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2010年02月28日(日)
『富士見町アパートメント』Bプロ

自転車キンクリートSTORE『富士見町アパートメント』Bプロ@座・高円寺 1

久々じてキン、鈴木裕美さんの演出作品も久し振り。裕美さんの作る舞台にはいつも「ああ、お芝居ってこんなに心に波を立てるもので、いろんなものを胸に抱えて帰ることが出来るものだったなあ」と思わせられる。それがなかったことはないなあ。

そして企画から裕美さんが噛んでいる作品はハズレたことがない、自分にとっては。ちょっとだけ上の世代のおねえさんがどう年齢を重ねていくかを見せてもらっている感じ。それは鑑のようでもあり指針のようでもあり、自分もいずれ通る道。いろんな生き方を見せてくれる。

アパートの一室と言う同一のセットをお題に、4人の劇作家が新作を書きおろす。演出は全て裕美さん。2本ずつのプログラム、この日は鄭義信『リバウンド』、マキノノゾミ『ポン助先生』のBプロ。以下ネタバレあります。

存在感のあるセット。ステージスペースが空中に浮いているようにも見えた。セットの組み方のせいかな?額縁な感じが全くなくて新鮮。

『リバウンド』はかわいいオデブちゃん三人組のコーラスガールが時を経て別れていく話。小劇場界隈でオデブちゃん女優と言えば鉄板、池谷のぶえさん、平田敦子さん、星野園美さん。星野さんのみ初見でした。重い話だけれど、ひとが生きていく先これは避けられない。立ち止まることは出来ない。それを一時間の上演時間で丁寧に掬いとり、丁寧に演じ、丁寧に差し出したような絶望的な美しさの作品でした。コーラスガールたちの間に起こったさまざまな出来事を通して、嫉妬や羨望、寂寥、諦念と言った感情が交錯するさまが台詞の応酬で浮かび上がる。

池谷さんはTHE SHAMPOO HATの『葡萄』での影のある艶にビンタを喰らわされた気分だったのですが(赤堀さん慧眼!)、この作品でもその魅力が存分に発揮されています。声のよさは定評がありますが、何だろう、声だけじゃなくて…のぶえさんは半纏を着てても軍手をしててもとても色気があって、ドキリとする。彼女のゆく末を見守りたい、それは叶うことではない、それでもどこかで温かい場所を得てほしい、と祈り乍ら暗転の闇を心に染み込ませる。

DV夫の役で久松さんが声のみ出演しているのですが(録音ではなく実際にその場で声を出してる)、すっっっっっっっっっっごく怖かった。あー、ZAZOUS THEATERで何度か遭遇したあの久松さんだ。『銀龍草』で、好青年の化けの皮をはがされたよねー(笑)と言うと語弊があるか。ああいった人間の恐ろしさを演じられるんだ!と久松さんを改めてすごい役者だと思ったものです。あの役をスズカツさんが振ったのは大成功だったと今でも思う。

『ポン助先生』は、マンガ家残酷物語。唐沢なをきさんがマンガ化してくんないかなと思った…まんが極道な話でしたよ……。広島から上京したての新人マンガ家が、今は落ち目と言われているベテランマンガ家との交流でいい気になったり悩んだり。うまいこと笑えるようになってるんだけど、実はかなり壮絶なものです。ちょーこえー!最後も爽やかに終わるふりしてるけど、いや問題はひとつも解決してないやろ!て言う…隠しごとに対しての後ろめたさ、それがバレることへの恐怖すらマンガ家は呑み込んで原稿を描く。編集はひたすらそれをサポートする、どんなサポートであっても。笑いつつも背筋が寒くなったよ……。クリエイターのエゴ極まれり。作品のためなら何でもするよね…その向こうの読者のためか?いや、きっと自分のためだ。そして自分のために描いたものが読者にウケるとなれば、そりゃあ自分の(作家)生命を脅かしてでも描くだろう。

一時間でそれらの葛藤、底知れない業の深さ、生きる糧、と言ったものをテンポ良くギュッと提示。お見事!キャスティングも絶妙。こんな役の山路さん初めて観た、最高。そしていい身体してんなー!自転車乗りって設定は当て書きなのか?板に付き過ぎです。西尾さんも、本意ではなかったマンガ編集の仕事を自分のモノにしていく迄の気持ちの流れを、見せないことで見せると言うか…これホンの巧さもあるだろうけど、台詞にない部分でそれを感じさせるのってすごいなあ。そして黄川田くんはおんなのひとの扱い上手そうだな(笑)いちゃいちゃっぷりが板に付いていた。甘え方もな!

座・高円寺には初めて行った。ロビーには観劇に来たひと、ワークショップに来たこどもたち、何かの会合?に集まる若者たちに年配のひとたちが入り乱れ、杉並区のマスコット・なみすけのグッズ売り場もあった。なんだか公民館みたいでもあって、地元のひとに愛されていくといいなあと思った。

さてAプロはどうなる。あかほりの新作だよ、楽しみー!



2010年02月27日(土)
理科系ハシゴ

■『医学と芸術展』@森美術館
タイトルまんまの展覧会で、このテーマに沿っていればなんでもありとも言えるバラエティに富んだ内容。博物館的な面白さもあり、展覧会としてもユニーク。遺伝子操作でつくられた光るうさぎのドキュメント映像から、アメコミのヒーローたちが入居している『老人ホーム』迄、名のある芸術家の作品と、表舞台には現れない研究者たちの成果物が並列に展示されている。気軽に観られるけれど、考えさせられるものばかりでした。
身体のメカニズムを探る軌跡として、レオナルド・ダ・ヴィンチの解剖スケッチや円山応挙の骨格図等を展示した『身体の発見』、実用された義手や義眼、レントゲン機の他、病と死を恐れる人間がその戦いを芸術的に描いた作品が並んだ『病と死との戦い』、最先端医療、バイオテクノロジー、脳科学等、人類の行き着く先を模索する『永遠の生と愛に向かって』の3セクション。
ダ・ヴィンチの解剖図がむっちゃ小さいのにビックリした…もっと大きな紙に描けばいいやん!と思う程小さいの。B6サイズくらいの紙に、肝臓の血管や頭蓋骨の仕組みが繊細な線でみっっっっっしり描かれている。まあ当時は紙も高価だったろうから小さいのに描いたんかね…実際に解剖し乍らだったら、メモみたいに片手に持って描いたのかも知れないしね…なんて想像しつつ、『ヴィタール』観た時にも思ったけど、お医者さんて解剖しつつそれをスケッチするよね、絵心ないとダメだよね…すごいなーなんて思ったり。
義眼って完全な球体じゃないんだーと初めて知った。目蓋の奥部分はない、半球体が多かった。内側は見えないから作らなくてもいいし、その分重くなるから負担になるのかも知れないもんね。義手や義足の精巧さ(HONDAの義足もあったよ!ASIMOの脚に似てたー)がそのまま機能美に繋がり、そこからもともとの人間の身体デザインの美しさを再認識したりする。
前述のジル・バルビエの『老人ホーム』はジジババになったスーパーマンやキャプテン・アメリカ、超人ハルクたちが点滴受けてたりぼへーとTV観てたりする作品なんだけど、人形たち以外の小道具は国によって自由に配置していいみたいで、テーブルの上に『おひとりさまの老後』とか置いてあってじんわり笑いがきつつ、そうだーアメコミヒーローて人間だから歳とるよねーとしんみりしたり。うわーん。
ところで展示そのものとは関係ないけど、ヤン・ファーブルってあの昆虫博士アンリ・ファーブルの曾孫だったんだー!知らなかった!そりゃ確かにあの苗字だから連想はしたけど、まさかホントにそうだとは。そもそもヤン・ファーブルはダンスの方から知りましたが(さい芸によく来てるよね)、美術家、劇作家、詩人でもあるんですね

