初日 最新 目次 MAIL HOME


I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
kai
MAIL
HOME

2012年05月30日(水)
LÄ-PPISCH 25th Anniversary『Tag of war』Vol.1

LÄ-PPISCH 25th Anniversary『Tag of war』Vol.1@SHIBUYA-AX

「おばあちゃん、その話はさっきもしたでしょう」と言われそうだがもうこれは自分がもの忘れが酷くなったときに読み返して思い出す用なんですと言うことで勘弁して…あともうボケちゃってて記憶の改竄が行われているかもしれないので間違ってたら指摘して……。そして気味悪いくらい長いんでご注意を。

レピッシュは10th Anniversaryの時にも対バンシリーズ(『10年目のQ』。『Q』が出た後ですね)と言うのをやったのですが、そのときの相手がスカパラとBUCK-TICKだったんですね。で、BUCK-TICKはあっちゃん(櫻井さんを素であっちゃんと呼んでしまうのはこのシーンを通った世代の病気です)の急病(腸閉塞かなんかだったかと。「(しばらく意識がなかったので)チ○ポにカテーテル入れられたぜ!」て話してたのを憶えている…流石ポコチンロックは言うことがふるってるわ)でキャンセル→急遽ワンマンになり、スカパラはスカパラで冷牟田さんが復帰出来るか判らない時期で、メンバーが揃わない状態で出演してくれたのです。当日、冷牟田さんが休養している理由と経過が書かれた紙が配布されました。ライヴ自体はとても楽しかったし内容も素晴らしかったんだけど、旧赤坂BLITZを出たところで「でも、残念だったよね……」と話したことを憶えています。

なので、25th Anniversaryでこうやってまた対バン出来たってことがすごく嬉しい。マグミも言ってたけど「長くやってるとこうやってまた一緒にやれる」ってね。冷牟田さんとはまた出来なかったけど、これも長くやってればひょっとして、ね。これもマグミが言っていたことだけど、「いろいろ背負っていくものがある」って言葉はこの両バンドにはしみる。BUCK-TICKとは同期なので彼らも25周年。続けることの大変さと、だからこその凄み、重みってのはあるもので、そしてそれを観られることはとても嬉しい。

とは言うものの、悪い方悪い方へとものを考えがちなので、当日始まる迄「スカパラに何かあったらどうしよう!」「マグミも腰大丈夫なんかな…」「地震で中止とかなしで!」とかドキドキしていた小心者ですよ……。いやはや無事始まって、無事終わって本当によかった。「家に帰る迄が遠足です」って言葉が年々実感を伴ってくるわ(苦笑)。

先攻スカパラ。観たのすごい久々だったんだけど(四年振りだった。冷牟田さんが在籍していた最後のツアーかな…)opでいきなりつよしくんがセンターでオラオラ弾いたので腰が抜けました、嬉しくて。私のスカパラオシメンはずっとつよしくんですよー!キャー!2曲目に早くも「ルパン三世’78」、そして3曲目「SKARAVAN」ではローディくんがステージ中央にセッティングしたばかりのマイクスタンドをつよしくんが蹴り倒す。ギャー何なの格好いい!ワイルドだろ〜!加藤くんも何すんのみたいなリアクション(笑)苦笑し乍らローディくんがまたなおしに…おつかれさまです……。それにしてもめちゃ攻めのセット、アガるわー。谷中さんの毎度ちょーハッピーなご挨拶で序盤から盛り上がる盛り上がる。谷中さんバリサクソロもあって格好よかったな……。

欣ちゃんがMCで「学生の頃から聴いてたレピッシュと対バン出来るなんて!」みたいなことを言っていて、ああそういえば欣ちゃんが加入してからの対バンは初めてなのかな…と思い、ここにも時の流れを感じたなー(調べてみたら2002年にイヴェントで共演はしていたようです。欣ちゃんがスカパラに加入したのは2001年)。「当時のtatsuさんはあんな髪型じゃなかった」だって(笑)。しばしウットリエモい喋りをした後、「僕いつもこういう喋りなんです」て断ったのが面白かった。やっぱ対バンだとその辺り説明した方がいいって自覚が…あるんですね……(笑)。そしてその欣ちゃんVo.で「めくれたオレンジ」!わーこれが聴けるとは!嬉しい!

「25周年おめでとうございまーす!」と加藤くんがギターをかき鳴らし、北原さんがサックス&ブラス・マガジンとのコラボpBone(かわいい!)を演奏したり、ナーゴが馬の首ぬいぐるみを被って馬のヒヒーンをTpで吹いたりとサービス精神も毎度乍らすごい。このときGAMOUさんが馬だ馬だと叫んでいてそれにもウケた。スカパラ今ツアー中なんですよね。ふとステージに立つひと、のことを思い返したりもしました。役者もミュージシャンもそうだけど、彼らがステージに立つことは日常。しかしライヴを観にくる土地土地のひとたちにとってそれはスペシャルなこと。その日を楽しみにして、オシャレして、いろんな期待を胸にやってくる。それら全てを受けとめて、どの土地でも、どのライヴでも皆がスペシャルな思いを抱えて帰路につけるようなライヴをする。そのショウマンシップには頭が下がります。

一時間くらいだったのかな?にも関わらずまるでワンマンだったかのような濃い内容。湯上がりみたいになって出て行くひとがいっぱい。一旦フロアががらんとなって、しばらくするとビールやドリンクを持ったひとたちが続々帰ってきました(微笑)。

後攻レピッシュ、出囃子は「KARAKURI」。この演奏には雪好も上田現も参加してるんだよなと一瞬思いました。もうどうやってもあの5人が揃うことはないけれど、ライヴハウスで大音量で、この音が聴けたのは嬉しかった。1曲目は「OUR LIFE」、ギターソロでいきなり音が出ないと言うトラブル。恭一がさあソロ弾くぞ〜ってな態でギターを交換した直後だったのでガクッとなった。あれ?と例の両腕あげるポーズで固まってる恭一にローディくんが駆け寄っていく、たのむよー。されるがままでコードの接続なおされてる恭一の姿にはちょっと和んだ。で、音が鳴ったらテへペロして弾き始めたぞこの男!あのデカい口でな!このやろう萌えるじゃねえか!

対バン効果かアゲアゲの連発、いくつになってもこういう負けず嫌いが表に出るところが“らしい”。スカ多め、ホーンセクション多めの曲を並べてきた印象で、これはやっぱ相手がスカパラだったからかなと思ったりしました。そして奥野さんが参加した効果、ライヴを重ねる毎に実感を伴ってくる。メンバー紹介のときマグミが奥野さんのことを「思ったよりすごい風を持ってきた」と言ったんだけど、メンバー自身にも相当な手応えがあるのだろう。演奏可能になった曲が確実に増えたし、その楽曲のポテンシャルが最適な形で発揮されている。あのピアノ、あのアコーディオン。「FAMILY」に「LAULA」なんて、聴いたの何年振りだ…そうそして奥野さんのアコーディオンで「ハーメルン」が聴けたの。3月の『25周年のその1』ではやらなかったのでこれはキた。

マグミが風と言う表現を使ったことが印象に残った。「10ルピー払ってボクは風を待つ だましてもいいぜ ずっと待ってる」を思い出した。待っていた風がきたんだ。

メンバーが水を得た魚のように見えた。この編成で演奏が出来る、このメンバーで暴れられる。実際皆すごく暴れてた。恭一(何度も奥野さんのところに寄って行ってたな)も増井くんも、奥野さんも。矢野くんは動けないのであれだけど(笑)。tatsuのあれやこれやがあんなに表に出るのも珍しいよね…(tatsu比)。マグミはジャンプを連発してて正直ヒヤヒヤした。4月にギックリ腰をやって、直後のARABAKIには車椅子で出演していたそうなので、大丈夫なんかと思うよね…こういうことあんまり言うと悲壮感が漂ってしまうのであれなんだけど、でもやっぱりこの歳になると心配になるのよ。そしてこの歳になるとノホホンとはやってられない、決意と言うものが必ず必要になる。レピッシュのことをいちばん好きなのはマグミなんだろうなと思うし(このインタヴューでも「最後までレピッシュをやって」なんて言ってるしね…こういうことをてらいなく口にするようになった)、実際茶化し抜きで、ステージにいる彼は死にものぐるいだ。だからMCで数も数えられなくなるのよ(笑泣)。下ネタと誰もついてこれない間合いは元来のものですけどね……。

そうこうするうち「LOVE SONGS」のイントロ。ええっやるの!?いやでもやるにしても、あれはやらないだろう今日は…「腰もいい具合になりよるけん」とさっき言ったけど完治はしてないでしょう、無理はしない方が…明後日もあるんだし……と思いつつ演奏が続くのをドキドキしつつ眺める。そのうちマグミが2回水を吹いて、ペットボトル投げて、クラウドに中央に集まれってなジェスチャーを始める…おいおい……やりましたよクラウドサーフで往復。流石に泣いた、ここは。大人は無理をするんだよ、大人げなくな。

しかしその往復スピードが過去最速であった。杉本が「今日速いー!今日速いー!」と二度叫んだ程だった(笑)。泣き乍ら笑ったわよ!AXでクラウドサーフを披露したのを観たのは20周年の単独筋少との対バンのときだけど、どちらもこんなにサクサク運べなかった…これはひとえにスカパラのファンの方の身体能力なのではと。てかスカパラファンって、このバンドにしてこのファンありと言うか、ヘルシーでタフなイメージがあるよ。で、レピッシュはひねくれ者が集まるし、筋少は文系なイメージ。偏見なのかこれ……いやでも実際あのスピードには瞠目した(笑)、マグミの腰の負担も軽くて済んだんじゃないかな…ありがとースカパラファンの方々!

