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2017年12月29日(金) ■
TOKYO No.1 SOUL SET presents『IN THE ROOM』
TOKYO No.1 SOUL SET presents『IN THE ROOM』@LIQUIDROOM ebisu 恒例ライヴおさめ。うわー今年すごくよかったよ! 毎年よかったよかったいっててボジョレーヌーボーみたいになってるんだけど、今年はホントよかった……。いや、実のところここ数年動員落ちてってて、昨年なんかかなりガラガラだったんです。来年以降どうなるかななんて不安になってしまうほどで。結構ショックでこのときのこと日記には書かなかったんだった……。それが今年は大盛況。内容はいつも最高だし、今年は例年と何が違ったか正直わからない。昨年はなんだったんだ……。 しかもこんな感じで、今年はいつになく俊美もBIKKEもやたらtwitterで思い出話したり昔を振り返ったりしてたので、まさか今更解散とかいうなよ…そうでなくても病気とかしてるひともいるし……と心配になっていた。しかしこれは伏線なのだった。アンコールで俊美が杖ついてヨボヨボ調で出てきて、BIKKEに「おじいちゃんだから腰がね〜」なんてフリから「これはもしや……」とドキドキしていたらヒロシくんがバックトラックを投下、弾けるように俊美が踊りはじめたときは思わずギャーッていいましたよね。杖がダンス用のステッキになった瞬間、目に焼きついた。まさか今「ダンシング・マッシュルーム」を聴けるとは! 俊美の歌心ビッグバン前夜の、俊美がダンサー担当だった時代の、俊美が歌も演奏もしないナンバーですよ! アンコールでやったこともあって体力的に踊りきれなかったか、俊美は後半ギター持って来てもらって演奏に専念。そんな2017年の「ダンシング・マッシュルーム」、聴けてよかった〜! 感極まったわ……。 といえば終始飛んだり跳ねたりしてるBIKKEの体力にも驚かされますわ、毎年。見習いたい。そんなBIKKEですが、もうこの日にライヴやるのイヤなんだそうです(笑)。年末の慌ただしいときなのに、毎年この日があるから気が抜けなくてつらいと。いい加減年末年始にハワイとか行きたいと。まあねえ……で、他の日に振り替えるのどうよって話になって、三月だと年度末で皆忙しいしとか結局どの時期にも落ち着かないじゃんってことになって、じゃあいっそのことハワイでやればいいじゃん、皆来てよ! って話になって笑った。いやいや、新宿時代から続いているLIQUIDROOMの年末企画、ゆら帝なき今二十年以上この日固定で続いてるのってソウルセットだけなんで続けましょうよ。しかしもう二十年以上なんだなあ。再来年? にはソウルセットも三十周年とのことで、俊美が野音やりたいっていってくれました。フェスとかは呼ばれる側だから、野音は自分たちでやりたいって。うれしいな、待ってますよ! そんなこんなでBIKKEが「(年末のライヴは)皆の生存確認のためにやってる」というとおり、いろいろしみじみすることも多いのです。この日はライヴに行く直前に、塚本晋也監督作品の殆どの音楽を手がけた石川忠さんの訃報が飛び込んできた。恵比寿駅のカフェで呆然としてしまった。サントラ全部持ってる、何度聴いたかしれない。そしてリキッドでは、クボタタケシがFISHMANSの「いかれたBABY」や大瀧詠一の「君は天然色」をかけた。今年はクリス・コーネルも亡くなった。BOOM BOOM SATELLITESの最後のライヴもあった。上京してから聴いてきた音楽、出かけたライヴ、いろいろなことを思い出す。 しかし、この日いちばん響いたのは「Stand Up」だった。近作、2013年の曲だ。そしてトーイがすっかりステージ上のひとになった。明らかに俊美遺伝の声が俊美とハモる。俊美の無茶振りにフリースタイルでフロアを盛り上げる。BIKKEが絡んできても(あれ谷村新司×小川知子の「忘れていいの」だとこっちは判るけどトーイ世代は知る由もなかろう)歌声には支障なし。フロアにいる多くのひとがそうだろう、彼のことを生まれる前から知っている。誕生の年、当時は新宿にあったリキッドで高らかに鳴らされた「Jr.」を、そのときのフロアの多幸感を憶えてる。関係者エリアから聴こえた「パパー!」の声を知っている、初めてステージに現れ、俊美と共演した日のことも憶えてる。ここに毎年集うひとも、今は離れているひとも、また戻ってきたひとも、過去を抱えて、「隠せない明日を連れて」日々を進んでいるのだ。ここに来る度にそのことを再確認する。 ゲストアクトのP.O.Pは遅れて見逃してしまったが、松田“chabe”岳二くんのバンドLEARNERS、ロカビリーポップで格好よかった。