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2012年07月26日(木)
LÄ-PPISCH 25th Anniversary『Tag of war』Vol.5

LÄ-PPISCH 25th Anniversary『Tag of war』Vol.5@LIQUIDROOM ebisu

以下メモ。

・レピッシュ対バンシリーズ大団円で完結、アルバム&ツアーも発表 | NEXUS NEWS
シリーズ全公演フォローしてくれたNEXUSさん有難うー

・ARCHIVE | Tug of war Vol.5 at LIQUIDROOM | LÄ-PPISCH OFFICIAL WEB SITE
いい写真とセットリスト

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セットリスト

01. めがねの日本
02. F5
03. CONTROL
04. リックサック
05. バッタ
06. water
07. FAMILY
08. Magic Blue Case
09. ワダツミの木
10. OUR LIFE
11. 美代ちゃんの×××
12. LOVE SONGS
13. Poor Boy

encore
14. プレゼント
15. アニマルビート

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・遅刻。入場したら「爆裂レインコート」が聴こえてえええ!?とフロアに駆けてったらtatsuがベース弾いてた。ギャー!

・その前随分喋ったらしい…貴重なものを見逃した……。BBBの子たちはいい子たちだった、演奏も格好いい

・め、め、めがねの日本!!!DoDoDoDo毒入り!!!!!

・それにしてもこの日のtatsuはオープンだった。笑顔も見せてたし。マグミからの無茶ぶりもいつもならスルーなところ、苦笑で返してたし(反応があること自体が珍しい)

・そして何より、演奏がすごかった。MUTE BEATのTシャツを着ていた。松永さんのことが頭にあったのだろうと思う。増井くんもそうだっただろう

・BBBのファンとの世代差についてのMCで、「ソックタッチやるけん」と言うマグミ。ここでソックタッチと言う単語が出てくるところがマグミのすごいとこ

・新譜とツアーが発表になった



2012年07月23日(月)
菊地成孔とペペ・トルメント・アスカラール『皆殺しの天使 / El Angel Exterminador』

菊地成孔とペペ・トルメント・アスカラール『皆殺しの天使 / El Angel Exterminador』@東京グローブ座

この日記エンピツでは映画ジャンルに登録しているので念のため、ブニュエルの話じゃないですー。でもこの映画に通じる趣はあったなあ、終演後、しばらく席を立てなかったもん。帰りたくともなんとなく帰り難い。余韻の残るライヴ。

いやー待った待った待ちました、昨年2月以来のPTA。何度も言ってるが直近のBLUE NOTEは震災後の仕事スケジュールがぐっちゃぐちゃになった時期だったので行けなかったんだよー。それでも昨年4月以来の公演ですよね…。菊地さん曰く「エリザベス・テイラー一周忌(2011年3月23日逝去)の時期にやりたかったんだけど、なかなか全員のスケジュールが合わなくて」。そういえば開演前、9月の公演のフライヤーの出演者見てたら1st vlが吉田くんじゃなくて、「ままままさか一年以上も空いてる間にやめちゃった? 今日は出るの出ないの…!?」とドキドキしていましたよ…出て来てホッとしましたが。久し振りに見た吉田くんはウェイヴのかかったロン毛になっていました(バチカンからマイケル・ジャクソンの認定を受けました@菊地さん)。9月のはたまたま出られないようです。それだけ役者が揃ってる、と言うことなのでしょう。スケジュール確保しやすい若手で編成する、と言っても、いずれそのひとたちもどんどん忙しくなっていくのですよ。せつなくて素敵なことですな。

さて本編ですが、登場した菊地さん、具合悪いですオーラが全身から出ている。どうした…いや、つらいーって表情は決して見せてませんが、なんだかのぼせてぼやーっとしてる感じです。何、熱でもあるのか……。呼吸がしづらいのか、sxも歌もああ苦しそうだな、と思うところが多々あったり、あとロングトーンが微妙に続けづらそう。全体の演奏も、グローブ座と言うホールの特性もあり音の返りがとにかく独特で、全員がお互いの音を聴き取りづらかったのではないでしょうか。リズムが重要なパートがかなり危うかったです。ただでさえリズムが複雑なナンバーが多いので、速いテンポのものはほんとギリギリ、ひやっとするところもありました。譜面をガン見する大儀見さん(perc)なんて初めて見たような気がする。

