宵闇に包まれた世界。
闇の中、異世界のように白く照らし出される終電間際のホーム。
彼は一人立っていた。
電車は客を吐き出し吸い込んでゆく。
降車した客は、そそくさと階段を降り家路につく。
無言のままで。
こんなにも人がいるのに、みな寒さに襟を寄せ、ただ無言で歩く。
誰にも触れ合わぬまま。
ホームに一人、留まるのは彼のみ。
上流から下流に流れる水のように消えて行く人たち。
やがて、電車も人々と同じように動き出す。
一日の終わりの情景。
車窓から顔を出す車掌は、この閑散としたホームを幾度見たことだろう。
徐々に加速度を上げてゆく電車。
奇しくもそれは家路へと急ぐ乗客の姿に似ている。
電車が完全に目の前を去りゆく瞬間。
ホームの端に立つ彼は、ゆっくりと手を上げた。
手に触れるのは。
ばっちーん
時速40Kmで迫り来る車掌の頬。
小気味よい音が、静寂のホームを包む。
そして彼も家路につく。
孤高のビンタマン。
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