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2019年12月31日(火)
2019年いろいろ五傑やら十傑やら

観た順。ベストワンには★印。

■映画
 『ペパーミント・キャンディー』
 『ハイ・ライフ』
 『工作 黒金星と呼ばれた男』
 『シークレット・サンシャイン』
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』
5本中3本が韓国映画という……そして2本がリバイバル。今やってる仕事、水曜日が〆切なのでレディースデーを使えなくなったってのも大きいなー。あと感想書いてないけど『アベンジャーズ』シリーズが完結したのは感慨深い

■ライヴ
 Yasei Collective × mouse on the keys
 AIMING FOR ENRIKE
 『情けの首』
 KAMASI WASHINGTON
★Penguin Cafe(TOWER RECORDSインストア東京キネマ倶楽部
 『WXAXRXP DJS』
 BATTLES
 DC/PRG
 高橋徹也
 大友良英スペシャルビッグバンド+オルケスタ・ナッジ!ナッジ!
夏フェスひとつも行かなかったの久しぶり。サマソニが即完するとは…そしてそのサマソニがRHCPジョシュの日本最後のライヴになるとは……フェスはのんびり決めてふらっと行けるのが理想なんだがそうもいかなくなってきた。来年は目当てがいろいろ動きそうなので早めに手を打たなければ〜

■演劇
 『오이디푸스(オイディプス)』
 『ヘンリー五世』
 『世界は一人』
 『女殺油地獄』
『ビビを見た!』
 『ASH&Dライブ2019』
 『あの出来事 The Events』
 『のたれ●』
 『僕のフレンチ ~ア・ラ・カルト公認レストラン~』
 『神の子』
ふりかえってみれば「なんとも奇妙なつくりになったなあ」と思っていた『ビビを見た!』がいちばん心に残っているな。チケットとってたのに『変半身(かわりみ)』『タージマハルの衛兵』に行けなかったのは無念

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その他。

・BOOM BOOM SATELLITES
-『Touch that Sound!』
アパレル業も始めた中野さん、結構購入しました。「自分の作品」にもいよいよ着手している様子、楽しみに待っている

・あいちトリエンナーレ
-『House of L』
-『あいちトリエンナーレ 2019』
-『あいちトリエンナーレ 2019』参考文献
これ迄も観てきたし、これからも観ていく。三年後にまた会いましょう

・RUGBY WORLD CUP 2019
-フランス vs アルゼンチン
-マニックスのライヴにジェイミー・ロバーツが飛び入り
-ジェイムズがウェールズ vs オーストラリア戦会場でミニライヴ
-南アフリカ vs イタリア
「4年に一度じゃない。 一生に一度だ。- ONCE IN A LIFETIME -」、まさにその通りの44日間でした。自分がラグビー好きになった原因でもある亡父にこの光景を見せてあげたかったな。それにしてもマニックスがここ迄絡むとは予想してなかった(笑)

来年はようやくバレエ鑑賞に復帰するぞ。歌舞伎の古典もまたそろそろ観たいものです。音楽はサブスク慣れしないようにしたい。クローズドなものを大切にしていきたい。おおきな流れに呑まれないように、ちいさな変化を見逃さないようにしていきたい



2019年12月29日(日)
大友良英スペシャルビッグバンド+オルケスタ・ナッジ!ナッジ!『いだてん・ファイナル』

大友良英 年末恒例4デイズ8連続公演 大友良英スペシャルビッグバンド+オルケスタ・ナッジ!ナッジ!『いだてん・ファイナル』@新宿PIT INN



12月29日の恒例だったTOKYO No.1 SOUL SET@LIQUIDROOMが今年からありません。場所を変えてやるかな? と告知を待っていたのですがビッケが今年はないと明言したので思い立ってこちらに。既に夜の部は売り切れていたので昼の部に行ったのですが、おかげで? いろいろと貴重なものが聴けましたよははは。ちなみにこの日、ソウルセットのヒロシくんはInstaにオースティン旅行の画像をあげていた。数十年ぶりの年末休暇を満喫しているようです(微笑)。

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・大友良英スペシャルビッグバンド
大友良英(G)、江藤直子(P)、近藤達郎(Key)、斉藤寛(Fl)、井上梨江(Cl)、江川良子(Sax)、東凉太(Sax)、佐藤秀徳(Tp)、今込治(Tb)、木村仁哉(Tu)、大口俊輔(Acc)、かわいしのぶ(B)、小林武文(Perc)、相川瞳(Perc)、上原なな江(Mrb)、Sachiko M(Sinewave, Perc)
※相川さんがインフルエンザで欠席、事前クレジットにはなかったが鈴木広志(Sax)が出席

