GARTERGUNS’雑記帳

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お題012/盲従なの盲愛なのどっちが好きなの
2004年06月04日(金)

012:ガードレール




一瞬の出来事だった。
ガードレールに激突して世界が引っ繰り返り、身構える間も無く放り出されて。
本当にほんの一瞬で、こんな有様になってしまった。
……折れているのか、千切れて無くなってしまったのか、腕の感覚が無い。足の感覚も無い。あばらの痛みで全身が動かない。目が開かない。何とかしないとと思うのだが考えが纏まらない。
ないない尽くしだ。

「…………」

酷い耳鳴りの中で、こつ、こつと硬い足音が響く。
ゆっくりと近付いてきたそれは、丁度自分の顔の真横で止まった。

「無謀な奴だ」

涼やかで低い声が落ちてくる。

「私を追うという事は、即ち死に向かう事に他ならないのに」

死……。
そうかも知れない。アレを見た瞬間の、全身の血がすっと足元に流れ落ちていく様な感覚。
あの何とも言えない怖気が、死への本能的な忌避だったのだろうと、今なら納得出来る。
普通なら足が竦む。身が強張る。動けなくなって、呆然とアレを見送る。
周りの友人はそうだった。
が、自分は何故か―――――

ひんやりと甘い、「死」そのものの手が額に触れた。

「一度だけチャンスをやろう。無謀な若者、己が命の重さを知らずそれ故に軽やかで疾き者」

触れた場所から広がる柔らかな冷たさ。痛みも焦りも何もかもを溶かし去ってゆく様な。
それはまるで、全ての放棄を囁く冥府からの誘惑。
意識までも霧散してゆくのを感じながら、最後の力で瞼を開く。

「…………」

歪み、ぼやける視界に、妙にクリアに映る死神の顔。
此方を覗き込み、手と同じ冷たく甘い微笑みを浮かべた銀髪翠瞳のソレは、

「いずれ訪れる黄昏時まで、お前の命はお前に預けておこう」

囁き、折角開いた目をやんわりと塞ぎ、焼けた様にどくどくと熱い頬に口付けを―――――






「!!!いってぇぇぇええ!!」
「サルトビ!!」

突然跳ね起きたと思った次の瞬間、激痛に襲われたのかベッドの上で悶絶している恋人の姿に、丁度病室に入ってきた所だったイオリは驚いて駆け寄った。

「サルトビ、大丈夫かい?!意識が戻ったんだね!!」
「いってぇぇ……な、何だ?意識?何の事だ?つうか此処は何処だ……」

状況が把握出来ず、見覚えの無い白い部屋を呆然と眺めるサルトビ。其処に感極まったイオリが抱きついてきて、彼は再び悲鳴を上げる。

「ぎゃああ!!い、イオリ、止めろ!!離れろ!!」
「あっ、ご、ごめんよ」

嬉しくてつい、と涙ぐむ彼女から話を聞くに、

「あんた、事故でこの病院に担ぎ込まれたんだよ。
 ひと月近く意識が無かったんだ」
「!」
「覚えてないかい?皆で集まって、バイクの話になってさ。
 丁度あんたが新しい単車で来てたから、それ見ようって、外に出てさ……」

―――――そうだ、思い出した。
友人の家の近く、夜中でも思い切り吹かせるくらい人気の無い道。
殆どが直線と緩やかなカーブで構成された、スピードを出すだけなら最適の道。
其処まで同じ趣味の友人と来て、久々に少し走ってみるかという話になって―――――

「そしたらいきなり、知らないバイクが傍をもの凄い速さで通ってって。
 それ見て、あんた、ものも言わずに追いかけていっちまって」

―――――ふっと気が付いたら、愛車に乗ってアレを追跡していた。
絶えず続く奇妙な怖気を振り払う様に、限界以上の速さで。
頭の中は空っぽで、ただ、アレを追わないと、とそればかり考えていた。
もう少し、あと少し、という所まで迫って、思わず手を伸ばした瞬間―――――