Vo.の紗羅マリーの歌がパンチ効いてて、演奏も弾けてて盛り上がったなー。その後マリーさんとソウルセットでORIGINAL LOVEの「接吻」も披露。これ2011年の『全て光』にも収録されているカヴァーなんだけど、よりアグレッシヴなナンバーになってました。前述の「ダンシング〜」といい久しぶりの「ロマンティック伝説」といい、今年はセットリストも攻めていたかな? まだまだ底が見えないソウルセット、これからどうなるんだろうとドキドキしてしていたのも今となっては笑い話ですが、ホント当日迄不安だったんだよ! いつかは終わるとは判っている。でもその日がくる迄は笑って会いたい。聴き続けていきたいし、出来る限りライヴに足を運びたいです。まだ先だけど野音も楽しみにしてる。また会おうね。 ----- おまけで面白かった話ひとつ。「接吻」やったあとBIKKEがこの曲大好きで〜って話から、昔BIKKEが田島さんと瀧と清水ミチコさんとカラオケに行って、本人を前にして「接吻」を田島さんに寄せてウェ〜イって唄ったら(この日も真似したけどそんなに似ては…なく……)、清水さんに「そんないい加減にモノマネやるもんじゃないわよ!」とすごく怒られて、それ以来その会に行ってないと。そして当の田島さんは瀧と話し込んででBIKKEが唄うの全然聞いてなかったそうです。ウケた
2017年12月22日(金) ■
STORM OF VOID at clubasia『War Inside You』Tour
STORM OF VOID at clubasia『War Inside You』Tour@clubasia レコ発ツアーファイナルおめでとうございます! 勢い最前しかもスピーカー前で聴いたのでこちら耳がストームですわ……耳栓忘れて焦ったがまあいい、本望です。ひと晩で無事治まったし。PAもよかったのかもしれない。 もともとはDCコア界隈の記事の通訳は大概このひと、とその名を記憶していたジョージ・ボッドマン。彼がenvyのダイロクとバンドをやっていると知ったのは今年に入ってからで、今秋リリースされたデビューアルバム『War Inside You』を聴いてすっかり虜に。地を這うようなリフとリズムでゴリゴリのグルーヴが構築される楽曲はハードコアかつダンサブル(!)、しかも音の層の分厚いこと! これをデュオ編成で? 音源ではベースもジョージさんが弾いてるそうだけど、ライヴではどう再現するの? とワクワクしてお初のライヴへ。 セッティングをニコニコ眺めていたら、8弦ギター(実物初めて見た。ゴツい)にsunn o))) 215B 大×3、小×2のアンプが至近距離で積まれ半笑いになり青ざめる。ドラムセットもゴッツい、キックのインチ(デカい)にビビる。しかもそれプラスフロアタム×2、オーケストラで使うバスドラもあるときた。とにかくゴツい。果たして8弦で弾かれる低音リフはゴリッゴリがゴリッゴリでゴリッゴリであった。あーこりゃベースいらんわ、全然オッケー。「Into The Circle」のイントロリフに入ったときドワ! というどよめき込みの歓声が起こったの、だよねだよね! と鳥肌たてつつガッツポーズ。ちなみにとなりにいた女性がショールを肩にかけて静かに集中してる感じで聴いていたので、対バンのmouse on the keysのファンかな…最前でショールはダイヴとかモッシュが起こったら危ないかも、大丈夫かな……なんて思っていたのですが、このとき同じタイミングでガッツポーズしたんでニッコリしましたわ。余計な心配であった。motkはハードコア出身だけどリスナーが幅広く、ライヴハウスで相当年配の方やクラシック〜ジャズ畑から来たかなという感じのひとを見かけることが多いのです。そういうとこも魅力。 閑話休題。そんなこんなでヘヴィネス! ドゥームネス! 奏でるはモフモフのふたりモフネス! ウヒョーたまらん。アルバムでJロビンズが唄っていた表題曲「War Inside You」はジョージさんが唄ったんだけど、や〜Jも真っ青な美声でしたね。Napalm DeathのバーニーがVoの「Bow and Scrape」はどうするのかなーあのデス声……と思っていたら「Silent Eyes」のイントロとともにステージにヌルッと現れた人物が。マイクをひっつかんでステージを素早く徘徊、ボウェードゥエー。きたきたどなたですか。と思っているうち咆哮を連発、目の前の手すりに足をかけてきて、ビビってよけるとそのまま降りてきたのでモーゼの十戒のようにフロア中央が空く(笑)。ひとばらいのジャスチャーをするのでますますひとがひく。何すんのかなーと思っていたら火を吹きました。ワーイと湧くフロアをおいてけぼりにして再び素早くステージに戻り消えてった。