・オルケスタ・ナッジ!ナッジ!
芳垣安洋(Drs, Perc)、高良久美子、岡部洋一、関根真理、川谷龍大、Taichi、中里たかし、辻コースケ、Izpon(以上Perc)
※辻さんとTaichiさんが欠席
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ピットインの規模で、芳垣さんとこのオルケスタ・ナッジ!ナッジ!と大友さんとこのビッグバンドで10人くらいパーカッションがいるもんだから迫力過多ですごかった。人数が多いのでフロア迄ミュージシャンがはみ出している(笑)。それでいてフルートやピアノの音もしっかり聴こえる、PAさんの仕事人っぷりに感服。アフロビートが近代日本歌謡の音階に心地よくなじみ、祝祭を華やかに彩る。メインテーマのファンファーレが響きわたった時の多幸感といったら!

大友さんは結構テンパっていて、制作の経緯を忘れている+記憶が差し替わっており、MCのたびに芳垣さんとSachikoさんから「違うよ、◯◯だったよ」「あれはこういう順番だったよ」と何度も訂正されていた。キュー出しも「これは俺からじゃないよ」とかいわれて「そうだったっけ?」とか(笑)。気合い入れて書いたけど使われなかった、という曲も披露。劇伴の宿命でもあるので歯がゆいところですが、ライヴでは聴けてよかった。そしてこちらも劇伴ならでは、深刻なシーンや重いシーンのために書かれた曲は、聴いている側からするとドラマのストーリーを思い出しつらくなるのですが、演奏する側は楽曲そのものに集中しているので、大友さん曰く「楽しくなっちゃう」んだそうです。プレイヤーとはよくいったものですね。

そしてメンバーの皆さん多忙故、リハすら間に合わずぶっつけ本番のナンバーも。「メインテーマ ロングヴァージョン」に至ってはライヴで合奏すること自体が初! 「楽譜見て〜今説明します」と公開ミーティングです。◯◯から◯◯へ、四小節繰り返したら◯◯へ、こっからソロをこの順番、判らなくなったらこっちから声かけるから、最後はバーッとやってガーッとやって……わかる? わかんないよね、俺もわかんない! でもやれば出来るよ〜てな感じでフロアも爆笑です。大丈夫かよといった空気のなかスタート、見まわしてみるとプレイヤー同士でこっち? こう? てな感じでアイコンタクトしまくり。皆半笑い。しかし完奏しちゃうんだなこれが。フラつく箇所はあれど、その揺らぎすらも音のなまりにしてしまう。ジャズミュージシャンのプロフェッショナルぶりを見た。

「自転車節」や「復興節」を一緒に唄う。メインテーマの「スッス、ハッハ」や「ラーララララーラーラララー」も自然と声に出る。大友さんのひとを巻き込む魅力と、年の瀬に『いだてん』の曲を聴きたくてピットインに集まった同士、という連帯感。MCの内容もここにいるひとだけが知っていて、外には出さないという信頼感もある(笑)。今の時代、そういうことはだいじにしたいものです。目の前にいるひとを信じたいし、大友さんもそれを手放す気がないからああいう話をしてくれたのだろう。

高良さんの生「よぉーっ、(ポン)」(後述、大友さんのインタヴュー参照)も聴け、かわいさんのベースも久々に聴けてうれしかった。いやはや最高のライヴ納めでした。よいおとしを!

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・大友良英が語る、『いだてん』音楽制作と劇伴作家としてのスタンス「時代と空気感とストーリーを体に入れながら過ごした2年半」┃Real Sound
・型破りな大河ドラマ『いだてん』を守ったのは誰だったのか┃文春オンライン
日本史には近代に興味があるので、このあたりの文献を読むことも多い。『いだてん』は、同じく近代を描いた『山河燃ゆ』と同じくらい熱心に観ていた。最後迄観ることが出来てよかった。今後オンデマンドサービスやソフト化に当たり、どう改変されるか判らない。なかったことにされるものもある。そのことはとても悔しい