■『透明標本展』@Bazar et Garde-Manger / H.P. DECO
25日付のとこに書いた、冨田伊織さんの透明標本展が丁度表参道で開催されていたので観に行った。新作もあったー。ご本人がいらしていて、技術が上がったのか使用薬品の具合なのか、以前のものよりも発色がよくなり、ますます綺麗な仕上がりになったんですよ!と教えて頂きました。いいひとだった…。
哺乳類の実物は初めて観たかな。前観た展示ではものすごいひとだかりで、あまり落ち着いて観られなかったので、その時にもあったのかも知れないけど。
「たんぱく質を酵素により透明にし、硬骨を赤紫、軟骨を青色に染色する」手法なのですが、魚類やは虫類、両生類と哺乳類とではその色の比率が明らかに違い、体のつくりが違うんだなあと言うのがハッキリわかって面白いです。
通常の美術館やギャラリーとは違う、中古家具や服、オブジェが販売されているお店での展示だったので、店内の雰囲気とともに楽しめました。板張りの床で、アンティークの椅子やテーブルが置かれているフロアの一画に、白い照明で輝いている標本たち。不気味でもあり不思議でもあり



2010年02月26日(金)
『菊地成孔のナイト・ダイアローグ・ウィズ』

『菊地成孔のナイト・ダイアローグ・ウィズ』@Hakuju Hall

ゲストは金原ひとみさん。ワインをたしなみつつ文壇やら音楽やらヤンキーやらについて話す。例によって内容はあまり書けない…こういう閉鎖的な空間で話すからこそ面白いものってあるもので、よって現場迄足を運ぶことならでは、と思わせられるイヴェントって最近では珍しいのかも知れないな。

ちなみにここクラシック対応のホールなもので、湿度管理が徹底されており、「ワインこぼしちゃったらまずいんだ」とおふたりとも気を付けつつ呑んでました(笑)。そういえば傘も建物内に持ち込めないようになってたな。そんな空間で聴くシガーロスやフェニックスはすっごい音の鳴りが気持ちよかったー!もうひとつ(名前忘れた)のトランスの響きっぷりも、なんかすごかった。ちなみにこの三枚は、金原さんが現在連載中の『マザーズ』執筆中に流している音楽。

金原さんの「インターネットでの不在」についての話は興味深かった。菊地さん本人も最近はwebに距離を置いており、その理由について自ら表明されていますが(この辺りが判りやすいかな)、至極尤もな話でもあります。向き不向きって絶対あると思うんだ。



2010年02月25日(木)
最近読んだ本 2

■『生と死と詞』THE BACK HORN
バックホーンの歌詞集。わあ、アートワークに透明標本が使われてるよ!最近仕事絡みで行ったイヴェントで展示販売されていて、あまりに綺麗だったので買ってしまったところだったのです。作者は違うけどニアミスでなんか嬉しい。
表紙+本文中に使われている有川祐介さんが作った標本が載っている本はこちら。在庫がないみたいですね…。
・『驚異!透明標本いきもの図鑑』
自分が持ってるのは冨田伊織さんの標本。サイトはこちら。写真集もすごく綺麗です。
・『[新世界]透明標本 ―New World Transparent Specimens』冨田伊織
この透明標本のように、バックホーンの歌は相当えぐいのに美しい。やばそーだなあ絶対噛まれるなあと思うのに手を出しちゃう。聴いてると毎回のように『マクベス』の「きれいはきたない、きたないはきれい(Fair is foul, and foul is fair.)」と言う台詞を思い出すよ…。
リリース順ではなく、テーマ別に章立てして掲載されているけれど、「こう読ませよう」と導こうとする感じはせず自然に読める。改めて縦組で読めるってのもいい。ブックデザインは祖父江慎さん+福島よし恵さん。
CD付で、8分強の新曲「コオロギのバイオリン」が収録されています。おおーいいですねー。ライヴでやるかな、やるといいな

■『ブリティッシュ・オルタナティヴ・ロック特選ガイド』妹沢奈美、鈴木喜之(監修)
昨年出版されたUS編に続いてUK編が出ました。US編は広大なアメリカ+カナダを地域毎に区切っていたが、範囲が狭いUK編は年代区切り。パンク以降(ってのがオルタナならではで新鮮)、1978年を起点に七年毎に章立てしてあります。
US編は「ご教授願います!」て感じで読んだのだが、UK編は微細ではあるものの自分に下地があるのですいすい読め、なおかつ「あああ!」と頭を抱えるところが多かった…十〜二十代を思い出すねん……(笑)。
2000年代をフォローしているってところも貴重。思えばもう2000年も10年過ぎてんだよねえ。
US・UK両者の相互関係と言うのも興味深いところで、ふと思い返せばUSオルタナの情報って、巻末の執筆者紹介の欄で平野和祥さんが書かれていたように、UK経由で知ったものが多いのです。今でもよく憶えているけど、そして前にも書いた憶えがあるけど、ニルヴァーナを初めて意識したのは、ロッキング・オンのロンドン特派員である児島由紀子さんが書いた記事だった。USオルタナに影響を受けたUKオルタナのバンドたちが音楽シーンを更新し、それがまたUSに渡って行く…それが年代を追うにつれ浮かび上がって来る……音楽を聴き続けているとこういう歴史のようなものも体験出来るのだなと、幸せな気持ちにもなりました。
と言う訳でUS・UK両方読むといろいろと面白いですよっと。
そして今回、妹沢さんのUKシーンに対する思いをしっかり読めたのもよかった。音楽ライターさんの文章って、インタヴュアーとしてアーティストの言葉を引き出すものと、ディスクレヴュー等の作品論で目にすることが多い。それはそれで勿論関心を持って読むし、多々感銘を受けるのだが、シーンとその時の流れをずっと見詰めてきているジャーナリストが、自分の言葉を以て一冊の書籍をまとめるとこういうものになるんだ、と言うのが受け取れたのがなんだかよかったな。読み進むにつれ輪郭がハッキリしてくる構成も、ディスクガイドなのに書籍を読んだ!と言う気分にさせられて読み応えがあります。
執筆陣もユニークな人選で(これはUSもそうだった)、妹沢さん曰く「リスナーのプロとして尊敬してきた方たち」。ビークルのメンバーから現代美術家の松蔭浩之さん(ゴージャラス!)迄、筋金入りの?オルタナ魂を持ったひとばかりです。
それにしても、シックスバイセヴンってなんでこー隠れファンが多いのかと…私も好きだったよ。結局来日しないままだったなあ(遠い目)。
そして思わずロングピッグスを聴き始めてしまうのであった