ジョージさん賞賛のジェスチャーをするも誰か教えてくれなかった(この日のステージMC皆無。普段からそうなのかな?)。誰だったの…何だったの……と呆然としたまま終わっていった。帰宅後調べてみたらmilkcowのツルさんだったとのこと。ああ、お名前は存じ上げておりました。貴重なものが観られた…格好よかった……。 (20171225追記:当初「Bow and Scrape」をツルさんが唄ったと書いてましたが勘違いしてました。すみません…ちなみにアルバムに収録されている「Silent Eyes」にはヴォーカルが入っていません。「Bow and Scrape」はインストでやったっけ? ジョージさんがデス声出したっけ? 思い出せない〜) 対バンのmouse on the keys、GOTH-TRADも最高でした。ていうかあれだな、motkは清田さん側の端っこから見れば全員の手元が見えるな。川さんの足技は見えないが。演奏の阿吽の呼吸がこっちから見るとよくわかったし、新留さんと川さんが操作するPCの割りふりもよくわかった。GOTH-TRADは初見、スクエアプッシャーがノイズ演奏するときの凶暴っぷりを思い出す…うっとり……などと思っていたらZ-MACHINESと競演していて なにげに接点があった。ウェーイ年の瀬にいいもの観たー。 (20121225追記:そうそう、これだけおっっっもいヘヴィーなライヴが終わったあと、客出しで流れたのがMassive Attackの「Teardrop」だったんです。これが意外にもぴったりで、涙出そうになった。轟音って美しいなあとしみじみ) ----- 終演後プレイリストがすぐにアップ。配信サービス、こういう使い方もアリだなあ motkのことを「あまりライヴを見に行ったりはしないんですよ。見たら絶対影響を受けてしまいそうなんで」といっていたけど、対バンしたからには観ることになりましたね(笑)。てかそういっといてツアーファイナルに呼ぶところ、粋!・「いい加減、自分で頭を張らなきゃって思った」――George BodmanがSTORM OF VOID、そして自らのわがままと責任を語るインタビュー!|LIVEAGE 8弦ギターは死ぬほど弾きづらいそうです(笑)・インタビュー ジョージ・ボッドマン|BROWNNOISEUNIT 2015年くらいのインタヴューかな。清田さんとルームシェアしてたって知らなかった!・Kikyz1313 - Instagram 『War Inside You』のアートワークを手がけた方。うーん惹かれる。サイトもあるけど繋がりにくいので、ジョージさんが作品を発見したというインスタをご紹介
2017年12月16日(土) ■
『アテネのタイモン』
『アテネのタイモン』@彩の国さいたま芸術劇場 大ホール うわっ、面白かったよ! 蜷川幸雄の遺産をコンダクター吉田鋼太郎率いるカンパニーが楽しんで(同じくらい悩んでいるのだろうが)料理してる。開演15分くらい前から席に着いてるといいですよ。以下ネタバレあります。 裸舞台にいくつかのハンガーラック。まず藤原竜也が登場。続いて出演者、スタッフが現れてストレッチや発声練習、談笑をはじめる。吉田鋼太郎はあちこちに目を配り乍ら指示も出す。やがて出演者が横一列に並ぶ、劇場がしん、と静まり返る。鋼太郎さんが客席を笑顔で見渡す。息をすって、一瞬の間。そして、 「ようこそ!」 拍手が起こり、出演者たちは自分のポジションに駆けていく。舞台のはじまりだ。鋼太郎さんのちょっと緊張した、でもやったるでえといった感じの第一声、忘れられない。 蜷川演出のマナーを守りつつ、しかし細やかな台詞まわしや対話のやりとりは鋼太郎さんの指導の賜物、という仕上がりだった。舞台機構を活かした、セットと演者が流れるように前後左右を移動する視覚効果はさい芸と蜷川演出の醍醐味でもあって、それを吉田演出は引き継いでいる。ああ、蜷川さんとさい芸が培ってきた手法が生きている、さい芸のシェイクスピアシリーズを観られた、といううれしさがあった。豪奢で機能的な衣裳(小峰リリー。これが最後の仕事だったのだろうか……)。森にさしこむ一筋の陽光を見事に表現する照明(原田保)。長年シリーズに携わってきたスタッフワークも冴える。意外だったのは美術の秋山光洋。ハイバイの美術もやっている方なのだが、抽象のレリーフと具象の森の装置はまさにさい芸シェイクスピアシリーズのそれだった。ニナカンやネクストの面々の配役もよかった。大石継太と新川將人の詩人と画家コンビがかわいい。大石さんのエクステもかわいい。 あとまわしにされてただけあってヘンな戯曲ではある(笑・残りもそんなんばっかりぽいが……鋼太郎さんも「こんなのばっかり残しやがって〜」とか仰ってましたね)。