018:ハーモニカ プァー パー ファファー 風に乗って何処からか、柔らかく丸い音色が流れてくる。 視線をやればヒッテルが、子供たちに囲まれてハーモニカを吹いていた。 「兄ちゃんはああいうのん得意でなあ」 ガルデンにお茶を勧めながらカッツェが言う。 「泣いとった子や喧嘩し取った子らも、兄ちゃんのハーモニカが始まったらぴたっと大人しゅうなるんや」 一見無造作で、ただ鳴らしている様にしか聞こえない音の羅列…… けれど、じっと耳を済ませてみれば、いつか何処かで聴いた事のある様な、そんな不思議な感覚を揺り起こす。 それと同時に、あるはずの無い郷愁までも。 彼等とは違う「血」を持っていても……例え故郷に還る事すらない漂泊の民であっても、この心に刻まれたものは変わらないのだと――――― 無のレベルまで下りてゆく意識に命じられるままに、ガルデンの唇から歌が零れ落ちる。 「みんなまーるくタケモトピアノ……♪」 「……何か言うたか?」 「いや……」 カッツェの胡乱な視線に、茶を飲みながらガルデンは首を振った。 ファーファーファファ プァーパー ――――― ごめんなさい。
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