加藤のメモ的日記
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2013年11月28日(木) 日本崩壊

今、地方で何が起きているのか?

つい最近こういう経験をした。それは、和歌山県のある地域で講演をしたときのことだ。立派な多目的ホールにぎっしりと数百人が集まる盛大な会が終わった後、主催者の一人が楽屋に挨拶に来てくれた。歳乃頃なら50代後半の男性は、こう言った。「ありがとうございました。このホールがいっぱいになったのは、開館して初めてです。でも高齢者が多くて驚かれたでしょう。実は私が、この地区で一番の若手なんです」別に、私の講演で会館がいっぱいになったことを自慢しようというのではない。驚くべきは、この地区はこのままの状態が続けば、あと数十年で消滅するという事実だ。その時には、莫大な税金をかけて作ったそのホールも確実に廃墟になる。

ここに、日本の未来の姿がある。今、地方では病院閉鎖が相次ぎ、全国的に医師不足が叫ばれている。「ウェークアップ!プラス」では、住民の力で地域医療を再生させたすばらしい取り組みを紹介した。しかし残念ながら、他の自治体全てに同じことを求めるのは酷だろう。そもそも、遠からぬ将来、確実に患者がいなくなるのがわかっている地域に、誰が好き好んで病院を建てようとするだろうか?

また、経済政策の失敗で、地方の商店街が次々シャッター通りになっていると言われて久しい。確かに、規制緩和による大規模店の進出が、伝統的な商店街にダメージを与えたのは事実だ。しかし、その大規模店ですら、近年、潮が引くように地方から撤退を始めている。理由は明確で。日本列島から人の姿が消え始めているからだ。

高齢化率を、通常公開される市町村単位のデータよりもさらに小さな地区単位で見てみると、65歳以上の高齢者が住民の40%を越えている地域は決して珍しくない。そして、楽観的な見通しで常に批判の対象であった国立社会保障・人口問題研究所のデータですら、今世紀の中頃には日本全体の高齢化率が40%を越えることを示している。私の訪れた和歌山県のある地域は、近未来の日本全体の姿なのだ。状況はさらに悪い。なぜなら、和歌山県のある地域では、今は国から流される金によって社会機能が維持されているが、日本全体が、和歌山県のある地域になったとき、そこに金を流すことは誰にもできないからだ。

こうしてみてみると、日本の抱える根本問題を解決するのに、方法は一つしかないことがわかる。それは国土を満たす次の世代を育てることだ。日本の政治は問題解決のアジェンダを提示しているか?現状はかなり絶望的だ。例えば日本の農業を支えているのは、地方の高齢者だが、次の世代が生産を引き継ぐ政策はどこにもない。あるのは、目先の高齢者票獲得を目指すバラマキだけだ。

それでも本気のバラマキなら、それによって次の世代が村に戻ってくるかもしれない。しかし現状はバラマキよりはるかに少ない「パ」ラまきで、とても構造を変える力は持たない。税金を投じる目的が福祉なのか、将来のための投資なのか。その意図さえ見えないままに、票田という名の田畑に公金が消えていく。明治維新以降、血と汗と幾多の命を捧げて開墾した農地が、今静かに、しかし急速に元の原野に戻りつつある。日本の人口はすでにピークを越え、大阪ですら人口が減り始めた。地方における最大の問題であった過疎が、すでに日本全体の問題になり始めているように、今、地方で噴出する様々な問題は、近未来の都市が抱える問題でもある。逆回転を始めた巨大な歯車は容易には止まらない。


『日本崩壊』 辛坊次郎


2013年11月27日(水) 巨悪vs言論

52席の傍聴席に対して傍聴希望者は3904名にも達し、日比谷公園まで続く長い長い行列になった。私は家族、友人、知人、アルバイトを動員して225人の一人に並んでもらい、早い当たり券を確保して、最前列の席に着くことができた。有罪判決を受けた後、本来なら実刑有罪被告は直ちに収監されるはずなのに、田中は別室に通されて、秘書や弁護団と昼食をゆっくり食べながら、再保釈決定が出るのを待つという特別扱いを受けた。3億円の保釈金を払って再保釈されると、田中はパトカーの警備付きでフルスピードで目白の私邸に戻った。私邸には、田中派の議員が60人以上も集まっていて、「暴力団の親分の仮出所祝いそっくり」といわれた光景が繰り広げられた。

    ◇            ◇

それはまことに奇妙な風景だった。「なんだい、こりゃ、まるっきり、ヤクザの集団だね」私と一緒にテレビを見ていた男がつぶやいた。10月12日、有罪判決を受けて帰宅した田中を、目白の私邸で待ち受けていて激励した田中軍団の面々が、門からゾロゾロでてきたところである。あまり人相のよくない金バッジをつけた男たちが何十人も娚集して、それぞれにふんぞり返りながら、亡弱無人に振る舞っている様は、正しくヤクザのそれだった。

この日、田中邸ではもっと異様な光景が何度か繰り返された。同じ顔ぶれの男たちが、朝、裁判所に向かおうとする田中を囲み、握手をして、歓声を上げ、拍手喝采で送り出し、帰宅の時も同じことが繰り返された。ヤクザの親分の送り迎えと同じである。田中の政治支配がなぜいつまでも続くのか。答えは簡単明瞭である。田中派という集団が存在するからである。田中派が政権党の内部で最大派閥として存在するからである。

「田中が右といえば右、左といえば左に行くのが田中軍団だ」と臆面もなく幹部が定義する集団が、田中の下で結束を保っている限り、田中問題の解決はない。今一番大切なことは、田中問題を田中派問題としてとらえ直すことである。田中派という政治集団の存在そのもを問うことである。田中派は政治社会における無頼の徒である。ヤクザである。ゴロツキである。私が、彼らをかくも罵倒するのは彼らが政治社会の規範をとことん踏みにじって、恬然として恥じることが全くないからである。

そもそも、一つの公党の内部に、党外の人間を指導者として仰ぐ集団が形成され、それが増殖していって、ついには公党へのヘゲモニーを掌握してしまうなどということは、政党政治にあってはならないことである。事態がそこまでいったら、これは党外指導勢力による公党の乗っ取りであるといってよい。現在の自民党と田中派の関係はまさにそれである。

実は、このようなことは、政治の世界では前例がないことではない。ポルシェビキは意識的にこのような戦術を採用し、政党や大衆団体の指導部の中に強固なフラクションを作り上げることによって、これを内部から支配した。世界各国で左翼過激派、時には右翼過激派もがこの戦術を採用したため、似たようなことは時々起こった。田中派の自民党乗っ取りも、結果的にはこれと同じ戦術を踏襲したことになる。もちろん彼らは、目的意識的にそうしたわけではない。

もし田中派が一定のイデオロギー集団であり、そのイデオロギー実現のために政権党を内部から乗っ取ろうとしているのであれば、誰でもことの異常さ、現状況の危機的事態にすぐ気がつくだろう。気がつくと同時に、まだしも多少は救われる気がするだろう。イデオロギー集団であれば、彼らが少なくとも政治に志を持ち、その志を実現しようとしている集団であることがわかるからだ。

しかし、田中派はイデオロギーなどという高尚なものとは全く無縁な集団である。では、田中派は何を核に結集しているのか。田中自身がある中曽根派代議士に語った言葉によれば、「結局、うちの奴らは、金とポストが欲しいだけなんだ」ということである。それを聞いて、田中というのは、やはりただのネズミではないと思った。田中派の議員たちの心の卑しさをちゃんと見抜いているのである。心の卑しさこそが田中派の結集力の根源にあることを見抜いているのである。田中の力を借りることによって、何らかの欲望を実現したいと思う人々が田中の下にすり寄ってくる。田中はそれを実現してやる代わりに自分への忠誠を要求する。

若き日のイエスが荒野で40日40夜さまよいながら、悪夢の三つの誘惑に会うエピソードが聖書に記されている。悪魔の三つ目の誘惑は、「ひれ伏して我を拝め。そうすれば、この世でおまえが欲するものを何でも与えてやろう」というものだった。田中と田中派の関係は、この悪魔との誘惑に負けた人の関係に似ている。イエスの答えは「サタンよ、しりぞけ」だったが、田中派の人々は、田中の前にひれ伏すことによって、自分の欲望を実現する道を選んだのである。