過去見たことのあるようなシーンが多く、結末も「ん? シェイクスピア飽きた? 匙投げた?」と思ってしまうような唐突さだ。主人公タイモンが転落し復讐を開始する一幕の騒々しさと、森で隠遁するタイモンとそこへ訪ねてくる者たちとの対話で構成される二幕の静けさの差異も大きい。 ところが各々の場をとりだしてみると、見応えがある。二幕はほぼふたり芝居のつらなりで、タイモンの存在は彼が逃げ込んだ森とともにどんどんミニマムになっていく。シェイクスピアは森を混迷の道具に使う。いったりきたりの禅問答のようなダイアログ。しかしこれがじっくり聴けるのだ。独白や対話を修飾語で彩り、流麗な構文で展開させるシェイクスピアと訳者・松岡和子の面目躍如。ここに鋼太郎さんは着目したのではないだろうか。蜷川さんが続けてきたシリーズのイメージを壊すことなく、鋼太郎さんが長年培ってきたシェイクスピア戯曲の表現術をカンパニーに浸透させる。翻訳調の台詞を、いかにひっかかりなく観客に伝えるかということに注意を払う。 緩急、強弱を駆使して伝えられる台詞は、心地よく観客の耳に届く。意味とともにするする頭に入ってくる、鋼太郎さんと横田栄司の台詞まわしはやっぱりすげえ。藤原さんも随分鋼太郎さんとやりあったんじゃないかなという感じで、とても滑らか、かつ熱のある対話を聴かせる。漫才かといいたくなるような、ふたりの罵りあいは見ものです。 初日の翌日のマチネ(つまり上演二回目)で各々台詞を探っているようなところがあり(あ〜今思い出し乍らしゃべってる〜と観客が気づいてしまうくらいには不安定)、特に鋼太郎さんはそれが多く(プレッシャーと苦労がうかがえた……)一箇所思いっきり人名を間違えてしまったのですが、それを逆手にとったアドリブで笑わせてくれました。そしてそれを必要以上に長引かせず真摯な空気に軌道修正してくるところも見事。予想外の出来事が次々と起こる舞台、それに対処するベテラン舞台役者の力。星一徹みたいな鋼太郎さんも見られる(あれビックリした、肉ばなれとか起こしそう)のでお楽しみに。一幕はとにかくどテンション芝居シーンが続くのでペース配分が難しそう。怪我や事故がありませんように。 さい芸のシェイクスピアシリーズ、残りも期待出来る。俄然楽しみになってきた。次回は再び松坂桃李を迎えての『ヘンリー五世』、再来年ですが首を長くして待っています。 ----- ・それにしてもタイモンの召使ふたり、いい子たちだったよね…だいじにしたってよタイモン! 横田さん演じる執事と召使たちが、焼け落ちるお屋敷を前にねこだんごみたいになってるさまが不憫かわいかった。ああかわいいそう ・初日開いたばかりなんでロビーに花がいっぱいだったんだけど、横田さん宛に「あなたのファンより」って紫や赤系の薔薇スタンドが届いてたのにニッコリ ・ネクスト再始動のチラシも入っていてうれしかった。小久保寿人の帰還もうれしい。ネクスト所属ではなくゲストという形なのかな?
2017年12月10日(日) ■
『流山ブルーバード』
『流山ブルーバード』@本多劇場 赤堀節が冴え渡っております。迷いと悩み(後述のインタヴュー参照)の季節を通過し、腹を据えてからの赤堀雅秋は強い。しかしこの悩みや迷いも何度目かのことで、また新しい悩みが出てくる。きっとずっと続くのだ。そのこと含め覚悟を決めた赤堀さんの作品をこれからも観ていきたい。赤堀さんと、いきなり持ち出すが岩松了の作品にどうしてこうも惹かれるのか、観続けていきたいと思うのか。この日合点がいったようにも思う。両者に共通点があるとは考えていなかったが、ふたりが持つとある要素に自分が惹かれるのだと気づいた。今回劇中にチェーホフの台詞が出てきたのだ。ハッとした。 狭い世界から広い世界へ出たいと切望している、でも出ていけない。そして狭いと思っていた世界は宇宙と同じくらい広い。ふたりはそのことをひたすら見つめる作家だ。見えないところで事件は起こり、不穏な空気が狭い世界を覆っていく。その空気に呼応するかのように、小さなコミュニティに苛立ちが充満し、爆発寸前迄膨張する。しかし、彼らは日常の強さを知っている。苛立ちを日常に呑み込ませる術を知っている。そのなかに光を見出す。こうなると赤堀演出でチェーホフ作品を観てみたいなとも思うが、それはまた別の話。 座組みがとてもいい。役者が全員魅力的。コメディに強い賀来賢人が、気味悪さと愛嬌をあわせもつ主人公を軽妙に、しかし複雑な澱みを滲ませて演じる。一見好青年、言葉は快活で筋も通っている。しかし行動が伴わない。内面の鬱屈を見透かされる程度には隙もある。誰とも向き合おうとしていない。柄本時生演じる街のトラブルメーカーも、誰とも向き合わない。対話するシーンも殆どない(主に相手が一方的に喋っている)。圧倒的に孤独だ。