そんなこんなでマグミに釘付けだったんですが、目を戻してみればステージから落ちかかった箱状の何かを抱えてスタッフがあたふたしている…キーボードですやん。なんでそこにKeyがある……奥野さんが抱えて前に出てきていたらしい(爆笑)何しとん。その後本編最後の「MAGIC BLUE CASE」のときにスタッフが奥野さんの周りにSaxを置こうとしているのか片付けようとしているのか不審な動きをしており、何やってんだろうと思ったんだよね……。

アンコール、マグミが「メンバー紹介のとき言い忘れた」と上田現の名をコール。「言っとかないと後でイタズラされるかも知れないんで」だって、確かにいろいろやられたもんね(笑泣)。続いて誰もついていけないマグミのMC。だんだん客がひいていく。いやあの…スカパラファンの皆さんひかないで…欣ちゃんや谷中みたいな、どのバンドにも不思議トークするひとがいると思ってくれると助かる……。「LAULA」ではtatsuの貴重なコーラスも聴けた、うわー!

そしてスカパラホーンズと大森さんを呼び込んで、マグミとしばしゆるゆるトーク。つきあい長いのでいろいろ面白い話が聞けた、どこ迄ホントの話かわからないとこもオモロい。初めて会ったとき谷中くんはまだ十代だったとか。あーでもそんなもんだよね、私もスカパラ初めて観たとき谷中さんまだ大学生だったもん(ひぃ)。で、マグミに「どうしたら俳優になれますか」って訊いたとか(爆笑)その頃からずっとシャツの襟がデカいとかあっはっは。GAMOUくんとは初めて会ったとき歳上だと思ってたら下でショックだった、でもずっと変わらないから今では全然下に見える。北原さんにだけは敬語だった…「唯一の歳上だから」だって。北原さんの黒幕っぷりがわかるわ……(笑)ヒットスタジオのときは有難うございましたとか言ってた、あったあった!ナーゴには「同じステージでトランペット吹きたくない」(笑)、大森さんとはスカパラより前、明大に出入りしてたアマチュアバンドの頃からのつきあい。「四十代美形ランキングで俺より2つ順位が高いので同じステージに立ちたくない」、これずっと言ってたけどどこのランキングなんだよ!と言う訳で「予想通りの」お待ちかね、オーラスは「パヤパヤ」!スカパラホーンズ+マグミ+増井くん+奥野さんの計7管、圧巻!

……さらっと書きましたが奥野さんがホーンにいたんですよ。A-Sx吹いてた。奥野さんtwitterでどなたかに「もうSaxも吹いちゃえ」とか言われてたけどさ、ホントにやりよった………。いやもう奥野さん、ドットのシャツに細身のスーツと言いちょっとだけ逆立てた茶髪と言いその挙動といい、あの、どこ迄意識してるか判らないけどホント現ちゃんに……根っこに通じるものがもともとあったのかも知れないけどいろいろとビビるわ。25周年のあれやこれやは全部関わってくれるのかしら、ホント有難うございます。

tatsuが笑い乍ら演奏する程(!)楽しい時間ももう終わり。最後、tatsuはスカパラとハイタッチもしてた。ホント珍しい…皆笑顔で帰っていく。谷中がマグミをやさしくハグしててごめんすごい笑ったけどジーンとしたわ。最後はマグミと大森さんが肩組んでレッドカーペットのフォトセッションみたいなポーズとって帰っていきました。こうやって並ぶとマグミと大森さん、シルエットが似ているね。

思えば現ちゃんが亡くなってから、こんなに笑ったレピッシュのライヴは初めてだった。

-----

セットリスト

(KARAKURI)
01. OUR LIFE
02. CONTROL
03. 無敵のサラリーマン
04. おやすみ
05. リックサック
06. ハーメルン
07. FAMILY
08. VIRUS PANIC
09. COMPLEX
10. ワダツミの木
11. 美代ちゃんの×××
12. LOVE SONGS
13. MAGIC BLUE CASE

encore
14. LAULA
15. パヤパヤ

-----

NEXUSのライヴレポートはこちら→・『レピッシュとスカパラが合体で”パヤパヤ”! 華々しい幕開けの第一夜』



2012年05月25日(金)
『ミッション』

イキウメ『ミッション』@シアタートラム

前作『太陽』がドッシリくる内容+描写だったので、今回は清々しく観た部分もありました。『太陽』のラストもある種の決着があるものでしたが、『ミッション』のそれは決意する人間の悲壮感や諦観、後悔とはまた別の、ポジティヴなその後を示すまっすぐさ、素直さがあり、それをこちらも希望を持って受け止めることが出来ました。

そしてどうもイキウメとなると赤堀さんの話をしたくなるのだが(笑)、そもそも前川知大と言う作家を知ったのは赤堀さんのおかげなので、もー赤堀さんホントありがとー!と言いたくもなるのです。今回は、3月に上演されたTHE SHAMPOO HATの最新作『一丁目ぞめき』を思い返したりしつつ観たところもありました。あとどちらも暴力、抑圧描写が巧い(…)。以下ネタバレあります。

たまたま自分がこの作品を観た日は急な雨で、会社に置いていたビニール傘を差して劇場に向かった。たまたま数日前にシアタートラムがある駅と同じ沿線、すぐ近くの駅で刺傷事件があった。芝居のなかで、ビニール傘でひとを刺すシーンがあった。

どうしても現在を掴まえてしまう演劇と言うものはあるが、これを単なる偶然と思うか、シンクロニシティと受け取るか。現象に因果を見出し、意味を持たせ、それを自分自身の行為と存在意義に結び付ける。それはときには奇跡になり、ときにはただの偶然と終わる。それについて考える力は、病気だとか、宗教だとか言う名前が付けられる。衝動はミッションなのか?それに従うか、抗うか。選ぶのは自分になる。世界に生きると言うことは社会に生きると言うことで、自分以外は他人しかいない。使命は信念と紙一重で、社会で生きるには責任が伴う。社会に生きるひと同士が言葉で相手を理解するのはとても難しい。理解者は自分のことを決して理解していない、しかしその存在があると言うことはとても幸福なこと。

客演が三人おり、劇団員を贅沢に使ったなあと言う印象でした。勿体ないとも言える程。今回劇団に文芸部を設け、外部から演出家(小川絵梨子さん)を呼び、ディスカッションを重ねて芝居を組み立てていったそうなのですが、劇団の本公演で客演を呼ぶケースと、あらかじめ主演が決まっているプロデュース公演に劇団員を参加させるケースの違いを考えさせられました。とはいえ、こうしたちいさな積み重ねが台詞のやりとりのテンポの良さに繋がり、説明的な台詞の堅さを和らげていたように思います。次回のキッズプログラム『暗いところからやってくる』も同じ作演出コンビとのことなので、ここから劇団員がどう変化していくか期待が持てます。辛抱強さが必要な方法でしょうが、長いスパンで考えると今後劇団にとって財産になるのではないかな……。

そうそうテンポがよかったんです。「おまえの妹ブス!」「なにをっ、おまえの弟…弟……くうぅ!」、「兄貴はきっと馬鹿にする」「おまえは見下す」のやりとり等、返しの間がいい。浜田さんと盛さんは長年の阿吽の呼吸があるのでしょうし、安井さんはお笑いの方なので、ボケツッコミの体得があるのでしょう。この辺り、稽古を重ねて組み立てていったのではないかな…言葉が身体に即している感じがした。夫、息子、義妹へのちょっとした口調の違いで、相手との距離感を表現する岩本さんすごかったなー。盛さんが矢継ぎ早に単語を連発するシーンは聴覚がゲシュタルト崩壊を起こすような錯覚を感じさせ、そのシーンを立体的に見せていた。話していることは妄想か?病人が言っていることか?宗教的なことか?そして皆さん声がいい。

盛さんと言えば、件のビニール傘のシーンがものっそい怖かった…『太陽』での森下さんが演じた役がそうでしたが(そして今回、その森下さんが暴力の対象になる側だったことにもゾワーとした)、悪意を悪意と自覚せず、暴力と遊戯が同じラインにある。

