何でも帳。


同じ星を一緒に観る事が出来たのなら



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2001年11月27日(火) September-rain・9





自分の耳を、疑った。だって、まさか。そんな事。
嫌われている、とは思っていない。むしろ、好かれているとさえ思っている。
それでも『好き』以外の言葉はティアラの口から聞いた事は今迄一度も無かったから。
そして、ティアラがそれを口に出来ない理由、も朧気ながら知っていて。
曖昧なそんな思惑は、こうして話している内に確信となって。
だからこそ、その言葉を聞く事は叶わないと思っていた。もし聞く事があるのなら…それは自分の世界が終わってしまう間際なんだろうな…とか。なのに、どうして?
不意に訪れた告白、が思いがけなかった分、嬉しさよりも戸惑いが先に来てしまう。本来ならば、こういう場面では何より先に抱きしめるものだ…そう思ったのは随分と後の事。


時間が止まった様な、固まってしまった様な…未だかつて経験した事のない、感覚。
ただじっと、俺の腕を自分の両腕で抱きしめたままのティアラを息を詰めて凝視する事しか出来なくて。
ティアラも俺の腕を手放さずに、告げてからずっと呼吸を詰めたままで。
外で吹いてる風の音が聞こえている様な幻聴。
自分の体に流れている血の流れの音さえ聞こえる様な。
互いに沈黙していたのは恐らく十数秒。長くもあり、また、短くもある刹那。
唐突に訪れた告白。それに付随する沈黙、は訪れた時と同様、唐突に破られる。


  「………よかった……フリック、ちゃんと生きてる………」


心の底から安堵した様なティアラの声。
どうやら告げてからずっと、俺の胸に耳を当てていたらしい。
鼓動の音をちゃんと確認出来たから、安心出来たから、声を発する気になったのだろうか?
ティアラの声で、ようやく意識がこちらに戻ってくる事が出来たから、声音に言葉に答える様に空いてる方の腕で、そっと頭を抱き寄せる。
耳に注ぎ込むのは出来る限り、優しい声になります様に。
そんな事を頭の片隅で願いながら
  「……やっと聞きたい言葉を貰えたのに、そう簡単に死ねないさ。
   ありがとな。言うの、凄く勇気とか覚悟とか必要だったろ?」
  「ん……すごく…物凄く。やだ…上手く言葉に出来ないや……」
胸に顔を埋めたまま、そう呟くティアラが愛しくて仕方が無くて。思わず…そう、思わず。
  「無理して言葉にする必要は無いさ……こうしたら、何も言わなくて済むぞ?」
ティアラの頤に手をやって、上を向かせて。そしてそっと唇にキスを。
  「…愛しているよ。ティア」
はじめは紅茶色した大きな瞳がぱちくり、と瞠目していたけれど、言葉を理解してゆっくりと長い睫毛を伏せる。
ずっと抱いたままだった手を解いて、恐る恐る…といった風に俺の背中に手を回してくれたから、ようやく戻って来た自分の腕で、世界で一番愛しいものを抱き締める。
とても綺麗で、潔く強く。だけど、何処か脆い。
まるでそれは緑玉石(エメラルド)の様だと思った。
輝石の中でも希少価値の高いそれをこの手にしたかの様に。
一番大切なものが判っているのなら、弱みさえも吹き飛ばしてしまえばいい。
唇をそっと離して、吐息さえも感じられる位の距離で言い聞かせるように囁く。
  「ずっと、愛しているから。
   健やかなる時も、病める時も…例え、離れる時が来ようとも」
潤んだ瞳で縋るみたいに見上げられたから、微笑って頬にキスを落とす。
  「俺からは離れないし、離さない。
   だけど、俺は世の理に逆らえないし、お前が決めた事なら離れていった手は追えない。
   …それでも、ずっと、愛し続けると誓う」
頬に、耳に、髪に。まるで何かの儀式の様にそっとキスを降り注がせる。
首筋にも静かにキスを落として…今更になって自分の欲を制御できる自信が無くなってきてしまう。
愛してる。そう言って貰えた以上、無理に我慢する必要は無くなったのかも知れないが。
でも、無理強いは…不必要に傷付ける事は決してしたくないから。
ゆっくりとひとつ、ふたつ深呼吸をして感情を整える。
見上げてくるティアラの瞳はもう憂いを見せていなかったから、何処か救われた気持ちになる。
静かに手を差し伸べて、ティアラの右手を捧げ取る。
一瞬、手を引き戻そうとしたのは判ったけれど、力を込めて引き寄せて。
手袋は嵌めていなかったから、寝る時でさえも外していないテーピングをするすると解いていく。
解くのは、物理的なものでもあり、また内面的なものでもあり。
そんな事をうっすらと思いながらも、解く手は休む事無く。
しゅるり…と最後の一巻きを解くと、そこに存在しているのは『生と死を司る紋章』
前の戦いが終わってもまだ、ティアラの右手で息吹いている紋章。