2019年12月21日(土)
『神の子』

『神の子』@本多劇場

はーつくづく赤堀雅秋の書くもんが好きだ。芝居納めにいいものを観た。神の子たちはいつでも右往左往、神は見ているだけ。何かがちょっと起こって、誰かがちょっと動いて、状況がちょっとだけ変わる。人生は続く。召される迄の時間はまだちょっとあるみたい。

どの登場人物にもひとついいとこがあるんですよね。あのサラリーマンにしても「女じゃなかったら殴ってる」という(まあ男だったら殴っていいんかというとそういう訳でもないが)。それでいて、近年はやりの「自己責任」を逆手にとる。ホントにダメなひとってのはいる。どうしようもなくて追いつめられていくひともいくけど、自分から追いつめられる状況をつくってしまうひともいる。「偽善者」と罵られた彼は、その言葉どおりに受けとるにはもっと複雑な含みがある。女性へ抱く好意には憧れがあり、命を譲るのは生きる意欲が消えかかっているからだ。生きるのめんどくさいもんね。

台詞にもあるとおり、白か黒かにならないものごとはごまんとある。でもグレーで通すには厳しい現実もある。あるひとにとっての善行が、誰かにとって虫酸が走るようなことだったりね。ごんぎつねよろしくおにぎりがドアノブにひっかけられているというくだりには、客席からちいさな悲鳴があがった(笑)。

そんな「しょうがない人」たちが「生きたい」と思ったとき、傍には何があればよいか。やっぱり神は沈黙している。本人がそれに気付いたとき、何かが変わる。

「グラタンみたいなの買って来てよ」といった台詞を書ける赤堀さんにいつもガツンとやられるんですが、今回その台詞を乗りこなす、いや、もはや乗りまわすといった方がいいかも知れない江口のりこが圧巻。あの台詞量、もはやモノローグなんだけどそうは聴かせない、ちゃんと存在する相手へ投げる言葉の痛いこと笑えること。修羅場の悲喜こもごもは、旨味のある台詞、緩急と間を習得している役者により、それはもう上質なコメディの域に達する。

「家が家だから」という台詞もかなりパンチがありました。昨年蓬莱竜太が書いた『消えていくなら朝』と併せて観たいとも思ったり。蓬莱さんが具体的な宗教団体を描いているのは確実ですが、赤堀さんのそれはちょっとアレンジしてある。教義が違ったからね(ワタシも「家が家だから」そういうとこは気にしますよー)。ただ、そこにいることで安全を得るひとがいるのも真実だ。バレエを諦めた彼女がよすがにしているのが今となっては神ではない、というところもポイント。教義を守るということが目的になってしまうのも危うい。

坂東智代による衣裳が絶妙でした。このひとはこういう服を着るだろう、というのが見事に表現されていた。

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・赤堀・大森・田中・光石(五十音順)の四人で「自分たちのやりたい芝居を上演したい」と始めたこの企画、当の光石さんが参加してないってのにちょっと笑ったんですけど、スケジュールの都合かな。次回は四人揃うといい!



2019年12月19日(木)
『僕のフレンチ 〜ア・ラ・カルト公認レストラン〜』

『僕のフレンチ 〜ア・ラ・カルト公認レストラン〜』@eplus LIVINGROOM CAFE & DINING


はー年末進行のペースが読み切れなかった、芝居のチケット二公演分パーにした。無念……しかしこれには行けてよかったなあ。
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台本:高泉淳子
演出:吉澤耕一
音楽監督:中西俊博
出演:高泉淳子、釆澤靖起 / 中西俊博(Vn)、竹中俊二(G)、パトリック・ヌジェ(Acc, F.Hr, Vo)、ブレント・ナッシー(B)
ゲスト:TOBI(レ・ロマネスク)
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タイトル、正しい表記は「俺」に×がしてあって「僕」なのです。チケットサイト等では『俺× 僕のフレンチ』と表記されていますね。劇場がおさえられず……ということで、今年はスピンオフ企画。あのア・ラ・カルトの常連客、高橋がお店を開きました。秋田で修行(?)して、十日間の有休をとって臨んだそうですよ! 心配しかない(笑顔で)。