今回大窪くんがつらい役回りなのですが、彼のミッションをミッションと自覚する前と後の変化が見事でした。彼が加茂さんに対して起こすとある動作が、その後大窪くんと安井さんで繰り返されるシーンがあります。その衝動はアオカンになるのか、救済になるのか。安井さんが大窪くんを抱きしめるシーンは深く印象に残りました。

あと単純なところであたりまえと言えばあたりまえなのだが、そのひとがその役でちゃんと見える。『太陽』で軍服似合ってあら素敵、なんて思った浜田さんがちょーもっさいあんちゃんで、ギャグももっさい。世代を感じました(笑)わかる、わかるで……。渡邊さんや井上さんは、終演後配役表を見てあまりに印象が違って驚きました。今度他の作品で観たときすぐ「あ、あのときの!」て気付く自信がない……これって何げにすごい。

鏑木知宏さんの音響がよかった。トラムの空間を隙間なく埋め尽くす雨音がホワイトノイズに転じたような瞬間があって、ここにも聴覚のゲシュタルト崩壊を感じたなー。土岐研一さんの美術も印象的。トラムの横幅をいっぱいに使ったステージ。ジグザグの傾斜と、演者自らが移動させる支柱によって、そのシーンの空間と距離感、経過時間を示す。ルールの提示が非常に整理されていて、具象のセットがないのに転換がとても自然。視覚聴覚ともに、面白い体験が出来ました。

『一丁目ぞめき』のことを思い出したのは、家族の修復能力について。赤堀さんが描く家族のそれと、前川さんの描いたそれを観られたことは、個人的に興味深いことでした。発端、経緯、感情の表現の違い。そして共通点。前川×赤堀作品、また観たいな。

弟が怪我を負ったことで家族の綻びが露になったけど、皆が笑顔で揃った。川縁の家は流されたけど、入院していたことで師匠は助かった。そういうちょっとしたことが、全て繋がっていると思える瞬間、そして世界。その些細な出来事が可能性になり、希望に転じる瞬間がある。見えない未来に決意を持つ。それを見られたことが嬉しかったです。



2012年05月18日(金)
『NATIONAL TREASURES -THE COMPLETE SINGLES LIVE-』2日目

昨日書いたステージセットの全景、プロショットのものは見付からないけど、観客が撮った画像がいくつかwebにあがっています。勿論演奏中の撮影ではないもの。地明かり込みの、とても美しいステージです。興味ある方は探してみてください。

-----

MANIC STREET PREACHERS『NATIONAL TREASURES -THE COMPLETE SINGLES LIVE-』@STUDIO COAST

二日目にして最終日。楽しみ過ぎておえーとかなってます。天気予報に戦々兢々、一所懸命仕事終わらせたのに豪雨や雷で電車が遅れるとか、ナシでお願い!とか思いつつ猛然と仕事をしていたら、入場時間ちょっと前に割と大きめの地震。ちょ、やめて……リハ中かしら、メンバー気付いたかしら、怖く思ってないかしらとハラハラ。これで電車が停まるとか勘弁!ライヴ中に地震きて中断とかダメ絶対!そんなことがあったら私は神を恨む。どの神だ。実際ライヴ中何度か揺れを感じてヒヤリとしたのですが、何事もなく進んだのでこれは客が暴れた揺れですね。無事終わってよかった。彼らが無事帰国する迄が遠足です。

前日帰宅後は、買ったTシャツを並べてニヤニヤしていました。そのうちやっぱ他の柄も買おう…トートバッグも買おう…と思い始める。会場到着後物販へ直行、何故か買う予定ではなかったマフラータオルも今手元にありますよ…大人なのに!物販ですら見境なくなる、これが一軍バンドです。『NATIONAL TREASURES』Tシャツのバックプリント、“INTERNATIONAL TREASURES”ってロゴになってるのにまたニヤニヤ。

さてグリフ。モジャモジャー!(あいさつ)前日とはまたがらりと違う雰囲気、コスプレ?もなしでスーツです。モジャモジャでスーツで…フレーミングリップスのウェイン…いや他に誰か……と思っていたら、後日きたはらさんから「平井堅に似てたってツイートがあった」と知らされ、それだ!と合点がいく(笑)。

内容も前日とは変えてきていて、今回は夜の森ぽくしっとりしっかり歌を聴かせます。SFAのアートワークの、あの妖怪たちが出てきそうな、かわいらしさと不気味さと。プレイヤーにとっかえひっかえアナログ載っけてたけどどこ迄有効だったのか聴き取れませんでした。やっぱりノイズを使っていたのかな。あとこのギターはスペシャルなんだ〜と楽器につけてた板をバリバリとはがし始めてウケていた(笑)。右利き用のギターを左で弾く用に改造したものかな?と思いました。最後に昔の日本の歌謡曲(?「これでさようなら〜」みたいな歌詞)もかけたけどあれ誰だったんだろう…ジャケットを掲げていたけど、自分の位置からは文字迄は見えなかった。

ニッキーのマイクチェック、スタッフがスタンドを大きく傾けて口を近付けてる。こうやって見るとや、やっぱおっきいよね……。前日のニッキー、ちょっとおとなしかったのが気になっていたんだけど、ミッチさんのブログによるとやはり腰痛等で万全ではなかった様子。以前のキャンセルも確かこれが関係していた筈…職業病+持病ですよねもう。長時間飛行機に乗るのもつらいのに来てくれて本当に有難う。しかしミッチさんせめて長身て書いてあげて、巨体て言わないで(笑)。

前にいるふたりづれが小さなウェールズの国旗を持って待ち遠しそうにしている。かわいい。ミッチさんがカメラマンピットに入っていくのを見届けて、「Speed Of Life」が流れてきて、最終日のはじまり。

-----

セットリスト(画像はミッチさんとこから)

01. YOU LOVE US
02. LA TRISTESSA DURERA (SCREAM TO A SIGH)
03. EVERYTHING MUST GO
04. FASTER
05. THE LOVE OF RICHARD NIXON
06. POSTCARDS FROM A YOUNG MAN
07. AUTUMNSONG
08. SLASH 'N' BURN
09. FOUND THAT SOUL
10. NEW ART RIOT
11. INDIAN SUMMER
12. LET ROBESON SING
13. STAY BEAUTIFUL
14. P.C.P. (Acoustic Electric)
15. YOU STOLE THE SUN FROM MY HEART
16. SO WHY SO SAD
17. THE MASSES AGAINST THE CLASSES
18. KEVIN CARTER
19. SUICIDE IS PAINLESS (THEME FROM M*A*S*H)
20. ROSES IN THE HOSPITAL
21. DESIGN FOR LIFE

"ALL THROUGH HISTORY THERE'S BEEN THESE KIND OF DIVINE LOSERS THAT JUST TAKE A DEEP BREATH AND GO AHEAD, KNOWING THAT SOCIETY'S NOT GOING TO UNDERSTAND IT" K. KESEY

-----

「オゲンキデスカイ!」はーい!「LA TRISTESSA DURERA」のギターソロ前、ニッキーが「You're my guitar hero!!!」とジェイムズを振り返った。うわーん(泣)三人セットのときはひとりでサイドもリードも弾きまくり、同時に美メロヴォーカルも軽々とこなしているように見えていたジェイムズ。改めてサポートがいる演奏を聴くと、ようあれをひとりでやってたな…と思わされる。しかしサポートがついたらついたで、ギターはもっと饒舌になっているようにも思える。いやもうジェイムズはホントにすごい…毎回そう思うが……なんでこんなに歌も演奏も素晴らしいのー!

ニッキー、昨日よりは調子よさそう。よく喋ったし、「P.C.P.」後はキターヒョウ柄レギンス!BI・KYA・KU!!!フロアは男女問わず大喜びです。皆美脚を待ってたんだね…嬉しいね……。あんまり皆が喜ぶので、ニッキーが「そんなに僕の脚が見たかったの?」と言って大ウケ。そりゃ見たいに決まっとる。終わった後誰が言ってたか、「どんなバンドなんですか?」と訊かれて「ちっちゃくて機敏なデブとちっちゃくて動かないデブとミニスカートが似合う約190cmの美脚」って答えたって話……何ひとつ嘘は言ってない!全部本当!それがこんな美しい曲を奏でると思うか。奏でるんだよー!もうこの訳判らなさの素晴らしさ、自分のやりたいことに突き進む気持ちを大切に!それが女装でも!はーもはや人生の指針ですよ。

しかし今回、ロングジャケットを着たままレギンスだったのでなんてえの、江口寿史の描く絵のような、明石家さんまがよく言ってる女性のような、往年の飯島直子のような、あのー下履かないで素肌にニット、とかワイシャツ、てな感じに見えてドキドキしました(笑)。パンツが見えたらどうしよう!いやレギンスだからパンツ見えないけど!ニッキーのパンツなんてもう何度も見てるのに何今更……。

そうそう「NEW ART RIOT」聴けたよー。ステージに歌詞カンペはあったそうですが(笑)ちゃんとした演奏で(再)!これのep、演奏を差し替えることもせず再発し続けられている。信じ難いがジェイムズの歌もまだそんなに……しかし今ではあれですよ。あーこれも人生の指針だわ、過去をなかったことにしない!そして才能があってもそこに胡座をかかず、努力し続けることの大切さ!今の演奏で聴けて嬉しかったわー。ちょうレア。

「LET ROBESON SING」では来日前のメッセージ通りグリフが参加。ジェイムズが「グリフ・リース!」と格好つけて下手を指したら、上手側から出てきた(爆笑)。そのときのジェイムズの照れくさそうなキョロキョロはかなり面白かった…「あれ?」みたいな(笑)。グリフはメインヴォーカル、一曲まるまる唄いました。ジェイムズがコーラス、贅沢〜。これがまたいい具合にしっくりきていました。ウェールズの星!