それが主人公とは難なく言葉を交わすことが出来る。自分のことを、自分が話したいことを話せる。それに主人公は応える。同じ臭いを持つ者同士だと、お互い気づく瞬間がある。終盤の歩道橋のシーンは、ふたりの心が一瞬ふれあったようにも映るシーンだった。 太賀が最後に見せる侠気は、これ迄張ってきたハッタリが決して虚勢ではなかったのだと伝えるに充分。任侠者が交わすような別れの杯に涙。それが「街のサイズ」であるところにも涙。個人的には若葉竜也がとても印象に残った。売れない役者、断れない、前に出られない(役者としては致命的かもしれない)ひとのよさ。しかし実家で親がどうしているかも知らない(知ろうとしない)事なかれ主義者でもある。波風をたてたくない故に呑み込んだ言葉の数々は、『三人姉妹』の台詞を夜中ひとり練習する姿に代弁される。若葉さんて映画の方の『葛城事件』 の、「あの」次男役なんだけど全然感じが違った……というか同一人物だと気づかず(そもそも赤堀作品となると、出演者も殆どチェックせずにチケットをとってしまうのだ)、終演後配役表を見て驚いた。役者ってすごいね……別れのシーンで太賀と一緒に泣いてしまうところも憎めない。しかしここも「その場の空気に流されてしまう」という役柄がしっかり反映されており、あの涙も意識的だとしたら脱帽するしかない。 ラストシーンで主人公と「話」をしようとする兄を演じた皆川猿時がピカ一の仕事っぷり。歳を重ねた寂しい大人は、同じく寂しい大人の匂いを感じとることが出来る。他愛のない会話がどれほど大切かを知っている。大人計画の役者は外部公演で観ると、巧さの地力が際立つ。小野ゆり子の声、宮下今日子の所作を堪能。駒木根隆介と平田敦子も、病んだ寂しい大人を好演。赤堀さんも出演しており、いい味出してました。てかあの腰痛の話、自分の症状と全く一緒でビビったわ…気をつけたい……。 登場人物たちのひととなりは、世間話や噂話で形成されてコミュニティに拡がっていく。しかし観客は彼らがひとりでいるところを見ている、彼らの心情の吐露を聞いている。そんな丁寧な積み重ねを、演者が丁寧に表現する。つまらないというひともいるだろう。しかし私は赤堀作品のこういうところが好きなのだ。まずい蕎麦屋、カツ丼、チーズインハンバーグ、プリン、寿司の出前といった「あ、このエピソード前にもあった 」と照会していく作業も楽しい。これからも長く観ていきたい劇作家。 そして演出の手法。「おまえは上ばかり見ている。たまには下から見てみたらどうだ」。そのままではないが、兄が主人公に投げかけるこの台詞は、赤堀さん自身に向けられているようにも感じる。劇場空間をキャパに応じてどう使うか。前後左右の移動が主だったところから、どのシーンにも対応する抽象的な装置で上下の移動を見せるようになった。逃がした(観劇日がアクシデントで休演になり、その後も予定が開けられなかった)『世界』からの展開らしいが、この変化も今後楽しみだ。 -----・中堅クライシス 第1回 赤堀雅秋【前編】 | 演劇最強論-ing ・中堅クライシス 第1回 赤堀雅秋【後編】 | 演劇最強論-ing ここで赤堀さんのいっている「一般の人達」=「自分の中学校の同級生」=「演劇なんてよく知らないし、劇場もめったに行かないけど、テレビドラマで観ている好きな俳優さんが出ると『行ってみようか』と興味を持つ人」というターゲット、O.L.H.=面影ラッキーホールが同じようなことをいっていたんだよな。そこ迄届かなければ、という。道は長い。 そして岩松了への言及もあるな…確かに岩松さんはそういうとこ強いな
2017年12月02日(土) ■
『Let's Play Two』
『Let's Play Two』@新宿ピカデリー スクリーン8 初日(12/2)と翌週水曜日(12/6)に観てきました。あっという間に終わってしまった、今は祭りのあとの寂しさに呆然としている。思いがあふれすぎてうまくまとめられないんでどばーと書き散らします。書き散らしなんでネタバレも満載です。 というかまずはtwilogを読んでいただけると有難い…RTしたものやPJファンの方たちとのやりとりで気づいたことや思い出したことも多いし〜。は〜。・2017年12月03日 - Twilog ・2017年12月07日 - Twilog ・2017年12月08日 - Twilog --- ダニー・クリンチ監督作品。2016年、メジャーリーグベースボール(MLB)ナショナルリーグのチーム、シカゴカブスが108年ぶりにワールドシリーズ(WS)を制覇。その年の夏、パール・ジャム(PJ)はカブスの本拠地であるリグレー・フィールドでライヴを開催。PJのヴォーカル、エディ・ヴェダーはシカゴ出身でカブスの大ファン。 --- というのが予備知識。