2010年02月24日(水)
最近読んだ本 1

振り返ってみれば矛盾とか相互作用とかを思い起こす本ばっかりだな。

■『サザエさんの東京物語』長谷川洋子
自分内サザエさんブームは密かに続いております。こちらは長谷川三姉妹の末っ子、洋子さんが2008年に上梓した“ワンマン母さんと串だんご三姉妹の昭和物語”。数学大好き、才女、菊池寛に師事、出版社に入社するも満員電車にひとを押しのけて乗れず通勤断念…と町子さんのエッセイマンガにたびたび登場していた洋子さんが長谷川家の思い出話を語ります。これがかなり重い。マンガの中の長谷川家は、町子さんのフィルターを通してエンタテイメントとして描かれたものなのだと言うこともよく判り、興味深い内容でした。
ひとみしりが激しく滅多にひとまえに出なかった町子さんは典型的な内弁慶、家の中ではかなり強力な存在だったそう。マンガに描かれていたネタの裏話(誇張やアレンジも多々あったそう)、姉妹社設立の経緯、熱心なクリスチャンであったゴッドマザーの絶大な存在感……。洋子さんは還暦を目前に独立し、新しい出版社を興します。
あくまでも淡々とした語り口。家族と言うものの繋がりの強さ、それ故の圧力、そうなるに到る逃れようのない時代背景や信仰の厚さ。家族間のさまざまな事情に、他人は決して踏み込めない。この本を単なる“暴露本”と片付けられないのは、そんな複雑な“家族の絆”を、確執と言うには軽妙に、清濁併せ呑んで冷静に写し出した洋子さんの筆致に感銘を受けるからだと思います

うーん、この流れで『ゲゲゲの娘、レレレの娘、らららの娘』(このタイトルどストライクって感じでたまらん)を読みそうな気がする。

■『サはサイエンスのサ』鹿野司
Twitterでとり・みきさんがつぶやいていたことがきっかけで読んだ。Amazonを見るとウチの会社の本が関連商品にあったりして、縁がなくもない(笑)。
所謂良識派が読むとカチンとくるところもあると思うけど、あくまで穏健に過激に(って矛盾してる?)、その認識の相容れなさを解決しようと努めている。人間の“気分”に惑わされない。しかし人間の“感情”に対してもきちんと向き合っている。
本文とは直接関係ないけど、よく考える「臓器としての脳」についてハッとさせられる部分があった。自分ではどうやってもコントロール出来ない気持ちと言うものがあるけれど、それは身体と密接に関係している。同じ環境や時間に身を置いていても、バイオリズムによって全く受け取り方が変わったりするのをどうにか均質に出来んもんか。出来ません。で、その周期を自分で把握出来ていれば「今こう思うのは自分の体調がこうだからだ、決断を遅らせよう」と判断出来る。ここらへん女性の方が顕著だと思うけど、それを実感させられることが増えているこのタイミングで読んだのもよかったな。
どこ迄も前向きに未来を見ている。所詮人間なんて、どこ迄あるかすら判らない宇宙に一瞬だけ存在するちいさなちいさな生物なのだ、と再認識させられてちょっと気分が楽になった

■『日本人の知らない日本語』2 蛇蔵、海野凪子
わーい2が出たよ。日本語教師の著者と生徒たちの間に繰り広げられる、日本人が無意識に使っている日本語への素朴な疑問とその回答・解説。日本文化と歴史から由来する言葉についての背景もわかりやすく載っており、目からウロコがぼろぼろ落ちる。
日本独特の家族間の呼称(妻なのにおかあさんとか、母親がこどものことをおねえちゃんと呼んだりする)にも、定義出来るルールがあるってのは指摘される迄気付かなかった。言われてみればそうだわー、ちゃんと根拠があるんですね。漢字からひらがな・カタカナが生まれ、濁音・半濁点(まる)が派生する経緯も面白かった。
生徒さんたちの母国と日本の慣習の違い等もエピソードに盛り込まれています。タイとベトナムの干支にはねこがあるんだって、いいなあ。鬼のパンツが何故とら柄かって話も面白かったー。
日本語を学ぶのは、仕事や引っ越し等くらしの事情が関係するひとが多いのだろうけど、日本の文化に興味を持ったのがきっかけのひとも同じくらいいる様子。マンガ・アニメを言語で読みたくてやって来るひとも少なくないようです。独学で、本気と書いて「マジ」とか敵と書いて「とも」と憶えている生徒さんがいる。日本の任侠映画マニアのひとは拳銃を「ハジキ」と読む(笑)。あと外国に訴える忍者の魅力ってすごいんだね…。
ちなみに外国人がジャパナイズされることをフランスの新語で「tatamiser(タタミゼ)=畳化」と言うそうです。英語だと「tatamised / tatamized」と言うみたい。なんかかわいい。
カヴァーをとった書籍本体の裏表紙にもマンガが一本載ってます。この国って、かの国かな……(黙)



2010年02月20日(土)
日ノ出町の面影ラッキーホール

面影ラッキーホール@LIVE HOUSE FRIDAY

FRIDAY。横浜長者町、今年30周年なのかな?(お祝いの花が飾ってあった)老舗のライヴハウスです。すごくいい雰囲気のロックバーと言った趣で、各々のバンドのファンだけでなく、ライヴハウス自体に通ってきている常連さんも結構いた模様。……と言う訳で、客の反応がまっぷたつでした(苦笑)。いやー面白かった。

ちなみに今回のライヴの告知って殆どなくて、公式に情報が載ったのも、発売されてしばらくしてから。2chで知った友人が教えてくれて(有難うー!)その友人が予約の電話を入れた際「知らないひと多いんでしょうか…全然売れてなくて……」なんて世間話をしたそうです…なんかいいわー。そのくらい牧歌的なノリだったんですが、当日行ってみれば盛況でしたよ。ちなみに面影は二回目のFRIDAY出演、昨年夏の初登場には行けなかったので、やっとここで観ることが出来て嬉しかったー。

二部制で、行ったのは一部。一時間ちょっとの演奏だったかな。店内は渋谷のクロコダイルみたいな感じ、ログハウス風の内装で、ロック名盤のジャケットや、出演者の写真、サインがあちこちに貼られています。何故かクドカンの写真も貼ってあった(笑・CKBもよく出演しているそうです)。テーブル付きの席に案内され、ワンフードワンドリンクを注文。開演迄のんびり飲食。いやー、フードがいちいちすっごくおいしかった…ライヴハウスでこんなおいしいもんが出るとは!と思うくらいのおいしさでした。特にオムライス!なんだかトクした気分でしたよ。

