道院長の書きたい放題

2004年02月13日(金) ◆示現流談義

■前回の書きたい放題「元世界王者の遺言」の中で薩摩の示現流について触れましたが、追記します。

示現流は、どうも途方も無く威力があった剣法のようです。蜻蛉/とんぼの構えといわれる高めの斜め上段から、「チエストー!」という独特の気合と共に袈裟懸けで切りかかる、というのが私を含めた一般のイメージです。以前、古武道際で見ました。

薩摩人はハヤト族という、非常に勇猛果敢であった民族の末裔だそうで、この気質に攻撃性の強い示現流が良くマッチしたのだと考えます。

何かの本で読みました。西南戦争の際、劣勢となった薩軍は「抜刀隊」による奇襲攻撃を度々かけました。ある晩、官軍の指揮所に夜襲があり、「抜刀隊!?」と聞くや否や我先に逃げ出し、後で引き返すと障子だか襖だかが人の形に破れていて、あまりに見苦しい様に皆で苦笑したのだそうです。

逃げだ人達もかりそめにも武士ですが、ただ切られるだけ?ならいざ知らず、真向唐竹割りに斬殺された死体を散々に目撃し、恐怖が無意識下に染み付いていたのでしょう。死に対する恐怖は理屈ではないのです…。

■しかし薩摩の侍は突出して死を恐れず、それは、臆病者というレッテルを貼られるのを死よりも嫌ったからだと言われています。

明治維新は薩摩の軍事力がなければ為し得なかったのでしょうが、このような勇壮無比な士卒あればこそだったのです。その個々人の士卒の資質が示現流によってより精鋭化した、と考えます。

薩摩は示現流を導入以前から精強の藩でした。朝鮮に出兵した際、薩摩一軍だけで何十万?という明の大軍を破ったとか言われています。こんなに好戦的な薩摩人が三百年間近く徳川幕府に頭を押さえ付けられたのですから、維新のエネルギーは想像を絶する爆発力だったのでしょう。

■歴史小説作家・司馬遼太郎氏は、朝鮮民族は中国民族より純粋に物事を捉える傾向にあった。だから中国では現実的となった儒教思想が、朝鮮では観念的に受け入れられた。その末裔である長州人は物事を非常に純粋に観念的に思考する傾向にあった。しかし狂気的なところもあった。と考えたようです。アバウトです…。

同様に、薩摩の勇気、行動力という徳目も舵取りを誤ると、長州の狂気と同じく蛮勇に変わってしまう危険性がありました。

危惧された通り、この力は暴発します。舵取り=理性の象徴、というより頭目であった西郷隆盛は明治政府を下野後、薩摩人の勇気と行動力をより良質な力として蓄える為、(多分、西郷は鹿児島ではなく、国家の為にしたのでしょう)私学校を開校します。しかし西南戦争勃発となって、夢と潰えました。

決起の理由。私は彼等の性格からして、政府が鹿児島から弾薬を持ち去ろうとしたことが急所を突いたと考えます。さらに勝手な想像として、第二次世界大戦開戦の理由のひとつは、「5.5.3比率」/米英日の海軍比率が大きいと考えます。鹿児島出身である東郷平八郎、山本権兵衛など。言うまでも無く日本海軍は薩摩閥であり、闘い=戦いの手段を封じる者に対する怒りの激情は、薩摩隼人の感情だからです。

■ところで、西郷自身は少年の頃、決闘を行い、腕(たしか右腕を)負傷したので、剣術の道=示現流を諦めたようです。勇猛果敢の精神は持ち合わせていましたが、なんというのですか…学問をした為に、彼は攻守のバランスが取れていた人でした。

西郷に付き従った中村半次郎=桐野利明。彼は「人切り半次郎」と呼ばれた程の剣=示現流の達人でした。学問には通じていませんでしたが、快男児であったようです。剣の腕前は、「半次郎どんは謡をしながら人を斬りなさった」と伝えられているようです。凄いですね。ノーモーションですョ。

(余談ですが、母親が子供の頃、憲兵隊の息子を持つお父さんが見せてくれたという写真の話です。中国戦線でベンイタイ?/ゲリラを捕まえた日本軍が処刑した瞬間を撮影したものだったそうです。「あんな写真は、世の中に出ないものだったのではないかな。人間は首を切られると血がパーと出て、本当に(首が)飛ぶんだよ。青竜刀で斬っていたよ」)。

当時、すでに人の首を、据え物でさえ斬るのは難しく、だから青竜刀で斬ったのでしょう。それを半次郎は歩きながら、謡いながら斬ったというのです。…想像できますね。

■維新を成し得た原動力となった示現流。しかし西南戦争を引き起こした原動力ともなりました(と私は考えるのです)。

ひとつの武術、武道が国家の行く末に大きな影響を与えたのです。この歴史的な事実を踏まえ、少林寺拳法=武道の善用を計らなければなりません。


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【注意】本「書きたい放題」は気持ちの問題もあり、即日にアップします。ですので、当日中、あるいは翌日にかけ、表現の過不足を改める場合があります。印刷して読む場合は数日後にお願いします。

表現が異なったまま残るのは、私にしてみれば不本意であります。いずれ、リニューアル?=改訂して行きたいと考えています。★印なんか付けます。



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あつみ [MAIL]