  「……………フリック?」
心細いか細い声が聞こえたけれど、敢えて無視してそっと指先に触れる。
冷たい、指先。
  「……フリック?何、するつもり?」
今にも泣き出してしまいそうな声に笑いかけてやってから、捧げ取っていた手を目線の位置まで持ち上げる。
ソウルイーターを見据えてから、ティアラの瞳を見つめて。
捧げ取っていた右手の甲に、魂喰いの紋章に、躊躇い無く口付ける。

  「この紋章ごと…お前の全部、俺は愛してるから」
  「フリック………」
  「あまり何回も口にしたら重みとか真実味とか無くなっちまいそうだから、もう言わないけどな。
   でも、もう一度だけ」
そこで一度言葉を区切って、思いの丈がちゃんと表情にも出る様にと。
  「…ずっと愛してるよ。ティア」
きっと俺が言うのより、ティアラが口にする方がずっとずっと少ないのだろうけれど。
それでも思いの深さは変わらない。
何度言っても、言わなくても。
俺の言葉をティアラは噛み締めるように、何処かに大事に保存するみたいに耳を欹てて聞いていて。その真剣な表情さえも愛しいと思った。
愛しい気持ちのまま、そっとキスを送るとティアラは体を預けてきたから、背中に手を回して抱き寄せて。そのまま静かにベッドに横たえさせる。
唇を離すと見上げてくる紅茶色の大きな瞳。熱があるみたいに潤んで見えるのは気の所為なんかじゃなくて。
シーツに手をついて覆い被さっている状態の俺に、花が綻ぶ様な綺麗な微笑みを向けてくれる。
ゆるやかに差し伸べられた手が俺の頬に触れて。そして。
  「……僕だって、ずぅっと愛してるからね。忘れないでいてね?」
  「…あぁ、忘れたりなんかしないよ。ずっと、大切にする……」
瞳を合わせたままで、そう答えて髪を梳いて首筋に顔を埋める。
柔らかい皮膚を優しく吸い上げると、肩を竦めて小さな声が漏れ聞こえはじめて。どちらのものとも判らない鼓動の音。どきどきしているのはどうやらお互い様らしい。


そんな鼓動の音を心地よく感じながら、そこらかしらにキスを落としていると俺の背に回されていたティアラの手が不意に落ちて。
不思議に思って、顔を覗き込んで……そして苦笑を零してしまう。
だって、これはもう苦笑を零すより他ない。
こんな状況だというのに、ティアラは幸せそうな表情のまま寝入ってしまっているのだから。
起こしてしまうのも忍びなくて、苦笑いのまま髪を梳いてやると本当に幸せそうで。
先刻のルックの話だと、ここ五日間ほぼ寝ていなかったという事だから、問題やわだかまりが解けて張り詰めていた緊張の糸も切れてしまったのだろう。
鼓動が子守唄代り、だったらしい。
それが判っても、尚かつ苦笑いは止められなくて。
俺の運はいいのか悪いのか…そんな下らない事まで考えてしまう始末。
それでも思いが通じ合えたのは幸運に違いない。
まだ時間はあるから、もう急ぐ必要は無いから…歩く速度で事を運べばいいのだろう。