キャパはカウンター席含めて100人くらいかなあ、ステージもものすごく近い。自分の席から立ち上がって三歩でもうステージです。そんなところで総勢12人の面影が演奏する訳ですから、もうぎゅうぎゅうです。メンバーも普通に客と同じ入口からどやどや入ってきて、Choのおねえさんたちは外からそのまんま来ましたって感じでダウンとか着っぱなしで登場、ステージ上で脱いでいた(笑)。立ち位置も普段と違っていて、上手からホーンセクション、その後ろに西村さん(G)と曽根川さん(Key)、柱を挟んでGUNちゃん(G)、横銭さん(Drs)、その前にアッキー(Vo)、Choのふたり、隣に田邊さん(Perc)、その後ろにSinner-Yang(B)。下手側の方が客席テーブルとステージが近かったので、こっちにホーンが来るとTbのスライドとかがぶつかっちゃうんじゃないかな、だから位置変えたのかなと思う程の近さ。GUNちゃんも普段よりよく見えたー。ソロもあったー。

「今夜、巣鴨で」でスタート。リズム隊が目の前。よく見えたんですが、まーこうやって改めて見るとやっぱうめーなー!いや、普段はほら、やっぱアッキーが何やらかすか気になるからそっちに目が行っちゃってね…。あーでもそんだけ安心して?アッキーを見ていられる程に他のメンバーの演奏が巧いってことかね……。

なんて思ってたら「FRIDAYにちなんだ曲をやります…って言っても、タイトルに金曜日って入ってるだけなんですけどね」とビブラトーンズの「金曜日の天使」をやってくれた。うわーすごく嬉しかった…面影ver.をライヴで聴くのは初めて。念願だったんだよー。ファンキーなアレンジで格好いいんだこれが。ちなみにビブラストーンとビブラトーンズは別もので、メンバーも近田春夫さんしか被ってません。しかし…なんだかんだで自分は近田さんに縁があるなあと思ったりする…だいたい窪田晴男からしてあれだもの。なんだか近田さんのこと好きみたいじゃん…それはちょっと……複雑な気分だ………。

近田さんに関しては昨年ちょっと暗い話を聞いたので(本人も結構オープンに話しているようだけど)、元気になってほしいなあと思っています。複雑な気分と言いつつ、彼の「調子悪くてあたりまえ」は自分の座右の銘でもあるので(苦笑)このままいけるでしょ、いきましょうよ。

閑話休題。その「金曜日の天使」をはじめ、ホーンセクションがバリッとした音になっておりとにかく格好いい。先月のクアトロと同じTpとTbだったのですが、ホーンアレンジも変わっているところがあった。それがよくて…女性三人のホーンも妖しい感じで好きだしバンドの雰囲気と合ってると思うし、この辺りは好みだけど…今回は全体的に「演奏の巧さ」に唸る場面が多かったです。バンドのキャラクターに惑わされることも多いけど、何げに皆巧いんだよね…アッキーの歌といい。

ホーンはこのまましばらくこのひとたちなのかな?メンチェンとは違うのかな?振付けも憶えてやってくれてるし(笑)これからどうなるのかな。

アレンジと言えば、「ピロウトークタガログ語」が「ピロウトークハングル語」とか、ちょこちょこ長者町・日ノ出町にちなんだものになっていた。そしてアッキーが、遮られている柱の向こうにマメに行ったり、終盤興奮して立ち上がったお客さんの後ろにまわって、皆が見えるような位置迄練り歩いたりと、さりげなく気遣いしているところにも好感度アップ…面影に好感度上げてどうする……。

そうだよ何げにアッキーって、ああ見えて(ああ見えてって言うな)メンバーに敬意を払っていると言うか、それが卑屈って芸風にもなってるんだけど、例えば横銭さんのソロの時「ビブラストーン!」って言って彼がよく見えるように自分はしゃがんだりしてるのよね。GUNちゃんのソロの時も、自分はさぼってしゃがんで(るふり)して、よく見えるようにしたり。まあほんとにつかれて座ってるだけかも知れんが。「俺んとこのバンドはすげーんだぜ」ってのをわかりづらく自慢してるみたいだよねー(笑)。はあーいかん、こういうところにきゅんとしてアッキーにふらっとする女がいるってのを理解出来てしまってはいかん!いかんよ!!そして歌詞に共感しては…いかん、いかんよ!!!うわーん!!!(泥沼)

ちなみにこの日は「服装には気をつけないといけないと言うことで(続けて國母選手=カントリーマアムネタ)」ちゃんとシャツもネクタイもしてました。「まっ、僕は自然と腰履きになっちゃうんですけどね(腹が出てるから)」だって。これも客席が近い+面影のファンな訳ではない常連さんもいる故の気遣いだったように思います。あかん、印象よくなるばっかりだ。騙されてはいかんよ!



2010年02月14日(日)
『アンチクロックワイズ・ワンダーランド』東京楽日とか

阿佐ヶ谷スパイダース『アンチクロックワイズ・ワンダーランド』@本多劇場

プレヴュー初日より上演時間が10分短くなっており、そのせいか観るのが二度目だからか、なにやらストンと腑に落ちる場面が増えていました。とは言うものの、今回違う意味で落ちてしまったが…(ダメじゃん)。しかしその反面「?」がすごーい減った。役者さんたちも「どうしたもんか」と言う迷いが無くなっていたように感じました。

要は、多分初見の時は「ストーリーを追おう」とどっかしら考えていた部分が自分の中にあったんだと思う。頭が固くなっていたと言うことでしょうか。今回観たまま感じたままを自分の中に沈めて行く作業に切り替えたことがよかったのかな。これをどんな時でも初見で出来るようになればいいんだよなあと思う…先入観を持たないように。ただ、これって身体面/精神面の疲労と比例するものだと思う。どちらが疲れていても付いて行けない。観劇日に自分のコンディションをベストに持って行けるかなんて判らないからな…気を付けてはいるけれど。こうなったらもう運だよなあ。まあ、全ての舞台との出会いは運だと思うが…なんて言ったら、人生そのものも賭けばかりですわね。あー『オスカーとルシンダ』観たくなってきた。

「どんな時でもすっと観られる」作品ではないのは確かです。それを敷居が高いと思うこともある、きっと。

あの作家が長塚くん本人を投影したものだと言うのは勘繰る迄もなくそうだろうし、と言うか、観客がそう思うってのを判った上でああ言うものを書いたのだろう。それは悪意にも今後の牽制にもとれるが、同時に「あなたたち(観客)にだけは本音を話す」と言ったような素直な真情にもとれる。カーテンコールで姿を現した長塚くんは、すっきりとしたいい顔をしていた。

現実的な話をすると、今後ストーリーのハッキリしたわかりやすい舞台でないと…と劇場側から言われることもあるかも知れない。作家の活動が狭められる可能性もある。「どんな時でもすっと観られる」芝居ではない=「観客を選ぶ」と言われることもあるだろう。門戸はいつでも開いている、と観客に提示する、制作の力も大事になってくる。劇場に足を運ばなければ意味がないんだもの、演劇と言うのは。その足を挫かないような制作術ってなんだろう。

