 音楽:アラム・ハチャトリアン 出演:佐久間奈緒 × 厚地康雄(バーミンガム・ロイヤルバレエ団) ハチャトリアンといえば『剣の舞』。『THE BEE』の再演が発表されたばかりということもあり、尾藤イサオのカヴァーver.が脳内で鳴り響きましたが、この曲は美しく不穏な空気もなくホッとしました(?)。 再び登場、厚地さん。公私にわたるパートナーである佐久間さんとの、ドラマが感じられる踊りでした。
ここからフィナーレ迄ベジャール作品。クレジットはありませんが、ベジャール作品は十市さんが振付指導をしています(後述の作品紹介頁に記述あり)。書かれていなくても当然、という感じですね。
■『椿姫のためのエチュード』 振付:モーリス・ベジャール 音楽:フレデリック・ショパン、フランチェスコ・チレア 編曲:フランツ・リスト 出演:中村祥子 初演を踊ったのは、クリスティーナ・ブランとのこと。ベジャール・バレエ・ローザンヌの中核メンバーで、十市さんのパートナーでもあります。 登場した途端に客席がキリリとした空気になった。椅子を使い、ダイナミックでエモーショナル、同時に繊細なダンス。格好よかった!
そしてトリ、1999年に十市さんが一度踊って以来、21年ぶりの復活となる『M』。ビデオで自習し、ベジャールのチェックは出発前の一度だけだったと話す十市さんのコメントと、そのときの映像が流れました。貴重!
■『M』 振付:モーリス・ベジャール 音楽:黛敏郎 出演:池本祥真(東京バレエ団) そもそもこれを観たくて足を運んだのですが、当日パンフレットを見てトリだったので面喰らう。すごいな!『M』検愁掘併燹砲龍盂媚のソロと、『ザ・カブキ』由良之助のソロで構成。ブリッジに登場した黒子役は東京バレエ団の山下湧吾さんだったそうです。和楽器のリズムと謡で進む曲に乗せ、機敏でしなやかな踊り。滞空時間の長いジャンプ、足音が聴こえない軽やかな着地。 昨年以来の『M』、そして初めて観る『ザ・カブキ』。思えば『ザ・カブキ』は本編も未見なのだった。 ベジャール作品を踊る池本さんはこれからもいろいろ観ていきたいなあ。11月の『中国の不思議な役人』では娘を踊る予定とのこと、今から待ち遠しいです。
さて、ここで終わりかと思いきや、カーテンコールを終えた池本さんが再び踊り出す。あれっ、この曲……。『M』(本編の方)幕切れの少年のように、舞台に横たわる。舞台奥から現れる、一列に並んだダンサーたちのシルエット……『火の鳥』! ストラヴィンスキーの『火の鳥』だ!
柄本さんがフェニックス、池本さんが火の鳥。今日の出演者が勢ぞろいしての群舞、このスペシャル感といったら。ベジャール作品は東京バレエ団で観ることが殆どなので(ライセンス的にも)、このメンバーで『火の鳥』が観られるなんて後にも先にもないのではなかろうか。お年玉? お年玉ですか? ニューイヤーガラのような豪華さでした。震える。最後は十市さんと山本さんも登場し、皆笑顔で終幕です。いやー、規制退場の待ち時間があったとはいえ、しばらく放心して席を立てませんでしたわ。もうドキドキしちゃって。
「演劇とは風に記された文字である」というピーター・ブルックの言葉を思い出しました。文字で伝えられないダンスは、それを踊り継いでいくダンサーたちと、それを目撃する観客たちにより何度でも甦る。そうして作品も、振付家も永遠の命を持つのだという思いを強くしました。これからも数々の名作を目撃していきたいです。
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・Juichi_kobayashi(@monsieur_11)┃instagram 『火の鳥』の「不死鳥の蘇り」は今の状況下希望になるかなという判断だったとのこと。リハは数時間やっただけだった(!)そうです。おおお(感嘆)
・世界的振付家のマスターピースを日本のダンサーたちが披露「舞踊の情熱」閉幕(公演レポート)┃ステージナタリー 舞台画像沢山載っててうれしい
・『International Choreography × Japanese Dancers 〜舞踊の情熱〜』インタビュー・見どころ・作品紹介┃Dance Dance Dance at YOKOHAMA 池本さんのインタヴュー、「しんどいです(笑)。」「純粋にしんどいです(笑)。」「僕が1人で出て大丈夫なのかなと思いました。」謙虚な……