田中のほうでは、彼らの支持を得ることで自分の政治力を維持し、あわよくば、政治力によって自分の裁判をひっくり返そうとしている。田中もときに政治を語り、政策を語るが、それはポーズだけで、実際には田中の側近が語るように、この7年間ずっと「田中の頭の中は裁判のことでいっぱい」なのである。政治力の増殖をはかってきたのも、裁判政策である。両者の関係に高尚なものは何もない。両者の間の根底にあるものは、要するに、邪な欲望でしかない。そういう人的結合の集団にょって日本の国政が牛耳られているというのは、まことに悲しむべきことである。かって、これほど卑しい動機に根ざした集団が一国の政治を支配したことがあっただろうか。

10月12日の判決で、一番印象的だったのは、田中の犯した犯罪の「社会に及ぼした病理的影響の大きさは計り知れないものがある」という一説だった。裁判官は、ロッキード事件以後の日本の社会が、今なお、事件の病理的影響下にあると見ているわけだ。病理をもたらしたのは田中角栄という病原菌である。このバイキンに感染すると、善と悪、正と不正の間のけじめがつかなくなるという症状を呈する。田中派の議員たちは、この感染症の重度の患者たちである。軽度の患者は、街でテレビのリポーターにマイクを向けられて、「田中さんだけが悪いんじゃないんじゃないですか。みんな同じなんじゃないですか」などというしたり顔の田中擁護論を早口にしゃべって足早に立ち去る田中支持者たちである。

判決の後、田中は「所感」なるものを発表した。その中で田中は、自分の潔白を宣言した上で、自分は「国民から全面的な付託を受けた身である」から「生ある限り、国民の支持と理解のある限り」国会議員を辞めないと述べ、さらに「我が国の民主主義を守り、再び政治の暗黒を招かないためにも、一歩も引くことなく前進を続ける」と「不退転の決意」を表明した。

これにはさすがの自民党内部からも、「田中は頭がおかしくなったのではないか」という声が出た。客観的にいえば、田中に負託を与えているのは、新潟3区の有権者の25%程度の人だけであり、これは全国有権者のわずか0.16%にしかならないのである。それを「国民から全面的な負託」というのは、いくら何でも吹きすぎである。また、あらゆる世論調査によれば、ほぼ8割の国民が田中に対して「支持」も「理解」も与えていない。多くの人が、田中の政治支配こそが、「政治の暗黒」であり、田中が議員を辞め、政界から引退することこそが、「民主主義を守る」ために必要だと考えている。この田中の「所感」ぐらい、客観的事実をねじ曲げて論拠とした発言も珍しいのではないか。病原菌の本体ともなると、このくらい善悪、正不正を取り違えてしまうのである。


『巨悪vs言論』 立花隆


2013年11月25日(月) 事件記者取材ノート

田園調布誘惑の背景

身代金目的誘拐という言葉が現実ではなく、映画やテレビドラマの中だけのキーワードになってからかなり時間がたつ。それぐらい失敗のリスクの高い犯罪に、まだ手を染める集団がいたこと驚かされた。今月6日、高級住宅街の代名詞ともいうべき東京都田園調布で、中学1年の女子生徒(12)が誘拐され、身代金2000万円を要求された事件のことだ。

「結果オーライというと語弊があるが、事件発生から約3時間後のスピード解決は、多分に偶然の要素が大きい。東京都江戸川区で今年3月に盗まれたナンバープレートをつけた車が走行しているという情報を聞いた警視庁府中署の当直警官3人が検問をしていた国道20号に、もしその車両が通りがからなければどうなっていたか。裏道を抜け、青梅や奥多摩の山中まで逃げ込んでしまえば、防犯カメラのない場所なんていくらでもある。周到な計画がなかったことに助けられたが、一歩間違えれば長期化していた可能性もあった」(捜査関係者)

現代の凶悪事件を捜査する際の最大の武器は、刑事の長年のカンでも靴底をすり減らすような聞き込みでもない。警察ムラで「トレーサビリティー」という英語で形容されることが多い、犯行グループの足取りをたどるための道具であり、その最たるものが防犯カメラといえる。実際、防犯カメラのない広島県と島根県の県境の山奥で、女子大生(19)の遺体が遺棄されていた2009年の事件はいまだに未解決だ。

しかも今回の事件で、逮捕された男たちは、リーダー格とされる埼玉県の運送会社社員、羽田容疑者(43)がインターネットの闇サイトに書き込んだ「仕事しませんか」とのメッセージに呼応し、事件1時間前に初めて顔を合わせていた。地縁や血縁ではないところで結びついたグループを突き止めていく作業は簡単ではない。その意味では、操作が困難を極める可能性は確実に存在した。

だが、実はこの事件を通じて最も強い印象を受けたのは、羽田容疑者の呼びかけに応じて事件直前に誘拐計画に加わった2人が、仕事を求めて約一週間前に沖縄から上京した20代の若者だったことだ。よく知られているように、沖縄県の完全失業率は全国で最も高く、有効求人倍率も全国最下位だ。事件の背後には常に、社会の暗部が顔をのぞかせる。腰を落ち着けて働ける環境が地元にあったならどうだったか。私には仕事に窮する沖縄の叫びが聞こえたような気がした。


『スポーツニッポン』11.23 呉野 一人


2013年11月24日(日) 元祖ビンタ男 登院停止可決

猪木氏「言い訳しない」

山陰は11月22日の本会議で、国会の許可を得ずに北朝鮮を訪問したアントニオ猪木参議院議員を、30日間の登院停止とする懲罰を自民、公明、民主各党などの賛成多数で可決した。参院での懲罰は1950年以来63年ぶり。猪木氏は記者団に「真摯に受け入れる。やったことの言い訳はしない」と述べた。国会法は懲罰について�_�告��陳謝�0貭蟯�間の登院停止�さ聴�の身分を失う除名、の四段階を定めている。参院規則で、登院停止期間は最長30日とされており、今回の懲罰は除名に次ぐ重い処分だ。



『スポーツニッポン』 11.23


2013年11月23日(土) 今週の遺言

原発をめぐる小泉と安倍首相 どちらが嘘をついているか

やっと臨時国会が始まった。とにかく二つの選挙で大勝した自民党政権の怠惰にはあきれる。僕が議員だった2001年には、臨時国会は9月に始まっていた。それがさんざん野党に催促されて、やっと始まったのが10月も半ばである。当分選挙もないし、急ぐこともあるまい、という態度である。

そして安倍首相の所信表明演説を聞いて、感動した人がいただろうか。僕は少なくともテレビの司会者として、多くの人の話を聞き、番組を司ってきた。話の内容は人一倍掴めるつもりである。議会の演説は、だいたい官僚の書いたものを読むだけだが、安倍首相の読み方は最低である。ただ間違えないように読み、語尾で目を上げるだけで、内容が伝わってこない。何の哲学もない。

ひたすら経済成長だけを謳っている。経済の成長より重要なもの、国民の安全とか福祉とかいうものは全く無視されている。12年前には僕の宿敵だった小泉純一郎元首相でさえ、「原発廃棄」を公言しだした。当然である。使用済み燃料の処分場がない以上、そして福島の惨劇が再発するかの性が高い以上、原発ゼロに向かうしか方向はない。

これに対しての首相の答弁は、小泉氏の名前は出さなかったが、「我が国においても、核廃棄物の最終処分方法としての地層処分については、技術的に実現可能だ」というものである。将来できる可能性があるというだけの無責任な答えだった。オリンピックを呼びたい一心で、「コントロールされている」と大嘘をついて、世界中から非難され、笑いものになっている男の言葉だ。誰が信用するものか。これからも安倍政権の嘘を暴いてゆくつもりである。



『週刊現代』11.9 大橋巨泉


2013年11月21日(木) スマホ戦争

生き残るのはどこだ

一人が1台のモバイルを持つ時代だ。中でも現在、最高の人気を誇るスマートフォン・アイフォンを巡り、三つ巴の決戦が始まった。ドコモ、KDDI、ソフトバンク。次世代の覇権はどの企業が握るのか。