そう言った意味では、ゴーチが今後どれだけ作家を守り、やりたいことを尊重し、実際の上演へ持って行くかの力量も問われることになると思う。支持する観客は少なくない筈。期待しています。

****************

■そういえば
『血は立ったまま眠っている』のプログラムでの蜷川さんと長塚くんの対談は面白かった。どちらもイギリスの演劇と格闘したことがあるだけに、興味深い内容だった。アイリッシュとは打ち解けられたって話とか、イギリス人の「外部から入ってきた人に対しては、どこか踏み込ませない、ある一線以上は入れない」感じの話とか。アイリッシュ、スコティッシュ、ウェールズそれぞれの特性とか。
長塚くんが『アンチクロック〜』に出演せず、作・演出に専念している理由等も話していた

■で、
これで蜷川さんも話していたけど、「野田さんなんかは(イギリスの演劇人たちと)やってるけどね」。これ、本当に辛抱強く続けてるなあと思う…すごいな、と思う

■カレー
般゜若で念願の限定カツカレー食べた!わーい。入口に「カツカレーあります!」て看板が出てるのを目にした瞬間すげえアガッた。半熟カレー煮玉子もつけたった。おいしかったー。
お店のおねえさんがバレンタインだからとチョコを配ってくれました。わーい有難うございます。
で、その後本多で阿佐スパだった訳ですが、どうにも自分から?一緒に行ったふたりから?いや3人ともだろうから、カレーと言うかスパイスと言うかが馨しく…(笑)いやあ、いいにおいでしたね…周辺の方すみませんでした……

■そば
それで思い出したが、昔静かな芝居を観に行った時、どうにも腹が鳴りそうになってこれはヤバい!と幕間に近所の立ち食いそば屋でおそばかっこんで戻ったことがある。確かに腹は鳴らなかったが、かつおだしとねぎの匂いを自分が強烈に発していることに気付いた。どうにも出来なかった。あれは恥ずかしかった…以来観劇前/幕間にはおそば食べないことにしました……

■うどん
で、夜はおーもり組でいろいろと話し込み。『笑う警官』の言われようは本当に皆容赦なくて笑える…だってねえ(笑)。うにゃー楽しかったーごはんもうまかったー



2010年02月12日(金)
PTA復習+『血は立ったまま眠っている』

■Bweebida Bobbida『菊地成孔とペペ・トルメント・アスカラール「カルペンティエル地下文学賞」@リキッドルーム』
フロア対応にシフトしていっているのは判るけど、どこをどうしたからああいうフロア対応の音に変化しているのか?PTAの音の変化について判らなくなるとBobbidaさんのところへ読みに行きます(笑)。いつも有難うございます。
それにしてもホント長丁場でヘトヘト。ドレスアップしてヒールなどでいらしてるお客さんたちはもっと大変でしょうな…それでもエレガンでおらねばならないのか。もう尊敬する…。
サービス満点なのは嬉しい反面、あの、対バンなしで二時間程でギュッとやるフロアPTAも観たかったり、します……。ダメ?(笑)

****************

『血は立ったまま眠っている』@シアターコクーン

当日券で二階立見、購入時カウンターで「重要なシーンは下手側です、しかしもう上手側の立見席がありませんので、下手側後方が比較的観やすいと思います」と言われたので、その通りにしました。…確かにあの時点で残っていた席ではここがベストだったと思います。が、ほんっとーに下手側見えないの(泣)。で、確かに肝心なシーンは下手側での演技が多いの。灰男と良のアジトが下手側だったようで(どんなセットがあったかも見えなかった)、このふたりのやりとり、灰男と夏美のやりとり、夏美と良のやりとりは殆ど…いや全部?下手側。こちらのシーンは全て心眼で見ると言う、修行のような観劇でござった。あーでも最後の記者に群がられる良のシーンや、最後首吊りに話しかける良のシーンは上手側で、しっかり観られたのでよかったな…あのラストシーンはすごくよかった。

パンフレットで蜷川さんが寺山修司のことを「ぼくにはあそこまで俳優をモノとして扱う勇気はありません」と言っていたけど、いやいや蜷川さんもかなりのもんだったと…(笑)私が蜷川さんの舞台を実際に観るようになってから二十年程経ちますが、最初の頃はあー、代わりはいくらでもいるんだなあと思ったものでした。この演出を前にしては、どんな役者でも『ニナガワ演出』の駒なのだろうと。それは反面、役者を信じたくても信じられない、傷付きやすい演出家の鎧にも思えたものです。それをあまり感じなくなったのはいつからだろう。役者とのコラボレーションを楽しむ余裕が出てきたのかなあと思ったりしました。と、エラそうですみません。

今回の、極端な肉体を客席に提示する町のひとたち――ちいさなひとたち、ずべ公、ヤク中、('60年代における)朝鮮人のミュージシャン、ねこ殺しの趣味のあるこども――が、ことあるごとに唄い踊り騒ぐ姿に、刹那的ではあるが一瞬の光を見たように思います。それは幸福な風景であるかも知れない。そして幸福は決して永遠には続かない。それは彼らがモノではなく、ひとりの替えが利かない人間であることが感じられたからのように思います。思い込みかも知れないが。

で、以下は学生運動をリアルタイムで知らず、天井桟敷も観たことがない者の感想ですが、清水邦夫の『真情あふるる軽薄さ』にもあった、“朝の洗面所”のような情景が映し出された舞台にも思えました。ふたりのテロリストの破壊活動は、彼らにとって大きな革命でも、実際は椅子を盗んだり落書きをすると言った些細なこと。警察は動くこともない。そして良は田舎から出てきて、つらい生活の中出会った灰男にカリスマを感じて心酔する素直な少年だ。本当に普通の少年が、都会で“革命”を起こすに到る純粋さ、それが簡単に破綻する儚さ。敗走することも出来ず、ただただ立ち尽くす。これを体現した森田くんは素晴らしかった。このひとの舞台を観るのは二度目ですが、前回嗄れていた声も今回は問題なく、しかもよく通り、切実さや痛さを含んだ発語も無理なく聴こえた。この無理なくって結構すごいことなのでは…良は十七歳なのだ。森田くんて今三十くらいだっけ?いやはや見た目が幼いとかそういうことではなく、この青さ、若さを出せるのはすごいと思った。