そしてそう「P.C.P.」やったんですよ……ジェイムズのエレキ弾き語りで。『NATIONAL TREASURES』を二日間で、とのことだったけど前日「FURTHER AWAY」をやったので、今日も何かスペシャルがあるんじゃないのかな…と思ってはいたけどちょっと!よりにもよってここで「P.C.P.」て!あばばばば嬉しいやら涙出るやらもうたいへん。前日同様どの曲が鳴ってもわあああ!と叫んでしまう名曲つるべうちで、どんな曲か知っているのに、何度聴いてもグッとくるものばかり。「THE MASSES AGAINST THE CLASSES」では出ましたイチニィサンシ、待ってましたと言わんばかりにフロアも唄う唄う。

最後の曲だよと言ったジェイムズにフロアがえー!すると「40曲もやったやんけ!」だって(笑)いやはや有難うございます。「DESIGN FOR LIFE」の大合唱。何度唄ったことだろう。途中ジェイムズが、リッチーのポジションにマイクを持っていって、自分はマイクから離れた。うわもう限界、視界があっと言う間にぼやける。そういえばメンバー紹介の際、ニッキーが「Richey in da house!」って言った、確か。マニックスがライヴをするとき、リッチーはずっとメンバーと一緒にいるんだよね。

『EVERYTHING MUST GO』を出す直前のインタヴューでニッキーが「どんなに惨めでもいい、僕は生きていたい」と話していたことを憶えている。生きているといろんなことがある、こういうこともある。彼らは指針を示してくれる。だがそれは、リスナーを啓蒙しようとか、ファンたちを導いてやろうとか言ったものではない。プリーチャーたちは自分が進む姿を見せてくれるだけだ。

だから、彼らには、感謝しかない。



2012年05月17日(木)
『NATIONAL TREASURES -THE COMPLETE SINGLES LIVE-』1日目

MANIC STREET PREACHERS『NATIONAL TREASURES -THE COMPLETE SINGLES LIVE-』@STUDIO COAST

昨年秋にリリースされたシングルコレクション『NATIONAL TREASURES : THE COMPLETE SINGLES』の楽曲+「NEW ART RIOT」 「SUICIDE ALLEY」を全曲演奏するよと言う2days。トラックリストの順ではなくランダム。どの曲も絶対やるのは決まっているけどいつやるかは判らないと言う…タスケテ!もともとどっから切ってもいい曲しかないのに、そのいい曲がいつ出るかはお楽しみとか、全曲イントロドンでギャーてなるに決まっている。

振り返ればリアルタイムでいちばん長く聴き続けている現役バンド(UK)になる。活動休止期間があっても他のバンドのそれとは違い、なんだかんだとそう間を空けず新作を発表したりツアーに出たりしている。生真面目で実直なバンド。紆余曲折がどれだけあったかはもう気が遠くなる程なので(本当にそうなのだ)改めては書かないが、それでも幼馴染みが集まって始めたバンドは今も続いている。こうやって、生きている。

二十年弱のあれやこれやが曲毎に思い出され、走馬灯を見ているかのようでした。よすぎた。もはや大袈裟ではなく、自分の人生の傍にある音楽。あのときも、あのときも、マニックスを聴いていた。

会場に入ると『National Treasures』のアートワークに使われた女の子(女王陛下の方ね)の巨大なバックドロップ、ステージ両袖には桜の木。これだけでもう感極まる。世界一桜が似合うウェールズのバンドだな。「EVERYTHING MUST GO」のMVに桜が登場したとき最初にそう思った。桜をバックに撮られた写真もいくつかある。日本の文化に造詣が深い彼らは、メンタリティからしても日本との親和性を感じる。それが彼ら個人の資質なのか、ウェールズと言う土地に根拠があるのかは判らないが、マニックスの楽曲が浪花節や演歌に例えられるのもすんなり受け入れられるし、それを揶揄する輩のことは放っておける。

OAはSUPER FURRY ANIMALSのグリフ・リース。モジャモジャ〜。アコギの弾き語りに、数々の楽器や小物の音を載せていく演奏。メトロノームはBPMキープと言うよりリズムトラックとして、アナログプレイヤーはレコードをとっかえひっかえ載せるもトラックそのものではなくプツ、プツと言うノイズをやはりリズムに使っていた感じ。ブルースハープを演奏しつつ鳥の声のサンプルも鳴らしたり、それらが並べられているテーブルからして森の実演販売のよう!「ありがと ね」「拍手 お願いします」「おしまい。」と書いた模造紙も用意してました(笑・SFAでは恒例だったそうですね)。最後エプロンみたいなの着てたけどあれは演奏に関係あるんだろうか…と思って帰宅後検索したら、エプロンではなく飛行機のライフジャケットだったとのこと。自分の空目に白目。てかなんでライフジャケット……。

マニックスのセッティングが始まり、マラボーが巻かれたマイクスタンドが持ち込まれると歓声があがり、フロアがまだかまだかと言う空気に満ちてくる。隣の姉さんが通し券を失くしたとパニックになっている…だ、だいじょうぶか……見付かるとよい……。あ、ミッチさんだ。もうすぐ始まるな。ミッチさんは毎回そうであるように、ブログで来日した彼らの様子を書いていた。知っていることも、知らなかったことも書いてある。つきあいの長いミッチさんにしか撮れないもの、書けないもの。お箸でホッケをつつくジェイムズの違和感のなさには笑った。この呑み屋の光景、『Forever Delayed』でも見たな。

出囃子はボウイの「Speed Of Life」!大歓声とともにスタート。

-----

セットリスト(画像はミッチさんとこから)

01. MOTORCYCLE EMPTINESS
02. YOUR LOVE ALONE
03. OCEAN SPRAY
04. (IT'S NOT WAR) JUST THE END OF LOVE
05. AUSTRALIA
06. LOVE'S SWEET EXILE
07. SHE IS SUFFERING
08. FROM DESPAIR TO WHERE
09. THE EVERLASTING
10. EMPTY SOULS
11. REVOL
12. THERE BY THE GRACE OF GOD
13. TSUNAMI
14. FURTHER AWAY (Acoustic)
15. SUICIDE ALLEY
16. LIFE BECOMING A LANDSLIDE
17. THIS IS THE DAY
18. SOME KIND OF NOTHINGNESS
19. LITTLE BABY NOTHING
20. MOTOWN JUNK
21. IF YOU TOLERATE THIS YOUR CHILDREN WILL BE NEXT

"I WILL PIN UP MY SOUL ON THE WALL AND LET PEOPLE READ IT. THEY CAN LAUGH, THEY CAN CRY - IT'S UP TO THEM. I DON'T REALLY MIND." KEVIN ROWLAND

-----

Kondiさん(ミッチさんのブログ参照)の訃報は当時twitterで知ったのだが、直後ではない今の時期、それでもしっかり憶えていてメッセージと演奏を贈る。こういう義理堅いところはやはりマニックス、ではあるものの、それだけKondiさんがメンバーにとって大切な人物だったのだろうと思わせられる。この曲のMVは日本で撮られたものだ。もう何度観たか思い出せないが、曲が鳴るとその光景がぶわっと思い出される。一曲終わって恒例の「オゲンキデスカイ!」。箸の使い方といい、溌剌としたアクセントといい威勢のよさといい、築地の鮨屋にいそうな佇まいのジェイムズですよ。旨い鮨をどんどん握るぜ!この魚はこっから仕入れたんでい!あーアフレコしたくなる。昨年のネノムゲンフェスのときより身体が締まった感じ、ってこれも何度も繰り返してるな(笑)。このときは彼らが到着後大きめの地震があり、うわあごめん!こんなとき来てくれて有難う!と思ったものだった。確か本国ではお休み期間だったんじゃないかな。来日キャンセルが続いた時期でもあったので、来てくれたことは本当に嬉しかった。この辺り、他のバンドでもそうだけど、当分(いやずっとかも)そう思うんだろうな。あんな危険な国に行きたくないと思うひともいるだろうし、行かないで!と家族にとめられる場合もあるだろうし。