しかしいい演奏ってのとよくできましたーって演奏は違うのだと言うのを見せてくれるのがこのオルケスタ。どの曲だったかな、噛み合わせがグラッとなったときに堀米さんがリズムをキープして皆を引き戻した(ように聴こえた)のがめちゃ格好よかった!暗闇で遠くに見付けたちいさな灯りがとても明るく見えるように、harpの澄んだ鋭い音はガイドになっていたなあ。あと林さん(pf)も高音を大きめに出して、こっちだよーって示していたようにも感じました。そうなってくるともう楽しくなっちゃったのか、大儀見さんが後半もう満面の笑み(笑)。いろんな不具合に、もはやニヤニヤしてしまっている菊地さんの後ろで目をまんまるにして口角あげて叩いてる大儀見さん、絵になってたわー。

それにしても菊地さんて、調子悪いとき(こそ?)すごいいい演奏しますよね…そうそれはまるで手負いの獣のような色気とともに!ふはははは!そりゃコンディションがいい方がご本人も気持ちよく演奏出来るに決まっておりますが、具合が悪いときの対処法を知ってる方ですねー。そういうところが獣っぽい。“野性の思考”が自然に身に付いてらっしゃいます。

妙に上手の音が下手迄流れてくるような感じがしてなんなんだろう…と思っていたら、アンコールで菊地さんがエンジェルを振りまいたとき、飛沫がまさに上手→下手に散っていきました。空調の流れだったのか。いやこれ普段では気付かないわ…繊細な音の組み合わせのPTAだからこそ気付いたのだと思います。グローブ座でのPTAは三年振りでしたが(これは強烈だった)、次の布石が見えたり、何らかの分岐点になりそうな時期にここで演奏することが続いたような気もします。個人的にはきかん子程気になると言うか、決して観やすい聴きやすい環境ではないのに妙な親しみがあるホールなので(近年スズカツさんもよく使ってるしね)、またここでやってほしいな。

アンコール前のMCで39度超えの熱が出てましてと菊地さん、あらら……。菊地さんてPTAのとき熱出してること多いような。調子悪くてあたりまえ@近田春夫を地でいくひとですが、とは言え、その危うさが最近素人目にも表面化して見えることが増えてきました。おだいじに。そんで昔のDCPRGで言ってたけど、「調子悪いときに限って撮影、録音されてる」(苦笑)。この日も録音しますとロビーにお知らせが出ていたので、何らかの形でリリースがあると思われます。今年後半はPTAをぐいっと進めるようなので楽しみ。

最後の曲は「Crazy He Calls Me」。いつもよりちょっとだけはかない声、しかし情熱的。PTAは、菊地さんの他のプロジェクトよりストリップ感が強く、彼の抱えている情熱(としか言いようがない)がより素直に感じられる印象がある。そこが愛しくもあります。

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その他。

・「嵐が丘」のスキャットが聴けて溜飲が下がりました(表現が間違ってる)『LUPIN the Third -峰不二子という女-』では寸止めだったからねー

・林正子さんは「ディドとエアネス」のアリアで参加。オペラ歌手は女優でもあるなあと痛感。グローブ座でその姿を観ることが出来て嬉しかったです。相変わらず男ットコ前なところも素敵だった!



2012年07月19日(木)
『ポンポン お前の自意識に小刻みに振りたくなるんだ ポンポン』

ハイバイ『ポンポン お前の自意識に小刻みに振りたくなるんだ ポンポン』@こまばアゴラ劇場

向田邦子賞受賞(おめでとうございます。授賞式の様子、ちょー笑った)後初の公演。再々演だそうです。当方今回初見で、客演の荒川良々くんがあまりにもハマっていたので、あの役を初演と再演はどなたが演じたのかとても気になります。いんや面白かった…ジワジワくる……今でもジワジワ来てる、自意識にポンポンを小刻みに振られている〜!それは応援のポンポンなのだけど、どうにもこうにもむずむずする〜!以下ネタバレあります。

'80年代前半くらいかな、ひょうきん族をオンエアしてる、ファミコンがある家とない家がある、小学生は半ズボン。そんなこどもたちと、その親たちの話。そして親たち、大人たちがやっていること。劇団でエチュードをやる、その劇団を取材する。彼らのコミュニケーションは、うまくいっていないようでうまくいっている。ときどき崩壊するけれど、なんとなくまた修復してる。