窪塚くんは憑依タイプではなく自分に引き寄せるタイプの役者さんのように思いますが、今回の灰男の役は合っていたように思います。あとやはり見た目の美しさが際立ってました。姿勢がいいと言う訳ではないのに、ゆらりと立っているだけで得体の知れない冷たさと色気がありました。見映えと言えば丸山智己さんも存在感あった。寺島さんは贅沢に使いましたねー!と言う感じ。大石さんがああいう役って珍しかったな、新鮮。柄本くんは、何を考えているか判らない怪しさはよかったけど、台詞が聴き取りづらかったのが残念。ミチロウさんの存在感と歌はもうシビレた!劇中音楽は朝比奈尚行さんですが、張の唄う、タイトルが含まれた詩にはミチロウさんが曲を付けたとのこと。その歌をステージでも、客席通路でも、突き刺すように唄う。二階へも緊張感が伝わります。と言うか、二階から観たからこそ、客席空間の緊張感がよく見えた感じでした。生音、生声も聴こえるのですが、スピーカーがステージ側にあったので、ギターの音がステージ側から聴こえているのに客席にいるミチロウさんの声は反対側から聴こえてきて混乱したりした(笑)。

そのミチロウさん、カーテンコールでにっこり笑ってねこの死体(のぬいぐるみ)を両手に持って振っていて、本編とのギャップに大ウケ。還暦だそうですが、かわゆいとか思ってしまったよ…(無礼)。

ネクストシアターでおっ、と思っていた役者さんたちが出演していたのも嬉しかったな。

夢破れた先に見る風景は残酷乍らも美しい、と言うのは蜷川さんの演出作品にはよく感じられるものですが、寺山修司の処女戯曲であるこの作品を、彼と同じ歳の蜷川さんが今演出したことに、そしてその舞台に立ち会えたことに感謝します。殆ど見えなかったけどね…(苦笑)。



2010年02月08日(月)
GOSSIPのライヴにハズレなし

GOSSIP@LIQUIDROOM ebisu

思わずこれ迄の来日時の感想を読みなおしてしまった。
・'07初来日
・FRF'08

いやーこのひとたちのライヴにハズレはない。プロデューサーのリック・ルービンがメジャーデビュー作にライヴ盤を選んだってのはおっしゃ!と言う感じ。このよさがスタジオ録音盤に反映されんもんか…なんでだろースタジオ盤もいいんだけど、やっぱライヴなんですよ。スタジオ盤での狙ったかのようなチープなサウンドが、ライヴではすごいグルーヴを生むんですよ。なんて言えばいいんだー80年代のディスコサウンドって、シンセ音でペラく聴こえるけどゴキゲンなグルーヴがあったじゃないの、あれだよ!しかもそれが現代に鳴っててもレトロじゃないって言う。で、当然パンクが根っこにあって…あー何を書いてるのか自分でもわからないー。

今回大阪公演がキャンセルになって心配だったんだけど、いざ蓋を開けてみればリキッド満杯です。盛り上がったー。前回来日同様4人編成。ベースがサポートくんです。そして曲によってはブレイスに付いてたローディくんが一本指で単音シンセ弾いたりしていた。ブレイスのギターをとっかえひっかえチューニングし、こまごま楽器のケアもしつつ演奏も。何げに影の功労者(笑)。

それにしてもベスはセンスいい。ファッション(今回は蝶をあしらった(ミッキーマウス柄だったそうです、遠目でわからんかった)黄色のワンピース。細くて黒いベルトがポイント)、ヘアメイク(ブルネットのショートボブ、アイラインの入れ方も綺麗)と自分に似合うものを選ぶセンスもいいが、始終唄い続け、喋り続け、踊り続けると言ったフロアの関心をひきつけ続ける訴求力と言うか魅力が、ウィットに富んだセンスに彩られている。目が離せない。自己演出が巧いとも言える。そして大事なのは、その自己演出ってのに、きっと虚飾がない。だから沢山のひとが彼女のことを好きになる。オープニングも格好よくて。ハンナとブレイスがそっけない程ぱっと出てきてイントロを始め、まだステージに姿を見せないベスのヴォーカルが響き渡る。じらしてじらして、彼女が登場した時の盛り上がりといったらなかったですよ。うまいー!積極的にオーディエンスとコミュニケーションをはかるところもいいな、「ゲイって日本語で何て言うの?オカマ?オカマー!」「ファニーは?オモシロイ!」「チアーズは?カンパイ!」「トゥゲザーは?イッショ、ニ?イッショーニ?イッショニ!」キャラクターもとても強くしなやかでかわいらしい。

そんなベスのアイコンとしてのスケールも申し分ないんですが、このひとの何がすごいって歌ですよ。あれだけ動いているのに歌声に疲労が見られない。初来日時は、ちょっとピッチがよれたりとかあったけど、今回はそれもない。軽々と唄っている感じ。これは何げにすごいんでないかい…あの体躯で、あれだけ動いてて、あの歌ってのは。MC中でも曲間でもカヴァー曲を織り込む織り込む。で、その歌ってのがダフトパンク(One More Time!)だったりビキニキル(Rebel Girl!)だったりニルヴァーナ(Smells Like Teen Spirit!)だったり(あと他にもいろいろ…ミュージカルのアラジンの曲もやったよな)と、聴いてあっと思う曲ばかり、チョイスのセンスもいいんだなー。

はーなんかベスのことばっかり書いてしまうが、ちょうクールなレフティドラマーハンナの深胴に聴こえる重いのに確実なドラミングと、サウンド面での司令塔であろうブレイスの音数を極限迄減らしてヴォーカルを活かすギターやシンセのセンスもいいんだわよ。いいトリオだなー。

しかし何度聴いても「Standing in the Way of Control」には胸が熱くなるし、そこに「Smells〜」が入って来るところには涙が出てきてしまうな。カートの歌が今こうやって唄われていることに、いろいろと思うところがある。

ああーどうすればこの魅力をスタジオアルバムにパッケージ出来るんだろう。頼むよルービン先生。いやルービンじゃなくてもいいんだけど、セルフプロデュースでもいいんだけど。



2010年02月07日(日)
Joanna Newsom Japan Tour 2010

contrarede presents Joanna Newsom Japan Tour 2010@UNIT

昨年の来日が中止になってしょんぼりしたんだが、この時の呼び屋はどこだったっけ。今回コントラリード招聘でうひょーと言う感じです。ホントここ乗ってますねー。と言う訳でやっと観られた。

OAはdry river string。京都から来ました、ジョアンナは思ってたより背が高い、オーラがすごい、靴とバッグがシャネル、等のOAらしい気遣いMCを交えつつほんわか。この時点でもう結構混んでいて、比較的前にいたのにも関わらず殆ど見えない。何人いたのかも見えない(笑)。40分くらいやったかな。

で、ここからが長かった。ジョアンナが出てきません。途中「もう少しお待ちください」とアナウンスが入ってからまた20分くらい待ったかなあ。そうこうするうちますます混んできて、視界は前のひとの背中のみに。外国人や男性と、背の高いひとが結構いたからなあ。ピリピリきてるひとやげんなりしているひとで、ちょっと異様な雰囲気に。結局始まったのは20:30くらいだったか…遠方から来ていたのか途中で帰るひとや、倒れて運び出されたひともいて(混雑で具合悪くなっちゃったみたい)、ちょっと気の毒だった。