サポートにウェイン・マーレー(G)とKey、と言う布陣はここ数年同じですが、今回のKeyは久々ニコラス・ネイスミスだった!メンバー紹介のMCでもウェルカムバックと言われていました。彼らがいることで、ジェイムズが歌とギターパートに専念出来る。アコギやコーラス、タンバリン等のパーカッション(前回迄のサポート、ショーン・リードは生楽器で、ニコラスはKeyでサンプルパターンを鳴らして演奏)が入ることで、楽曲の美しさが際立つ。そんななか、三人だけで演奏した「SUICIDE ALLEY」にはもうねえ……いやあ、ちゃんと演奏出来てる!(笑)で、ちゃんと出来てると改めて格好よい曲だと感じるわー。一曲ごとに、次にやる曲は、とかその曲にまつわる思い出なども話す。ニッキーが「丁度二十年前の今週に初めて日本で演奏した、クラブチッタ川崎でね」と言った。日にちも憶えてくれているんだな。「REVOL」はリッチーへ贈られた。「彼は日本のことを愛していた」とニッキー。

曲間のMCでジェイムズはハーハー息をきらしてる。でも歌を唄ってるときはそれを微塵も感じない。演奏のテンポが遅くなってきている曲もある。でもその分丁寧に演奏してるのが伝わる。そのときどきの演奏を聴き続けられる幸福。「TSUNAMI」も、今聴くからこその感慨がある。演奏してくれて嬉しかった。アコースティックコーナーは日本でのみシングルカットされた「FURTHER AWAY」だった。スペシャルやで!

意外と若いひとも多く、コーストは盛況。しかも皆唄う唄う。ジェイムズもサビはこっちに任せてくれたりする。あの曲もあの曲もやった、でもあの曲もあの曲もやってない!と言うことは明日間違いなくやる訳で、こういう趣旨のライヴだからこその楽しみがいっぱい。裏を返せば今度いつ聴けるか判らない曲もある。そうなると一音たりとも聴き逃したくないし、ひとつひとつの音や歌詞を大切に、噛み締めるように聴く。それはもうすごい集中力で聴いていたと思います。時間が過ぎるのがこんなに歯痒いライヴもない。でも、時間が過ぎなければ次の曲が聴けない(笑)。ジ〜レ〜ン〜マ〜。終演後しばし呆然。アンコールはやらないバンド、それでも名残惜しい。

退場時に眺めた、基本の照明に浮かび上がるセットの美しかったこと。どこかに画像あがらないかな…ミッチさんはステージ周辺にいたので退きでは撮ってないかな…と、ミッチさんがどこにいるのかすらチェックしてしまう訳で(笑)。興奮してべらべら喋り、物販について語り(笑)、直前に来日していたモリッシーの話からスミスの話になり、ゲラゲラ笑って解散。ああっ明日で終わってしまう!寂しい!でもあれもあれも聴ける!楽しい!どうすりゃいいのよ。



2012年05月14日(月)
『PLAY VOL.1』

Shibuya La.mama 30th Anniversary『PLAY VOL.1』@Shibuya La.mama

ラママ30周年と言うことで、5月は特別プログラムのようです。そのなかの『PLAY VOL.1』、スガダイローTRIOとmouse on the keysの対バン。ピアノトリオだけど編成は違い、仕様も違い、しかしどちらも唯一無二の存在感。ラママさん素敵な対バンをありがとー!そもそもmotkは今回がラママ初登場だったので、どういった流れでこの対バンになったんでしょうね。いやはや嬉しい。スガダイローさんもずっと気になっていた方だったので今回観られて嬉しい。

先攻motk。メンバー3人とTsネモジュン(Z解散にはビックリした…)、Tp佐々木さんの5人編成。今月motkはライヴ強化月間なのか、本数多くて網羅は出来ない。ネモジュンが急遽来れなくなって、3人だけの日もあったようです…レア。行きたかった……。

ラママって面白い形で、ステージは下手に花道、中央から上手にかけての三角形。フロアは扇形に拡がっている。下手からDrs(川崎)、Key(新留)、Key(清田)で中央に三角柱の蛍光白色照明、上手部分にTs、Tpと言う配置でした。開演直前からスモークがものっそいたかれ、三角柱の照明とステージ側からの照明で逆光になり、メンバーのシルエットしか見えないと言う演出でスタート。おお、格好いい。そして楽曲がこれまた格好いい。序盤3曲はアウトロと次の曲のイントロを繋げてガンガン進める怒濤の展開。息つく暇もない。横に長いステージなので3人本館2人別館みたいな感じになってて、2人側は3人側と意思疎通するのがちょっと大変そうでした。「seiren」のときはネモジュンが川崎さんのとこ迄旅に出て、Drsと合わせてカウベル叩いたりしていた。ステージとフロアの距離も近いので、カウントいれる川崎さんの生声もよく聴こえた。構成が複雑なので、曲中でカウントいれる箇所が結構あるんですよね。

「a sad little town」ブレイク前後のドラムパターンをかなり変えてきていたのを筆頭に、よりインプロ的な部分が増えていた印象でした。リムショットの連打を入れてたのはどれだったか…これは面白かった。以前は全部プログラミングで作った曲を身体にたたっこんで生演奏、だから指や腕の自然な動きとは真逆の連符やリズムがあって難しい、みたいな話をしていたが、今はセッションで作っていくところも増えたのかな。今更だけど「最後の晩餐」のBPM決めてるのって清田さんなんだよなあ。この日はいつもより入りがはやく、BPMちょっと遅めだったような。「the arctic fox」では川崎さんがシーケンサーでリズムパターンを走らせつつドラムも叩く(これはメンバー2人のときからやってた)けどクリックを聴いてる訳ではないし、ライヴでの彼らはアクション含めフィジカル、演奏は骨太。やっぱり『動物のお医者さん』を思い出すわー、「ぶっとい足は大きくなる証拠」(笑)。余談だが最近周囲では川崎さんのこと「シーザー」でも通じるようになってしまった……。

MCは新留さんと川崎さんで。新留さんの髪が伸びてて、ヒゲ含め新井浩文くんみたいになってました(笑)。「ラママに出るのは初めて」「この対バンは嬉しい」「ラママと言えばジョン・ゾーンのコブラとか、コアなブッキングをしている印象」等々。「spectres de moude」が聴けなかったのは久々だったけど、新曲が聴けました。これがまた複雑なリズムとタペストリーのような和音の絡み合いがむちゃ格好よかった。新譜リリースも決定しましたし、他の新曲も早く聴きたいな。待ち遠しい。

さて後攻スガダイローTRIO。メンバーはスガダイロー(Pf)、東保光(B)、服部正嗣(Drs)。セッティングが一変、こちらは全てアコースティック楽器の編成です。グランドピアノとコントラバスが運び込まれる。機材トラブルもあったのか、サウンドチェックにちょっと時間がかかりました。

motkから続けて聴くと、音の丸さを感じます。生楽器、と言うか木で出来たものの温度と言うか。服部さんはこないだの『BOYCOTT RHYTHM MACHINE VERSUS LIVE 2012』で千住くんと対戦した方なんですが、今回は鍵盤打楽器や小物は少なめのシンプルなセット。ブラシとスティック、素手を使い分けていました。そう、ドラムキットを指と掌を使った素手で叩く音が柔らかくてよかったー。曲中演奏し乍らどんどん持ち替えていました。Bの東さんは弓も使い、摩擦音がスタッカートとは違うリズムを刻んでいて格好よかった。それぞれのソロをじっくり聴かせ、しかしそのソロがその後の展開を左右するのであとのふたりも笑ったり目を剥いたり、敏感に反応して曲の姿をみるみる変えていく。

タイトル紹介やちょっとした解説も挟んでくれて楽しかった。だって「山下洋輔」って曲があるんだもの!てか聴いてるときわー山下洋輔みたーいと思っていたのでブホッとなりました。最後の曲「珠算遊戯」がすごくポップでスリリング。「御破算で〜願いましては一円な〜り〜二円な〜り〜」を二十迄やる、と言うもので、ちゃんと音階で弾いていくのです。あの旋律がみるみる花が開くように展開していく。ホントに二十か?と途中迄数えていたが、どんどん曲が育つので判らなくなった(笑)。ご本人、終わったあと「二十より多くやっちゃった(笑)」と仰ってました。こーれーはーすごかったなあああ!また聴きたい!