会場のeplus LIVINGROOM CAFE & DININGは道玄坂にあるお店。e+が利用者から集めている高額な手数料を元手にオープンしたといわれている(…)あのカフェです。初めて行った。成程カフェといってもライヴが出来る、プレイガイド出資に見合ったスペース。カジュアルなモーションブルー横浜に渋谷クアトロみたいな柱があるとこでした。ステージづくりは難しそうだがよい雰囲気です。食事もおいしい。ドリンクのグラスにKIRINのロゴが。ということは……と思っていたら、ハイ出ました「メルシャン」! そう、メルシャンは2010年にKIRINの子会社になっているのです。ここにも歴史あり。このカフェ普段もKIRIN扱ってるのかな? ア・ラ・カルトとメルシャンの長年のパートナーシップを守ってくれたのはとてもうれしかったです。

開幕しばらくは高橋がひとりでドタバタ奮闘のテイ。オープンの経緯をワタワタとあの口調で説明してくれます。釆澤さんは客に紛れてカウンター席にひっそり座っている。そこを高橋に発見され助けてよ〜と捕まって、そこから着替えてお手伝い。セクションごとにマイクやテーブルをセッティング、勿論ギャルソンの仕事もこなします。後述の記事にもありますが、好評につきステージが見えない席も発売したようで、そのエリアに配慮した演出やアドリブも。「中山くん」の名前もしっかり出て、『ア・ラ・カルト』の面々もしっかり存在しています。

本日のゲストはレ・ロマネスクTOBIさん。初めて拝見したけどすげー面白かった、この匂いは……という予感はあったがやはりその辺りの住人でした。シャンソンはフランス語でただ「歌」という意味なんだけど、日本人には「シャンソン」というとイメージするジャンルみたいなものがある。それを全部入れてみましたというナンバー「老女優の回転木馬」のエクセレント。ツボに入ってしまい笑いがとまらず吐きそうになった。せっかく食べたごちそうを戻しそうになる程だったよ! その前に唄った「祝っていた」ってナンバーも最高でした。呪を祝と書いていた、呪っていた筈なのに祝っていた。ユーモアとペーソスと毒、これも日本人がイメージするシャンソンかもしれないけどこういうのダイスキ。カラックスの映画を観ていたおかげで「メルド!」のシャウトにも大笑い出来ました。

芝居パートでは『ア・ラ・カルト』日替わりゲストが必ず洗礼を受けるアレ(台詞と段取りが書いてあるメニューを渡されて、ほぼぶっつけ本番で臨む)にオロオロ……のふりしてしっかりお父さんぶりを発揮。高橋だったり小学生の娘だったり高泉さん本人だったりと、キャラクターがコロコロと入れ替わる高泉さんを相手に「今どっち?(設定なの本人なの)どっちのテイで喋ればいいの?」とボヤキツッコミしつつ、最後は大きなハグ。これ、高泉さんもキャッとなってましたね。やはりフランスは愛の国よのう。

関東大震災から戦後における「しぶや百軒店」の歴史を見て来たかのように語る宇野千代子さんというキャラクターは、マダムジュジュからのバトンタッチだろうか。落語のような語り口で渋谷の風景を語り、青山円形劇場の思い出を振り返る。それが『「きのう何食べた?」正月スペシャル2020』の番宣に繋がる。長い長いひとりがたりは圧巻でした。

ボソッと書くと、前述の「日本人のイメージするシャンソン」の面白さを体現していたペギーさんをもう観られないのは残念ではある。仕方のないことだけどやっぱりさびしいな。それをいったらあの柳腰のギャルソンも……だけど、それでもやっぱりこの作品は高泉さんのものなのだ。メトロファルスに「さまよえる楽隊」という曲がありますが、ア・ラ・カルトはさながら「さまよえるレストラン」。高泉さんのライフワークともいえる、だいじなだいじな作品。青山円形劇場の存続も、今のところまだ望みがある。また会えますように。出来れば、ア・ラ・カルトのホームともいえる青山、渋谷で。青山は港区だけどね(笑)。

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高橋からのごあいさつ。この宣美がまたよかったんだよねー! 「秋田のお店に修行に行って、マタギという仕事を選び秋田の山奥に住んでいる写真家の方に撮っていただきました」といっていたけどどこからどこ迄がホントの話かわからん。全部ホントかもしれないが。そういう虚実曖昧になっていくとこもいいな。高橋や宇野千代子は、もう高泉さんの身体の一部なのだ

・高泉淳子が手がける「ア・ラ・カルト」の番外編! クリスマスのディナーは予約必至「俺× 僕のフレンチ」で……┃SPICE
インタヴュー。音楽と芝居、というとミュージカル? となるけどそうじゃないものをやりたかったって話。確かにこういうの、説明が難しい。ないなら自分でつくる、を貫くことはたいへんなこと。でもそうやってア・ラ・カルトは続いてきた