しばらくの間、くすくすと声を殺して苦笑いをしていて、やっと止まってからティアラを見ると、起きる様子は全く無くて。
ちょっとだけ悪戯心を出して、服の上からは見えない鎖骨の下辺りに口付けて、少しだけ強く吸い上げて赤い花弁を散らしてやる。
次にティアラが目を覚ました時に、先刻までの出来事が夢じゃないという事を知らしめる為に。

『続きはまた今度』
……そんな約束も兼ねて。

ティアラの横に体を寝かせて、背中に手を回して抱き寄せると小さく身じろぎしながら擦り寄ってくる身体。
額にそっとおやすみのキスをしてから、静かに瞳を閉じる。
朝、起きたらティアラは吃驚するだろうな…とか、どんな反応示すのやらとか。
それでも、おはようのキスはちゃんと受け取ってくれるだろうから。


――― おやすみなさい。よい、夢を。
     明日もあなたが聞こえます様に…あなたの側に、いられます様に。






やっと終わりましたーっ!!\(^o^)/
…どこまで書いたらラストに持っていけるのかすごく不安でした(苦笑)
話を書く前から、最後のオチ(笑)は決めていたので今回の最終話途中になって焦っていたり。←迂闊に最中まで持ち越してしまいそうだったらしいですよ?(笑)

それはさておき、何とかようやく書き終える事が出来て一安心。
思い返すと…9月末から続けてたのですね。約2ヶ月もトロトロと…(汗)亀の歩みにも限度ってモノが。
それでも「楽しみにしています」と仰って下さった方々のお言葉に励まされて、ここまで書く事が出来ました。
少しでもお楽しみ頂けていたのなら、何よりの幸いなのですが。
兄さん甲斐性度アップ作戦は果たして成功したのかどうかが怪しいトコロです(汗)

帰宅してからhtmファイルを作ってアップしますねv
ファイル自体はあるのですが、あまりに長いので2つか3つかに分けてアップしようと思います。(…一つのファイルだと後書きナシで53Kにもなりました…汗)
「連載だと続きが気になるから、全部書き上げてファイルアップしたら読むわ」と言っていた某Yちゃん、果たして君はこの長い話をちゃんと読むのかしらねぇ…(笑)
そんな内輪話はさておき。
タイトルの「エメラルドの弱み」はDreams come trueのファーストアルバム収録曲からの引用でした。
所々で歌詞も微妙にアレンジしながらちらほらと使っていたり。最後の文は、うちのフリ坊話には欠かせない(苦笑)川村結花の『Travels』でした。
参考文献は…色々(苦笑)途中詰まった時に何を思ったか新約聖書をめくったり、久し振りに宝石の専門書を開いてみたりしてました。
とにかく初めての長期連載。色んな経験をさせて頂きました。一番楽しかったのは…やっぱりルックちゃんサイドで話が書けた事でしょうか(笑)

最後までお付き合い下さった方々に心からの感謝を!



Special thanks to S・Kazahaya E・Itakura Sarasa・K R・Sakurai Asagi Aya・M……and you!


2001年11月19日(月) September-rain・8




「……どこまでだったら、俺にはいい?」


どこか嘲笑じみた声で、言葉でティアラの瞳を覗き込んで…思わず動きを止めてしまう。
浅ましい俺を見上げていたティアラの表情が、瞳が、もう見る事は無いだろうと思っていたそれ、だったから。
『リーダー』として感情の総て、を切り捨てた表情。
大きな紅茶色した瞳には感情のカケラも見えなくて。
  「………それで君の気が済むのなら…好きにしたらいい……」
投げつけられる言葉にも、感情を見出す事が出来ない程。
自分がどれだけ愚かな事をしてしまったかを知る。
激しい後悔と、自己嫌悪。
ベッドに腰を下ろして、言葉を探しあぐねていると、ティアラが起き上がったのが気配で判った。
…あまりにも情けなさ過ぎて、視線でさえ追う事が出来なくて。
どうせなら、このまま部屋を出て行って欲しいとさえ望んでしまう。

