011:柔らかい殻 白くて柔らかな殻からまず手を出し、腕を伸ばし、脚を覗かせて、外気の温度を確かめながら銀の髪をもたげる。 静謐な空気を吸い、静かに目を開き、二三度瞬いて。 「あふ……」 欠伸混じりに息をついて、そのまままた頭を下ろし、夢と現実の境をうとうとと彷徨う。 投げ出した手足をするすると引っ込め、少し冷たかった「外」から庇う様に殻の内にしまう。 されど、一度ひびの入った殻は気密性など無いに等しく、冷気が容赦なく忍び込んできては、微睡む彼の意識をちくちくと突付く。 「うぅ」 彼は不機嫌そうに唸り、余りに柔らか過ぎる殻を呪った。 そう、殻とは元来硬いもの。 中の繊細で傷付き易いものを護る為に、硬くなければならぬもの。 こんな柔らかでは守護の役目はつとまらぬ。 ……では、「これ」の存在理由は? 「ん……」 しつこい冷気に、緩やかに夢の潮が退いていく。 上空から何処までも落ちていく時に似た心地良い浮遊感も薄れ、からだの隅々に重さが満ちてゆく。 「はぁ……。……ん……」 嫌々と言った感じで溜息。先程引っ込めた手足を伸ばし、ゆっくりと身を起こして。 今や原形を留めていない(或いは取り戻した)殻をすっかり脱ぎ捨て、もう一度欠伸をした。 それからその目で、肌で耳で晒された感覚の全てで、この世界を認識する。 朝の空気はやはり冷たい。 しかし其処には、紅茶やオムレツ、野菜スープにクロワッサンのバターの匂いが混じっていて、最初の目覚めの時よりまるくふんわりとなっている。 耳を澄ませばカチカチと皿の音。外の緑の気配は今日も濃厚で、開け放たれた窓から見れば目を灼く光が飛び込んでくる。 その、軽い痛みについ目を伏せ、光を手で遮りながら、彼は小さく笑う。 今日も私は生きている。 硬い殻が護る為に存在するなら、 柔らかな殻は破られる為に存在する。 白くて柔らかな殻を破って、彼は毎朝生まれ変わる。 ――――― 「文字書きさんに100のお題」配布元:Project SIGN[ef]F様 ――――― TV39話で、ガルデンが洞窟から出て眩しそうにするシーンが有りますが。 あれが大好きなのです。 ――――― 掲示板のお返事はまた後程…!!
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