いやもう、あるあるのてんこもりで終始ニヤニヤしてしまいました。しかしそのあるあるが一癖あって、複眼的と言うか、あっ、この角度からだとディスコミュニケーションとしか見えないけど、あの角度から見るとコミュニケート出来てる!でもそれははかなくて曖昧で、同じ方法を辿っても次はどうなるか判らない。登場人物は、パンパンに膨れ上がった自意識に振り回され乍ら、懸命に相手を思いやり、自分のことを伝えようとする。

「想像力」を「察するってことでしか観客は参加出来ないってことでしょ?」と表現したところにシビレましたわ、厳しい!その複眼は揚げ足取りにならず、批評として鋭く突き刺さる。でも「やっぱりわかりやすいのがいいよね」、と劇団に在籍する母親は言い、息子は「くさっ!」と言う台詞にぶはっと笑う。ここで面白かったのは、高圧的に劇団員を追及していた演出家がその子と一緒に思わずぶはっと笑ってしまうのだ。一瞬その子と演出家は同じ、あどけない程の屈託なさで笑っていた。それにハッとしたかのように、直後演出家は烈火の如く怒りだす。自意識が心を縛る。自意識が身体を解放する。こちらもぶはっと笑いつつ、ちょっと泣きそうになったわよ!これには感銘を受けたなあ…とか言って、この演出家を演じたのは岩井さんなのだけど、実はこのシーン素で笑ってました、だったらどうしよう(笑)。

こまやかなディテールがボディブロウのように効いてきます。夫婦喧嘩のやりとりとか、それを見ているこどもがお父さんに訴えることとか、皆傷付いているのに見ている側は何故かほっこり、そしてじんわり。おしっこを漏らした小学生が、そのことを知られていないかものっすごく気に病んでるときの心理描写がもう秀逸!突拍子もないような視覚化なんだけど、目の当たりにすると「これだあああ!」と思わず膝を打ってしまいそうなピンポーン!感。いやーこれ、自分の小さい頃を思い出してのことなのか、よくあの感触を思い出せるな、そして大人になった今よくああも立体化出来るものだな。妙なところに唸りまくりです。

印象に残ったシーンは沢山あったんだけど、そのなかでも特にうわんとなったのは、主人公の男の子(良々くん。12歳の役・笑)とそのお父さん(岩瀬亮さん)が一緒にごはんを食べる場面。偶然にもふたりとも左利きだったのね。で、お母さん(安藤聖さん。『南部高速道路』からそう間を置かずすごい)が食卓の準備をするときちゃんと左側が持ち手になるようにお箸を並べたのです。ちょっとしたことだけどこれにはジーンときた。この家はそういう家なんだ、って。あと主人公のともだち(平原テツさん)のおうちは母子家庭の気配があったんだけど、そのお母さん(川面千晶さん)の、こどもとの向き合い方がすごくよかったの。お金を大事に扱うこととか、おしっこ漏らしちゃった子への接し方とか。終始笑えるし、相当バカバカしいところではあるのだけど、この丁寧な描写はガツンときたー。これらの積み重ねがちょっと歪んだ元鞘へと繋がる。綻びを繕いつつ家族もともだちも日々を暮らして行くのです。こどもの日々は大冒険、親の日々だってスリリング。そしてそんな彼らにポンポンは振られているのです。

それにしても良々くんはもー出てきただけで笑えた。12歳!半ズボン!シャツはイン!平原さんも同様!ニヤニヤしつつ見ていて、「随分大人びてるわねえ、何歳だったっけ?」と言う台詞で笑い解禁みたいな(笑)これも「察する」の一環ですね、こういうのが通じる舞台ってホント楽しいわ……。

岩井さんと岩井さんが出演した映画『桐島、部活やめるってよ』の監督、吉田大八さんのアフタートークも面白かったです。お子さんの話、男の子と女の子の違い等、質疑応答を交えつつ。左利きについてはここでも指摘されていました。狙った訳ではなく偶然だったんですって。どちらもそうだと最初気付かないよねって。あと演出家の実在するモデルについての話が面白かった……。向田邦子賞授賞式の様子も面白おかしく話してくれました。卒制でシナリオを書いている女子にアドバイスをする男岩井、イケメンでした(笑)。



