Desert Beyond
ひさ



 Reality bites (escaping)

親友が東京から朝一の飛行機で遊びにきた。
髪を切ってくれるということで
わざわざ商売道具のハサミやら
なんだかよくわからないものやらを持ってきてくれた。
歳をかさねるごとに少しずつ
心地良いゆるさのでてきている感じが好きだ。
僕が学校に行くときに
中学生の頃みたいに自転車に二人乗りで
川沿いを大人げなくはしった。
僕は授業に。親友は道後温泉本館に。

今日は夜からアルバイトもあったので
本当にほったらかしにしてしまってごめん。
僕は明日も提出するものがあるけれど
とりあえず0時までビールをつきあった。

親友がいてくれて気がまぎれる。
きっと僕の中で潜在的に
現実から逃げようとしている力が働いて
親友の存在がある種触媒的な役割になっているのだと思う。
一人でいるとどうにもつらくなるので
とてもありがたいと思うけれど
現実からは一時的にしか逃げることができない。
きっと友達が東京に帰ってしまった後に
数日分のつけを一度に払うかのようにつらくなるんだろうな。
一人でいるのが苦痛になるんだと思う。

無理に被害者のように自分を作って
つらい境遇を演出してつらさに酔うのは嫌いで
僕はそんなふうにはしていない。

2005年10月31日(月)



 新郎新婦の友人代表

結婚式はとても感動した。
新郎は英語と中国語しか話せないけれど
彼は僕の本当の弟のような存在だ。
そんな無邪気だけど聡明で頼りがいのある彼が
ついに新婦であり僕の友達でもある彼女と結婚する。
二人の付き合いを見てきたからか
何度も涙が目に浮かんだ。
スピーチではやっぱり緊張してしまったけれど
伝えたいことはちゃんと伝えることができた。
Congratulations, Chung-Yi & Chika!
Love and happiness never fail.

数人のアリゾナでの友達とわかれを告げて
またプロペラ機で帰ってきた。
心も体も疲れていて、何度も眠りの泥沼に足をとられた。
飛行機が落ちてしまっても良いと本気で思った。

みんなに触れられるたびに僕は嘘をついた。

家に帰ってくると
やっぱりネガティブな感情のかたまりは
僕の心を支配して離さなくなった。
つらさでどうにもなくなる瞬間は
ノルウェイの森で永沢さんが言っていた
「自分に同情する人間にだけはなるな」
という台詞を思いだして
無理に自分が自分であれるように
流されないようにつなぎとめていた。

本当に何も何もしたくなくて
できることならばずっと眠りつづけたいけど
ここ2日間はあまり睡眠をとっていない。
今晩もやらなきゃいけないことが多くて
しかも明日他の親友が転職の合間ということで
この街に遊びにきて数日間滞在する。
普段だったらとてもうれしい訪問なのに
僕の状態がこうだから悪い気がする。
きっとその親友にも話せないで嘘をつくんだろうな。


2005年10月30日(日)



 ナゴヤンナイト

雨の松山。小雨の名古屋。
乗った飛行機はプロペラ機だった。
飛行機まで雨の滑走路を歩いた。
ぶうん、という音とともにプロペラは回って
20人とちょっとの乗客には
機内アナウンスなど聴こえなくて
ただ鈍いプロペラの音だけ聴こえていた。

2年振りに新郎新婦になる二人と会った。
名古屋なので味噌カツを食べた。

二人と別れてからチェックインの時間まで
少しあったので、大きな文房具屋でメモ帳を買った。
ちょうどメールが入った。ありがとう。
ホテルの一階はスターバックスで
天気のせいなのかオフィスの多い場所の土曜日だからか
店内にはあまりお客さんがいなかった。
本日のコーヒーにかぎる。
Tallのマグを持って一番窓際のソファに深くかけた。
壁一面ガラス張りの窓の横は一方通行の細めの道路と
道路の両脇の歩道くらいのものだった。
向かいの証券会社の高すぎる閉まったシャッターは
雨とともに余計憂鬱な気分にさせた。
たまに歩いて通り過ぎる名古屋のひとたちや
一方通行道路の信号待ちの車の中のひとたちは
ずいぶんとしけた顔をしていてあまり表情がなかった。
一番しけていたのはきっと僕だったろうに。
濃くて苦い黒い珈琲は僕の体をスモークした。
濃くて苦い珈琲が好きだ。
濃くて香りがあるのに苦くないさっぱりした珈琲も好きだ。
ホテルのチェックインの時間になる頃には
いい加減小雨もやんで道行く人たちは傘をさすのをやめた。

夕方からは7,8年ぶりくらいに
ニューヨークにいたときの友達と
アリゾナでの友達との2人と会った。
山ちゃんというお店で名古屋の手羽先と串味噌カツを
お客のいないバーでカクテルを
有名な台湾料理屋で台湾ラーメンを
喫茶店コメダでやたらおいしいデザートを食べた。
名古屋だからと言って、その二人は
僕と、ずっと僕のルームメイトだった親友に
ほとんどごちそうしてくれた。
二人とも今は旦那さんと子供、奥さんと子供、がいて
いろいろ大変そうだったけど幸せそうだった。
楽しかったよ、ありがとう。