そうしたら俺は、感情も言葉にも出さずに戦いの間、接するから。
そうしたら俺は、戦いが終わったら、何処かへ去るから。
笑顔も体温も声も瞳も全部、傷つけないように大切にしてみせるから。


  「…………莫迦フリック。人の気も知らないで」

ぼそっ、と微かな声が聞こえて思わず顔を上げてしまう。そこには、紅い表情をしているティアラが。
先刻より、ずっと感情が見える表情に声。

  「……どうせまた不毛な考えの袋小路に辿り着いてうじうじしているんでしょ?」
  「うじうじ、って…お前……怒って、軽蔑していたんじゃないのか?」
  「怒ってるに決まってるでしょっ!?人の気も知らないでっ!!
   大体ねぇ、僕がどれだけ悩んだと思ってる訳!?それをあっさり勝手に無視してっ!!」
  「あっさり勝手に無視、って言ったってっ!
   俺だって、考え悩んでいたんだぞっ!?」
そう。どうしたら、お互いの手を取って、笑い合いながら歩いて行けるのかを。

ティアラは俺の目前に人差し指を突きつけて、やけに真面目な声。
   「………先刻のは冗談でした、って言いなさい」
『冗談でした』というのは容易いし、それで先刻の事を水に流してくれるのなら…とは少しだけ、思った。それでも自分の感情に嘘はつけないから。
俺の目の前に突き出されたティアラの左手を、そっと払いのけて。
   「……冗談に出来たら、よかったんだけどな」
折角寄越してくれた助け舟を蹴ってしまう自分を何処かで恨めしく思ってしまうけれど。

   「………感情が先走ってしまって、お前を怖がらせた事は謝る。
    でも、今の正直な気持ちを言えば…お前を抱けるのなら、例え死んでも構わない」
手に入らないのなら、生きるも死ぬも同じ事。願いが叶うのなら、何も、いらない。


そう。この命でさえも。


俺の言葉を聞いて、ティアラは辛そうに顔を歪める。

   「……それは…フリックが死んじゃうのは……嫌、なんだってば」
泣きそうな声。辛そうな表情。
…だから、お前にそんな顔させたい訳じゃないのにな。叶うならいつも笑っていて欲しいのに。
自分の不甲斐無さに腹が立って来てしまう。
   「…だから、さ。
   俺もお前が嫌がる事は無理強いしたくないんだ、本当に。
   でも、今のままだと、俺が…辛いから。ティアラの事、好きでどうしようもないから。
   だから、それを守ろうと思ったら、お前の顔が見えない所へ行く事しか…思いつかない」
  「フリックがいなくなっちゃうのは、もう、嫌なんだってばっ!!」
悲痛染みた、声。
僅かに震えているのは、あの時の事を思い出してしまっているからか?あの時、どれ程の思いをしたのか俺には到底量りきれないけれど。
それでも、少しでも落ち着くようにと頭を抱き寄せて、ぽんぽんと軽く撫ぜてやる。
  「理由が即物的過ぎてどうしようもないな。情けないと自分でも思うよ」
  「……嫌な訳じゃ、ない……だけど。」
俺の胸に顔を埋めて、俺の服の裾を握りしめて言葉を紡ぎ出すティアラを宥める様に薄墨色した髪の毛を梳いてやる。
  「…判ってる。でも、だったら余計に尚更辛いかな。
   今でさえ、なけなしの理性を総動員だ」
思わず苦笑いを零してしまう。
キスしたい衝動とか、抱き締めたい衝動とか。自分だけのものにしたいという独占欲。
  「…ずっと、お前から合意がもらえるまでは、って思っていたけど、そろそろ限界、だから。
   俺がそれを望み続けるのが、お前にとってただの苦しみでしかないなら…
   …俺も願うのをやめる」
  「……でも、願うのやめたら……離れて何処かに行っちゃうんでしょ?」
少しだけ舌っ足らずな問い掛けに、無言で髪にキスを落としてやる。
ティアラは俯いて、考え込む仕草。