「驚きました。最近、携帯電話をアップルのアイフォンに変えようと都内の家電量販店に行ったのですが、機種代はなんと『0円』だと。しかも、購入と同時に2万円のキャッシュバックがあるというのです。買い物をしてお金をもらえるなんて、不思議な気がしました」(サラリーマン・35歳)こんな常識外れのサービスで顧客の囲い込みをするすさまじいビジネスがある。それが「スマホ(スマートフォン)」戦争だ。

9月20日、日本国内で、米アップル社の人気機種の最新型『アイホン5S/5C』が発売された。アイホンは世界市場でも人気だが、特に日本での人気が圧倒的。全スマホの中で36%のシェアを占め、他の追随を許さない。その新機種となれば注目が集まるのは当然だが、今回は異変があった。これまで参入が遅れていたNTTドコモが、ついにアイフォンの販売を開始したのだ。

これまでドコモは「ガリバー」といわれながら、実態は国内携帯市場におけるシェアの低下に苦しんでいた。2008年、ソフトバンクがアイファンの販売を開始して以来、ソフトバンクが同年6月の18.6%から今年6月には25%にまでシェアを伸ばしたのに対し、ドコモは52%から46%に低下。この間、AU(KDDI)のシェアはほぼ横ばいなことから、ドコモの顧客がソフトバンクに流れた可能性が高い。

シェアを失えば負ける

なぜ3社はアイフォンの販売にこれほど血道を上げているのか。理由は、今ここでシェアを確保しなければ、将来的にそれぞれの存亡に関わる危機を招きかねないからである。「世界的に通信インフラの統廃合が進む中、3社のような携帯キャリア各社は、どれほど契約者がいるか、シェアをどう広げるかで将来性が決まる。『代金0円』などがまかり通るのはそのため。実際には、端末代は2年かけて通話料に上乗せされる仕組みですが、別の割引サービスなどを加えると実質負担ゼロということになり、キャリアの収入になるのは微々たるもの。それでも、シェアを落とすよりははるかにマシなので、あの手この手で客引きをしているのが現状なのです」(前出・アナリスト)

激しい攻防戦が功を奏したのか、KDDIの田中社長によれば、「幸いにもドコモ、ソフトバンクから、契約者の転入が続いている」と語った。一方で、ソフトバンクの孫社長は「雪崩を打ってドコモに逃げていくようなことはなかった」と話している。両トップの言葉通りなら、3社のアイフォン戦争の緒戦はかなりの大混戦になっているようだ。こうなると、一般ユーザーから見てわかりにくいのは、「どこのアイフォンがお得なのか」ということ。基本的に製品は全て同じ。そうなると、各種サービスや割引の差になってくるが、その差も微妙だ。

例えば「本来」の端末価格は、アイフォン5Sの16GBモデルだと、ソフトバンクとauでは、68.0040円。一方でドコモは95760円になっており、それだけ見るとドコモだけがかなり割高に見える。しかし、実際には前出のように、3社とも割引サービスで端末負担は実質ゼロのため、それほど気にする必要はない。例外として、2年以内に契約を解消した場合には、端末代を精算することになるので、その場合にはドコモは割高ということになる。

孫社長の狙い

一方、ソフトバンクは繋がりやすさなどの面で最近大幅な改善があったとされ、孫社長もそれを盛んに強調しているが、ドコモの攻勢で、最も割を食うのはソフトバンクだといわれている。携帯・スマートフォンジャーナリストの石川氏はこう語る。「KDDIはプラチナバンドが評価されて比較的好調ですが、ソフトバンクは従来機種の時と変化がなく、苦戦しています。これまではアイフォンを武器にユーザーを集めてきましたが、ドコモも扱うようになったことで、むしろ今度はユーザーに逃げられる側に立つ可能性があります」

それでも家電量販店を中心とした調査では、新型アイフォン発売直後3日間の販売台数シェアで、ソフトバンクが首位になり、45%。次いでドコモが28%、auが27%と面目は保ったが……。「孫社長は、これから日本だけで戦うという意識はないでしょう。アイフォンを発売してから5年、営業利益は1兆円規模になりドコモを凌駕しましたが、シェアでドコモを逆転するには至らなかった。ユーザー数でドコモに負けたままなのが、孫社長は相当に面白くないようです。だとすれば米国のスプリントを買収したこともあり、まだ伸びしろがある米国が主戦場と考えるのは自然な流れです」(前で・石川氏)

つまり、アイフォンによって国内での基盤をいよいよ強化しようというドコモに対し、世界に打って出て拡大成長路線を狙うのがソフトバンクということだ。当然リスクはこれまで以上に高いが、こうした経営者の「視線」にも今後は注目していくべきかもしれない。機能もサービスも日進月歩で移り変わっていくのがスマートフォンだ。そのうえ、一般的な「ケータイ」からスマホへの以降が急速に進んでいるように、5年後、10年後には、まったく新しい端末機器が生まれている可能性が高いのも、この戦争の実態だ。安定感のドコモ、即時の利便性に勝るau、成長戦略に長けたソフトバンク。火ぶたは切って落とされた。


『週刊現代』10.19


2013年11月20日(水) カネ学入門

リニアは利権にしないでね

長引くデフレと震災の復興も遅々とする中、7年後のオリンピック開催は大きな意味を持ちます。アベノミクスで底打ち反転を見せた経済にとって、これほどの追い風はありません。「7年後にオリンピックがある」そこに意味があるのです。これで7年後のオリンピックという”将来”が生まれました。具体的な形を持った明るく力強い”将来”が日本人にイメージできるのです。

それは今後の日本経済に予想以上のプラス効果をもたらすはずなのです。競技施設や関連インフラ建設などハードだけでなく、経済の様々なソフト面にも効果を生みます。経済にとって最も重要な人間の”気”、つまり心理を国民全体でプラスに変えて、”明るい将来をイメージ”を共有できるのは長く日本になかったことなのです。

今後の個人消費や個人投資での誘発的需要の発生は必至です。ただ、ここまで考えなくてはならないことがあります。それは政府の金遣いです。戦後の自民党政治には功罪がありますが、罪の一つに国際競争力という観点からインフラ設備を行なってこなかったことがあります。新幹線という例外はありますが、空港や港湾施設を見ると、中国や韓国にアジアの玄関口を奪われています。

私が日本全国を講演で回ったときに感じたのが、地方空港の使い勝手の悪さです。どこの空港もダウンタウンまでのアクセスに1時間以上かかります。例外は福岡空港ぐらいです。これでは地方経済の発展に結びつくはずがありません。何故そんなことになったのでしょう。利権というものの存在があったと思います。

安倍政権にはそんな利権政治を排して、インフラ作りを国際競争力の観点から推進してもらいたいのです。それを今回、ルートの決まったリニアモーターカーで主張したいと思います。リニアは長距離を短距離に変える夢の乗り物ですが、中距離をゼロ距離にしてしまう能力も持っています

つまり、成田と羽田をリニアで結ぼうということです。そうすれば一つの空港として利用でき飛躍的に利便性が向上して国際競争力が上がります。航空会社・JR・京成・空港会社で第三セクターをつくれば実現可能なはずです。大深度地下にすれば用地買収も問題ないはずですし、日本のトンネル工事技術は世界最高レベルです。これがオリンピックに間に合えば、海外からの旅行者が全員リニアを利用し、その凄まじさを実感して技術や設備の売り込みも容易なはずです。

ニューヨークにあるJFK、ラガーディア、ニューアークの三空港をリニアで結ぼうとという声も出てくると思います。東京オリンピックは、日本の再成長を賭ける最後のチャンスです。万難を排して新しいインフラは将来を見据えた国際競争力のあるものを作るようにする。国際競争力は金儲けに直結し、莫大な日本国民の将来の富に繋がります。


『週刊現代』10.19


2013年11月19日(火) 改憲に抗する

いま次世代に伝えたいこと

今年、俳優60年を迎えた、80歳の仲代達也さん。主催する無名塾の公演「ロミオとジュリエット」で全国を巡回中である。いま次世代に伝えたい憲法と平和への願い、演劇や映画への思いを語った。