ホテルに帰ってきたのはちょうど0時頃だった。
ホテルに帰ってきて落ち着くと
つらい気持ちになるのでテレビをつけた。
テレビをつけても全てがくだらない気がして
少しぼおっと見てから消してしまった。
それから買ったメモ帳にねむくなるまで書いた。



2005年10月29日(土)



 stone-cold autumn

数日前に嫌な夢をみたというので
父親がわざわざメールしてきた。
他の内容もあまり好ましくないもので
そのメールを読んで励まされるどころか
なんとなく冬日の暗い曇りのような気分になった。

信じられないようなことだけれど
今日その嫌な予言が本当のことになった。
こんなこと父親には言わないつもりだ。
一人で抱えるのがつらいので
自分の心が乱れて整理もつかないまま
親友にメールをしてみた。
わけもわからないままメールしてみた。

最近といえば香っていた金木犀が
雨によって哀しく流されてしまったかと思えば
まだ仄かに香っていて嬉しい気分になったりする。
将来自分で庭を持つことができるなら必ず植える。

学校へ通う道に沿って流れる川には
たまに白鷺が魚を取ろうとしていて
川の堰のところで静かに水面を見ていたり
季節はずれの紋白蝶が自転車のかごに当たりそうになったり
長い袖から入り込んでくる夕闇の寒さと
まだほの明るい西の空の美しさにはっとしたりする。

明日はまたしても親友の結婚式で
僕は朝から名古屋へ飛ぶ。
何もかもぎりぎりです。

情緒が不安定になると何か書かずにはいられなくなる。
こうして日記なはずなのに
独りごとみたいになってなんだか癒される。

最近はi-podで音楽を聴きながら
キコキコ自転車をこいで学校へ行く。
なかなか気分に合ったアルバムがなかったりして
かといってシャッフルにすると
全く聴きたくない曲が流れてきて参ったりする。
カスタマイズすれば朝に合う曲のみシャッフルとか
そういうことができるんだろうな。

学校ではだんだん2回生の子たちと仲良くなってきた。
それはいいことだけど
今日、やることが沢山あって手がまわらないので
火曜日に提出のレポートを見せてくれといわれた。
当たり前だけど断った。
なんで手がまわらないのかって訊くと
自分で食べるご飯を作ったり
他の課題があったり、と言った。

今時は長袖一枚だと暗くなる頃には寒くなる。
どんどん寒くなってきて、でも昼間はあったかくて
陽だまりとか、冷たい風とかが心地良い。
街路樹が紅葉してきて秋だと実感する。

3時間もある授業で野外実習がある。
やってることがやってることなので
もくもくと深い森の山になっていて
山の東の斜面にはロープウェイもついている城山を
ふもとからぐるりと磁石をもって何もない方眼紙から
自分で地図を書いて地質を調べたりする。
かっこいいハンマーを持って岩をコチンと叩いたりする。
夕方の城山の城裏の城壁沿いの小道を歩いていると
ざわざわと木々が風に揺れて
怪しい雰囲気を醸し出す。
幽霊というより妖怪な雰囲気で
夜にはなにやら出そうな感じがする。
夜に遠くから城山を見ると
お城近くに赤い灯りが点々としている。
城近くの通りに赤い提灯でも灯っているのかなと思って
それが何か見に行きたいけれど
とてもじゃないけれどあの木々の登りを抜けて
あの頂上近くまで確かめに行く気にはなれない。

何度も出てくる通学路沿いの小川だけど
その小川沿いに桜並木が植わっている場所がある。
春は桜が一斉に咲いて一斉に散った場所だ。
そこには弁天様か何かのお堂があって
道沿いのお堂裏には屋根がついていて
椅子が円状にならんでいて
昼間はお年寄り達がいつもそこに集っている。
桜並木の落ちた花びらや落ち葉は
そこのおじいさんに箒であつめられて
道はいつも綺麗になっている。
朝は寒くなってきたのでその葉っぱを燃して
手をかざしたり
昼は陽がまぶしいので簾をたらしたりしている。
たまに朝にはお遍路の人がそこに混じっていたりする。

秋のこの季節は寒さの加速に気付くほどに
気持ちも寒く寂しげになってくる。
空気も思い出も透き通る。

唯一の癒しは書くことと
入浴剤を入れた湯船に浸かって
なんだかゆるい音楽を聴いていることだ。
頭の中を真っ白にする練習をする。
練習をしようと思っていると
きっと真っ白にはならない。



2005年10月28日(金)



 

先週の今頃はちょうど沖縄に着きそうな頃。
先週の今日、松山は朝から雨雲が低く垂れ込めて
しとしとしと、とアメが降り続いていた。
秋を深める雨に濡れる松山の空港の中は
陰気ではないけれど雨特有の雰囲気が漂っていた。

銀の翼が松山空港の陸を離れると
斜め上にどんどん上がってゆく。
雲は分厚い霧のようなのが何層にも重なっていて
それを斜めに突き抜けていった。
途中、その霧のような感じが
「チャップリンの独裁者」という映画の
ワンシーンにとてもよく似ていて
綿アメマシーンを見ているかのような外の風景を
窓際の小窓からずっと見ていた。

30分くらい経つと飛行機は沢山の雲の上にでて
水平飛行を始めた。


2005年10月12日(水)
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