どうしたらこの袋小路から抜け出せられるのか、どうしたら互いにとって最善になるのか。
離れるのは簡単な事。
その後、ずっと後悔とか虚脱感とかに苛まれるのが離れる前から判っていたとしても。
だから、互いが幸せでいられる道を探し掴み取らなくては。

しばらく俯いたままだったティアラが不意に顔を上げて、ベッドサイドテーブルに置いたままにしてたワインボトルに手を伸ばす。
何をするつもりだ?
嫌な予感がしたけれど、つらつらと考え込んでしまっている頭では、それを止める迄には行動が至らなくて。
手酌でグラスに注いだと思ったら、一気に飲み干してしまう。
……先刻もこんな事があったような気がするのだが。

一気に飲み干す様をただ見ている事しか出来なくて。
ティアラはグラスのワインを飲み干してから、瞳を閉じてゆっくりと深呼吸をひとつふたつ。
顔がうっすらと紅くなっているのは酒の所為か?
そんな表情にも見蕩れている自分を心の中で呆れながらも見守っていると、ゆっくりと開く紅茶色の瞳。
  「一つだけ、も一度聞いてもいい?」
上目遣いで見上げてくる瞳。何処か潤んで見えるのは気の所為ではないだろう。
奥底に残っていた火がちりり、と音を立てて灯りそうになってしまうのを堪えて、出来うる限りの笑みを浮かべてティアラの頬にそっと触れて答を返す。
  「……ん?何だ?」
頬にやった俺の手に自分の左手を重ねて。ゆっくりと一つ、瞬きをして。
  「………僕の事……前に言ってくれたコト、今でも…………変わって、ない?」
縋る様な瞳、とはこういう瞳の事を指すのだろうと何とはなしに思った。
路地裏で怯えている子猫、みたいな。
信じて欲しくて、疑って欲しくは無くて。思いの丈を告げる。
  「…そう簡単に変わったりなんかしない。そんなにぬるい気持ちじゃ、ない。
   ……愛してる、ティア……」
言葉として口に乗せると酷く陳腐で安っぽくなってしまうけれど。
それでも、本当の気持ちだから。
俺の答を聞いて、ティアラは切なそうな、泣きそうな…そして笑んでいる様にも見える微妙な表情を浮かべて。
俺の腕を両の腕で抱きかかえて、顔を埋めて、声を発する。
その声は初めて耳にする声音。
まるで祈りを捧げるかの如く。厳かで、そして、切ない迄に。


   「…………好き、なんだから……僕だって……フリックの事…愛してる、んだからね?」







話がループしてしまって、どうしようかと思ってしまいました(汗)
どうにか少しは進展した様でほっと一息。
兄さんの甲斐性はやっぱりこの辺が限度だったみたいです…書いてて「…ティアラの方が何か男前じゃないっ!?」と思っていたのは秘密(苦笑)
今回の話も参考資料は前回に引き続き、風早おねぇに頂いていたモノでしたv
ありがとうね〜♪(そしてまた笑われてしまうのかしらね…)

今回の引き、でようやく終りが見えました。
あと1話、で終わります。……多分、恐らく、きっと。
待っているのはどんな結末か、言いたくて言いたくてムズムズしています(笑)
よろしければどうぞあと1話、お付き合いして頂けると光栄ですv

2001年11月12日(月) September-rain・7






  「……フリックがくれる言葉は凄く、嬉しい…でも……」

ぽつりぽつりと紡ぎ始める言の葉。たどたどしい口調。合わさる事の無い視線。
それをただじっと聞くしかない自分。
  「…でも、僕にはコレ、があるから…だから」
右手に存在している紋章を擦って、辛そうに視線を落とす。
ティアラが何を悩んでいたのか全く判らなかった訳ではない。けれどもここまで辛い思いを背負わせてしまっていたとは知らずにいたから。
ティアラが持っている紋章…『生と死を司る紋章』はあの時からずっと、ティアラを宿主と決めていて。右手にずっと存在して。それがもたらす結果、に怯えているのだと知る。
愛する人達を奪い去ってしまった、紋章。
何か言わなければ…そう思ったが、思いつく言葉はどれも説得出来る物ではなく。
  「………俺が、ティアラを思うのが、お前にとって辛い事でしかないのなら」
口をついて出るのは、一つの提案。選択肢の、一つ。