「皆であんた追いかけてったら、丁度あの道の終わりのカーブのとこで事故って倒れてたんだよ。
 単車はぐしゃぐしゃだし、あんたは血塗れだし。あたい、心臓が停まるかと思った」

―――――ガードレールにぶつかって―――――

「……なあ、イオリ」
「何だい?」
「その……事故ったの、見つけた時にな。
 誰か傍に居なかったか?」

―――――意識を失う寸前、確かに見たのだ。
銀の死神。
アレに……あの黒と赤の怪物に乗っていた、「死」。

「いいや、誰も居なかったよ。
 あんたが追っかけてたバイクの奴も捜したんだけどね。まだ見つかってない」
「そうか……」

サルトビは、イオリに促されて再び横になりながら、生と死の混濁の中で囁いてきたモノの事を思った。
そして、……思わず頬に手をやる。

「あ、それ……他のに比べて浅い傷だったのに、何故か残っちまったって、先生が」
「―――――」

最後の瞬間、確かに奴の唇が触れた場所。
其処には、何かの印の様にくっきりと、傷痕が刻まれていた。







「―――――本当に良かったのか?」
「何が?」
「あいつを帰しちまってさ。やっと見つけた俺以外の『乗り手』なんだろ」

しどけなく赤と黒の上に寝そべる銀の死神に、青年は声を掛けた。
赤い髪の、逞しい青年。彼は、死神のとは対照的な白と青の上に腰掛けている。

「彼は『柵』を超えられなかった。時が満ちていないのだ。
 それにお前とは違って、彼には『乗り手』になる事で失うものが未だ多すぎる」

答えながら、まるで愛撫するかの様に赤と黒に手を這わせる死神。
その扇情的とも言える仕草に、青年は苦笑した。

「お前、本当は『シュテル』に追いつかれそうになったのが悔しいだけなんじゃないのか」
「下らん勘繰りだな。お前こそ悔しいのではないのか、自分より疾くなる『乗り手』の出現が」
「俺は……どっちかっつうと楽しみだな。早く会って、思い切り戦ってみたい」
「そして私と初めて会った時の様に、思い切り『ゼファー』を大破させるのか」
「あっ、あれはまだ力加減が判らなかったから。それに今はこの通り、ちゃんと治してあるだろ」

慌てて否定する青年にくすりと笑い、死神はその翠の目を閉じた。

「『シュテル』……お前も楽しみなのか?それとも私の興味を奪われた事に腹を立てているのか?」

自分の下に侍る忠実な怪物、黒と赤の刃に睦言の様に囁く。

「あのガードレールさえ無ければと、お前が繰り返し思っているのは……
 自分に追いついて欲しかったからか、それとも路肩から飛び出して欲しかったからか」




ガードレールは逸脱を妨げるモノ。
だからあの時、彼はそれを超えられなかった。




「駄目だよ!もうあの道を走るのは止めなよ」




止める恋人を置いて、サルトビは事故現場に舞い戻る。
既に新しくなっている『柵』、誰が死んだ訳でもないのに手向けられた花。




「覚悟は出来たか?」




黄昏の中で死神が囁く。
黒革のライダースーツに身を包み、化け物を従えて。
彼は羊を囲う『柵』に腰掛け、新たな『逸脱者』を待っている。


―――――

きっとこの後ぞくぞくと「乗り手」が集まってくる。イズミはハーレーに、パフはチョイノリに、カッツェとヒッテルはサイドカーに乗ってやってくる。

『シュテル』のモデルはコレです。不敵な面構えのモンスターマシン、かか、カッ・コ・イイ……!!

―――――

本日4周年を迎えられた同仁茶房様(おめでとうございます!)の日記にて、またも素晴らしい下僕のしらべが……!!
茶肌!筋肉質!!傷モノ!!!忠犬ハチ公!!!!
でかいのがちまいのに従う!焦がれる!!跪く!!!
たたた堪りませんね!!!(祝辞を述べるべき場で興奮して如何するのか)
これは近所の古書店をガッツリ巡るしか…!!



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