わーいパールジャムのスタジアムライヴ観られるよ〜くらいの楽しいノリで出かけたのです。ところが蓋をあけてみればそんな単純なコンサートフィルムではなかった。PJ好きなひとだけでなく、音楽好き、野球好き、スポーツ好き、ホームタウンとそこに根ざすひとびとにリーチする、素晴らしいドキュメンタリー作品でした。誰かを愛したことのあるひとたち、何かに愛着を感じ応援したことがあるひとには、きっと響くものがある。こうなるともっと公開の仕方があったのではないか、宣伝の仕方があったのではないかと思ってしまうのですが、どこにジャンル分けしたらいいか難しい作品を逃さずすくいあげ、動員がそんなに期待出来ない国で(悲しいけれどそうなのだ)こうして公開してくれた配給元には感謝するばかりです。少しずつでもいいからこれからもいろんなひとに観られていくといいし、長く愛される作品になってほしい。 カブスのWS制覇は記憶に新しく、MLBにさほど詳しくなくても、「ヤギの呪い」「黒猫の呪い」を聞いたことがあるひとは多いのではないでしょうか。私もそのひとり。・メジャーリーグで70年間も解けない呪い…。シカゴ・カブスを襲う恐怖の「ヤギの呪い」とは? | マイナビニュース ・2015年:悲願達成ならず|シカゴ・カブス - Wikipedia wiki迄ひっぱりだしてますが、このニュースのことはよく憶えていたので、翌年カブスが遂に優勝したときはよかったねえと思ったものです。 このツイートもリアルタイムで観ていたのでエディよかったね! と思っていた。 一方、PJにはこんなことがありました。・パール・ジャムのライヴが雷雨で2時間半の中断、深夜2時終演、そして新曲を2曲披露 (2013/07/22)|rockinon.com このニュースもよく憶えてる。このふたつがああやって繋がるとは……1992年、シカゴで初ライヴを行ったバンド。不遇の時代、「観客席でこどもがかくれんぼする」くらい閑散とした球場(あのこれある程度の世代のひとはわかると思いますが、ロッテオリオンズ時代の川崎球場を思い出しました(笑泣))で試合をしていたカブス。一度ならずとも何度もつまづき、しかし未来を信じて繰り返し立ちあがり前に進み続けたバンドとカブスの結びつきが、チームを愛する、地元を愛するひとの気持ちとシンクロしていく。 バンドの楽曲は、カブスを応援するひとたちに寄り添うように鳴り響く。幕開けは「I need the light / I'll find my way from wrong, what's real? / The dream I see」(Low Light)、そして「She dreams in color, she dreams in red / Can't find a better man」(Better Man)。2016年のカブス快進撃、今年こそはと高まる期待、しかし今迄が今迄なのでぬぐいきれない不安、「Never dreamed You'd return」(Elderly Woman Behind the Counter in a Small Town)。WSで3敗していよいよあとがないという局面、しかし「Don't go on me」(Go)、「I'm still alive」(Alive)。単純に歌詞を書き出しただけでもこうだ。「Elderly Woman〜」の登場人物は、かなった夢を前に感極まる。カブスファンとPJファンの心情を反映したかのような歌が流れる。それはバンドが駆け出しだった26年前につくられた曲であっても、最新作からのものであっても、108年前からカブスの勝利を待ち続けたひとたちのサウンドトラックのように響く。 構成がまた巧いのです。当日演奏された曲順と映画に登場する曲順は違う。シーンにぴったりの歌をここぞというタイミングで織り込んでくる監督の手腕に唸る。映像もそう。WSの7戦目(最終戦)、試合展開とエディ、シカゴのひとびとの映像が交互に流れる。しかし彼らの言葉や行動は7戦目のときのものとは限らない。7回ストレッチ(Seventh inning stretch:MLBのゲームでは7回表終了時、「Take Me Out To The Ballgame(私を野球に連れてって)」をBGMに観戦でかたまった身体をのばすブレイクがある)でエディが「Take Me〜」を唄ったのは第5戦。セットリストを書いているのは勿論8月のライヴ当日。リアルタイム観戦の映像と、カブス勝利への軌跡がパズルのように組み込まれ、試合の流れと交差する。優勝に湧くシカゴの街、思い出される名実況、そしてタイトルにもなっている「Let's Play Two」はチームOBの言葉。108年ともなれば、優勝を待ち望んだままこの世を去ったひとも多いだろう。