  「…この戦いが終わったら、お前の前から姿を消すよ。
   それ迄の間は、態度にも言葉にも出さない」
息を飲んだ音が、聞こえた。
顔を上げると、紅茶色した瞳にうっすらと涙を浮かべているティアラがいて…折角した決心が鈍くなってしまいそうになる。思わずそっと頬に触れて、苦笑いしつつも笑いかけてやる。
  「……それで、お前が楽になれるんだったら…構わないから」


離れても、生きては、いける。例え毎日が空しく過ぎていくだけだとしても。
それでも辛い思いをさせるよりは、と思う。辛い思いなら俺だけが背負えばいい事だ。
ティアラは今にも泣きそうな表情でしがみついてくる。
  「莫迦莫迦莫迦ーーーっ!!どうしてそんなコト、言うのーーーっ!!」
  「…莫迦、って……だって、お前、辛いだろ?」
  「また、いなくなっちゃうのっ!?また、一人にするつもりなの!?莫迦フリックーっ!!」
悲痛じみた、声。
………あぁ、そうか。前の最終戦の事を指しているのか。
それでも、あの時はああするより他なかった。
一番上に立つ者が、リーダーが、最後まで生き延びてこその勝利。また同じ状況に立たされたら、俺は同じ選択をするだろう。だから後悔はしていないのだが。
  「……でも、お前の側にいたら、俺は自分の感情を制御出来ないから。
   …好きだから『愛してる』って告げたいし、抱き締めたい。
   抱きたい、って思う気持ちをいつまで止めていられるか自信も無い」
だから、離れるのも選択肢の一つだと思って。
ティアラに辛い思いはさせたくないし、嫌がる事もしたくは無いから。
  「……莫迦フリック。人の気も知らないでーっ!!」
俯いていた顔を上げて、いきなり殴りかかってくる。しかも冗談半分、ではなく、力加減なしで。
慌てて避けるが、それでも2、3発は避けきれずに。
訳が判らずに兎に角、避けつつも抱き締める。そっと表情を盗み見ると…紅い顔して、涙目になっていて。折角した決心とか、理性とかが音を立てて崩れ壊れそうになってしまう。
  「………ティア?どうした?」
一応は大人しく腕の中にいるティアラの背を宥める様に撫ぜてやって、そっと耳元に口を寄せて尋ねる。
いらえが返って来たのは心の中で深呼吸を二つばかりした後。微かな、声。
  「……人の気も、知らないで……フリックは『口に出来ない辛さ』知らないから…」
  「それが『本当に言いたい事』なのか?だったら、とっとと言って楽になっちまえ」
『言いたくないけど言わないといけない事』はもう言った筈だ。だったら、次に来るのは『本当に言いたい事』だと思うから。
そう考えながらも、少しだけ詰める様な口調で言うと、ティアラはこの期に及んで口篭もる。


ぷつん。と糸が切れた様な感覚。


それは忍耐の、だったかも知れないし、理性の、だったのかも知れない。
いずれにせよ何かの糸が切れたのは確かで。
  「………大体、俺は、お前の部屋で見た、ルックとのコト、何も聞いていないんだが?」
思い出したら、また腹が立ってきた。俺も少しばかり酔ってしまっているのかも知れない。
  「っ!あれはっ!!」
  「ルックにはいいのに、俺は駄目なのか?」
  「そうじゃなくてっ!!」
突付けば今にも泣きそうなティアラの腕を押さえつける。
  「…だったら、どこまでだったらいい?」
  「……フリック?」
ここに来て、ようやく会った視線。それはどこか怯えた様な瞳でもあったのだけれど。答を待っていられたのは数秒だけ。
ティアラの腕をシーツに縫い付けて、落とすキス。
じたばたと逃れようと藻掻くのが判るが、無理矢理押さえつけて、何度目かの噛み付く様なキスの後に服の裾から手を差し入れて。
  「…それとも、ここまで?」
そっと脇腹を撫ぜ上げると、素肌に触れる感触に一瞬、体を震わせたのが判った。
僅かに逸れたティアラの唇から、微かに悲鳴じみた声が漏れたのが聞こえたけれど、それももう欲に火を注ぐだけでしかなくて。
浅ましい独占欲だ、とか、つまらない嫉妬だとか…頭の片隅ではそう思ったのだけれど。