2012年07月16日(月)
七月大歌舞伎 夜の部

七月大歌舞伎 夜の部@新橋演舞場
二代目 市川猿翁 四代目 市川猿之助 九代目 市川中車 襲名披露
五代目 市川團子 初舞台

『将軍江戸を去る』『口上』猿翁十種の内『黒塚』『楼門五三桐』。襲名披露観劇はこれで一段落、しかしもう一度『ヤマトタケル』観たいな…でもスケジュール的にも金銭的にも無理ー(泣)せめて舞台写真が入ってからの筋書きを買おうかと思っております(21日販売分から入るそうです)。

今月の襲名披露公演には市川宗家のおふたり、團十郎、海老蔵が参加。『将軍江戸を去る』は慶喜=團十郎、伊勢守=海老蔵、山岡=中車。徳川最後の将軍が江戸城を明け渡した後、水戸へ立つ迄の出来事が描かれます。2008年に歌舞伎座で観て以来(このときの上演は慶喜=三津五郎、伊勢守=彌十郎、山岡=橋之助)のこの作品、ちょっと地味目乍ら結構好きなのです。「江戸を去る」ため、慶喜が花道ではなく、舞台奥へと退場して行くところにもしみじみさせられる。早朝を表現する照明も印象的ですが、劇場そのものの構造や、客席用の地明かりも影響するのか、歌舞伎座と演舞場ではその照明がかなり違って見えました。歌舞伎としては新しめの作品で、台詞も現代語調に近い。六月の『小栗栖の長兵衛』に続き、中車さんが演じる歌舞伎作品としても気持ちよく観られました。勤王と尊王は違うと熱弁を揮い、命を懸ける覚悟で慶喜と向き合う鉄太郎の心情は、歌舞伎と向き合う中車さんの覚悟と重なる趣もありました。声が相当荒れており、喉が心配ではありますが、そのしゃがれ声でも言葉はきちんと伝わるのが流石。

口上は猿之助、中車、團子に團十郎、海老蔵。團十郎さんが進行。あのねー海老蔵さんの口上はホント面白いねー。天然って強いな……(暴言)。フランス興行の話や、『ライオンキング』を一緒に観に行って、既に二十回以上観てるのに初めて観るかのようにわあ〜☆ってなってる猿之助さんの話等で笑いを誘っていました。

そして舞踊劇『黒塚』。この作品の歴史や三代目が初めて踊ったときの経緯等、いろいろ話を聞いてはいましたが、実際に観るのは初めて。四代目の『黒塚』初役を目撃出来た、と言う時点でもううわーんて感じでした。いやこれすごい好きですわ私…また酷い話なんだけどー!『ヤマトタケル』と言い、家に縁のある作品を襲名披露で、と言うのは判るがなんでこー可哀相な話ばかりなのー!(泣)猿之助さんは陰がある人物が似合うね……。そういえば襲名に際してのコメントで、「三代目が太陽ならあなたは月だ、と言われた」と言っていたなあ。

いろいろあった末鬼女に成り果てた老婆岩手が住む安達原の荒野に、名僧の一行が通りかかる。名僧祐慶に諭された岩手はまたひとを信じていいかも!と、彼らをもてなすため薪をとりに出掛ける。その際正体を知られないようにと、決して閨の内を覗くなと言いおいて出て行くんですが、こういうときって必ず覗くじゃん!そういうひといるじゃん!わー、強力のバカーーー!!!俗人ーーー!!!そうとは知らない岩手は薪を拾い、月の明かりを見て和み、その影と戯れ、あーいろいろあったけど私、今心が穏やか!てなってたところに逃げて来た強力と鉢合わせ。うわーバーカー!もういや!強力のバカ!私、鬼女ってバレた!とさとった岩手は強力にドーンとかバシャーンとかするんですが(なにこの表現)、命は奪わないとこがまたせつない!そして最後には祐慶の法力に押し切られて姿を消すんですよー。うわああああん!!!

はー、アホみたいな説明ですがホントよかったですよよよ。岩手の穏やかな所作、月の光とその影と戯れる無邪気な姿は、娘時代の彼女を彷彿させる。しかし鬼女の正体を現してからの強力との対峙、祐慶、大和坊、讃岐坊に囲まれ苦しむ立ち回りの壮絶さ。この対比が素晴らしかった。あんなにたおやかで上品なおばーちゃんがこんなになる程のことがあったんだよー!と納得させられた……。岩手に過去何があったのか、と言う具体的な説明はシンプルな台詞で語られはしますが、それがどれだけ壮絶な経験だったか、彼女にどれ程の悲しみと苦しみを与えたかは踊りで伝えられるのです。いやもう踊りなのに(踊りだから?)涙が出ましたよ。言葉以外でしか伝えられないってものはあるよ!

