<春雨夜 -spring rain's night->
ここ数日の雨で眠れなくなっていた。
元々寝つきはよくない方なのだけどそれに拍車が、かかってしまって。
夜の雨、は嫌い。
思い出したくない過去(こと)を思い出してしまうから。
23時過ぎに部屋に来てくれたフリックはそんな僕に気付いて、
『…眠れないのか?』
と心配そうな表情で尋ねてくれたけれど。
でも僕が寝れない理由、はフリックも知っている事で。
これ以上、心配も迷惑もかけたくなくて。
だから。
だから。無理して微笑った。笑顔を造った。
「……大丈夫。お茶、淹れるね?」
そう言って立ち上がろうとした瞬間。
不意に抱き締められて。耳元で聞こえる、声。
「お前がそういう風に言う『大丈夫』は…俺は信じないから」
予想していなかったから、どうしても体が竦んでしまって。暖かい体温、優しく抱きしめてくれる腕、心配そうな…それでいて少しだけ苦笑いを含んでいる声。
「とりあえず、寝れない、って言うんだったら…側についててやるから。
お前がちゃんと寝れるまで、ずっと側にいるから……それじゃ駄目か?」
何て答えたらいいのか判らずに、抱き締められた胸に顔を埋めていると優しく髪を梳かれて。
近くに感じるフリックの匂い。
ほんの少しだけ、眠りの淵に辿り着いたみたいな感覚。
抱き上げられてベッドに運ばれて、着替えたフリックが同じベッドに入ってきて。
隅っこに寄っていた僕を抱き寄せる。
「……ほら。もっとこっちにおいで?」
…灯り、落としていてよかった。と心底思った。
だって灯り、ついていたら紅くなってしまっている顔、はっきりと判ってしまっていただろうから。
薄明かりで、よかった。
何度も何度も優しく髪を梳かれて、キスを落とされて。
「ちゃんと側にいるから…お前の、側にいるから。
嫌なコトは忘れて、ちゃんと寝ないとな?」
そう言った後で、くすくすと笑いながら耳元で囁かれる。
「……それとも、夢も見られない様に、してやろうか?」
「……………」
何も言い返せない。言える訳が無い。
顔が熱くて、紅くなっているの自覚してしまっているからフリックの顔、見られなくて。
「…だからさ。嫌な記憶、だってこういう風に塗り替えていったらいい。
ゆっくりでいいんだから…な?」
優しく問い掛けられて、俯いていた僕の顔をゆっくりと上げさせて。
逢った瞳さえも優しくて。
頬に触れている手に自分の手を重ねる。
フリックの手が好き。ううん、手も好き。
彩る全てが大切で、とても好き。その中でも手、は特別。
恥ずかしいから口にしたりなんか出来ないけれど。
髪に、額に、頬に降ってくる優しいキスで意識はとろとろと微睡んできて。
「おやすみ……よい、夢を」
そして唇に触れるだけの甘いキス。
夢か現か判らない僕が告げた言葉は。
『おやすみなさい……ありがとう……』
窓の外からはまだ雨音が聴こえているけれど、過去の記憶を思い出してしまう事はこの先、またあるのだろうけれど。
でも、今夜の記憶を忘れずにいたのなら。
例え一人、でも夜を乗り越えられると思うから。
だから、心から………ありがとう。
いきなりの単発話でした。いいカンジに壊れている模様です私(苦笑)
今が何時かは怖くて書けません〜(汗)
今日も仕事だよ私……しかも給料日明けの土曜日でしょう?絶対、忙しいのにね。
それでも尚「話が書きたいっ!でも長いのは書けないっ!!」
という訳で、ちまちまっ。としたワンシーン的な話を書いてみました。
話倉庫にはアップしません。ここまで覗いて下さった方に、こっそりとプレゼント、な話だったり。
そしてこの話…フリ坊なのですが。フリックに敢えて坊の名前を言わせませんでした。
随分と謎が多いかも、な話ですが…その辺りは読んで下さった方の中で補填して下さると嬉しいですv
ではいい加減、寝て……次こそはお年始話の続きを書きます♪