……『甲斐性がある』のと『鬼畜』なのは結構似ているものなのかも。とか思いはじめています……(遠い目)
打っていて「……もしもし?」とセルフ突っ込みするコト多数。弱気なんだか、強気なんだかよく判りません<うち兄さん。
何はともあれ、参考資料を作ってくれた風早おねぇに心からの感謝をvv愛してるわっ!!(ひしっ、と抱きつき)
…多分あと一、二話で終わるんじゃないかと思っているのですが…どうなるコトやら(涙)



2001年11月06日(火) September-rain・6




こんな星の下に 生まれたことを呪う?
それでそんな自分を あきらめてしまう?


たった一言しか口に出せないんだったら、答は決まっている。


『愛してる』


一体何をそんなに 恐がっている?
一体そうまでして 守ってるのは何?






  「……で、どうしてあんな事になったのか説明してもらえるんだろうな?」


肩に担いで来たティアラをベッドの上に下ろして、寝かせて、上から目を合わせて尋ねる。
怖がらせるつもりはないが、優しい声を出す気にはなれなかった。
ほんの少しだけルックから事情らしきものを聞いた分、怒っている訳では無いのだが…それでも機嫌の悪さは残っているから。
部屋に戻ってくるまでの間、肩の上で散々騒いでいたティアラを無言で連れてきたのはその所為だ。
俺がずっと無言でいたのが怖かったのかどうか、ティアラの瞳は怯えていて視線が彷徨っていた。
  「………黙ってたら判んないだろ」
出来うる限り感情を抑えた声で再度尋ねる。
怖がらせるつもりも、怯えさせるつもりも無いのだが、だからといって、優しい声を出せる訳もなく。感情を殺した声、でしか話す事が出来ない。
そう尋ねてみても、ティアラから答が返って来なくて。
だから、上から瞳を覗き込んだ。カケラでもいいから何か見つけたくて。
瞳が逢ったのは、一瞬。
紅茶色した瞳はほんの一瞬後には逃げてしまったから何も、見出す事は出来なくて。
思わず小さく舌打ちして、ティアラの頤に手を当てて強引に自分の方に向かせる。
小柄な体が震えていたのは判っているけど、どうにも堪えられそうに、ない。
何も言わないのは肯定なのかどうか。それさえも見出す事は出来なくて。

  「…………それとも、俺には言えない様なコトなのか?」

酷く陳腐な言葉しか出てこない自分を恨めしく思いつつも、それでも声音は冷たくなってしまうのを止められない。そうでもしないと何を口にしてしまうか判らないから。
俺の言葉を理解した瞬間、ティアラは瞳を大きく見開いて、首をふるふると振る。
しがみついてくる、体。
抱き留める、腕。
伝わってくるのは互いの体温。
聞こえてくるのは微かな、いらえ。
  「……そうじゃ、ない。ただ……怖く、て……」
  「…怖い?俺が、か?」
それとも『話す事が』なのだろうか?…いや、恐らくは両方、なのだろう。
泣きそうに困っているティアラの表情からそれを察して、頤に当てていた手をそっと離して、頬に触れると、ティアラは俺の手に自分の左手を重ねる。
そして、瞳を伏せて静かに言葉を紡ぎ出す。
  「……ううん。フリックを怖い、とは思わない。
   だって、フリックが憤るのも仕方ない事だったと思うから…」
  「……だったら。お前がそんなに怖がっているのは何だ?
   俺が関係している事なのは判っているんだから…俺は知る権利、あるよな?」
長期戦は覚悟の上。
奥底にある自分の感情を外に出す事を厭っているのは知っているから。
…普段はあれだけ好き勝手言ってる癖に…とは思うのだが。
  「知る権利、って……確かにそうなのかも知れないけど…
   じゃあ、僕に黙秘権、とかは無い訳?」
苦笑じみた声でそう言われて、今更はぐらかそうとしてるのが判って。
つい、口をついて出る呼称。
  「……ティア。それ、お前の悪い癖だぞ?」
こつん。と空いている片方の手で軽く頭を叩くと、ティアラは苦笑を深めて、泣き笑いみたいな表情。
  「ん……ごめんね」
  「謝らなくていいから」
続きを促しても、まだ踏ん切りがつかないらしい。一体、何をそんなに怖がっているのやら。
逃げ出す様子は見えなかったから、ちょっと待ってろ、と言って、棚にあるワインを取りに行く。
少しでも、口が滑りやすくなるように…と、とっときの果実酒を。