ジャズのスタンダード曲を即興でどんどん折り込んでいくアンコールもこれまたすごかった。途中motkの清田さんが近くで聴いていたのですが、音楽に合わせてゆらゆら身体を揺らし乍らも真顔でスガさんをガン見していたのが印象的でした。

スガダイローTRIOの演奏前、ノイズ中村さんの楽しい前説?がありました。ラママおめでとーいや実は僕も今日誕生日なんです、ジョージ・ルーカスと同じなんですよ!南博さんとも…いわってー!おめでとーって言ってー!シーン(だだすべり)みたいな(微笑)。おめでとうございます…でも南さんの誕生日は15日なんです……一日早いですがお祝いしましたよ。で、「今日すごい対バンでしょう、二度とないですよ」なんて言ってしばし間があり、え?となったスガさんから「…なんでだよ!」とツッコミ入れられておりました。ウケた。二度とないなんて言わずまたやってー!



2012年05月12日(土)
『シダの群れ 純情巡礼編』

『シダの群れ 純情巡礼編』@シアターコクーン

岩松了任侠シリーズ第二作。第一作はこちら→(『シダの群れ』)。個人的にはかーなーりー好きな舞台でした。いやあ、よかった…じわっとくる……今でもきてる……。独立して観ても問題ない内容ですが、前作を知っているとああ…となるところもあります。あの後あのひとは殺されてしまったんだ、とか。その不在の人物が、今回の堤真一さんや風間杜夫さん、松雪泰子さんが演じる人物たちの関係に大きく影を落としています。

前作同様、こういった腹にイツモツ持った者たちのかけひきと言う岩松さんお得意の心理描写が、ヤクザ抗争と男女の関係と言う物語にドンピシャ。隠蔽された殺人、闇に葬られた出来事、相手の気持ちを思ってかもしくは陥れるためか、ものごとの一部分だけを言葉にしたりしなかったりの繰り返しが、登場人物の心を疑念と言う形でじわじわ浸食していく。浸食は観客にも及び、2時間45分(休憩15分)の上演時間中、一触即発の緊張感が持続し続ける。その緊張感がイヤ〜な溶解と言う形で終幕を迎え、ある種の余韻になる。後味悪くホッとすると言ってもいいかな。以下若干ネタバレあります。

前回同様、岩松さんの今迄とは違う面が見られます。階段、液体で濡れる男女、男同士がキモい程じゃれあう。岩松作品に必ずと言っていい程出てくる、エロティシズムを醸し出すこれらのモチーフは健在です。しーかーしーあんなに奥行きを使った岩松了演出初めて観た!セット転換も多かった。岩松さんと言えば一場での悶々、と言う印象が強いのでこれは新鮮でした。ドンパチも派手ですし、かなりエンタテイメントに徹した作品だと思います(岩松さん比)。

しかし、その「場」がとても印象に残ります。廃工場跡地と思われる場面も、セット自体はヨーロッパの地下水道(『第三の男』に出てくるような)のような趣。一見殺風景にも映る、壁面と扉だけのシンプルな成り立ちで、空間の隙間を多くとってある。そこで登場人物がふたりきりで会話をするときの寒々しさ、同時に溢れる熱情。また風間さんと堤さん、堤さんと松雪さんの存在感が、あの広い空間にふたりっきりでいても充分に豊潤な空気を生み出すのです。これにはシビれた。

そう、ヤクザ抗争ものなのにヨーロッパの映画に出てくるような場面が沢山あったな…登場人物の芝居がかった、気障な言動がサマになる。堤さんと松雪さんのラブシーンも、状況としてはかなり芝居がかっているのにこれがいい。こういうリアルなんてなんぼのもんじゃいと言う、しーばーいーを逆手にとるのも岩松さんだなあ……。女優陣の衣裳も、それぞれ役柄のキャラクター(レディ、ビッチ、気風、カワイコ困ったちゃん、めんどくさい女)を際立たせ、欧州を、台詞にも出てくるスペインを連想させる。反面男優陣はものっそNIPPONのYAKUZAな開襟シャツやアロハ、タック入りパンツでした。いやー風間さんサテンのスーツほんっと似合いますね(笑)、勝負服!ああいうの似合うひとなかなかいないよ…堤さんは体格がしっかりしているのでスーツの線が綺麗で、動きも優雅。このふたりが終盤ドスで果たし合いをするのですが(銃じゃないってとこがいい!)、このどうにも避けられない運命の悲壮感を背負ったふたりの格好いいことと言ったら!

小池徹平くんいい役もらいましたね。こんな彼を見たい、と岩松さんが宛てて書いたと言うことかな…ちょー小悪魔。だってある意味この子が拗ねたと言うかヘソ曲げたからこんなことになったんじゃないのー!で、周りの人物もこんな拗ねちゃった子なら恫喝するなり強硬にはねつけることも出来ただろうに、なーんか側に置こうとしちゃうんだよねー。関わった人間全員の人生を狂わせる、ファムファタールならぬオムファタールでした。恐ろしい子!この子を筆頭に、岩松さんてこういう無意識に思わせぶりな人物の描写ホント巧い。あーイライラした(笑顔で)!

荒川良々くんは結構直前迄大人計画の本公演に出演していたからか?出ずっぱりな役ではないのですが、すごく印象に残る役でした。てかいろいろ反則…一声発するだけで笑われる……敢えて野放しにされていたような気も(笑)。しかし彼にしろ風間さんにしろ、絶命したか隠されている(=各自の判断に任される)人物がいるのでこのシリーズは続けようと思えば続けられそうですね。まあヤクザに限らず、誰かがいなくなっても誰かがすぐ跡を継いでいくシステムが出来ている社会であれば、それは続けられるものではあるけれど。

村治佳織さんのギター演奏が場面場面に深い味わいを残してくれました。余韻の残るエンディングは素晴らしく、演奏が終わり幕が下りた途端に拍手が起こりました。これも岩松さんの作品では珍しいよね…高揚感があったもの。村治さんのドレスも素敵だったなー。一場面だけ白のパンツスーツでこれもまた格好よかった。チェロの演奏もそうだけど、女性がクラシックギターを座奏する姿勢には色気がありますね。カーテンコール曲はシリーズ前作同様トーキングヘッズの「サイコキラー」!手拍子が起こり、スタオベもあり、いやはや岩松さんの作品らしくない(ひどい)場面に遭遇してニヤニヤがとまりませんでした。あーなんか岩松岩松って、私岩松さんのことだいすきみたいじゃないのー!認めざるを得ない!くやしい!



2012年05月08日(火)
NARUYOSHI KIKUCHI DUB SEXTET閉店セール

NARUYOSHI KIKUCHI DUB SEXTET@BLUE NOTE Tokyo

セクステットとしては最後のライヴと言うことで、久々に観たー。思えばブルーノートで観るのも初めてですよ、て言うかブルーノートでのライヴが増えたここ数年足が遠のいていた…すみませんすみません(貧乏人)。MCAのことでしょげていて、半ばほんやり気味のうち当日になっちゃったもんで、なんかふわふわした状態のまま観ました。震災後初めて観たライヴだった菊地雅章ベネフィットとか、ハラカミくんが亡くなって最初に観たライヴがDCPRGとか、なんかいろいろあった直後の菊地さんのライヴはなんとも奇妙に記憶に残る。直後のライヴがこのひとのものでよかった、と言うような。まあエリザベス・テイラー追悼のPTAは逃しているし、MCAと菊地さんは別に縁はないので、そうやって自分が結び付けてしまうってことですね。

2ndセットのみ。いやーあっと言う間に終わった。みじかっ!!!思えば2ステージ制のNKDS観るの初めてだったわ……。セットリストはこちらから。ところでここのメッセージんとこの「ダブセクステッ“と”」を誰かなおしてあげて…菊地さんのテキストは誤変換も味だけど、おそとに出すときは誰か校正してあげて……。

-----
1ST & 2ND
01. DUB LIZ
02. SUSAN SONTAG
03. GL/JM
04. KOH-I-NUR
05. DUB SORCERER
encore
06. DO YOU KNOW HONEY?
-----

「GL/JM」は類家くんの『Sector B』に菊地さんが提供した曲なんですが、わーこれNKDSでもやってたんだ(つまりそれを知らないくらい来ていなかった訳で)!前半は類家くんと菊地さんの丁々発止もいいとこで、「あばれんぼう」な類家くんのTpにニヤニヤし乍ら菊地さんがTsでガンガン応える、飲食したいのにしてる場合かと言うなんてえの、もはや拷問(笑顔で)!のような展開。あんまり夢中になって観たもんで、いいとこで運ばれてきたフォンダンショコラに手をつけられずアイスがとけていくのを殆ど悲壮感を伴った横目で見たりしてました。いや見てない。とけてるだろうなーと思い乍らステージ見てた(笑泣)アリーナだったんでずっと左向きっぱなしで翌日首がガチガチに。