そんなひとたちの思いともども、あの7戦目に届け! となるあの流れ、本当に素晴らしかった。 熱心なPJファンのひとり、ジョンは「人生のどんな局面にも合う曲がある」と話す。その後ジョンにはとあることが起こる。そして、ゲストのデニス・ロッドマンに抱き上げられたエディに、クリス・コーネルの姿がフラッシュバックする。小柄で身軽なエディは、よくクリスに抱きついていた(例 。抱きついてるというかぶらさがってるというか……笑)。昨年カブスが優勝したとき、クリスは生きていた。一年後、彼がいないなんて想像出来なかった。PJとともに人生を歩む。喜びと悲しみのくりかえし、傍らにはいつもPJがいる。PJに限らず、どんなひとにもそんな存在があるのだ、きっと。願わくば、少しでもその時間が長く続くことを。 Blu-rayは本日発売(書いているのは12/8)。でも立川シネマシティの極音上映 とかあったら万難を排して駆けつけますよ! 期待してますよ! 公開有難うございました! ----- その他。 ・「今日(ライヴの日)はエディにとって大切な日だから」っていうマイクにもジーンときたんだけど、思えばPJてエディ以外はシアトル由来なんでマリナーズファンも多かろうに…皆やさしい……と思った ・PJファンじゃないひとが観ても伝わるように歌詞に字幕ついてもよかったねとも思ったけど、そうなると情報多すぎて視線が散漫になっちゃうだろうから難しいところですね ・エディといえば昔から詩やアートを描くノートをだいじに抱えてるイメージなんだけど、今回スコアブックを抱えてせっせと書き込んでる姿ににっこり ・それにしてもエディの身体能力の高さよ…あのジャンプといいブリッジといい。 体幹が強いよねーと水曜映画館で偶然遭ったMIOさんと話していた ・そういえば水曜日、エディがよく持ち歩いてたものにそっくりなトランクと、ポップコーンとドリンクを抱えた白髪の男性がいて、終映後清掃に入ってきたスタッフやカップを片付けているスタッフに「ありがとう」「ありがとうございました」と丁寧に挨拶しててジーンとした ----- ・パール・ジャム「レッツ・プレイ・トゥー」予告編VIDEO 日本語版で予告つくられたってのが重要であってだな 日本で上映あるって本国公式がツイートしてくれたってのが以下略 ・Let's Play Two - Teaser #1 - Pearl JamVIDEO ・Let's Play Two - Official Trailer - Pearl JamVIDEO ちなみにエディはこれ迄三回、7回ストレッチで唄っています。 (20171209追記:『Let’s Play Two』日本盤Blu-ray、新谷洋子さんの解説によると、エディが7回ストレッチに初登場したのは1998年とのこと。で、掘ってみたら三回どころではなかった。失礼しました!) YouTubeにあるエディの7回ストレッチの動画をまとめてみました。VIDEO 2006年。呑んでるVIDEO 2007年。前年の反省か?(笑)しゃんとしてるVIDEO 2014年。野球大好きおじさんVIDEO 2015年。かしこまってるVIDEO そして2016年。遂に、遂に! (20171209追記:観なおしてて気づいたけど、2015年と2016年、観客席におそらく同じおばあちゃんが映ってるな。映画でも映ってた。地元では有名なファンなのかも…うわーんまたほろっときちゃうよ) ----- おまけ。 プレス用のお土産を読者プレゼントに出してくれたのだと今になって理解。クラッカーはおいしくいただき、私は下戸なのでワインは姉が呑み尽くしました。あとは使えなくて(というか使い道が…)今でもだいじにとってある。こうしてPJとともに歩んでいます
2017年12月01日(金) ■
高橋徹也『Style 2017 "After Hours"』
高橋徹也『Style 2017 "After Hours"』@風知空知 『高橋徹也のゆく年くる年・この無礼講がすごい2017』。濃密な安藤忠雄展からのハシゴで疲労困憊、選んだ席はストーブの近くでぽかぽか、こりゃ寝るかもと思ったがそれどころではなかった。音楽のあまりの気持ちよさに眠気がというのも幸せなことですが、あの楽しさのなかでは目も冴えます。 サニーテラスのような趣の風知空知でバンドセット? と思って出かけたのですが、地の音を活かした耳に優しく心に激しく響く音づくりでした。アコースティックセットの肌触りもあり。ドラムは場に合わせたセッティング(かわいい)と制御された演奏で、アッパーな楽曲でも過度に突出することがない。そのうえ演奏はいつものとおりすばらしー+すさまじー。鹿島さんがメガネかけてて「くもる……」といっていたのでステージ上の熱気も高かったようです。