この辺り難しそうだなと思ったのですが、老婆の姿勢や動作は年齢と経験の積み重ねが必要で、しかし人外の境地に達した鬼の身体能力も見せなければならない。四代目は鬼女になってからの身体の操作が素晴らしく、花道での所謂「仏倒れ」の場面もわっと客席が沸く迫力。いんやここはすごかった……。背面から倒れてすっと消える場面も静かで流麗で、それがまたガーンて感じでした。ああ、消えちゃった…死んでないにしても、岩手はもう人前に姿を現さないんだろうなー……って。

そして曲がおそろしく格好よかった。四世杵屋佐吉作曲だそうで、これまた聴きたいなあ。能楽の『黒塚』も観てみたいな……。バレエやコサックダンス等ロシア舞踊のエッセンスも含まれ(そういやこのコサックダンス調、ころころした感じの猿弥さんが踊るので愛嬌があったわー)、この作品を創作した二代目(初代猿翁)の才気がたっぷり詰まった作品。これから四代目が踊って行くこの作品はどんなふうに進化していくんだろう。すごく楽しみでもあります。また観たいー。團十郎さん演じる祐慶も素晴らしかったな……。團十郎さんと猿之助さんが共演する『黒塚』は滅多にないものだろうから、そういう意味でも貴重なものを観た。

それにしても、これをちっちゃい頃観て感動して、お絵描きする程好き好きー☆(亀博でその絵が展示されてた)ってなる四代目って…こどもの頃からすごく変わっ…いや不思議な方ですね……。

『楼門五三桐』では猿翁丈八年振りの舞台復帰。配役が特別編成?になっていて、三人出ればいいとこ十人以上出ました。石川五右衛門の海老蔵、左枝利家の段四郎、真柴久吉の猿翁。久吉の家臣六人に、久吉の侍女三人。そして猿翁の後見に中車。海老蔵さんの「絶景かな」、よかったなー。このひとひとりで立つとき、ひとりで語るときの存在感が圧倒的。台詞回しもかなり独特なんですが、それがこの五右衛門には合っていたなあ。猿翁丈の出番は数分、しかし右手に持った柄杓をすっと上げるだけで全部持って行きました、シビれた。十数分の作品ですが、装置といい配役といい、ちょーゴージャス!拍手は鳴り止まず、カーテンコールもあり、晴れ晴れしい幕切れでございました。

そしてそして、あのー個人的な感想ですが、彌十郎さんが格好よくて格好よくてですね。これ迄自分、中村さんとこに出てた彌十郎さんばかり観ていたので、猿之助一座での彌十郎さんのなんて言うんでしょう、屋台骨っぷり、漢っぷり、客席からの歓迎されっぷりを目の当たりにしたのは初めてだったのです。自分が歌舞伎をぽつぽつ見始めた頃三代目が倒れ、猿之助一座が恒例としていた歌舞伎座七月公演も、スーパー歌舞伎も観たことがないままで…ああ、ここが彌十郎さんのホームなのねなんてしみじみしました。いや勿論他の一座でも頼りにされている方だと思いますし、中村さんとこに出ている彌十郎さんも素敵ですが!

いやでも観られてよかったなあ、猿之助さんとこにいる彌十郎さん…。そしてこれからも観ることが出来るんだ、きっと。七月公演が終わればまとまった休暇があるらしく、大好きなスイスへ行くのを楽しみにしているようで微笑ましい(twitter参照)。無事千秋楽を迎えられますように。そして元気で格好いい役者っぷりをこれからも沢山見せてくださいー。



2012年07月07日(土)
『天日坊』

『天日坊』@シアターコクーン

うーわー面白かった、よかったよおおお。五代目勘九郎が始めたコクーン歌舞伎と言うバトンを、六代目勘九郎が受け取ったようにも感じられました。勘三郎さんもこれを見て(ご覧になられたようでよかった)「俺だってまたすぐ出るもん!」とか思ってるかなあ。コクーン歌舞伎の座組がこれからどうなっていくか判りませんが、元気になった勘三郎さんをコクーンで、いやあらゆる劇場でまた観たいです。

それにしても…気の早い話ですが、勘三郎の『法界坊』、勘九郎の『天日坊』と言われる日が来たらいいななんて思ってしまいましたよー。昼夜で連続上演とかさ!夢が勝手に拡がるわ。この作品は六代目勘九郎のレパートリーとして、新しい歌舞伎座でも新橋演舞場でも平成中村座でも持ってけるのではないか。これは再演されると思うし、上演が重ねられていくと思います。て言うかまた観たい!なるべく早く!

