A Thousand Blessings
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2004年02月10日(火) スティーリー・ダンの「AJA」

スティーリー・ダンの「AJA」は完璧なアルバムだと巷ではいわれている。

サウンド志向派音楽ファンの
「ジャズ・ソウル系スタジオミュージシャンの華麗な演奏テクニック」への
憧憬がそういう表現をさせたのでは?と推測する。

確かに極めて高度な技術の応酬が聴かれる。
こういうアルバム製作のアイデアは
フュージョンが全盛の時代だからこそ生まれたのだろう。

アルバムが発表された時、いわゆる「普通の」ロックファンからは
見事に無視された。
やはりフュージョンに片足(あるいは両足)を
突っ込んだAOR系ファンからの支持が高かった。
お洒落なアルバムとして、「そういう系」の雑誌によく紹介されていたものだ。
スティーリー・ダンという名は、「そのあたり」を中心に
急速に高級ブランド化していった。

2人の優れた音楽家の才能を正当に評価するきっかけは
見事に置き去りにされた。
皮肉にも、彼らは金で雇ったスタジオミュージシャンの知名度に
アルバムを乗っ取られた形になったのだ。
少なくとも「AJA」以前のアルバムでは、2人の「顔」がはっきりと見えていた。
それが「AJA」では匿名の作家が書いた作品をスタジオミュージシャンが
演奏しているという印象になってしまった。
そこがブライアン・ウィルソンの「ペットサウンズ」(唐突な引用だが、
詳しい説明はまた今度)とは大きく異なる点だ。

だが、誤解しないでもらいたい。
それこそが、このアルバムの歴史的な「意義」だと思うのだ。
方法論としては、やがてくるデジタル時代のレコーディングの先駆け
であるのは間違いない。
違うのは、スタジオミュージシャンがコンピューターに変わっていくだけの
事だと思うのだが。

「AJA」製作時のエピソードを参加メンバーが語ったドキュメンタリービデオ
を観たことがある。
そのなかで、スティーリー・ダンのドナルド・フェイゲンとウォルター・ベッカー
は、ミュージシャンの起用法についてかなり試行錯誤をしたことを
告白している。
ある楽曲のギターソロひとつをとっても、何人かのギタリストに
同じパートを演奏させてそのなかから一番良いものをピックアップする、
という何とも贅沢な方法までとられていた。
音作りの細かい部分へのこだわりは、まさに職人のそれで、
彼らが作る複雑な作品(特に和声において顕著)を音にする作業の
困難さが垣間見えて興味深かった。

アルバム「キャント・バイ・スリル」でデビューした
スティーリー・ダンは、その出発点において一風変わった作風の曲を作りもするが
基本的には「普通」のロックバンドだった。
やがて、ドナルド・フェイゲンのエゴがメンバーとの軋轢を生むようになり、
ウォルター・ベッカーを除いて全員逃げた。
完璧主義のドナルドに対し、ウォルターには少しばかり「緩い」部分が
ある。
ビデオ映像を観ていて、そう思った。
だからこそ長く続くコンビなのだろう。

参加ミュージシャンの中でも特にドラマーの多彩さに
ついてちょっと書きたい。

僕のドラムフェチは有名だが、このように
一枚のアルバム(全7曲)で6人のそれぞれ個性の異なるドラマーを使った
例を他には知らない。(あったら教えて下さい)
僕が「AJA」に惹かれる理由の半分はドラマーのプレイにある。
少なくとも一人を除いては、ドラマーの人選にミスは無い。

たとえば、バーナード・パーディ。
言うまでもなく、グルーヴの代名詞のようなドラマーである。
アレサ・フランクリンをはじめとするソウルアーチストの
フットワークの軽いグルーヴの仕掛け人として、彼の名前は
信じられない数の作品にクレジットされている。
“deacon blues”では、もう絶好調そのもの!
まあ、この人は演奏にむらが無い事で有名ですが、
彼が叩くだけで演奏の推進力が数倍増す。

たとえば、ポール・ハンフリー。
フランク・ザッパの「HOT RATS」での衝撃的なドラミングは
僕の個人的ドラマー偏愛史の中のハイライトに位置している。
元々はファンク系のドラマーだ。
ゆるゆるなのに、タイトな演奏。
あっさりしてるのに、コクがある、っていう言い方と
同じと思ってください。
余談だが彼が参加した一曲目の“black cow”のある部分に、
同じく彼が参加したザッパのアルバム
「over−nite sennsation」の中の一曲
“montana”のワンフレーズが出てくるのだが、気付いた方は
いるでしょうか?間違いなく、これはシャレですね。

たとえば、ジム・ケルトナー。
いまや向かうところ敵無しといった百戦錬磨のセッションドラマー。
独特のスタイルのドラミングは、一聴して彼と分かるほど個性的だ。
シンバルワークのリズムの取り方に特徴がある。
“josie”でのプレイに彼の全てが聴かれると言っても過言ではない。
僕は生まれ変わったら、ジム・ケルトナーになりたい。