・「ア・ラ・カルト」スピンオフ企画開幕、高泉淳子が「お待ちしてます!」┃ステージナタリー
主に(というか殆ど)モニターで観るD席は当日券。「昨日座ってみましたが、モニターが大きく、ステージもちらりと見える。すぐそばでのお芝居も。3000円でお得だと思いました」って、高泉さんじゃなくて高橋がいってるみたい(笑)。アドリブで「ぜんっぜん見えませんね!」といってたし、D席でしか観られない場をつくる気配りもありましたよ。音楽家たちもソロを弾くときそのエリアに入っていったりしてました


かわいい高橋。30年以上やってるとこうやって動画コメントも張ることが出来るようになる。うーん感慨深い



2019年12月06日(金)
高橋徹也 バンドセット・ワンマン『友よ、また会おう 2019』

高橋徹也 バンドセット・ワンマン『友よ、また会おう 2019』@CLUB Que


毎回毎回素晴らしいいうとるが毎回毎回違う面で素晴らしいとこが見つかるんですよ! 歌は勿論今回ギターの低音の歪ませ方にもシビれたな! ああいう音出してるの初めて聴いた気がする。歌も演奏もキレッキレなのに余裕が感じられるという恐ろしさ。

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高橋徹也:vo, g、鹿島達也:b、脇山広介:drs、宮下広輔:pedal steel
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佐藤さん(key)欠席につきこの四人の編成で、というのはなんでも初めてだとか。そのためいつものバンドセットとはアレンジが違いました。エレピや(シンセで鳴らす)弦のパートを宮下さんが担ってたんだけど、ペダルスティールってフェンダーローズみたいな音も出せるんだなあ。「えっ、今の音誰が出した?」と探すと大概宮下さんだった。そうした妙も楽しめたんですが、これがなんというか、ひとり足りないからという策ではなく、どんな編成でも曲の魅力を引き出せるバンドの自信のようなものを感じたんです。このメンバーで高橋徹也の楽曲を演奏するとすげーぞ! 的な。MCでもいってましたが、鹿島さんとはもう四半世紀のつきあい。高橋さんの作曲や歌の特性を最大限に活かすには、というミッションに挑み続けるメンバーといおうか。「チャイナ・カフェ」では全員のソロまわしがあったりと楽しかった。鹿島さんがアップライトベースを弾いた4曲はもーバンドはいきものだというのがまざまざと感じられました。

しかし特筆すべきはこの日の高橋さんの調子のよさ。めちゃめちゃ声が安定していた。地声とファルセットの切り替え、転調の高音がこんなに綺麗に出るとは……ここちょっと毎回ギャンブルみたいなところがあって、その不安定さが魅力になるときもあるのです。でも今回はそんなスリルなんぞいらんわいという安定感でした。序盤からピッチがすごくしっかりしていたので「今日『新しい世界』やったらすごくうまくいきそうな気がする、やるかな?」と思っていたら存外早く演奏されたので「早! ああそうか、まだ喉に疲れが蓄積していない中盤にやれば高音が出ると考えてのことかな?」と思っていたら、実は結構終盤だったと指摘されて驚いた。そしてその出来映えの素晴らしさ! ヘンな例えですが四回転半跳べた! みたいな感覚でした(スケートシーズンだけに)。身体表現という意味では音楽家とアスリートには通じるものがある。

ご本人がいうには「今年はバンドのライヴが少なくて」、バンドセットばかり観に来ている自分はトリオ編成だった『Long Hot Summer 2019』以来のライヴだったのですが、四ヶ月の間に何があった…いや、もともとすごいライヴをするひとだけどまだ上があったか……と思わずにはいられません。

自分が描く曲のアイディアに自分の身体が追いつかないときってあると思うんです。頭のなかではこんな音が鳴っているのに、それを自分の身体を使って再現出来ないときのもどかしさは本人にしか判らない。リスナーはプレイヤーの身体を通してし聴くことが出来ないのでそれを、期待を抱き乍らものんべんだらりと待っている。自他ともに「怪物」と認める『夜に生きるもの』を呑み込み内に納めた高橋さんが、次に向き合ったのは自身の身体だったのかな。でもMCでの話を聴いていると普段からストイックにトレーニングしているようだし、ライヴ当日をピークパフォーマンスにするためのスケジュールを自らに課しているようです。ソロやデュオ、弦楽四重奏との共演といったさまざまな編成でのライヴもコンスタントに続けている。その積み重ねとコンディショニングがここにきて一気に花開いたのかな? などと思った。