明治以降上演されておらず「生きている人間が誰も見ていない」河竹黙阿弥の『五十三次天日坊』が、平成の世に宮藤官九郎の『天日坊』として甦る。得てしてご都合主義にもなる歌舞伎の常套句、「実は」「後の」を逆手にとった脚色は、現代の天日坊=若者の「俺は誰だ?」を悲劇として浮かび上がらせる。あのとき三婆から話を聞かなければ、酒を三婆に持っていったのが自分でなければ。人間に魔が差す瞬間を鳥瞰で観察し、魔が差した人間の背中に張り付いて心情を描写するかのような冷酷さ。普通の心根のいい子が一瞬の惑いで人生を反転させる、そんな境界線をゆらりと描く。

序盤はほぼ現代語調の台詞。笑いもトバしてて、この辺りは『大江戸りびんぐでっど』を思い出してぬぬぬこっからどう運ぶ?とドキドキ観ていたところもあったのですが、この笑いが後にはっとするせつなさ、悔しさとして効いてくる。天日坊が大江廣元と向き合うとき、兄弟のようにじゃれあっていたときの法策と久助の姿を思い出す。そして前半の現代語調があるから、大江屋敷詮議の場での七五調が、もう出会ったときのようには言葉を交わすことが出来ないふたりの立場を際立たせる。時貞と高窓の関係もそうで、登場時チャームとして提示されてさえいた遅刻と言う悪癖のため、時貞は高窓を守ることが出来ない。法策が何度も口にする「マジかよ!?」と言う台詞は、前半は笑いで、後半は翻弄される者へのせつなさとして迎えられる。

二度とあの時間には戻れない。後悔してもしきれない。宮藤さんのこういう悔しさの描写はとても手厳しい。

で、宮藤さんの構成、脚色の腕は勿論ですが、ブラッシュアップされてもやはり込み入っている場面と時間の並び、それに伴い変化する登場人物の呼び名(主人公だけでも法策、天日坊、義高と三つありますからね)を解りやすく提示した串田さんの整理術が見事でした。小屋の転換とその背景画(これも串田さん自ら描いている)で、今どこに誰がいて、何が起こるかをスピーディに示す。音楽、衣裳も含め串田さんの審美眼が隅々迄行き届いていました。そしてそれを全てとっぱらった大詰めの立ち回り。敵方を黒衣にし、真っ黒な壁面が徐々に迫ってくる。義高を知っている伊賀之介とかけはし、赤星はもうこの世にはおらず、天日坊は葬り去られた。法策を知っているのはもはや大江廣元と平岡平蔵のふたりだけだが、彼らはそのことを胸に秘めたまま生きていくだろう。戒名もなくあの世の手前で暗闇に呑み込まれる主人公の最後の姿は法策か、天日坊か、義高か。閉塞感で充満した舞台を見詰め、ただただ立ち尽くす(座ってるが)。この幕切れの、死(肉体的な、そして存在を消される――最初からいなかったことにすらされる。あの斬り合いで命を落としていなくとも社会的には存在しなくなる)の表現には総毛立ちました。

あと、所謂歌舞伎の型から逸脱した表現がどれも印象に残った。高窓を斬った後、地雷太郎とお六の間に流れる空気。そして裸舞台になってからの大立ち回り。今回立師に前田悟さんのクレジットがあり、新感線を連想するスピードの殺陣だったのですが、それに歌舞伎役者の身体を通し、自分の存在を命懸けでつかみ取ろうとしている若者たちの悲壮と言う心情を乗せる。勘九郎、獅童、七之助が魅せに魅せてくれました。若い世代ならではの、筋肉がしなる殺陣。がむしゃらであり乍ら武将の血を引く「義高」の片鱗を見せる、と言う複雑な法策の立ち回りを鋭さで見せた勘九郎さん、スバラゴイ(ヨタロウさん語)!

