GARTERGUNS’雑記帳

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お題029(兼ホワイトデーイブ小話)
2005年03月13日(日)

※時間軸&カップリング混合・現代パラレル・バッドエンド注意※


029:デルタ



「仕方なく、だからな。別にお前からのプレゼントが嬉しかったからではないぞ」

もう毎年恒例になっているホワイトデー前日のあいつからの電話に、俺は笑って問いを返す。

「仕方なしにでも何でも良いよ。
 今年もまたデートしてくれるんだろ?バレンタインのお礼デート」

何処で何をしてもらおうかな、といかにも嬉しそうに独り言の様に続けると、彼はうっと黙り込み、暫くしてからぼそぼそと肯定の返事をした。

「本当に、仕方なく、なのだからな。勘違いするな」
「ああ、判った。そういう事にしておくよ」

彼はまだ何か言いたそうだったが、それを無視して話を進める。

「で、どうする?何時くらいからなら会えるんだ?俺は朝から空いてるけど」

尋ねると、彼は一つ溜息をついてから「済ませなければならない用事があるから、昼以降にしてくれ」と言う。

「用事?」
「ああ……会わなければならない者が……」

俺はピンと来て、殊更低い声で尋ねた。

「お前、俺以外とも『お礼デート』の約束をしてるんじゃないだろうな」

……さっきより幾分長い沈黙の後、彼は引き攣った乾いた声で「まさか」と笑った。

「デートの約束はしていない……」
「ん?デート以外の約束はしてるのか」
「………」
「ガルデン」

答えを促す様に彼の名前を呼ぶと、観念したのか、やはりぼそぼそとした声で弁解めいた事を言う。

「その……お前からのものと同じ様なプレゼントを貰ったから……ホワイトデーにはお返しをしなければならない、とお前が言っていたし……プレゼントを返そうと思って……」

……要するに、俺以外の誰かが、俺と同じ様に一ヶ月前に彼にプレゼントを渡していて……
で、律儀な彼は、俺へと同じ様にそれにお返しをしよう、と考えていた訳だ。
……お返しをされた相手が、それを本命と「勘違い」したらどうするつもりだ。
誰から貰ったか知らないけど俺以外にそんなもん返さなくて良いんだよ、と叫びそうになったが、其処をグッと堪えて、出来るだけ優しい声で言ってやる。

「そうか、だったら一つ、良い事を教えてやるよ。
 そのお返しのプレゼントを渡す時に、『これは義理だからな』って言うんだ。
 『私にはアデューっていう本命が居るから』って」

……こいつの本命は俺に決まってるんだから、別に間違ったアドバイスはしていない。
彼はいまいち俺の言っている「ギリ」や「ホンメイ」を理解できていない様子だったが、何度も念押しした結果、とりあえず「判った」と返事をした。よしよし。

「出来るだけ早く切り上げて、連絡くれよ」
「ああ……」
「じゃあ、また明日な」

そう言って電話を切る間際、受話器の向こうから「どうなっても知らんからな」という自棄気味の呟きが聞こえた気がした。





―――――翌日の昼近く。
今日のデートではどうしてやろうかと色々楽しい計画を立てながら連絡を待っていたところ、突然に玄関のドアチャイムが鳴った。

ひょっとしてガルデンだろうか。

ぴんぽんぴんぽんと連打されるチャイムに、つい慌てて走っていく。

「ああ、今開けるよ」

走ったそのままの勢いで、ドアスコープを覗く事もせず「お待たせ」と不用意にドアを開ける。
瞬間、妙な風圧を感じて、俺は反射的に後ずさった。


ドカッ。


「―――――」

一瞬前まで俺が立っていた場所に、まるで槍投げの槍の様に鉄パイプが突き刺さっている。
何があったのか理解するより先に、俺は咄嗟にドアを閉めようとする―――――

が、スチール製の分厚いドアが完全に閉まりきるより先に、僅かに残っていた隙間に何かが挟み込まれた。

指だ。

ガツッ、と見ている方が悲鳴を上げたくなる音に、ドアノブを引っ張っていた力が思わず緩む。
するとその……明らかにガルデンのものではない、黒くて無骨な……指は、今の衝撃に何の痛みも感じていないかの様に、とんでもない力でもってドアをこじ開けようとしてきた。
俺は今度こそ身の危険を感じて、必死でそれに抵抗する。
……無駄だった。
めきめきと音を立てて歪んでいくドア。破られるのも時間の問題だろう。
腕力や握力には自信がある俺ですらどうにもしようがない、それはまさに人外の力と言って良かった。

冷や汗が噴き出してくる。

「何なんだ、誰だよお前!!」

思わず叫ぶが、返事は無い。ただ、ぐるるる、と獣の様な唸り声が聞こえてくるだけだ。
それに、歯軋りとも何ともつかない、ギギギ、という耳障りな音。
……誰かは知らないが、相手が常軌を逸しているのは判った。

「勘弁してくれよ……」

徐々に開いていくドアを、それでも悪足掻きで全力で引っ張っていると、何故か昨夜の彼の言葉を思い出した。

―――――どうなっても知らんからな

「……!!」

これまでより更に強い力でドアを引かれ、俺ははっと顔を上げる。
そして凍りつく。

眼前に細く開いた歪んだドアの隙間から、攣り上がり血走った赤い目が、あからさまな狂気と殺意の光を湛えて俺をじっと見据えていた―――――







「―――――うわあああああ!!!」

悲鳴を上げて飛び起きる。
……飛び起きた事で、今までの恐怖体験が夢だったと気づく。
いつの間にか眠ってしまっていたらしい。
念の為に恐る恐る玄関に行ってみるが、特に何の異常も無い。勿論、床に鉄パイプも刺さっていなかった。

「………は、はああ………」

疲れきって深々と息をつき、携帯の時計を見る。……昼前。

その時、まるで図った様なタイミングでドアチャイムが鳴った。

「!!」

俺は上げかけた悲鳴を飲み込み、目の前のドアを見つめた。

ピンポーン

繰り返されるチャイム。
上がる息を殺し、足音を潜めてドアに近づき、ドアスコープを覗く。

其処には、夢に出て来た様な奴ではなく、淡い若草色の髪をお下げにした小柄な美少女が立っていた。

……これだけなら、不審に思いつつもドアを開けたかもしれない。
しかし俺は見てしまったのだ。
少女が、ドアチャイムを鳴らしているのとは逆の手に、大きな鉈(なた)を持っているのを……

「―――――」

絶句し、硬直する。そして居留守を決め込んでやり過ごそうと、一歩・二歩と後ずさる……

瞬間、握り締めていた携帯電話が、けたたましい呼び出し音を鳴らした。

……ほんの数秒の間があいた後、ドアチャイムの形を取っていたアプローチは、遠慮なしのノックとドアノブを回すがちゃがちゃという金属音に変化した。

ああ、そう言えば、用が済んだら連絡してくれって、あいつに言っておいたっけ……

鳴り続ける呼び出し音と、あの華奢な少女によるものだとは信じたくないけたたましい騒音を遠くに聞きながら、俺は茫然と立ち尽くした。


夢なら早く醒めてくれ。






―――――

当サイトメイン取り扱いの攻三人(アデュー、パティ、シュテル)が作る三角形の中心にガルデンが居て、三人でそれを取り合う、といった感じのラブコメ王道を書くつもりだったのですが……
思いもよらず人でなしな話になってしまいました。こんな筈では……

ホワイトデー本番はもう少しまともな(ましな)話を書きたいです。
ああ。



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