大体、ティアラは俺が扉を開けた時、どれだけ驚愕したと思っているのだろうか?
それ程までに信じられない、場面だった。
時間がやけに間延びした様な感覚を味わうのは久しくて。
自分の舌が凍り付いてしまって、何も言葉を発することが出来なかった。…そう、何も。
俺がティアラの部屋に入ってからルックが言葉を発するまでの間は、時間にすればほんの十数秒だったのだろうと思うが、それでも自分の中では数分はあった様に感じられた。
ルックの言葉で、ようやく自分を取り戻して、何とか思考は動き始めて。
判ったのは、あれが合意の上では無いと言う事。
それだけは何とか判ったのだけれど、どうしてそういう状況になったのかは全く判らなかった。
ただその原因は自分にもあるのだろうという事は、詰る様なルックの口調や言葉から判って。

そんな事をとろとろと考えながらも、ベッドに戻るとティアラは上半身をベッドヘッドに体を預けていた。俺の気配に気付いて、顔を上げたのだけれど…その表情は何処か辛さを堪えている様に見えて。
無理に言わせない方がいいのか?と一瞬、思った。
  「……ティア?飲む、か?」
ボトルを見せて、そう尋ねる。
…ここまでして、無理強いさせてまで言いたくない事、を吐かせるのはティアラにとっていい事なのかどうか。ただ自分の勝手を押し付けているだけではないのか?
.ルックが先刻、俺に言っていた言葉を思い出す。
声、を出せない者にまで言葉を求めるのは愚かだと。
………そこまで、言いたくない事なのだとするならば。
  「少しだけ、もらおうかな」
ティアラはそう微笑って、俺の手からグラスを取って、向けてくる。
こぽこぽ、と静かに注いでやりながら、そっと口にする。視線は注いでいる果実酒を見据えたままで。
  「……どうしても言いたくない、ってなら……言わなくて、いいからな?」
  「…どんなに言いたくなくても、言わなければいけない時、っていうのはあると思う。
   それが今、だと思うんだよね…」
お互い、視線は合わせられずに進む会話。
ティアラは俺のグラスに勝手に酒を注いで、自分のグラスと重ねる。
かちん、と澄んだ音が聞こえて、次に聞こえたのも澄んだ、音。


  「…それをちゃんと言わないと『本当に言いたい事』が言えないから…」


……だからといって、果実酒を一気飲みするのはどうかと思うのだが?





………兄さん、甲斐性無いですよーっっっ!!(涙)
おかしい…ちゃんと甲斐性あるように努力していた筈なのですが。
煮詰まって電話で友達にアドバイスまで頂いていたのですが(今回のフリックさんセリフ、二つ、友達から頂きましたv けーちゃんありがと〜♪)
……やっぱりティアラサイドで書いた方が良かったのかなぁ、と今頃後悔してみたり。
ちなみに終りはまだ見えません〜っ!!あと何話で終わるの?それは私が一番知りたいですーっっ!(泣きながら脱兎。)


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