そう、そんでここの七之助くんがすごかったんですよ…客席のあちこちから歓声ともつかぬ声がわっと漏れたんです。あの舞台に駆け込んできたときの鮮やかさ、すごかった。駆け込んできたとすら認識させない、二本の脚を交互に動かして来たとは思えないみたいな…あのー情緒のない例えですがセグウェイに乗って来たみたいな……シュッてきたの、シュッて!全身から立ち上る殺気、絶命するときの美しさと言ったらなかった。命が肉体からパッと離れた瞬間が目に見えたかのよう…ツバメが戦場に飛び込み、撃ち落とされてぽとりと落ちる迄の数分を見るかのようだった。ああっセグウェイじゃなく最初からツバメって言えばよかった!

絶命と言えば新悟くん演じる高窓の最期も素晴らしかったよ〜(涙)『ヤマトタケル』のお父さんともども素晴らしい死にっぷりでした……!

そして音楽!トランペット(六管!)の調べは、登場人物たちの危うい心を照らし出してくれました。THE THRILLの平田直樹さんが音楽、メトロファルスでもおなじみ熊谷太輔さんが演奏で参加していたのも嬉しかった。と言えば、熊谷さんと関根真理さんは交互出演と言うことだったけど、千秋楽ってふたりとも出てませんでした…?あとツケ打ちが下手側から聴こえてくるのも新鮮でした。これは単にスペースの問題だったそうで、松本公演では上手側に位置するそうです(今回の附打、山徹さんのtwitterはこちら)。

そんなこんなで座組が素晴らしかったよー!勘九郎さん七之助くんのもとに、同世代と後輩、胸を貸してくれる先輩たち、現代劇からのメンツが集った。獅童さん、ああいう刹那な役柄すごく合うね!衣裳(詮議の場以降の盛装すっごく板についてた)ともに大きな芝居が余裕と優雅に転ずる。ロックスターたるやの貫禄すらありました。あ、そういえば最後の大立ち回りの法策を見てたとき『浪人街』で獅童さんが演じた赤牛を思い出した。彼も絶命後、さまよう魂が呑み屋に帰っていくって描写があったんだ……。その獅童さんと亀蔵さんの、族の集会なやりとりにはちょー笑った…てか亀蔵さんすごい…お三婆さんのスロ〜モ〜といい、赤星のおっさんヤンキーと言い、なんでそんなにおかしいのか!なのに格好いいのか!コクーン歌舞伎初登場の巳之助くんと、新悟くんのカップルはすごく活き活きしてた、そしてかわいいそうだった……。歌舞伎役者たちと五七調で渡り合った白井さん、客席との橋渡しを担当した公園くん、そして真那胡さんも格好よかったわ…つーか白井さん、一幕の久助がちょー気のいい下男って感じだったのがまたよかった…これが二幕での、天日坊を裁く際の逡巡に活きた。また歌舞伎に出演してほしいなあ。

千秋楽だったのでカーテンコールも盛り沢山。勘九郎さん泣いてたみたい。黒衣さんたちも総登場、ラッパ隊が客席を練り歩く。3回目のカーテンコールでは、幕が上がるとお三婆さんがひとりゆ〜〜〜〜〜っくり帰っていっている後ろ姿が…これにはもう大ウケ。て言うか亀蔵さん、赤星からお三婆さんの扮装に着替えてるってのが!盛り上げ上手な獅童さんが煽る煽る、勘九郎さんもスライディングで登場、客席から呼び込まれた串田さんもスライディング。その後がまたおかしくて、再び幕が上がると今度はお三婆さんが猛スピードで舞台を横切ってった(爆笑)。勘九郎さんがサンバ踊って、俺はもういいからおまえが踊れと巳之助くんに促して(こういうとこ勘九郎さんほんと謙虚…)、いやそんなってなってた巳之助くんが意を決してサンバを踊り、こけ、新悟くんがああっ時貞さま!と駆け寄って抱き合ってたら幕が下りて来た(笑)いーやー楽しかった!