それにしてもこの三日で二回もメガネがくもる発言を聞くとは(笑)。 個人的ハイライトは『The Royal Ten Dollar Gold Piece Inn and Emporium』 でアホほど聴いてた「Night Slider」を聴けたこと。このライヴ盤、会社やめようかどうしようかと悩んでいたときに繰り返し聴いていたので(何故)上田さんのkeyのフレーズが耳に染み付いているのですが、今回sugarbeans(佐藤さん)のkeyだとこうなるんだ! というのが聴けてよかった。アウトロでリズム展開を三拍子にガラッと変えたところ、鳥肌たった! 多分「わっ」て声出てた。うえー来年もライヴに行けるよう仕事がんばろう……。 そうそうそんでね、「惑星」を聴くのも夢なのです…まだライヴで聴いたことがない。これも上田さんのピアノによる導入が大好きで。佐藤さんが演奏したらどうなるかなー。 それにしてもこの「Night Slider」前後、「もういいかい」から「シーラカンス」の流れがもー素晴らしくて。序盤「風知空知でバンドセット、どうなるか……」みたいな不安と期待が入り混じったようなMCをされてましたが、ここから完全にもってった感じ。「シーラカンス」の映像喚起力がすごかった…ウッディな風知空知がそのまま深海に沈んでいくかのようだった……。リラックスして聴いていたけどこのときばかりは窒息しそうになった。曲がおわってはああ…と深呼吸してしまった。はーこのバンドは朝を夜にし冬を夏にし街なかを海辺にするな。たまらん。 『Style』のレコ発アフターアワーズでもあったんですが、この話をはじめたあたりから高橋さんのMCが壊れだす。「後夜祭?」「あのーあれなんていうんでしたっけ、あの木を組んで火を燃やすやつ……(キャンプファイアーとはいわなかった)」「アフターパーティとは絶対いわねえ」「今日は無礼講ですよ」からの〜どういう流れか忘れたけど脇山さんと殴り合いたいとかいいだして、「俺が無礼講だった」。あのすんばらしい演奏の間にこれですから緊張と弛緩がものすごかった(笑)。あと鹿島さんの持ちネタ(?)だった「新人紹介用の資料ビデオを見たら高橋が白いマフラーして演奏してて、俺は白いマフラーをしてライヴするやつを初めて見た」って話を自分から話していた。その流れで佐藤さんと初めて会ったのは朝日美穂(高橋さん曰く同じ歳+いいやすいので呼び捨て)との対バンだったという話になって、鹿島さんが「そのとき楽屋で皆で写真撮ったんだけどこんなポーズ(ジェスチャー)してて、何それ? て訊いたら『バルタン星人です〜』っていったんだよ。初対面なのに」って過去をほじくりかえして大ウケ。佐藤さん「今年いちばん恥ずかしい」といっていた。 鎌倉molnでのライヴ告知の流れで、「この日は浜辺で夜通しビール呑みたいですね」ともいってたな。ライヴは年明け。無茶いう。「皆さん今年はどんないいことがありましたか?」と投げかけてレスポンスがなかった(というか奥ゆかしいお客さんが多かったのでは)とき、「高橋さんの新譜が出たことー!」とかいえばよかったか…心のなかでは叫んでましたけど……。あかん、演奏素晴らしかったのにMCのことばかり書いてしまう。アットホームでフレンドリー、皆笑顔でうたったり手拍子したりコールアンドレスポンスをしたり。菊地成孔いうところの方舟のような空間で幸せな時間をすごしました。 終わってみれば二時間半経っていた、体感時間すごく短かった。アンコール一曲目は佐藤さんとふたりで「八月の疾走」、しみる。高橋さんのブログ(後述)によるとリハなし一発勝負だったとのこと。ええ、すごいな! ライヴが終わる、一日が終わる。アフターアワーズとのことだったけど忘年会の趣もありましたね。今年ももう終わり。来年の活動も楽しみにしております! ----- セットリスト(ご本人のツイートより ) 01. スタイル 02. 微熱 03. シグナル 04. 雨宿り 05. 曇ったガラス 06. 愛の言葉 07. もういいかい 08. Feeling Sad 09. Night Slider 10. シーラカンス 11. 人の住む場所 12. 真っ赤な車 13. バタフライナイト 14. 夕暮れ星 15. Summer Soft Soul 16. 真夜中のメリーゴーランド 17. 花火 encore 18. 八月の疾走 19. 夜明けのフリーウェイ -----・ソロでもなくバンドでもなく|夕暮れ 坂道 島国 惑星地球 おまけ。「親からドリフ観るの禁止されてたのにGメン’75は観てよかった」ってMCがあったんだけど、ウチも、ウチもそうだった〜! Gメンも相当アレだったのにどうしてこっちはOKだったんだろう、ってホントそうですよなんだったんだあの基準。