この日の菊地さんの演奏には意図的ではないであろう音の割れや揺れがあり、どした?てな部分もありましたがこれはこれで面白い。そういうとこも全部ひっくるめての丁々発止。リードを何度も締めなおしてましたね。そして失礼なことを言うと最近類家くんが髪型込みでマルチーズや狆のように見えることがあり(イケメンなのに!はい自分がおかしいんです!)それがもー今回ワンワンワンワン!とゴッシャゴッシャ吹いていく(演奏のときは大型犬)のを菊地さんがあわわわわ元気だな!どこに行くんだ!どこに行きたいんだ!と追っかけていくかのように見えました。演奏はものっそい格好いいのに何故こんな例えしか出来ないのか。そんなこんなでザ・暴れん坊太鼓なわがままボディ類家心平(いろいろまちがい)のTpがドーンと聴けて楽しかったです。

久し振りに観たせいか、座標軸が変わった印象がありました。鈴木くんに走らせる場面が(この日に限ってかも知れないけど)今回あまりなかったような。菊地−類家、坪口−本田、鈴木−木村、と言ったようなVSで展開する場面が新鮮に感じられました。坪口−木村も、坪口さんがカオスパッドで出したものをどの辺りから木村さんが膨らませていくかとか、境目を予測する楽しさもあり。

最後に甘いもの(「DO YOU KNOW HONEY? 」)が出てきてホッと出来ました。実物のデザートは終演後においしくいただきました。

Tbを入れてセプテットにすると言うプランは昨年から発表されていて、セクステットでのライヴは昨年11月のブルーノートで最後の筈だったんですよね。しかしそのTbがなかなか見付からず、そうこうするうち半年が経ちそれならもう一度、ラストライヴと銘打ってやりませんかとオファーが来たそうです。菊地さん曰く「閉店セール」。メンバーが見付からなかったら当分これで行くらしいです(笑)。今回お話進めてる方が観にいらしていたそうなんですが、無事入ってくれるとよい……。しかしセクステットでもセプテットでも、略称はNKDSですね。内容はガラリと変えるとのことです。



2012年05月04日(金)
『百年の秘密』、MCA

NYLON 100°C 38th SESSION『百年の秘密』@本多劇場

いやーすごくよかったです。ここ十年程よく話すのは、「ケラさんは人生のまとめに入っている」と言うことなのですが、この“まとめ”がそれこそ十年程続き、滋味に富んだ作品を数多く発表し続けているところに改めてすごみを感じます。願わくばそれがまだしばらくは続くことを。

そしてやはり劇団力も大きい。今回何日前にホンがあがったのかは判りませんが、ケラさんのツイート等見るに毎度のごとく余裕がなかったと思われます。それでこの完成度。単純なところを言えば、映像とのタイミング等、段取りもかなり多い。演技以外にも把握しておかねばならないところが膨大にある。それであの完成度…来年でナイロンは二十周年だそうですが(もうそんなか!と当日配布のパンフを見て驚きましたけども。健康結成から二十年とかならまだああ、とか思いそうですが)、流れた時間の長さと、その瞬間瞬間に積み重ねた力の大きさを思わずにはいられませんでした。

そう思ったのは、今回のストーリーがそういうテーマを持ったものだったからと言うのもあるでしょう。そうそうひとは変わらない、だからこそ出会ってしまったひととの関係は一生揺らぐことがない。百年は一瞬の出来事で、しかしその一瞬一瞬に、途方もなく沢山の思いが埋まっている。

そうそう、特筆すべきは舞台美術。あれっ、これこそ想像力じゃないの、と思いました。狙ってと言うか、大上段に掲げるのではなく(勿論しっかり考えられたものだと思いますが)さりげなく提出するところがすごい。セットは、転換を行わないひとつの装置です。物語の舞台となる、ある一族の屋敷とその庭にある楡の木。ストーリーはその庭と屋敷で展開される訳ですが、「屋敷の内部にある部屋」を位置的には庭であるスペースに設けてあるのです。役者たちがテーブルや椅子等の小道具を自ら移動させ、装置のドアを開けたり閉めたりして「屋敷の内部にある部屋」に移動する。これが全く違和感なく理解出来るようになっているのです。物理的な意味では次元が歪んでいることになる。しかし、このドアを入り、ここから出れば登場人物は庭から屋敷の中に移動したと了解出来る。

ある一定のルールを示すことで、シチュエーションを自在に出来るこれこそが、想像力を活用する面白さとして感じられました。これぞ演劇。

あとおぼえがき。ネタバレあります。

・イヌコさんとリエさん、本当に素晴らしかった。こどもから老婆迄、時間軸を入れ替えて進行する構成をいとも簡単に乗りこなしているかのようでした。このふたりにしか出来ない、としか思えない役をいつも見せてくれる。きっとずっと好きな女優さん

・大倉くんの役が『消失』と同じ最期だったなあと…(涙)
・ダメな男カタログとしても楽しめます(笑)

・水野小論さんと藤田秀世さんのイヤな人間っぷりがもはや名人芸の域。ちなみに水野さんはもと水野顕子さんで、『噂の男』『イヌの日』でイヤな女女優として記憶に焼き付けられた役者さんです
・ケラさんも意識的にそういう演出を施しているのだと思いますが、これだけ巧ければ逆にすんごいいいひとの役も出来るのではないか、それも見てみたいなあと思えてきます

ところで来年の二十周年記念企画、第一弾の劇場がCBGKなんですけど、あの劇場でナイロンはかなりキツそうだと思いました…(苦笑)長尺作品には向かないハコですよね……。

****************

■Adam Yauch • 1964-2012(書いてるのは7日)

どんどん流れていってしまうのは寂しい。書き留めたり張ったりしておく。

アダムだけどMCAのが馴染み深い。アドロックもアダムだしね。

『百年の秘密』をじっくり噛み締めつつ下北沢をうろうろして、ごはん食べて帰宅して、webに入ってtwitterを眺めているとき、TLにspinnerからのツイートが流れてきた。“RIP Adam Yauch.”。第一報はこれだった。すぐリンク先に飛んだ。
・Adam Yauch Dead: Beastie Boys' MCA Dies at 47 After Cancer Battle - Spinner

「After Cancer Battle」。だめだったのか、と思った。ロックの殿堂入りのセレモニーに、MCAだけ欠席していたのはニュースで読んでいた。最初に発見されたガンの手術は成功したとのことだったし、その後新譜も出ていたので経過は順調だと思っていただけにこれはひっかかった。ガンの再発、転移が憎しみを覚える程に執拗なのは思い知らされている。とうとう、と思った。47歳でガンで、と言う符合も思い出される。

次々とお悔やみのツイートが飛び込んできた。twitterで訃報を知ることはもう珍しくなくなったが、何度こういうことがあっても慣れない。チャックDの言うとおり、この歳になると多くのものを失っていく心の準備をしておかなくてはならないと思う。でも、やっぱり。

それでも、目にした多くは彼がどれだけ愛されていたかを感じられるものだった。そういうTLを組んでいるからと言うのは自覚しているが、テキトーに参加したいためにツイートされたものはあまり見なかったように思う。

日本語ニュースではNY在住のROコレポン、中村明美さんのブログが細かいところ迄フォローしてくれていた。
・RO69 | ビースティ・ボーイズのアダム・ヤウク亡くなる
・RO69 | レッチリ、ライブでアダム・ヤウク追悼映像
・RO69 | ニューヨーク・メッツ全選手がビースティ・ボーイズの曲でバッターボックス入り
・RO69 | ロック殿堂入り放送。アドロック、アダム・ヤウクの手紙を読む
・RO69 | 続アダム・ヤウク追悼。セドリック日本での思い出、アダムのお母さんのコメントなど
・RO69 | マイクD&アドロック、アダムの死を語る&ニックスもアダムに追悼

タケイグッドマンのブログ。
・me::::::::::W::::::::i::::::::Z::::::::::mo | MCA.................................................................

