■前回述べた番組の正式な題名は、『にんげんドキュメント・「ただ一撃にかける」/世界剣道大会』(NHK)でした。この放送で教えられたことは多々ありますが、技と心に関することを二点述べたいと思います。
世界大会12連覇の立役者となった栄花直輝剣士(33歳)。カメラは、鏡に向かって黙々と素振りを繰り返す姿を映しながら終了しました。私はその素振りの形を見て、フッと宮崎正裕剣士との対戦シーンを思い重ねました。
■2000年の全日本剣道大会の決勝戦。昨年度は準決勝(準々決勝?)で敗れた栄花選手が天才剣士、宮崎選手に再び挑みました。
この場面、ビデオを再生してみると、相手の面打ちを左足を大きく引きながら紙一重でかわし、受けに使った足に力を貯め、伸びきった右腕に鋭く小手打ちを決めていたのでした。
言ってみればカウンター攻撃。これにより宮崎選手の大会史上初の三連覇を阻み、栄花選手は自身初の日本一の栄冠獲得となりました。
■両者の戦い。…素振りで行っていた前に出て打つ上段、退がって打つ上段の通り、不二一体の攻防技が両雄によって試合で同時的に表現されたのです。
よく「流派の秘伝は基本にある」といわれます。剣道で「エイ!エイ!」と行われる前進打ち、後退打ちの基本形は、まさしく実際の攻防/先の先、後の先の術理を含んだ“秘技”と言えましょう。
ちなみに少林寺拳法では、上段逆突きして下受け退がり順蹴り。あるいは義和拳、天地拳第一などがこれにあたるでしょうか…。いや、そのような単独基本形が少林寺拳法では多いですね。
いずれにせよ、普段行われる基本がいかに大切であるか、武道人に脚下照顧の心を改めて思い起こさせる場面でした…。
□■次ぎに、世界大会決勝の場面。前回、「…韓国人剣士が竹刀を下げ」と書いたのは若干間違いで、キム・キョンナム選手が栄花選手の竹刀を“下に払い”、構え直す一瞬に突きが決まったのでした。
同じくビデオで検証すると前段があるのが分かります。膠着状態の中、10分を経過した直後、栄花選手が相手の竹刀を強めに「パン!」と右に払いました。
すると、お返し?とばかりにキム選手が、これも強めに相手の竹刀を下に叩いて応じ、その直後、栄花選手の竹刀を上げ戻す如くの動作からの大技を決められたのでした。
□■韓国チームの監督がこう言いました。「剣道は心が大切だと最近分かって来ました。以前はこれが分からず、筋力やら瞬発力やらに重点をおいたトレーニングばかりしていました」(要旨)。
奇しくも、将棋の棋士/久保利明八段が同じことを言いました。彼は「将棋は“体技心”とずっと思っていましたが、やはり“心技体”だと分かりました」と言って、今期竜王戦の対局終了後、心を鍛える為、短期間ですが禅寺に向かったのだそうです…。
キム選手(38歳)はコーチも兼ね、20年間、団体戦で日本人選手に負け知らずという強豪です。しかし相手選手の小兵さ、あるいは負け知らずということからの驕りなど、心にスキが生じていたのでしょう。自らの心に敗れ去りました。
(私が見るところ)一瞬「カッ」となって行った無意味な払い動作がそれで、もちろん、彼の上を行った栄花選手の無心と素晴らしい技は称賛に値します。
□■韓国チームは座禅を随分と取り入れた合宿をしているそうです。
なぜ、武道人の多くは座禅に向かうのでしょうか…。どうも、それは勝敗や(それに伴う)生死があるからであって、勝敗の無い少林寺拳法は“拳法自体が禅"と言います。不思議ですね…。
|