A Thousand Blessings
2004年1月〜最新|ひとつ前に戻る|ひとつ先に進む
昨日の続き。 帰りにトットコトットコ歩いていたら、いろいろなことを思い出した。 人間の体は、そのほとんどが思い出と水分で出来ているって言うけど、 本当だ。 思い出は、それが楽しいものであっても哀しいものであっても、 結局、時間が「切ない」という曖昧な中間色のような感情へと 変化させてしまうのだな。それは、熟成といってもいいのかな? ある意味、今が、食べごろ・飲みごろなのかも。
ごく、個人的な話。 20歳のとき、初めて女性に愛を告白した。 ひとつ年下のみさちゃんという女の子。 ショートカットで色黒で、胸が小さくて目がクリクリした、まるで陸上部員の 女子中学生みたいな女の子。職場の同僚だったのだ。 数ヶ月間想い続けて、その想いがピークに達した時、 一気に攻めへと転じた訳で。
友人の指輪職人(正式には何と言うのだろう?指輪を作る人)にお願いして プレゼント用の指輪を作ってもらった。 人生初めての告白で、いきなり指輪を贈ろうとする、その心意気&無謀。 「サイズは?」と友人に聞かれて、「わかんない」と答える 純情&世間知らず。 「じゃあ、フリーサイズの変わったやつにしよう」と言われ なんか、こう、簡単に、詰められる、なんか、こう、グルグル巻いてある感じの、 なんか、こう、アンティックなやつ(説明できない・・・)を選択。裏側にネームを 入れてもらった。あれはいくらぐらいしたのだろう?全然、覚えてない。
「帰りに大事な話があるんだ・・。シャッターの前で待ってるから、来て」 とさりげなく、実は心臓が飛び出るほどの興奮状態で彼女に伝え、 先に社員通用口から出た。 すぐに彼女はやってきて「ちょっとだけここで待っててもらえる?」と 言い残し、どこかへ走っていく。 たぶん、5〜6分で戻ってきたと思う。
以下は多少の脚色を含む。
「おまたせ。大事な話って・・なあに?」 「あのさー、」 「うん?」 「みさちゃんさ・・」 「うん」 「みさちゃんさぁ・・僕のことどう思う?」 「え?。どうって・・?」 「うん・・。恋愛の対象としてさ・・・。どう思う?」 「・・・・」 「いきなり驚かしてごめん・・えっと、あのさ・・・」 「・・・わたしは・・駄目だよ・・・。」 「え?駄目って?・・ど・・どういうこと??」 「わたし・・・彼氏・・・・いるから・・・」 「え??!どういうこと?え??!だって、彼氏いないって前言ってたよね?」
激しく狼狽する恋愛初心者。
「今ね・・・」 「・・うん?」 「今、そこの喫茶店にいるの・・・」 「え?誰が???(意味分からず、大いに混乱)」 「お客さんの○○くん・・・知ってるでしょ?彼、そこに今、いるの。 たぶん、墨田君、私に告白するんじゃないかと思って、 今、彼に相談してきたのね・・・」 「・・・・・!(ほぼ瀕死)」 「そしたら、一応話は聞くだけ聞いて、きちんと断わりなよ、って言われて・・・・」 「・・・・・・・!(そして、死亡)」 「ごめんね、、彼とはまだ10日間くらいなの・・。打ち明けられて・・ 付き合ってるんだ・・・」 「・・・・・・(生活反応なし)」 「墨田くん、いい人だけど、わたしと合わないと思う。 私なんか墨田くんに相応しくないよ。ごめんね。 明日、墨田くんと、もう会いにくくなっちゃうかな・・・? ほんと、ごめんね。私戻らなくちゃ・・・。 明日、待ってるからね。仕事に来てね・・。」
僕に君は相応しすぎるのに。 ○○は僕の客だったのに。 ○○は僕より背が低いのに。 ○○がみさちゃんを好きだったなんて、全然知らなかった。 やはり女は学歴で選ぶのか?○○は慶応の学生。
僕は君にまだ「好きだ!」と言えてないのに・・・・。
帰りに新宿駅でちょっと危ない瞬間もあったが、 なんとかダイヤを乱すことなくご帰還。 すぐにベッドに突っ伏して、生まれてはじめて「恋」で泣いた。 もう、ワンワン。どこからあんなに涙が出るのか?!といったくらい。 あとにも先にも、「恋」で泣いたのはあのときだけ。
翌朝、社員通用口に彼女が立っていた。 手には鯛焼きが入った袋が。 「あとで、みんなで食べようね」と、とびっきりの笑顔で。
2日続けて、「恋」で泣いた。でも2度目は、心のなかで。
今でも、みさちゃんのことをよく思い出す。 たぶん、元気で逞しい、50歳の母になっているんだろうな。 僕の人生で、いちばん好きだった女の子の話。 他人の個人的な話は、つまらないでしょ?(笑) いいんだよ。日記だから。
プーランクの傑作「管弦楽とピアノのための六重奏曲」を聴きながら。
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(12月8日 記)
響 一朗
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