・小林十市 連載エッセイ「南仏の街で、僕はバレエのことを考えた。」【第18回】英国ロイヤル・オペラハウスで踊った思い出など。┃バレエチャンネル 今回の『M』がつくられた経緯が書かれています。『A Celebration of International Choreography』は今回の企画の発想に影響を与えているような気がします。 「『「向こうにも日本人ダンサーはいるだろう? 黒子の役を頼んでやってもらいなさい」と。しかし、そんなことをまさか「熊川哲也氏」にお願いできるわけがない(笑)。』」ウケる……。 「東京バレエ団が去年上演した『M』で令和2年度の文化庁芸術祭賞舞踊部門の優秀賞を受賞した記念に、このソロを復活させたらどうだろう? って何となく思いました。日本のファンのみなさんなら『ザ・カブキ』と『M』の両方を知っているわけだから、それをベジャールさんがどうミックスしたのか? ご覧になりたくないですか? 衣裳は「シ=死」と同じでした。池本祥真くんに踊ってもらえたら嬉しいなあ。 もしかしたらそんな日が来るかもです(わからないけれど)。」 そんな日が来たよ! 有難う有難う!!! また観たいです!!!!!
おまけ。いやあ…似てたんだよ、シチュエーション的にも……。ゼットンと闘い力尽きたウルトラマンを、ゾフィーが迎えに来るのよ。「私は命をふたつ持ってきた」……カー!(悶絶)
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2021年09月11日(土) ■ |
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『近松心中物語』 |
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『近松心中物語』@KAAT 神奈川芸術劇場 ホール
外灯というより街灯だな。あの灯台のようにも、人生を捨てる場所のようにも見える質感。りんの音に誘われ、観客は元禄の大阪へと足を踏み入れる。そして幕切れ、置き去りにされる。気づけば与兵衛はもういない。車谷長吉『赤目四十八瀧心中未遂』の最後の一文を思い出す。「見えなくなった。」、あのときは女が消えたのだった。我に返ると残されているのは現代の街灯。帰ってきた。電信柱は現代の柳、その下には幽霊がいる、のか?
出演者が発表されたとき「与兵衛どっち?」と思ったくらい与兵衛には思い入れがある(勝村政信、大石継太、池田成志で観ている)んですが、まあ主役は忠兵衛なのでね。長塚圭史演出・田中哲司主演というタッグには「いい作品が観られる」という安心感というか信頼感があります。しかし忠兵衛と与兵衛、どちらも演じられそうな役者がふたり揃っているというのは珍しいかもしれない。梅川とお亀でいえば、両方を演じた役者は今のところ寺島しのぶだけです。
蜷川幸雄演出以外の『近松心中物語』を観るのは二度目。いのうえひでのり版は素敵でしたが思うところあり、これを最後にいのうえ演出作品観てないかも。
しかしこの長塚圭史版は好きだった。シンプルなつくりが新鮮です。少人数(19人でも少ないと感じてしまうのは蜷川演出の病ですわ……)のキャストが八百屋舞台をいきいきと動きまわる。結構な勾配で、静かなシーンで役者が屈んだりすると膝の関節がパキパキいうのが聴こえて味わい深かったです。機動力を使える装置・小道具で、転換は軽快。そんななか、傘屋の重厚感溢れる美術が印象的。与兵衛を繋ぎとめる重石、錨のようにも映る。海が目と鼻の先のKAATに、水都大阪の風景を見る。
キャストは贅沢。綾田俊樹や松田洋治がちょっと勿体なくないか? と思ってしまう出番。とはいえ効果的。辻本耕志、章平、清水葉月といったイキのいい役者たちをもっと観たかった……とは思うものの、お話が四人を中心にまわるものなのでなあ。てか章平くん、ズバ抜けて長身なのでモブシーンですごく目立っていた(微笑)。哲司さんの忠兵衛、激情に圧倒される。実直な人物が「カネ」に取り憑かれた瞬間が見えるような演技が白眉。龍平くんの与兵衛は体温の低そうな根無し草。笹本玲奈の梅川、声の魅力。石橋静河のお亀、青春の光と陰を魅せる若者の象徴。