で、体調(便宜上体調と書く)がいいと持っていたアイディアを実践してみる。それが悉くうまくいく。結果聴いたことのない音世界が現れる。ペダルスティールとギターの、聴いたことのない絡みには興奮しましたねー。あの低音フィードバックの使い方、初めて聴いた気がする。これも、「何この音?」と在処を探したらギターからで驚いた。既存の楽曲のレンジが次々と拡大されていく。歌詞がより鋭く届くうえ、もともとの表現力から歌のなかの世界がヴィヴィッドに、そしてスリラーのように迫ってくる。ある域を超えると畏怖すら感じます。客入れのBGMはThe Smiths。ブリティッシュロックへの敬意をベースに、高橋さんにしかつくれない音が風格すら漂わせて響きわたる。

それにしても「犬と老人」は毎回ハッとさせられる。あの歌には世界の全てが入っているかのようだと普段から思っているけど、この日は「残酷な出会い」ってワードに改めてショックを受けた。あの歌詞の流れにそうした言葉を、あの箇所に入れるかね……。

来年リリースの新譜について宮下さんが「あのね、すげえいいですよ」(なんかもー早く聴いてほしくて仕方ないって感じだった)といってフロアが湧いたんだけど、それを受けた高橋さん、「そうでもないよ」っていったんですよね。照れや謙遜もあったのかもしれないけど、まだまだ出来ることがあった、アイディアが溢れて仕方ないけど一枚のアルバムのフォーマットには納めきれなかった、というニュアンスにも受けとれました。新譜のタイトルは『怪物』。自分のなかの怪物に気付き、それを自在に操れるようになってきたという自負の顕われかな。

といいつつMCは通常運転。ジェスチャー込みの「イケメンを俺が隠す」(drsがvoの真後ろなので)発言にはゲラゲラ笑いました。「鼻が出てる気がして不安になって」「そればっか気にしてたんで(アンコールのとき)Tシャツに着替えるの忘れた」。CLUB Queにはデビュー当初から出演していて、当時はローディーがいたんだけど「『いや、いいです、自分でやります、自分そんなんじゃないっすから』なんていってた」。今は自分で搬入してる。「今だったら全部やってもらうのに〜。もっとお金持ちになってる筈だったんだけど、そういうチャンスはあったんだけど。でも自分でけもの道を選んだんで」、という話もよかったなー。頑固に、自分のやりたいことを曲げずに来てよかった。そう本人が思えているのって素晴らしいことだ。

来年は脇山さんはtabacojuice、宮下さんもPHONO TONESを再始動するとのことで楽しみも増えた! はー『怪物』楽しみだな。ライヴでは音源がまだ出ていない曲をいろいろ聴けているけど、そのなかからどれが入るのかなー。よいお年を!

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(20191211追記)
高橋さんが当日のセットリストをツイートしています(12)。ホントだ「新しい世界」めちゃめちゃ終盤だわ。いやーそれであの声…鬼に金棒……。鹿島さんがアップライトベースを弾いたのは後半『ベッドタウン』からのナンバーが続いたところですね。
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01. 怪物
02. ハロウィン・ベイビー
03. チャイナ・カフェ
04. 人の住む場所
05. グッドバイ グッドバイ グッドバイ
06. 鏡の前に立って自分を眺める時は出来るだけ暗い方が都合がいいんだ
07. The Next Song
08. 音のない音楽
09. 曇ったガラス
10. 世界はまわる
11. 悲しみのテーマ
12. かっこいい車
13. 夜明け前のブルース
14. 笑わない男
15. 大統領夫人と棺
16. 新しい世界
17. 醒めない夢
18. Open End
19. 犬と老人
encore
20. 真っ赤な車
21. 友よ、また会おう
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2019年12月01日(日)
『EXIT イグジット』

『EXIT イグジット』@新宿武蔵野館 シアター1


ポスターのとおりなんですが、これがまーハラハラドキドキスッキリワクワク、楽しかった!