しかしジョアンナが出てきた途端パッと空気が澄んだようになり、彼女があの声で「sorry...hi.(なんか全部小文字で書きたくなるようなちいさな声)」と言ったら、あっと言う間に「イイヨイイヨー、ジョアンナちゃんイイヨー!」みたいな、ぱっと花が咲いたような雰囲気になったのにはウケた。そして遅くなった分は音楽で返しますよ!とでも言うようなスポーツマンシップならぬミュージックマンシップ(あ、ミュージシャンシップと言えばいいのか)に溢れた演奏がたたみかけるように続きました。うーんこれはすごかった。たたみかけるなんて、このひとの音楽からかけ離れた言葉かも知れないが、それくらいの迫力だったのです。

序盤何曲かひとりきりでハープの弾き語り、その後パーカッションと、ギターやブズーキ等弦と管のサポートを迎えてトリオ編成。とは言うものの、全く見えなかったので憶測だ。でもメンバー紹介してたし、音数からしてトリオの筈だ(笑)。曲によってジョアンナはハープを離れピアノも弾きます。

天使天使と言われているが、かなりアスリート的な面が強い印象でした。天性のものは勿論あるんだろうけど、その上常に腕を磨くことを怠らないんじゃないかなと言う厳しさも感じました。矢野顕子さんに通じるような…。高音部分の声はケイト・ブッシュ、ハスキーにひずませて唄う声はビョーク、ピアノを弾く時の低音部分の転がし方は矢野さんを連想させます。こう書くとなんだそりゃキメラかいって感じですが、全部合わさるともうジョアンナ・ニューサム以外の何者でもなく聴こえてしまう不思議。懐深過ぎる。長尺曲も全く集中が途切れず引きつけられるものでした。そうとにかく演奏する時の集中力がすごいんだよ、聴く方も静まり返りますよ。階下のSALOONの音と震動が伝わってきてしまったのがちょっと残念。どうせ視界は前のひとの背中だし、と殆ど目を閉じて聴いていた。最後の最後でちらっと拝顔出来ました。

後ろの外国人のおにいさんが、イントロが始まる度ちいさな声で「Yes!」と言ったり、ちいさーい声で一緒に唄ったりしてたのが微笑ましかった。

8日には早稲田奉仕園SCOTTHALLで追加公演。こちらは150名限定のアンプラグドライヴだそうです。あー生音でも聴いてみたかったな。しかしこの日はリキッドなのでした。2月ってホント来日ラッシュだよね…。



2010年02月06日(土)
『歌舞伎座さよなら公演 二月大歌舞伎』夜の部

『歌舞伎座さよなら公演 二月大歌舞伎』夜の部@歌舞伎座

十七代目中村勘三郎二十三回忌追善。口上は昼の部のみだったんですよね。今回は夜の部のみ、『壺坂霊験記』『高坏』『籠釣瓶花街酔醒』。先代の勘三郎に縁のある演目で飾る今月の大歌舞伎です。

今回『高坏』を狂言で観たことがあるのみで、他の二本は初見。しかもバタバタしていて予習も何もしておらず、内容を全く知らないまま観たので、個人的にはショックな内容過ぎてどーんと落ち込む始末です。いや皆見応えあったし、こっちの気持ちがずーんとなるくらい、なんつうか芝居だと切り換えて観られないくらいリアルだった(のはこっちの都合かも知れないが)のは、演者さんがすごかったと言うことですよね。

いやあ、しかし『壺坂霊験記』の第二場が終わった時は血の気がひいたと言うか、手が冷たくなるわ膝がガクガクするわで自分でもどうかと思った…そんで第三場の幕切れでホッとして泣く有様。うえーよかった……福助さんちょーいい嫁!三津五郎さんちょーいい旦那!

そんで『高坏』の、勘三郎さんの華やかな下駄ップ(ちょー格好いい、かわいい!)をうわあいと観て、最後の歌舞伎座になりそうだからとフンパツして食堂でおすし食べて、いい気分になって『籠釣瓶花街酔醒』。こっれっがっ、東京に出てきた地方出身者には痛過ぎる話で!そりゃもう勘三郎さん演じる佐野に感情移入してしまうことこのうえない。そして傾城に肩入れするあまりにあのーごにょごにょごにょ。と言う流れは現代だったらストーカー事件として報道されてしまいそうなものですが、事件の背後にはいろいろな事情があるもんですよ…八ツ橋の気持ちもわかるもんね……。それにしてもこういうテーマはおとことおんながいる限り永遠と言うか、普遍的なものかも知れないですな…はあー。兵庫屋八ツ橋部屋縁切りの場は、玉三郎さん演じる八ツ橋と、勘三郎さんの佐野の緊迫したやりとりが残酷でもーつらかったー!そしてここでの佐野があまりにも可哀相なので、大詰での落ち着きぶりとその後の凄惨な場面がひんやりとしていて怖いのなんの。最後の台詞「籠釣瓶はよく斬れるなぁ……」にゾッとする反面、ああこうなるのも致し方ないと思ってしまったり。当たり前ですが観客はどうすることも出来ません、ひたすら観るだけ。止められないもんね。

当時の花街の華やかさをこれでもかと見せる幕開けがとても素敵でした。始まる前に「真っ暗にしますから早く席に、始まったらしばらく入場出来ません」って注意のアナウンスがやたら流れたんですよね。で、あの歌舞伎座ならではの真っ暗闇になって、そこからぱっと舞台上に花街が現れた時の高揚感はすごいもんがあったんですが、しかし今思えばここ、その暗闇にこそ見所があったようにも思います。佐野は花街の、江戸の光と影を両方見てしまったんだ。見終わった後恐怖感と悲しみがじわじわ募りました。

勘三郎さんの、『高坏』でのアホの子次郎冠者と『籠釣瓶花街酔醒』での情念佐野のギャップには圧倒されました。同じひととは思えねえー。しかしどちらも、観る側の心に寄り添うと言うか、共感出来る人物像ばかりなのです。

そして彌十郎さんはとても格好よかったが、『籠釣瓶〜』でああいうことになったそもそもの原因は彌十郎さん演じる釣鐘権八にあったような気もするのでごめんなさいとも思いました(苦笑)。

と言う訳でしょんぼりして歌舞伎座を出てきましたよ…でもおすしはおいしかった(そこか)。



2010年02月05日(金)
『abura derabu』

『abura derabu』@Shibuya O-WEST

mouse on the keysとTHA BLUE HERBの対バン。すごい異種格闘技戦じゃないすか…ILL-BOSSTINO氏曰く「ブッキングしたO-WEST、天晴です」。盛況でした。

motkから。出てきたけれど全く拍手もなくシーンとしていて「うわ、超アウェイ?」と冷や汗が出るも、本編は皆さん聴き入ってる感じで、終盤になるにつれ盛り上がってホッ。演奏はちょっとブレがあったようにも思いました。このひとたちの曲って、ホーンはメゾフォルテとかメゾピアノな音量で続けるところが多いから、プレイヤーのコンディションが如実に出るような。精度が全てとは思わないし、ブレそのものが楽しめることもあるので、こういうのもいいなあとは思った。あとO-WESTはEAST同様天井が高いので映像もいい具合でした。