興味深かったのは、与兵衛とお亀が押し問答する場面が、『ロミオとジュリエット』のバルコニーのシーンのようなあつらえだったこと。図式としては、ひとめ惚れといい死への速度といい、忠兵衛と梅川の方が『ロミオとジュリエット』に近いのだが、一途に与兵衛を愛し、命懸けの恋を夢見るお亀にとって彼らは憧れの対象ともいえる。そして周囲の人間はというと、お亀の周りに『ロミオとジュリエット』の登場人物を投影出来る“家族”がいることも興味深い。お亀の育ての親であるお今は乳母の役割ともいえる。
庶民にとって忠兵衛と梅川の悲恋は憧れ。しかし実際には、立場や人間関係といったしがらみから逃れられない。ましてやこの時代、そこから逸脱することは自分だけでなく周囲のひとびとの命をも危険に晒す。現実に心が寄るのは与兵衛とお亀の方かもしれない。だからこそ、お今や八右衛門の人間くささが身に沁みた。このふたりが決して“悪人”ではなく、道理を知っている人間として描かれていることが救いだった。石倉さんと朝海さん、素晴らしかったです。
幼い恋が芽生えそうな丁稚と禿の描写も印象的。彼らの将来を思うと切なくなってしまった。
『近松心中物語』というと森進一の歌が脳内を流れる蜷川っ子ですが、スチャダラパーのエンドテーマもよかったです。Money Makin'な! リリックが聴きとりづらかったのが残念! フルで聴かせて! 劇中歌も秋元松代大先生の歌詞を変えることなく(変えたらエラいことですよ。あの世から怒られそう)気持ちのよい曲になっておりました。
ちなみにスチャ、実は出演もすると思い込んでいて、BOSEがコロナに罹患したとき「公演まるごと中止になっちゃうかも……」とオロオロしていたのでした。回復したようでよかった。まあ今は、いつでも公演中止に怯えてますけどね……。どの公演も、千秋楽迄幕を降ろすことがありませんように。
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・長塚圭史が生を鮮やかに照らし出す、田中哲司・松田龍平らの「近松心中物語」開幕┃ステージナタリー
・インタビュー:長塚圭史×スチャダラパー KAAT 神奈川芸術劇場上演『近松心中物語』に向けて┃TimeOut 長塚「誰もが気軽に観に来てもらえるようにしなくては」。早速オープンシアターや稽古を気軽に見に行ける環境をつくっていってますよね。気軽に行くには遠い……んだけど、今後も通う劇場になりそうです。 Bose「劇の最初、松田龍平くんがキンキンッて金物を鳴らしてスタートするんだけど、なにもないところからリズムキープしてオケに乗っかっていかなきゃいけないから度胸が要りますよね」。新潟県中越地震当日の『夜叉ヶ池』以来、松田龍平の度胸というか動じなさには絶大な信頼を持っています。そういえばこれの台本、長塚くんが書いたんだったな
・辻君(夜鷹)も印象的に描かれていて、『もっこり半兵衛』(名作♡)を思い出してしみじみ
2010年じゃなくて2011年の上演でした、ちょうど十年前。twitterは編集出来ないのが難ですが、システム上仕方ないか。しかしなんか違和感がある、スケジュール通り上演されたっけ……? と調べなおしてみたら、震災で2011年4月の公演は中止、同年8月に晴れて上演となったんでした。KAATのオープニングシリーズだったんだよなあ
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2021年09月04日(土) ■ |
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『九月大歌舞伎』第三部 |
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『九月大歌舞伎』第三部@歌舞伎座
先月の『仇ゆめ』に続き夢が叶……というより、観られるとは夢にも思っていなかった。キャパ50%で発売のチケットは全席完売。100%でも即完していただろうと思います。観られたことにひたすら感謝。