たとえば、リック・マロッタ。
リンダ・ロンシュタットのバックで有名になる。
弟も有名なドラマー、ジェリー・マロッタ。
リックの特徴は正確無比なドラミング。
さらにはハイハットの使い方の芸術的な上手さ。
ビデオを観た時に一番印象に残ったのが彼のプレイ。
“peg”でのハイハットの開き方(開く幅)に彼のスゴさを見た。
あまりに上手すぎてしばらく呆然・・。

たとえば、エド・グリーン。
あまりにも畏れ多くて語ることが出来ないほど偉大なドラマー。
もちろん僕の最も尊敬するドラマーである。
ソウル音楽の世界での偉業は、ブラックミュージックが
黒人だけで作られたものではない事を証明している。
エド・グリーンも有名なマッスルショールズのミュージシャンも
オーティス・レディングの片腕であったギタリストのスティーブ・クロッパーや
ベースのダック・ダンもみんな白人である。
“i got the news”ではチャック・レイニーとの
最高のコンビネーションを見せてくれるが、彼のドラムスの神髄に触れたければ、
「マーヴィン・ゲイLIVE」を聴くべし!

たとえば、スティーヴ・ガッド。
この人については後ほど詳しく。

作品の出来のいい順番が、そのままドラマーの演奏の出来の
いい順番になっているところが面白い。
トップ3だけ挙げておこう。

第1位 DEACON BLUES(バーナード・パーディ)
第2位 I GOT THE NEWS(エド・グリーン)
第3位 JOSIE(ジム・ケルトナー)

3人の特徴をほぼ完璧に生かしきっている!
正直言って、最近ではこの3曲しか聴かない。
もちろん部屋で聴く時は、村上秀一モデルのドラムスティックを握りしめて
いることは言うまでも無い。

さて、世間では圧倒的にタイトルナンバー“aja”の評判がいい。
発表当時は、まずこの曲を聴け!といった評論が大勢を占めていたと記憶する。
いや、現在もそうだろう。
ここに国内盤のライナーがあるが、こう書かれている。

『複雑で美しい曲展開。歴史に残るエキゾチックポップス/ジャズ
の秀曲。それにしてもスティーヴ・ガッドの能弁なドラムスと
ウエイン・ショーターのサックスソロは圧巻。』

筆者は有名なアメリカン・ロック評論家。

しかし、この評論家が言ってる事はオオボケでも何でもなくて、
おそらくはこのアルバムのファンのほとんどが思っている事では
ないだろうか?
そこで僕は憂鬱になるのだ。

ウエイン・ショーターのサックスソロは圧巻でもなんでもない。
手癖で吹いているような印象すらある。
こういうプレイをウエザー・リポートではやり続けていたのだ、彼は。
お金のためと割り切っているとまでは言わないが、
それにしても全盛期を知る者としては、かなり悲しい。
(「speak no evil」を聴け!!)
そういえば最晩年のマイルスもどこかのロックグループの
演奏にゲストで参加して、お茶を濁してたな。

ジャズの秀曲??この評論家にジャズを語らせるなよ。
純真な青少年は、ジャズとはこういうもんだと勘違いするぞ。
驚いたのは、この散漫な楽曲“aja”をスティーリー・ダンの最高傑作とする
決定的評価が音楽界では下されているという事実。
凝ってはいるが、必要のない音で満たされているというのが
僕の印象。
もっとコンパクトにまとめるべきだったと思う。

元凶はスティーヴ・ガッド。
音のひとつひとつに意味が感じられない。
歌ごころがない。
テクニックを誇示しすぎ。
しかし、そのテクニックもエド・グリーンには到底かなわない。
最後のバスドラとタムロールを使ったプレイとシンバルワークの
無意味な騒々しさ。
決定的なのは、グルーヴしないこと!
スタジオ・ミュージシャン仲間では「ガッド的」という表現があるそうな。
もちろんやっかみ半分の嫌味で「テクニック誇示だけの中身のない演奏家」
といった意味らしい。
言い得て妙。
音楽雑誌ではガッドのプレイばかりが
取り上げられて、エド・グリーンなどは全く無視されていた。
スティーヴ・ガッドはスタジオ・ミュージシャン史上、
最も過大評価された男である。
すごい稼ぎだったらしいが。

もしこの“aja”でTOTOのジェフ・ポーカロが叩いていたら
どうなっただろう?凄い出来になっていたのではないか?
そんな気がしてならない。彼のダイナミックなグルーブ感は
この楽曲の別の面を確実に引き出せたと思うのだが。

最後にアルバム「AJA」の中の(ドラムス以外の)ベストプレイは
“peg”におけるチャック・レイニーの魅惑のベース!100点満点!

最後にひとつ、再結成後のスティーリー・ダンは恐ろしくつまらんです。
聴かないように。


響 一朗

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