河竹黙阿弥と四代目市川小團次がこの上演をどこかで観ているといいな、なんて思いました。

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その他。

・あの、化け猫の声ってやっぱ彌十郎さんだよね……?
・ねこがこんなに出てくるとはー
・ねこの手ぬぐいほしかったー(売り切れてた)



2012年07月05日(木)
『ウイルス』

大駱駝艦 天賦典式 創立四十周年公演『ウイルス』@世田谷パブリックシアター

年一回は観ているような気がしていたけど、天賦典式が二年連続で上演されるのってすごく久々だったんですね。アトリエ壺中天で若手が常に公演を打っているし、麿さんのソロもあるし、海外公演に出掛けているしで、大駱駝艦はずっと航海を続けている。港々に女あり?と言う訳で二年続けて世田谷に寄港してくれて有難うー、四十周年おめでとうございます。

以下ネタバレあります、未見の方はご注意を。

音楽が近年レギュラーだった千野秀一さんから土井啓輔(土井さん起用って昨年の『灰の人』からかな。麿さんのソロでは『Gは行く』から参加されているようです)、ジェフ・ミルズ両氏になって、それに伴いをどりも新鮮に感じたパートが多かったです。『灰の人』からダンサーの発声が増えてきたように感じていたのだけど、今回もそれが顕著でした。言葉もあった。音の飛ばし方も面白かった!劇伴とダンサーが発する音声を交互に出すとき、地声じゃない音が聴こえるんです。女性ダンサーたちが、はっきりとした歌詞がある「ふるさと」を唄う場面があるのですが、それにもエフェクトがかかっていたような……あれどうやって音拾ってるんだろう?キュー出しの発声も多かった。これは今回ビートを均等に刻む音楽があるので(結構ハッキリした四つ打ちもあった)、それとは違うビートを表現するためかな。

音楽が変わるとをどりも変化するのか、あるいはをどりが変化していっているから音楽を変えていくのか、どちらなんだろう。天を目指す西洋のダンス、大地に根差す東洋の舞踏。ここのところ跳躍が増えてきている印象があったのですが、今回はそれに加え、四股を踏むと言う型で跳躍を見せるところがありました。ウイルスの浮遊感がこういう形で表現されたのかなと思ったり。

オープニングに何故「カンブリアの思い出」と言う場面表題がついているのかは判らなかったけど、艦員たちが蠢いている最後尾にすっと立ち続ける麿さんの存在感がもんのすごくてしばし釘付け。このシーンで麿さんは何もせずただ立っているのだが、ここ迄くると、動かない存在そのものが「をどり」になるのだなと。反面きつねちゃん(FOXP2)とのオッスメッスな絡みのあとしょぼくれおじいちゃんになっちゃったりするところがかわいい。麿赤兒火の輪くぐり七連発も魅せたぜ!(嘘です鉄の輪です火はついてません)そして最後はジェンダーフリーダムな美輪さまカラーウィッグ(あの色のは初めて見た)で現れるときた…す、素敵過ぎる。

あかんおかしくなってきた。いや真面目な話、最初は雄的な強さを見せつけていたところ最後は性別を超越したかのような存在として現れるところにおお!となりましたよ。ウイルスと言うテーマをこう描くのかーと。さまざまな生き物にくっついてって、共生しつつ生き残る。交わったきつねちゃんはその後メッスたちに食べられちゃうんだけど、それも命を繋ぐことだなあと思ったり、ってこの解釈で合ってるのだろうか。そう見えました。

きつねちゃん役は『灰の人』でもとても印象に残った我妻恵美子さん。このひとのソロちょー格好いい!前の席だったので表情もよく見えたんだけど、オッスたちにとりついていくときの蠱惑的な顔、オッスがいなくなってつまんないな〜な退屈顔、麿さん見付けてわあオッスがいたあ! キタワァ*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(n‘∀‘)η゚・*:.。..。.:*・゜゚・* !!!!! てなった顔、いやーんかわいい美しいおっかない!おっうぉううぉ〜お〜、女ぎつね on the run!きつねだけに!(ベタ)

あ、でも舞台上に蜘蛛の巣状に拡がってた縄とかは上から見たかったー。SePTの二〜三階席って所謂「上に積む」つくりで、高さはあるけどステージからの距離は長くないからすごく綺麗に見えたんじゃないかなあ。しかしほぼ毎回千秋楽を選んで行ってたんだけど今回初日に行ってすごく楽しかったなー。作品初演の初日を迎える緊張感と高揚感、あれは他の日にはない空気だった。麿さんに大向こうもかかってました。

あとここんとこ毎回言ってるが衣裳(特に女性ダンサー)がむちゃ素敵!堂本教子さんが手掛けているとのことです(サイトはこちら)乳さえ出なければ着たい。

と言う訳でうわー面白かったよー麿さんかっけーと呑み屋で話してたら傘忘れてきた。とりに行かねば……。