私もそろそろ、俳優としても人間としてもフィナーレ(終幕)を迎えていい年齢に近づいています。もしこれからも無名塾を続けていくならば、次世代の人につなげなければいけない。「ロミオとジュリエット」は、格好の題材じゃないかと思ってやってます。

シェークスピアの書いたこの作品は、仲の悪い両家双方の一人息子と、一人娘が恋に落ち、悩み苦しみ、最期は死に至るという悲劇です。私はロレンス神父という、若い二人を支える役を演じています。よく知られたこの物語を無名塾でどうやるか。私は単なる恋物語でなく見えます。うがった見方かもしれませんが、かって大国と大国の代理戦争というものがありました。最も犠牲になったのは、小国の国民です。「ロミオとジュリエット」も若い人を犠牲にし、親同士が仲直りする不条理の芝居に思えるのです。

権勢争いというのもがいかに愚かか。そして人類と地球にとって、何が本当に大切なのかを考えてほしい。いま、一部の政治家が、「憲法を変えて国防軍だ」「世界平和に貢献するためには、日本も積極的に軍隊を出すべきだ」などと言っています。国民に事実を知らせない秘密保護法までつくるという。非常に危険な状況です。 私は昭和7年(1932年)生まれです。渋谷にいた頃、空襲で小学校の同級生の半分ほどが死にました。戦中・戦後の飢餓もいやというほど味わいました。

日本は憲法があったおかげで、とりあえず70年間、戦争を起こしたり、戦争で人を殺したりしてきませんでした。その憲法を変えるという悪しき動きには、どうしても抗しなければならないと思います。

私は無名塾の若者たちに、よく「生きるために食うか、食うために生きるか」と問いかけます。俳優は、ほとんどの者が食べていくのも大変です。「俺は生きるために食べるのだ」という精神を持たなければ、しんどい。人間は生まれて死んでいきます。その生きている間に、自分の生きる道というものを、異端でもいい、少数派でもいいから見つける。残り少ない役者人生ですが、次世代の人に考えてほしいことです。


『週刊文春』10.18


2013年11月17日(日) みのもんたへの引退勧告

もう、みのの時代じゃない

「私は長年テレビの世界で生きてきて、地位とカネを手に入れたことで変わってしまった人を何人も見てきました。みのさんも、そういう人たちの一人だった」こう話すのは、下日本テレビエグゼクティブディレクターの佐藤氏だ。「80年代の終わりから日本テレビは勢いに乗り、視聴率争いでもフジテレビを破りました。その原動力が、昼のワイドショウでみのさんが奥さんたちの心をわし摑みにしたことは間違いない。

彼のアドリブの力量はすごかった。昔、ある番組でみのさんにナレーションを頼んだとき、『本番1回でやる』と主張するみのさんと、『きちんと稽古すべきだ』という私がぶつかったことがありました。『自分の持ち味はアドリブでこそ生きる』とわかっていたからこそ、譲ろうとしなかったのでしょう。私は素直に『たいしたものだ』と感じました。昼のワイドショウという鉱脈を探り当て、フリップで視聴者の興味を引きつけた。みの氏の「おもいッきりテレビ」、ひいては日テレに対する貢献は絶大だった。

「しかし、日テレはみのさんに次第におんぶに抱っこになっていきました。彼はコントロールされることを嫌うようになり、制作側も独自の工夫をしなくなった。そうするうちに、彼自身の力も鈍っていったんです。最近は『これはみのさんじゃなきゃできないな』と思うような番組がなくなりました」(佐藤氏)かって絶大な人気を誇った視聴率男・みの氏の「神通力」はなぜなくなってしまったのか。作家の麻生千尋氏はこう言う。

「だって、押しつけがましいじゃないですか。『世の中を切る』といえば聞こえはいいですけど、要は何でも偉そうに言うだけ。そんなにあなたはお偉いの、と言いたくなります。それに、知的レベルの高い方なら、あのような立場に長くいれば『自分は裸の王様なのではないか』と絶えず不安にさいなまれるはずです。そんな悩みとは無縁に生きてこられたようですが」

引退後はひとりぼっち

今回の息子の逮捕劇によって、みの氏は初めて、自分の来し方と向き合うことになった。「みのさんは、いわばテレビが生み出したモンスターです。彼の底の浅さを知っていながら、今まで褒めそやしてきたメディアにも罪がある。ご自分のお子さんのことなのに逃げ回ったり、出てきたと思ったら雪下駄履きで取材に応じたりしていますが、本性が現れたというほかないですね。自分の振る舞いを常に顧みることができる人こそ、本当に優れた人です。あの方には特にその素養が欠けているのです」(麻生氏)

芸能リポーターで目黒区議会議員の須藤氏も、直近のみの氏の振る舞いをこう断ずる。「『逃げも隠れもしません』なんて言う割には、まるで自分が罪を犯したみたいに逃げ回り、局へ出入りする際はタオルで顔を隠して『隠れみの』なんて言われる始末。見苦しい。もう少し堂々としたらどうなのか。落ち目になると弱い。守りに弱いのは、不倫騒動や談合疑惑で姿をくらましたときとまったく変わっていません。それでもテレビに出続けることに固執するのは、『芸能人は一度消えるとすぐに忘れられてしまう』ということを誰よりも知っているからでしょうね」

「引退勧告」は、お膝元であるはずのテレビ局若手社員からも届いている。「銀座に飲みに連れて行かれても、まったく楽しくないんですよ。ちょっと飲んで、お触りして100万円なんて理解できない。一気飲みの強要も苦痛でした。局内は世代交代が進んでいるのに、あの人だけが昔の感覚のままなんですよ。だいいちもう70になるんですから、僕らにとっては『終わった人』と言う認識です」

最後に立教大学で同窓だったある男性の話を紹介しよう。「みのさんが20代、30代だった頃の上昇志向は、あんな人他に見たことがないというくらい強かったですよ。テレビ出演が軌道に乗ってからは、たまに会うと『今に全局制覇してやるから、見とけ』と言ってはばからなかった。それがワイドショウで成功してからは、野心をカネや不動産に替えるようになっていった。あの鎌倉の大豪邸も、自分の足跡を形として残したいという思いがあったのでしょう。ただ、あんなに働きづめ遊びづめで、家庭をほとんど顧みないみのさんの生き方を見ると、すっかり遠い世界の人になってしまったんだな、と思ったものです。一線を引くことになったら、今までの分、ご家族と一緒に過ごしたらどうですか」

だが、みの氏が一緒に過ごしたいと改心したところで、鎌倉の大豪邸にはもはやその家族はいない。テレビの王様は、自分が裸だったと知ったその時、かってない孤独を味わうことになるのだろう。


『週刊現代』11.9 


2013年11月14日(木) 世界の貧困 ��

貧しくもなく、また富もせず、ただなくてはならぬ食べ物で私を養ってください

アジアやアフリカの多くの文化に共通する民話には、金持ちになろうという知恵に疑問をさしはさむものがある。例えば、こうである。

漁師が木陰で昼寝しているところに旅人が通りかかった。旅人は眠っている男を起こし、なぜ魚を捕まえないのかと尋ねた。「家族の夕食に、もう2匹捕まえよ」。「もっと大きい網で、もっと長い時間漁をすれば、10匹は捕まえられるのに」と見知らぬ男は言った。漁師は「でも、2匹しかいらないのに、10匹も捕まえてどうするんだ」

「売ればいいだろう。毎日同じようにすれば、舟を買うお金が貯まるよ」「それで、どうするんだ」。「もっとたくさん、魚を捕まえるのさ。人を雇って、もっと魚を捕らせることもできる。金持ちになれるよ」「金を持って、どうするんだ」「楽しい毎日が過ごせるさ。くつろいで、楽しく木陰で寝ることができるだろう」。「今、やってるみたいに?」と漁師は聞いた。

貧困について学ぶ必要があるのは誰か。地球上のほとんどの人間は、貧困になじみがある。多くの人たちは、再び貧乏に捕まるのではないかと恐れているし、他の人たちは貧困からできるだけ遠くへ逃げてきた。様々な統計が出されている。援助団体、国際機関、人道組織が啓蒙活動をしている。これらの事実がなぜ、世界で拡大しつつある不公平にほとんど影響を与えないでいるのか。というのが本書の中心問題である。

