表現について

 自分の思っていることを、100%表現することは不可能ではない。
 しかし、それが100%伝わるかと言えば、それはほぼ不可能だと思う。
 生まれ育った環境、蓄えてきた知識、感受性、思想、その他様々な要因。
 そういったものが複雑に絡み合って、一つの個がある以上、仕方のないことかもしれない。

 しかし、だからこそ、通じ合ったときの感動は素晴らしいものがある。
 昔読んだ、なにかの作品に、こんなフレーズがある。
 「たとえ、10年間が真っ暗闇の暗黒を進むようなものだとしても、その中で、たった一度でも、至福の喜び、感動を味わうことが出来たとしたなら、その10年間は、その一つの記憶だけを頼りに生きていくことが出来るに違いない。それを可能にする、それこそが人という生物の持つ、最大の可能性なんだ。」
 このたった一度、心底から沸き上がる喜びを受け取らせてくれるもの。
 それこそが、気持ちの通じ合うという瞬間に他ならないのではないか。

 表現とは、片一方のものではない。
 発信するものと同時に、受信するものが必要だ。
 価値とは、必ず「受け手によって決められる」ものである。
 それを忘れた表現は、ただの独りよがりに過ぎないと思う。

 何かを発信する、そのこと自体はそれほど難しいことではない。
 しかし、誰かに伝えるという指向性を持ったときに、難易度は格段に跳ね上がる。
 不特定多数に伝えるのは無理でも、伝えたい人にしっかりと伝えられる表現。
 そういうものを、きちんと身につけていたいものだなぁ、と願う。
2005年05月08日(日)

日々 / いけだ