完ちゃんのブログ。
・KAN TAKAGI -BLOG- | gratitude

個人的にはRHCPとの関係性で、いつも横目で見ていた感じだった。彼らがいる安心感。ナスティ、パーティ、ファミリー、パンク、白人ラッパー、悪ガキから大人に、そしてリック・ルービン。NYにはビースティ、LAにはRHCP。

彼らが社会問題に対してもの申すようになったとき、随分「あんなアホなことやってたやつらが今になって何言ってんだ」ってな感じで本気にされなかったところもあったように思う。チベタンフリーダムコンサートを始めたとき、音楽雑誌の記事を熱心に読んだ(webが普及してなかったから)。あのMCAがあんなに真摯に怒りを全面に出し、自ら動いたことに驚いたし、同時に彼らはきちんと歳をとっているのだと思った。ほどなくRHCPも、抱えていた数々のシリアスな問題にきちんと向き合い、バンドを続ける道をとった。世代も含め、共通点も多かった。

最初に聴いたのは『Check Your Head』。忘れられないMVは沢山あるけど、衝撃だったのはやっぱりこれ、「Sabotage」。最高にアホで最高に格好いい。
・Beastie Boys - Sabotage

ディレクターはスパイク・ジョーンズ。

昨年3月17日にアップされたこれも忘れられない、すごく嬉しかった。
・NY City ♡S JAPAN

今日になって、アドロックがコメントした。
・PWR2MCA I♡U

NYに生まれ、NYに愛され、NYで亡くなったMCA。ゆっくり休んでください。有難う。



2012年05月03日(木)
『TOKYO M.A.P.S Akiko Yano Edition』

『TOKYO M.A.P.S Akiko Yano Edition』@Roppongi Hills Arena

公式のレポートはこちら→・TOKYO M.A.P.S

J-WAVEが毎年GWに開催しているフリーのライヴイヴェントTOKYO M.A.P.S、今年のオーガナイザーは矢野顕子さん。yanokamiが出演すると言うので出掛けて行きました。他の出演者も気になったのですが昼間は用事があり、会場に着いたのは丁度細美くんが始まった頃。すごいひと!とてもじゃないが椅子のあるスペースには辿り着けない(そもそもとっくに座席は全部埋まっている)状態で、アリーナ周辺はおろかステージを見下ろせるヒルズの階段にもひとがすずなり。二年前に菊地さんがオーガナイザーを務めたときは最初から観た+途中退席だったため混雑には遭遇せず、比較的快適に観られていたのでビックリした……。「今から細美武士だって!」と言って駆け寄ってくる若い子たちもいた。矢野さんが事前のインタヴューでお話されていたとおり、「東京の街角に音楽が流れ、そこを行き交う人が足を止める」と言う力はかなりあったように思いました。

細美くんの声を聴きつつ視界が確保出来る場所がないか、アリーナをぐるりと歩いてみたりヒルズの方に上ってみたりとしばしうろうろ。見えるところがどこにもない……そうこうするうちヒルズのショップから出てきたU-zhaanと出番を終えた原田郁子さんに遭遇。あれ、ひょっとしてU-zhaan出演する?と思ったり。細美くんの出番が終わった後ひとの入れ替わりがあり、ちょっとだけ奥に入れたもののやはり視界は殆どない。まあ仕方がない、音が聴けるだけでも有難い。

サウンドチェックでタブラの音はしなかったので、U-zhaanは純粋に観にきたのだなと思った。それは観に来るよね……。矢野さんが直接出てきてサウンドチェック。ピアノをぽろぽろと弾きつつ、ふんふんと言葉にならない声でリズムを作る。あっと言う間に世界が変わる。音楽だ。

「『風を作れ。雲を渡れ。』って今回のキャッチフレーズだったんだけど、雨迄呼んじゃいましたね」「今日最初から観ているひと!えええ、トイレとか、どうしたの!?すみませんねえ、お茶も出さずに…」溌剌とした、終始明るいMC。「いつもこの位置にいる、相方のレイハラカミが行方をくらましたままなので」と話したとき「ハラカミー!」と男のひとの声が飛び、歓声が起こった。演奏が始まるとそこには確かにハラカミくんのあの音がいる。イントロの音が鳴る度「やばい…!」と泣き出す女の子もいた。

やっぱり、全然、気持ちの整理がつかない。しかし矢野さんは、あれからも、いつでも、毅然としている。自分の音楽を、ハラカミくんの音楽を、万全のコンディションで伝えるために、ブレるようなことは決してしない。矢野さんは笑顔で、ハラカミくんのトラックにピアノをからめ、歌を載せ、yanokamiにだけ起こりうる独特なリズムでグルーヴを生み出していく。軽妙に音を載せていくので感触はさらりとしているが、改めて聴くとよくこのバックトラックで唄えるなと思ったりする。

今回はyanokami舞踊部として、ゲストダンサー森下真樹さんが参加。矢野さんが、森下さんとはNYで日本の芸術作品を紹介するショウケースで出会ったとMC。森下さん、長塚くん演出の『十一ぴきのネコ』で振付を担当された方でした。あまり見えなかったけど、かなりユニークな動き。軽やかで自由で。唯一yanokamiの曲ではない「東京コシツ」は、彼女のレパートリーである「コシツ」をアレンジしたものだったようです。シャンプーのパッケージに書かれている商品説明、成分表記を読み上げたものをバックに踊る。

「yanokamiはこの曲からはじまりました」と、最後に「ばらの花」。悲鳴のような声を伴った大歓声が起こった。“雨降りの朝で今日も会えないや なんとなくでも少しほっとして”。この日この場にぴたりと寄り添ったような歌詞。この曲のみ矢野さんはピアノを弾かず、マイクスタンドで唄った。アンコールは「気球にのって」。風船を持った森下さんが踊る。“雨が追いかけて 来ぬうちに さよなら さよなら さよなら”。またもや今日のために用意されたかのような歌だった。それはいつでもどこでもそうなるのだ。

演奏を終えて、矢野さんは観客にその風船を配っていった。さよなら、さよなら、さよなら。ハラカミくんの音を聴けたことにひたすら感謝した。素晴らしい演奏を届けてくれた矢野さん、有難う、有難う、有難う。

-----

セットリスト

01. Don't Speculate
02. David
03. Ruby Tuesday
04. 東京コシツ
05. 瞳をとじて
06. ばらの花
encore
07.気球にのって(sayonara)

-----

PAはzAkさんだったとのこと。



2012年05月02日(水)
『THE BEE』

NODA・MAP番外公演 Japanese Version『THE BEE』@水天宮ピット 大スタジオ

当時二度と観たくない、と思った程ヘヴィーな作品でしたが、やはり再演されるとなれば観たくなるものです。初演の感想はこちら→(日本ヴァージョンロンドンヴァージョン)あれから何か変わっただろうか、世界は、ひとは、自分は。

気になっていたのは再演からの参加となる池田成志さんと宮沢りえさん、特に成志さん。と言うのも、初演での浅野和之さんの身体性が強烈に記憶に残っていたからです。リアル次元大介な浅野さんの全身のバランス、纏う細身のスーツ、パンツの裾から少し出た足首。それらが最後、鮮やかな動作をもって家を紙で包み込み、ゴミクズにしてしまう。今でも観ていた席のアングルで思い出せるくらい目に焼き付いたシーンでした。これを成志さんがどうやるのか……。

結果から言うと、アプローチが違うのは当然で、なおかつやはり記憶に残る三役(警部、シェフ、リポーター)でした。成志さんの場合は、パンフレット(コンパクト乍ら読み応えのある充実の内容です)でも指摘されていたとおり、言葉ひとつひとつにひっかかりを持たせる表現。しかしこの台詞を操る声も喉から発せられるものであり、ある意味やはり身体、なのです。言葉を発することなく、6歳のこどもの恐怖感や生命力の細る様子を際立たせる近藤さんも身体表現のひとだし、野田さんは無論です。

そして宮沢さん。命を預かっている生物=母親の強さを多面的に見せる。こどもを守ろうとする行為から、自分が助かるための行為へ。生命への欲は、自身の命に向いているのか、それとも自身が生き延びさえすればまた新しい命を生み出す可能性を残せる、と言う本能なのかと言うところ迄考えさせる。『パイパー』でも感じたことですが、この辺りの説得力がかなりあります。『下谷万年町物語』のときよりふくよかになったような感じがしました。肉感的な役のために体重増やしたのかな?エロティシズムが体温と湿度を感じさせる“色”になっていました。ここにもやはり身体がある。

“見立て”こそが演劇の根源的な力であると、今回野田さんがパンフに書かれていました。演劇は小道具ひとつ、役者の身体ひとつで成立する。それは見立てによる、と。観客の想像力を信用している、それは人間を信用したいと言う希望をも持つ。啓蒙ではない。

期待が大きかったラストシーンは、初演とは異なる解釈で非常に印象に残りました。再演ならではの幸福、観ることが出来てよかった。浅野さんの場合はスピーディな動作で、一連の事件、人物たちを「なかったこと」にしてしまう掃除屋のような印象でした。死体を見せることのないメディア、人間の存在を片付けるのが巧い社会を反映させているかのようでした。今回の成志さんの場合は「もう飽きたからゴミにして捨ててしまおう」と言う風情。そこにはメディアを眺める大衆の姿がある。ひたすら騒ぎ、真相や考察などに踏み込まず、次から次へと刺激を求めてブンブンと飛んでいく蜂のような大衆たち。そこにはきっと自分もいるのです。

人間に必ずある暴力欲、支配欲を自覚させる展開の底には、その欲を人間だからこそ理性でコントロール出来ると言う希望もあるように思います。小古呂のこどもの指を折る前、そして自分のこどもの指が入れられた封筒がポストから落ちるその音を聴いたときの井戸の表情には躊躇、葛藤が溢れていました。

と言えば、野田さんの演技に今回歌舞伎的な見得があったように感じたのですが、これ初演でもそうだったっけ?興味深いところでした。