不平等

貧困を考察するには、他の方法もある。その一つは、国家間および国内の不平等の状態、例えば、生きるためになくてはならない必需品の欠如を示すのに対し、不平等は社会的不公平の指標である。不平等が増大する一方で、貧困は減少しているかもしれない。

どのような方法で考察するにせよ、社会的不公正が増大し続ける限り、極貧は存続する。このことは、貧困をめぐる議論に強い影響を与える。というのは、グローバリゼーションが体現している改善のモデルは「金持ちが今よりはるかに金持ちになったときのみ、貧乏人は少しだけ貧乏でなくなる「というものだからである。

寸描

極貧状態で生活している人間の数はよく知られている。だが、数字は物語っているのと同じだけ多くのことを隠蔽しているのである。

●世界で8億4000万人以上が栄養不良の状態にある。
●毎年、600万人にのぼる5歳未満の幼児が栄養失調で死んでいる。
●世界で12億人の人々が、1日1ドル未満で生活している。
●世界でもっとも豊かな1%の人たちの収入は、最貧57%の収入に等しい。
●発展途上国では、1000人中、91人の子供が5歳未満で死んでいる。
●年に、1200万人が水不足のせいで死んでいる。11億人が浄水を手に入れることができず、24億人が適切な衛生設備なしで暮らしている。
●4000万人がエイズに罹患している。
●発展途上国の、1億1300万人以上も子供が基礎教育を受けていない。そのうち60%は女性である。
●女性は、世界の労働時間の3分の2を働き、世界の食糧の半分を生産しているにもかかわらず、世界の所得の10%しか稼いでいないし、世界の資産の1%未満を所有しているにすぎない。

発展途上国全体の人口の5分の1近くがm40歳を越えるまで生きられない。シェラレオネは世界でもっとも平均寿命が低く、おそらく38歳である。これは日本の80歳の半分以下である。最貧国で生まれた子供の20%が5歳未満で死亡しているのに対し、最富裕国では、5歳未満で死ぬ子供は1%に満たない。

先進工業国で寿命が延びているのは、公衆衛生、環境衛生のめざましい改善、とりわけ衛生設備と水質の改善の結果である。このことは、生活水準の向上、栄養と住宅環境の改善と相まって、豊かな世界に病気の新たなパターンを生み出した。伝染病や飲料水媒介の病気から心臓病やガンなどの慢性疾患へと変わってきたのである。南の国々の特権階級の間にも、同様の変化の兆候が見られる。だが、最貧の人たちは今でも、19世紀初頭のイギリスで一般的だったような種類の病気の犠牲になっている。

南の世界では、、寿命の延びと幼児死亡率の低下はわずかである。衛生設備の改善はまだ不十分である。世界で28億人が十分なゴミ処理システムなしに暮らしているが、数字が多少良くなったのは、安価な薬が入手できるようになったこと。とりわけ抗生物質と経口補水塩療法のおかげである。欧米の「発展」への道筋が世界中で繰り返されるのが当然と考えるべきではないだろう。インド、中国、ブラジルあるいはインドネシアの政府にとって、豊かな世界の保健インフラを作り出した莫大な公共支出の実施は、近い将来には不可能と思われる。

貧困から這い上がる

欧米流の富の想像のパターンを採用すれば、世界中のほとんどの国が欧米と同じように豊かになれると、長いこと思われてきた。しかし、最近では、とりわけ地球規模で富が増大していることを考えた場合、なぜいくつかの国や地域は絶対的貧困の状態に置かれた人間の数を減らすことができないのか、という問題が想起されるようになった。


『世界の貧困』 ジェレミー・シーブルック


2013年11月12日(火) 世界の貧困 ��

豊かな世界では、貧しい人々は目に見えない存在になっている。彼らが占める場所に、金持ちが踏み込んでくることはない。グローバルな通信複合企業が好んで描く、進歩の壮大なドラマで、貧しい人々は通行人の役を与えられているにすぎない。国際ニュースの中で貧しい人たちが取り上げられるのは、主にこけおどしやチャリティの呼び物としてである。


合衆国での底辺の生活

合衆国でも貧しい人たちは見えないところへ追いやられ、豊かさの圧倒的なイメージによって覆い隠されている。合衆国には約600万人の不法移民がいる。農業での求人が人間の密輸を急成長させた。ABCニュースによれば、「コヨ−テ」と呼ばれる運転手たちが不法移民を雇用主に売りつけている。農作業の賃金が低下を続けている一方で、コヨーテへの支払額は上昇している。不法移民がコヨーテに料金を支払えなかった場合、労働で支払うことになる。

農場への警察の手入れによって、彼らは都市へと追い立てられる。カリフォルニア、ニューヨーク、フロリダ、テキサス、ニュージャージー、イリノイ、アリゾナの各州の土地で彼らは家事労働者、季節工、露天商、労務者など、あらゆる低賃金労働へと散っていく。

アメリカ合衆国移民法によれば、国内の地域によって移民の出身国が異なっている。全体として見ると、不法移民のうち最大の割合を占めるのは、54%のメキシコからの移民である。カリフォルニア州では年間総計20万人のうち64.000人がメキシコから、23.000人がフィリピンから、そして1.000人が中国からの移民である。

貧困を測定する指標はおそらく膨大な数え落としを含んでいる。公式の数字の背後で、かっての現象が再現しつつある。初期の工業化時代に「労働貧民」と呼ばれたものの亡霊である。つまり、いくら懸命に働いても、自分自身と家族とが食べていけるだけのお金を稼ぐことができない人たちである。アメリカ合衆国での最貧層の多くを占めるのは不法移民である。

アメリカ合衆国の貧困

著述家のバーバラ・エーレンライクは、アメリカの低賃金経済の中で生きていくのがいかに困難であるかを検証するために、数が月間実際に生活してみた。ウェイトレスをしたり、老人ホームで働いたり、販売員や清掃員になったりした。そして、人知れず労働をし、普通考えられないような時間に働きに出たり帰ったりすると、目に見えない人たちへの優れた洞察力を示した。

時に彼女は、食べていくために二つの仕事をしなければならなかった。家賃が払える住居を見つけるのは大仕事だった。トレーラーハウスや借り間さえ、低賃金労働者の資力を超えていた。家賃を払うと、給与小切手をもらうまで、食べ物を買うお金がなかった。あちこちに問い合わせた結果、働く貧困者も食料引換券がもらえることがわかった。

エーレンライクはさらに、姿を消しつつある貧困者についても書いている。ジェームズ・ファローズの記事を引用しながらユーレンライクは、裕福な人たちは盲目だという。「公立学校や公共サービスを悪化している中、財力のある人たちは子供を私立学校に入れ、余暇を公園でなく私立のヘルスクラブなどで過ごしている。彼らはバスや地下鉄には乗らない。雑多な人間が近隣に住む地域を離れ、郊外の塀で囲ったコミュニティや守衛のいる高層アパートに住む。

彼らが買い物をするのは、広く行き渡った『市場分断』に従って、富裕層だけを対象にした店である。富裕な若者も、夏休みを救助員やリゾートホテルのウェイトレスや皿洗いをして『残り半分の人たち』がどのように暮らしているかを学ぶのに費やすことをしなくなっている。『ニューヨーク・タイムズ』紙によれば、最近彼らは、長い間彼らに割り当てられていた骨の折れる低賃金の退屈な仕事よりは、サマースクールや企業研修など、将来の職業に関連した活動を好むようになってきている。失業が貧困を生み出すことは、誰でも知っている。だが、完全雇用もまた、最低生活賃金が支払われないとしたら、同じ結果を生むのである。

貧困者の封じ込め

貧困者が目立たない理由は他にもある。多くの人たちが拘禁されているのである。合衆国は自由への強い愛着を絶えず公言する一方で、攻撃的なまでに拘禁が多いという奇妙なパラドックスを示す社会である。世界のどの国よりも刑務所に収監されている人間の率が高い。そして、そのうちの圧倒的多数が貧困者、黒人であることはよく知られている。