「四谷町伊右衛門浪宅の場」「伊藤喜兵衛内の場」「元の浪宅の場」「本所砂村隠亡堀の場」の四場。お岩を追い出しにかかった伊右衛門が狼藉の限りを尽くし、お岩が亡くなりお梅と喜兵衛も死に、自分も死んだってことにして逃げた伊右衛門が全然懲りてないとこ迄ですね。釣りなんかしちゃってさ。うなぎかきんとこです。
……なんかこう書くと、というか観る度思うが、つくづく伊右衛門ってクズですね。クズ過ぎてしみじみしてしまうわ。場としてはこっからお岩の反撃(といっていいのか)が本格的になるのに! 伊右衛門まだ全然ダメージ喰らってないじゃーん! いや、結構落ちぶれてるけどまだまだだね! などととても歯がゆい(笑)。ほんとにほんとに憎らしくて、しかも人間がちぃせえなー!(だって蚊帳迄持ってく!?)と軽蔑もし、場面によっては拍手もしたくなくなるくらい憎らしい伊右衛門でした。仁左衛門さんすごいわあ。褒めてる。褒めてます。見目麗しいことこの上ないですし。色悪、色悪ね……色悪ですよ……。喜兵衛に実はあれ毒なんですっていわれるところと、自分の卒塔婆を見る場面の迷いには流石に唸る。唸りたくないけど。いや、役に対してですよ!(しつこい)仁左衛門さんで「首が飛んでも動いてみせるわ」が聴け、感極まる。
あとこれも毎回思うが、孫に甘い金持ちのじいさんってのは本当にどうしようもないというのがよく判りますよね…亀蔵さんよ……いや、これも役ですからね。
玉三郎さんのお岩が圧巻です。襖がパンと開き、赤子を抱いたお岩が現れたときの気というか貫禄というか、オーラの凄まじさ。一瞬息を呑んだ客席から、割れんばかりの拍手が巻き起こる。顔、声、姿、所作。目が離せない。ひとことも、いや、言葉だけでなく衣擦れの音すら聴き逃すまいと耳をすます。手ぬぐいの扱いが一級品。涙を拭く、汗を拭く、薬を呑んで口元をおさえる、痛み出した顔をおさえる、それをしまう。武士の娘の気高さ、こどもへの愛情、伊右衛門に裏切られた無念。慈しみ、怒り、悲しみが所作で表現される。鉄漿つけ、髪梳きの場面で静まり返る場内。いや、お岩がいる場面にはずっと静寂が続いていた。客席からは身じろぎの音すらしない。観客が役者の力、演技の力に惹きつけられている証左。
ケレンは抑えめ。戸板返しや人魂はありますが、ねずみの活躍(赤子連れ去るとことお守り持っていくとこ)や小平の「薬くだせえ」の指ブラブラ等に大きな仕掛けはありません。静かで昏い舞台は、これから起こることを思わせ恐ろしい。作品と役者の力を思い知る、やはり傑作、やはり名優。
松之助さんの宅悦は上品で素敵。直助の松緑さん、もっと観たかったです。橋之助くんの小平は健気で一途でかわいらしく、それだけにその死が哀れを誘う。与茂七もちょっとだけ(何せあそこで終わるから)観られてうれしかったです。そうそう、幕切れのだんまりでは玉三郎さんのお花も観られます。無念のなか死んでいった苦悶のお岩ではなく、美しいお花の姿を最後に見せてくれたことにちょっとだけホッとしたのでした。
しかし、しかし、こんなものを見せられてしまっては。通しが観たくなりますね……。お岩さんを演じた最年長の役者さんって誰だろう、今回の玉三郎さんだろうか?『東海道四谷怪談』には少なくとも四つの大仕掛けがあり(後述)体力がいる役だと思うのでご無理はとは思うものの、今回のお岩を見てしまっては……。いやいや今はただ、今回観られたことに感謝します。
「孝・玉コンビ」による『東海道四谷怪談』は38年ぶり、四、六月の『桜姫東文章』は36年ぶり。2018年の『於染久松色読販』は41年ぶりだったそうですが、後世に芸を伝えておかなければ、ということと、このご時世だから、ということもあるのでしょう。こんな贅沢が続けばいいのに、と思いつつ、こんなことが長く続いてはいけない、とも思います。複雑。
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・歌舞伎のおはなし 第127話 戸板返し 「この仕掛けは総て名人と言われた大道具師11世長谷川勘兵衛(はせがわかんべえ)(1781−1841)の考案になるものだそうです。」 『東海道四谷怪談』の仕掛け解説、勉強になりました、有難うございます
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