告知等のMCがいつにもましてたどたどしく聞こえた(笑)後に出たTBHの弁が立ちまくりだったので、そのギャップが面白かった…。

TBHは二〜三曲しか知らず、初見。そもそもヒップホップのライヴを殆ど観たことがないのですが、他はどうなんだろう、ここ、ほぼ全部アドリブ?みたいでビックリした…すごいなー。いや勿論曲はあって、リリックもそれに沿ったものなんだけど、この日この時間、この場で言いたいことをズバズバ盛り込んで行って、それを言い切ったら終わりと言う感じ。アンコールないのも納得、みたいな。バックトラックも格好よかったなあ。

言葉を使わないmotkと、言葉が強烈なTBH。非常に興味深い対バンでした。しかし、そういえば、motkのリリック込みの曲って一曲はあるか。この日もopで使われていました。



2010年02月04日(木)
『カルペンティエル地下文学賞』

菊地成孔とペペ・トルメント・アスカラール『カルペンティエル地下文学賞』@LIQUIDROOM ebisu

何やら知らないうちにタイトルが付いてましたよ。超満杯、パッツパツ。マタギはおらんか〜

と言う訳で、ようやっとフロア対応PTAを観ることが出来ました。菊地さんの過剰なもてなしぶりは毎度のことで、満杯な上に長丁場、終わったの23時過ぎ。DJに菊地さんと日向さやかさん、対バンにworld's end girlfriend & BLACK HOLE CARNIVAL。PTAのゲストにソプラノの林正子さんとタブラの立岩潤三さん。立岩さんが出てきた時あれっ、吉見さん!?でもちょっと小さい…細い…と思っていたら、吉見さんのお弟子さんとのこと。菊地さんのキチガイアレンジをコンピュータでシミュレートするマニピュレータと、それを譜面に起こす作業もやってらっしゃる方だそうです。あれ譜面に起こしたらどうなるんだ。頭おかしくなりそう。菊地さん「いやー、クラシックとかルーツミュージックとか、専門音楽のひとって皆頭おかしいですよね」って言ってたけど、おまえが言うなと(笑)。

20時前にフロアに入ると菊地さんのDJ中。ブリストルぽい重めの音にノイズを交えてどっぷり鳴らしていた。ちょっとしか聴けず残念。続いてworld's end girlfriend & BLACK HOLE CARNIVAL、初見。『空気人形』のサントラでしか知らなかったんだけど、“& BLACK HOLE CARNIVAL”てのがミソなのかな?『空気人形』とはかなり違う雰囲気。ツインドラム、ツインギター、サックス、Macも使う。ステージ上には5人いたけど、エンジニアもいそうだった。クラフトワークの「モデル」をカヴァーしておおっと思っていると、ツインドラムがどっかどかに叩いたりして、なんつうか懐かしい感じも。「80年代のかほりもちょっと…」「アフターディナーとか4Dとか」「しかしあのドラムがボアっぽく」「ROVOとか」「アメ村!西部講堂!」とか話す。

続いて日向さんがラテン系のDJで盛り上げる。転換に時間がかかり、PTAが登場したのは21:30くらいだったか…アッパーセットで来ました。待ってた!「嵐が丘」でスタート。ここでおおっとと思う、音の返りが違う。ここんとこPTAはクラシカルなホールでばかり聴いていたので、響き方がかなり違って聴こえたのです。なんだろ、パン!て手を叩いたら、ホールだと「パンンンンン」くらい残響があるんだけど、リキッドでは「パンン」くらいで。そのせいかどうか、皆さんアタック強めで演奏しているようにも思える。林さん(Pf)とかかなりドカドカ弾いてたよ。しかし慣れてしまえばそれがもうすんごく格好いい!踊りたい!でもフロアぎゅうぎゅうで踊れない!うがー拷問!いちばん踊れるスペースがあったのはステージ上の菊地さんだろうよ。

しかしステージ上もぎゅうぎゅうなのであった。11人編成の上、座奏のひとも多いから椅子が入りますしね。譜面と演奏者が近かったのか、空調のせいなのか、「Killing Time」での吉田さん(1st Vln)のソロ中、楽譜が何度も落ちてしまう。弓も切りまくるくらいのかなり激しいソロだったので、煽られたのかも。楢村さん(2nd Vln)と菊地さんとでその都度楽譜をおさえるも埒があかず、かと言ってソロも止められないしうわーどうする?と思っていたら鳥越さん(B)がクリップを投げ入れた!すかさずそれを菊地さんが拾って楽譜を留めた!と言うナイス連携プレイが。ああすごく格好いいのにすごく笑える!もう爆笑。その後吉田さんは「今日は蝶ネクタイを忘れてきたのでVシネのひとみたいな出で立ちです」と紹介されていた(笑)格好よかったよー!

どっから切ってもビリッビリの緊迫感と一触即発のスリルとスピード感満載のセットだったが、個人的なハイライトはこの「Killing Time」と、林さんと立岩さんが参加した「When I Am Laid In Earth」「行列」。特に「行列」は、よくこんなん演奏するわと思う程複雑なリズムで(しかしこれがめちゃ踊れる曲として成り立っているのが面白いところ)、林さんもよくこのオケで唄えるなあと言う…ご本人もかなり拍とってたし、菊地さんのキュー出しも細かかった。大義見さん(Perc)と立岩さんのかけあいは、DCPRGの「CIRCLE/LINE〜HARD CORE PEACE」を彷彿とさせるタメと爆発。似てるってのとは違うけど…そして菊地さんはいろんなフィールドで活動するひとだから、どれがいいとか優劣をつけるものではないけれど、個人的にはフロアでの菊地さんの音楽がいちばん好きではある。ゲスト紹介の時、菊地さんが「林さんはクラシックの世界で活躍されてる方なので、クラシックのコンサートでは体験出来ないような歓迎をしてやってください!」と言って、それにフロアが「うおー!!!!!」と応えた瞬間は爽快だったし、ああこのフロアの熱が自分は好きなんだ、と思ったりした。野蛮とエレガンが同居するのが菊地さんの魅力だと思うし、どちらが欠けてもいやだけどね。

それにしても数年前迄はアッパーハイライトナンバーだった「ルペ・ベレスの葬儀」がクールダウンナンバーにすら成り得てしまう今のぺぺのダンス狂乱っぷりはかなりのもの。当分目が離せません。アンコールは「時さえ忘れて」でしっとり保湿。リキッドを出た途端の冷たい風も心地よい程でした。

前述の歓声にガッツポーズを返した林さんは相変わらず超男ットコ前であった。惚れる。あれでアリアを唄うんですよ!たまらんよ。アリアでポリリズムでタブラ、菊地さん曰く「西洋クラシックとアラブ音楽、国が国なら殺されるかも知れない」優雅で野蛮な曲に熱狂出来る日本のフロアはなんて危険で幸福なんだろう。