重罪犯は公民権を剥奪されるので、合衆国には犯罪歴の投票資格を失った者が175万人いる。140万人の黒人男性が選挙権を喪失しているが、これは黒人男性人口の約15%に当たる。1980年から1996年の間に、合衆国の刑務所収容者は133万人から164万人へと増加した。その後も増加を続け、現在では200万人以上になっている。この間に、刑務所関連の支出は40億ドルから400億ドルへと10倍も上昇した。司法当局の門を一度でもくぐったことのある者を含めると、およそ400万人が司法制度に関与している。

司法制度の民営化とともに、刑罰は経済成長の大きな源泉となっている。貧困者を尊敬すべき市民の目から離すのに、これよりも効果的な方法があるだろうか。もちろん、これは目新しいことではない。イギリスの教育法を学んだことのある人間ならすぐ気づくだろうが、19世紀の救貧院への拘禁は、頑固で強情な貧民に、所有者階級の打ち出した価値に従うことを強制しようとした者だった。

1982年以後の15年間に、ニューヨーク州だけでも50の刑務所が新たに建設され、これに50億ドルが費やされた。黒人が刑務所に入る確率は白人の8倍も高い。1997年の物価で、監房一つ作るのに15万ドル近くかかる。囚人一人の維持費は年間5万ドルである。それでもなお、ニューヨークでは、釈放された囚人の47%が1年以内に再び犯罪を起こしている。イギリスはここまで収監者は多くない。ただ、2003年2月に収監された人口の比率が、EUの中でポルトガルを追い越したという点で人目を引いた。


『世界の貧困』ジェレミー・シーブルック 


2013年11月09日(土) 東電破綻 ��

社債市場が大暴落する

同時に起きるのが、社債市場のパニックだ。東電の社債は「特別仕様」になっており、政府のお墨付きで守られるものだとの安心感から投資家たちの人気を集めてきた。それを政府が紙クズにする判断をするとわかったとたんに、電力債の投げ売りが始まる。総理大臣が「東電を法的に整理する」と宣言したその瞬間に、まず東電債の一斉売りが始まり、あっという間に値段がゼロ近くまで暴落する。さらに他の電力債も連鎖的に売り浴びせられ、簡単に5分の1ほどの値段にまで急落するという。

「さらに電力各社の格付けが下げられ、社債での資金調達が難しくなる。怯えた銀行も電力各社への融資を手控え始める。全電力会社の危機に発展していくでしょう。日本の社債市場の約2割を占める電力債は『巨大銘柄』です。そこが揺らぐとなれば、銀行債、証券債、他の事業会社の債権も連鎖売りされ、多業種にわたる資金繰りが発生する可能性も出てきます」(前出・アナリスト)

シュアリンクする国内市場で過当競争に明け暮れる各社にとって、資金繰り難は生死を左右する一大事である。社債市場でいままで以上の高値で資金調達をせざるを得なくなれば、そのツケは汗水垂らして働く我々の給料カットで払われることになる。そこに追い打ちをかける事態が勃発する。日本市場は信用できないと見限った海外投資家たちが、一斉に脱出し始めるのだ。

それもそのはず、「3.11」以降に東電株に投資してきた人たちは、政府の「潰さない」という方針を信じてきたのに、これが完全に裏切られたことになる。社債権者たちも、電気事業法で決められた社債の安全性を日本政府自らが裏切ったことに、怒りが収まらない。「潰さないことを前提に賠償支援などの対策をとってきた企業を突如潰すことにし、法律上保護されることが期待される社債権者にまで損失を押しつける。そんなことをすれば日本という国、そして市場の信頼が完全に失われてしまいます」(パリバ証券・中空氏)

結果、政府に損害賠償訴訟を起こしたり、日本への投資をすへて引き上げる海外投資家が続出するのだ。「想像もしたくないが、外国人投資家が売買の6割以上を占める株式市場では、どんなに業績のいい企業でも売りに晒されることになる。昨年12月から日本株を買い越してきた外国人投資家がこぞって去れば、日経平均がアベノミクス以前の8000円台まではいとも簡単に落ちていく」(大手シンクタンクのエコノミスト)

みんな海外に逃げ出す

それだけではない。日本企業の海外脱出も加速する。前で・山内氏が言う。「東電が破綻して、燃料調達などに関わる取引先の債権もカットされるとなれば、東電の燃料調達に支障が出る恐れがあります。まだ、破綻企業ということで取引先との交渉力を極端に失ってしまい、少なくとも燃料調達価格は引き上げざるを得なくなる」となれば、コストアップした分は電気料金に上乗せされる。ただでさえ高い電気料金を支払っている日本企業が、これに嫌気して生産拠点を一気に海外移転さえるのは自然の流れだ。

一方で、これまで東電におんぶに抱っこで生き残ってきた中小企業は東電と「共倒れ」という地獄の道を突き進むしかない。ピーク時(1993年)に年間1兆6000億円以上、直近でも毎年6000億円前後の設備投資を行なう東電は、公共事業を発注してくれる国のような存在。それに関わる企業は大手から中小、地元零細までが「インナーサークル」を形成し過剰な競争はしないという”暗黙のルール”の下で、数十億円、数百億円規模の売り上げが毎年懐に入るおいしい商売を謳歌してきた。東電が巨大マネー製造器と呼ばれるゆえんである。

しかし、破綻となれば東電も取引先の選別に手をつけざるを得ない。切られた会社は座して死を待つのみ。マネー税造機の「逆噴射」が次々と企業を地獄の底へ突き落としていくのだ。かくして日本経済を取り巻く風景は一変する。世界でも戦える巨大企業は海外へ逃げ去り、残された「弱小組」は、株安、高い電気料金などの苦しみの中で、コストカットという名のリストラ、給与カットを断行するしかない。それでも体力がなくなってきたところからバタバタと倒れ、失業者が街に溢れる。

もう後回しはできない

これが東電が破綻した場合の「最悪のシナリオ」である。ここまでの劇薬を飲み続けなければ行けないのならば、東電を破綻させずに生き延びさせた方がいいと思う人は多いだろう。しかし、果たしてそうだろうか。経済産業省時代に東電の破綻処理を提言したことで知られる古賀氏がいう。「問題なのは、すでに実質破綻状態にある東電を、国の資金援助という『国家的粉飾』で債務超過を回避させ、しかもその税金負担を東電の経営にまったく責任のない国民や消費者に押しつけていることです」

本来であればまず東電の経営者を全員クビにして、株や銀行融資もカットすることで金融機関にも責任をとらせる。そのうえで、それでもカネが足りないのであれば、税金負担や料金値上げで消費者・国民に負担をお願いするのが筋だということ。古賀氏が続ける。

「しかし、財務省は東電が破綻して事故処理のコストを押しつけられるのを嫌う。経産省も東電破綻と同時に発送電分離など抜本的な電力改革が行なわれるのを回避したい。しかも両省にとって銀行は最上級の天下り先だから、銀行に大損失を出させるわけにはいかない。国が『前面に出る』などといって汚染水対策に470億円投じることを決めたのも、結局は国民に負担を押しつけただけです。破綻を回避する限り、原子力村と銀行の責任が国民につけ回されることになるのです」

廃炉、賠償、汚染水処理、除染などの問題解決に関わる費用は、数十兆円におよぶといわれ、東電が支払えるわけがないい。東電を延命させ続ければ、結果として今後何十年、何百年にもわたり、税金の逐次投入と、電気料金の値上げが繰り返されることになるだけだ。

「東電を破綻処理して債権カットすれば、金融機関からの借入金の約3兆5000億円の返済が不要になり、その分、賠償や除染のための追加税金投入を減らす効果がある。遅れている資産売却や余剰人員カットを加速させる起爆剤にもなります。一方で破綻処理をしなければ、銀行の貸し手責任と国を含めた株主責任が問われない。経産省の電力・原発行政の失敗がうやむやになり、利権も温存される。そしてそして国民だけが負担を強いられる。そんな理不尽は許されません」(経済ジャーナリスト・町田氏)

見てきたように、東電の破綻処理の課程では一時的なショックが起きることも想定される。しかし、このまま東電を存続させれば、国民は何百年と続く負担を背負わされることになる。どちらが日本人にとって、日本という国にとって「幸せな道」かは、自ずと答えが出てくるはずだ。

