道院長の書きたい放題

2003年06月05日(木) コーネル・キャンプ(3)/怒りと愛の根源

今回のコーネルキャンプで感じた印象深かったことを、気の向いた順に述べたいと思います。

■【怒りと愛の根源】話は飛ぶが、26日の月曜日、午前中にキャンプが終わりNYに帰って来た。帰りは、根岸先生と野口さんはRさんの運転する車。私と作山先生、朝倉先生はZさんの車に分乗、分宿となった。

途中、ホテルを予約した朝倉先生、NY支部の拳士達を家まで送り、午後八時過ぎ、作山先生、私、招待したZさん夫妻四人とのディナータイムとなった。夫Mさんの推薦する素敵なイタリアンのレストランである。

■いつもながら、彼の地のレストランのパンは大変美味しい。特にイタリアンは、子皿に垂らした新鮮なオリーブ・オイルにパンを付けながら食するのがグッドで、パン好きの私は油断して食べ過ぎるとメインディッシュが入らなくなってしまう。なんせ、こちらはすべてにわたり量が多い。

合宿が終わった安堵感も手伝って、キャンドルが揺れるレストランで会話が弾む。といっても、赤ワインを片手にご機嫌な作山先生とZ夫妻が中心となって、私はもっぱら料理の為に口を動かしている。

それでも会話の要所要所は教えてくれるので、退屈することはない。しかし、英語が話せないのが本当に恨めしい…。

■ディナーが終わり外に出た。今期のNYは天候に恵まれず、雨が多かった。でも誰かサンが気を利かしたのか、NY最後の夜は降り止んでくれたのだ…。

夫Mさんの提案で、彼の職場を見学することになった。時間は午後の十時を過ぎていた。

MさんはDNA関係の仕事をしており、9.11テロの後、犠牲者たちのDNA鑑定を行っている。会社の正式な名称は覚えていないが、セキュリティーがずいぶんと厳重であった。そして夜の職場は誰も居らず、ちょっと不気味な感じがした。

「骨に付いた肉片を削ぎ落とし、この中で培養してDNAを鑑定するようだよ」。

透明な液体が入ってもやもやと動いているポリ容器の前で、Mさんの熱心な説明を作山先生がトランスレイトしてくれた。

■色々な場所を案内してもらい、最後に屋上へと促された。出ると、高くないビルの屋上から、下方をライトで照らされた白い大きなテントが浮かび上がって見えた。

「あの中には、23.000ピースのまだ身元が確認できない“肉片”が保管されている…」とMさんから説明され、鳥肌が立った。

(犠牲者の肉がまだ残っているのか…。これではアメリカの怒りは収まらないわけだ…)。私には、この白いテントがまるでアメリカの怒りの根源にように思えた…。

■彼等、ZさんMさん夫妻は言った。

「あのテロの後、Mがこの仕事をするようになって私達は結婚することに決めたの。なぜなら、愛する肉親や恋人がこのような姿になっても、結婚していなければ法的にそれを引き取る権利がない…。たとえ肉片や骨でも、お互い自分のものとすることができない…だから私達は結婚したの」

おおよそ、こんな内容だったと思う…。

愛する人の全てが欲しい。たとえ死んで骨になっても…。愛する/愛の根源とはそういうことだ…。

職場のビルを出て車に向かう途中、人通りの少ない肌寒い夜のNYを、二人はどちらからともなく手を触れ、そしてつなぎ合い、肩を寄せ合って歩くのだった…。


 < 過去  INDEX  未来 >


あつみ [MAIL]