原/英題は『EXIT 엑시트』、イ・サングン監督作品。製作にはリュ・スンワンの名があり、成程アクションエンタメ映画としても快作でした。2019年7月に本国で公開され大ヒット。日本にもファンが多い少女時代のユナが主演ということもあり、日本での公開も早かった。有難い〜。ワタシの目当ては同じく主演のチョ・ジョンソク。実年齢より10歳は若い就職浪人の青年役です。

ヨンナム(ジョンソク)とイジュ(ユナ)は大学の登山部に所属していた先輩後輩。イジュに告白してあっさりふられたヨンナムは、卒業後もいいことがない。数々の就職試験に落ちた彼に家族はうるさい、とくに姉の圧がすごい。家でゴロゴロしてるのもなんなので、とりあえず毎日出かけてせっせと鉄棒エクササイズ。公園の名物おじさん(…)になっている彼を甥っ子は他人といいはる。そんなある日、母親の古希祝いパーティで訪れたホテルで働いていたイジュと再会。彼女は副店長になっていた。そのとき街に毒ガスがまかれるというテロが起こる。ガスの成分は未知、中和法もわからずとにかく逃げるしかない。ガスを避けるには上階に行くしかなくて……? 以下ネタバレあります。

序盤の家族の近さ、長男の立場、家長制といった韓国ならではの人間関係がむちゃむちゃ過剰で、うわこれキッツいわーと思っていたんだけど、まあそれは後に昇華されるんです。就職もせんでなんばしよっとか、登山部の道具もなんて捨てんとか(九州弁に翻訳しています)ってさんざんイジッていた長男を実は家族みんなが愛していて、長男は長男で登山部のトレーニングで培った体力と知恵をピンチに活かして……という。パーティ会場のビュッフェを持ち帰ろうとパックにつめこむ家族を見た長男が「恥ずかしい!」と顔を覆う図も笑えた。リュックから飲みものの瓶がわんさか出てきて「なんでこんなにつめこんでるんだよお!」ってとことか。後に笑うためのフックだというのはわかっていて、さまざまな小道具も伏線だというのがわかるので、ある意味構えず観られます。あの花火も大団円! って感じでよかったな。

とはいえキッツかったけどな…あの姉ちゃんの詰め寄り方とか……容赦ないわ……。

コメディ仕立てなので「きっとこのふたりは無事家に帰れる!」という安心とともにドッカリ座って悠々と観られる……筈なのにそうじゃない。この塩梅がよかったなあ。次々に訪れるピンチ。ずさんな安全管理、自衛しか頭にないホテルの店長。といった人災的なトラブルは『タワーリング インフェルノ』を筆頭としたさまざまなパニック映画をガイドにしたと思われますが、仕上がりはとてもポップです。ドローンや動画配信を善意のツールとして使うところにも希望が持てるし、常に笑いを忘れないところもいい。何より主役のふたりの懸命さがとても魅力的。こどものように泣きじゃくるふたりがとびきりキュートで、応援したくなってしまう。家族やこどもたちに救助の定員を譲ってしまうところなんてもらい泣きしちゃう。そしてふたりのなかのひと(ジョンソクとユナ)のアクションに感服です。どのくらいスタント使ったかはわからないけど、序盤の鉄棒おじさんは自分でやったとジョンソクくんがいっていたし、相当トレーニングを積んだのでしょう。といえばそのインタヴューが載っていたパンフレットで、ジョンソクくんは本国では「千の顔を持つ男」と呼ばれていると書かれていた。き、北島マヤ(わかる気もする)。

イ・サングン監督は今作が長編デビュー。テンポよいアクションシーンの扱いとか、もはや手練の域でした。今後も楽しみ。

それにしてもカラビナを見ると『生徒諸君!』の沖田くんを思い出す世代で、しかもここ数ヶ月、スコット隊の南極探検についての文献を読み漁っていたのでいろいろ思い出されてぼんやりした。遭難するってホントにつらい、当事者もその家族も。皆無事に帰って!

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・EXIT イグジット ┃輝国山人の韓国映画
いつもお世話になっております。公式パンフよりも詳細なキャスト/スタッフクレジット、とても助かります有難うございます!

・映画EXIT が法令を改正させる⁈
屋上の鍵が開いていない、というのは安全面からして当然ではあるんだけど(今作の場合店長の鍵の管理がずさんだったのが問題)こういうことがあると怖いよね。『トガニ』が大きな例だけど、韓国映画が現実社会に及ぼす影響力の大きさは本当にすごいな