東電、銀行から国民全てが東電破綻を受け入れたときには、破綻後のシナリオを変わってくるかもしれない。全国民一丸となって東電の処理問題に対してスクラムを組み、そこから再出発する意志を示したとき、果たしてマーケットは日本株を売り浴びせるだろうか。「3.11」直後に日本株を投げ売った海外投資家たちが、絆で結ばれ、自らの命も省みずに他人を助けようと励んだ日本人の姿を見て日本売りをストップ「強気の買い」に転じたことを忘れてはいけない。東電を破綻させよう。そう叫ぶ国民の声が全国に広がったときに初めて、本当の日本復活シナリオが幕を開けるのかもしれない。


『週刊現代』11.9


2013年11月07日(木) 東電破綻 ��

そのとき何が起こるのか。当事者能力ゼロ、もはや時間の問題

メガバンクが貸した2.1兆円はパー、4.4兆円社債も紙くずに

東京電力は瀕死の状態だ。延命装置を外せば、巨象は倒れる。それは原子力村の無責任体質に切り込む改革の始まりか。日本経済を奈落の底に落とす劇薬か。ゲームセットの笛がまもなく吹かれる。

止まらない汚染水漏れ、遅々として進まない除染、混乱続きの賠償問題…。かって「財界の王」として君臨していた存在感は見る影もなく、東京電力が末期的な”機能不全”にもがき苦しんでいる。国が1兆円の”カンフル剤”を注入して東電を実質国有化してから、もうすぐ1年3ヶ月が過ぎようとしている。しかし、事態が何ら好転せず、むしろ悪化するばかりなのは、汚染水問題への杜撰な対応の数々をみても明らかである。

傷だらけの東電に、同情する向きはもういない。今すぐ破綻処理せよと、東電に最後通牒を突きつける声は日増しに大きくなっている。国会の場や大手メディアで東電破綻が公然と語られ始めたのが、「最終ステージ」に入ったことを物語る。東電問題に詳しい弁護士の久保氏が言う。

「いまは汚染水が騒がれていますが、今後もまだまだ問題がたくさん出てくるでしょう。それを東電だけで解決できるわけがありませんし、福島第一原発事故直後のあのちぐはぐな対応をみていれば、この会社に責任能力がないことは明白です。ですから私は、最初から東電を法的整理すべきだと主張してきました。いまでも遅すぎることはありません。即刻、法的整理に踏み切るべきです。国は覚悟を決めて、救済は国の責務だと云うことを踏まえてやる。国が賠償を担わないで、東電だけで被災者を救済することはできません」

10月23日、東電は福島第一原発の排水溝の水から、超高濃度の放射性物質が検出されたと発表した。一部が海に流れ込んだ可能性があり、汚染水がコントロールされていない実態が明らかになった。当事者能力を失い迷走を続ける東電の経営陣に、投資家たちも愛想を尽かし、我先にと東電株からの脱出を始めている。前述の放射性物質検出の件が報道で流れた際も、マーケットに東電株への売り注文がなだれ込んだ。

「福島第一原発には地下水が流れ込んでおり、汚染水がこれからも大量に生産されてしまうことは明らかです。汚染水問題や除染、廃炉などに対する東電の対応は限界に来ている。そうした対応への財政負担も不透明化する中にあっては、東電を破綻処理した方がいい。破綻処理によって生じる問題もありますが、一刻も早く国が判断するべきでしょう」(元財務官僚・小黒氏)

「世紀の破綻劇」になる

東電破綻は避けられない。もちろんそれは。いまだ経験したことのない世紀の破綻劇だ。2010年に破綻して日本全国が大騒ぎとなった当時の日本航空(JAL)と比べると、東電の売上高は約3倍の5兆9700億円。株主数も2倍近いのだから、前代未聞の大型破綻劇になるのは明らかである。東電の場合、「関係者」の数も半端ではない。86万人を超える個人投資家、3635社もの国内法人が東電株を保有。融資をしている金融機関には「大手」のながずらりと並ぶ。

中でもメガバンクとの関係は深く、3メガバンクからの借入金合計は約2.1兆円(2011年3月時点)。にのぼる。さらに、年間1兆円を超える「東電マネー(設備投資+製品調達)に関わる取引先の数は4500社ほどといわれる。こんな巨大企業が破綻すれば、日本経済を揺るがす事態が各地で同時多発的に起こり、最悪の場合は日本経済を根っこから脱落させる”巨大テロ”になりかねないのだ。

「通常の破綻処理スキームを使った場合、株券は価値がなくなり、銀行の融資も大半がカットされるので、まずは金融市場がパニックに陥るでしょう。東電を破綻処理するとなれば、複雑で膨大なスキームを作る必要があり大変な時間がかかる。スキームを作っている間から、金融市場の混乱が出てくると懸念されます」(一橋大学・山内教授)

実はこうした事態を見越して、禁輸期間はすでに対応に動き出している。東電など電力会社が発行する社債は、その電力会社が破綻した際に、他の債権より優先して返済してもらえる特別な仕組みになっている。「そこで昨年、メガバンク、大手生保などの金融機関が東電に『1兆円融資』を行う際には、実は社債を引き受ける形を採用し、より確実に金が返済されるようにしているのです。金融機関はいま、過去に行なった巨額融資についても、この社債スキームに切り替えようと動いているし、今後の新規融資についても同じスキームを使うといわれています」(嘉悦大学・小野准教授)

しかし、金融機関がなりふり構わぬ防衛策を講じても、東電破綻の巨大インパクトからは逃げ切れない。東電が破綻すると、いったい何が起こるのか―間違いなく言えるのは、真っ先にやられるのが金融機関だということだ。

「なぜなら、法的整理というのは、債権債務関係を全て整理するということ。まず、東電の株の価値がゼロになり、その後に資産が残っていれば債権者にお金を戻す流れになる。おそらく東電破綻を決意した政府は『資産はない』と言うでしょう。つまり、優先的に弁済される東電の社債も、破綻してお金がないからという理由でカットされてしまう。(大手証券アナリスト)保有株、社債、融資全てがカットされる。メガバンクが千億規模の損失を被る「金融ショック」の幕開けである。


『週刊現代』11.9


2013年11月05日(火) 蕩尽(とうじん)の快楽

世界富豪列伝

ダイナマイトで得た巨万の富が、世界的「賞」として贈与されるとき

2013年10月9日、スウェーデン王位科学アカデミーは、フランスのストラスブール大学のマーティン・カープラス氏、イスラエル・ワイツマン科学研究所のマイケル・レビット氏、ハーバード大学研究員のアリー・ウォーシェル氏の三氏に、ノーベル化学賞を授与した。同賞の受賞者と目されていた、京大の猪熊氏は受賞を逃した。同賞の受賞者と目されていた、京都大学の猪熊氏は受賞を逃した。

受賞の三氏は、理論化学の基礎を築いたことを認められたわけだが、猪熊氏は、実用化に導いたという功績がある。この辺り、かなり微妙だが、実用よりも発見を優位とすると、アカデミーは判断したのか。いずれにしろ、ノーベル賞のプレステージは、極めて高いものだ。1896年、アルフレッド、ノーベルが63才で死去した際、20日後に開封された遺書によると、親戚の遺産の取り分はなかった
ノーベル賞は、物理学、科学、生理・医学と、文化と平和に対する貢献を讃える賞を設けるように遺言した。ダイナマイトを発明し、巨万の富を築いたノーベルの寄託は、まさしく「がくだん」てきなしょうげきをもたらした。賞というポトラッチ的な贈与が、世界史を動かしたということは、やはり興味深い一幕として記憶されるだろう。

10月10日には、ノーベル文学賞が発表された。欧米のブックメーカー(賭屋)では、村上春樹氏が有力視されていたが、カナダのアリス・、マンロー氏が受賞した。日本のメディアは、村上氏の受賞を確実視していたが、外れた。前回の文学賞は、中国の莫言氏が獲っているので、アジアから続いての受賞は困難とみるのが妥当だろう。一方、理系の賞は、地域性などを勘案することはない。科学的に検証された事実に添って、評価が定まる。文学賞や平和賞は、その辺りのさじ加減については、かなり微妙なものがある、と云わざるを得ない。

日本で最初のノーベル文学賞受賞者は、川端康成氏だった。川端は、おそらく、あらゆる文学賞受賞者の中で一番奔放なヘミングウェイやフォークナー、クヌート・ハムスンといった面々と比べても、比較にならないほどの畏怖を払われるべき作家であるといえるだろう。なにしろ、ノーベル賞の受賞が決まると、すぐに賞金を当てにして、ルノワールやドガ、速水御舟らの絵画、北宋の汝窯(じょよう)の磁器といった逸品を買いまくって足を出したというのだから。逗子マリーナで自殺したときにも、遺言を残すわけでもなく、岡本かの子全集の推薦文を途中まで書いて、そのまま万年筆のキャップを外したまま、ガス管を咥(くわ)えて亡くなった。

名翻訳者を得られれば、ノーベル文学賞は獲れる

このあたり、弟子である三島由紀夫とはかなり違う。農務官僚の息子として生まれた三島は、父のルサンチマン(憎悪や妬み)を背負って、大蔵官僚になり、許されて作家生活に入った後も、刻苦勉励に努めた。奔放に振る舞うポーズを取りながら、実は細やかな配慮を忘れない。三島は川端について「この人は、時間が惜しくはないんだろうか」と思ったそうな。何しろ、当時、川端の家は、千客万来。

どこの誰ともしれない人が出入りし、慈善財団の頭株とか骨董や、画商、芸者、ホステス、歌舞伎役者、政治家の秘書といった有象無象が跳梁している。川端は、平気でその有り様を睥睨して、何とも思っていない。強面を装いつつも、実はまっとうな常識人だった三島は、やはりとうてい理解できない存在だったろ。

巷間、一部のメディア関係者の中で、本当は川端ではなく、三島がノーベル文学賞を獲ることになっていたのに、無理矢理、川端が受賞するように手を回した、と云う説が流布したことがあった。たしかに、ノーベル賞を獲れていたら、三島はかなり楽だっただろう。実際、アメリカでも三島の作品は、売れていた。英語も堪能だったから、国際的な活躍も十分、期待できただろう。

2012年NHKは、ノーベル賞の選考資料の情報開示をスウェーデンアカデミーに要請した。すると、かなり面白い事実が現れた。初めて日本人として、ノーベル文学賞の候補に挙げられたのは、社会運動家の賀川豊彦だったそうな。賀川は、神学生時代に神戸市葺合(ふきあい)の貧民窟に住み込んで伝道生活に入り、プリンストン大学に留学、貧民窟に戻ってベストセラー『死線を越えて』を出版した。賀川は二度、ノーベル賞候補になったそうな。

その後、谷崎潤一郎と詩人の西脇淳三郎が候補に挙げられたらしい。谷崎ならば、大方の日本人は納得しただろう。けれど、良い翻訳者を得られず、谷崎文学のヨーロッパへの普及にはかなり時間がかかった。川端が幸運だったのは、戦前すでに『伊豆の踊子』がドイツで翻訳されており、戦後早い時期に英訳も出たことだ。1956年には、最高傑作である『雪国』が、アメリカの文芸評論家、サイデンステッカーの訳で上梓されていた。サイデンステッカーは、戦争中に日本語を学び、翻訳家として活躍した。川端の受賞は、名翻訳家を得たからこその快挙だといえるだろう。かって井上靖が、ノーベル賞を取るのではないか、と云う噂で文壇が持ちきりの時期もあった。だか、結果として、井上靖は、候補には挙げられなかった。


『週刊現代』11.2


2013年11月02日(土) 夢の薬は本当にあった

不治の病と言われた病が、たった一つの薬を飲むだけで「完治」する時代がやって来る。数年前の薬の常識は今や非常識。特効薬の最新事情。知っているだけで人生が変わるかもしれません。

「現在では、薬で進行を止めることしかできないアルツハイマー病ですが、今、根本治療を可能にする新薬の開発が世界中で進められています。近い将来、アルツハイマー病を『治る病気』にするため、いま研究を進めているのです」こう語るのは、同志社大学神経疾患研究センター教授の杉本氏だ。日本で生まれた世界初の認知症薬「アリセプト」の開発者としても知られる。

杉本氏が開発したアリセプトを含め、現在日本では、約4種類の薬がアルツハイマー薬として承認されているが、残念ながらその効果はまだ「進行を遅らせる」という段階。認知症の一種であるアルツハイマーは、徐々に物忘れが悪化していき、過去の思い出や家族の顔さえもわからなくなってしまう。いまだに恐ろしい不治の病である。

だが、アリセプトの承認から14年が経過したいま、ついに根治治療薬、「特効薬」が開発されようとしているのだ。アルツハイマーの原因としては、現在では大きく分けて2つの説が考えられている。簡単に言うと、一つはアミロイドというタンパク質が大脳皮質や海馬に集積することが原因という「βアミロイド仮説」。もう一つは、脳内あるタウというタンパク質がリン酸化されタタウタンパク質が蓄積したものなのですが、これが毒性を示すことで神経細胞が死滅する。それによって物忘れなどを引き起こされるのです。

ならば、そのリン酸化されたタウの凝集を阻害するものを作れば、神経細胞の死滅を回避できる。これができればアルツハイマー病の治療が可能になると考えています」(杉本氏)現在、このタウ説に基づく新薬開発は、かなり進歩している。欧米で開発されているTRX0237は、すでに臨床試験に入っており、最終段階のフェーズ�鷸邯海卜廚狃猗�をしている。

杉本氏らのチームも負けてはいない。「我々も、すでに新薬となり得る物質の研究は進めており、早ければ2015年のはじめには臨床試験を開始します。少しでも早く患者さんのもとに薬を届けたいと思っていますが、目標は2020年の東京オリンピック。それまでに試験を終え、その後、新薬開発に持って行くつもりです」2人に1人がかかり、日本人の死因のトップであるガン。万能の特効薬は生まれにくいとはいえ、近年は分子標的薬の進歩がめざましく、特効薬と言っても過言ではない薬が次々と開発されている。「ガン細胞に特異な分子を目がけて攻撃するため、副作用も少なく効果が高い。慢性骨髄性白血病もグリペック、肺ガンにザーコリなど、様々な薬が出てきており、劇的に聞き、寛解も望めます」(北海道大学大学院西原医師)

いま注目を集めているが「スタチン」だ。これは東京農工大学特別栄誉教授の遠藤氏が1973年に発見し、コレステロールを低下させる作用があるとして約3000万人が服用しているとも言われる「世界一有名な薬」の一つ。まれに副作用が出るケースもあるが、これがコレステロールの低下以外に、炎症を抑える効果によってアルツハイマー病やガン、心臓病の予防にもなるということが明らかになってきたという。まさに万能薬。アメリカでは最近「魔法の弾丸」とも称されている。おなじみの薬が、後の研究によって特効薬として見直されることもあるのだ。

近年、患者数が増加しており、治療が難しいとされていた目の病気に加齢性黄斑変成ある。難病にも指定されており、完治が難しいとされていたが、最近の新薬によって劇的な治療効果が上がっている。慶応大学医学部眼科教授の坪田氏が言う。「これまではレーザー照射で治療するしかありませんでしたが、VEGF阻害薬という新薬が出て、かなりの症状の改善ができるようになりました。また、目の薬ではケトン体という物質が配合された点眼薬が、目を若返らせドライアイなどにも効果があるとして研究が進んでいます」

医療の世界は日進月歩。新たな治療薬の開発は今日も絶え間なく進んでいる。さらに注目すべきは、この秋の国会で薬事法の改正が審議されていることだ。「これまでは、基礎研究から新薬の承認と審査に20年近くかかっていたものが、効果があると認められたものに限り、条件・期限付きで認可できるようになる予定です。これにより、海外の研究開発を待っていたような薬でも、日本で申請した方が早く実現する可能性も出てくる。国内の研究者のモチベーションも上がるでしょう。日本が、新薬開発で世界最先端国となる日がくるかもしれません」(森本医師)



『週刊現代』11.2


加藤  |MAIL