*アデュガルで* 朝、柔らかく大きな玉座の上では、あいつは君主になる。いや、暴君と言うべきか。 まず一緒にまどろんでいた筈の俺を玉座から蹴落とす。 次いで白の衣を纏いながら不機嫌そうに「水。」と一言。 もたもたしていたり、温もりを求めて玉座に這い上がろうとすると、そのしなやかな脚で再び蹴り飛ばされる。 冷たい水をコップに汲んで戻り、君主様に渡す。 美味しそうに飲み干すと、次の命令。 「腹が減った」 投げるようにして返された雫の残るコップを受け止め、俺は頭を巡らせる。 卵と、穀物と、野菜と、果物。乳製品。 これらを組み合わせて、美味しく、手早く、食べ易く、しかも君主様の気紛れな嗜好に合うよう朝食を作らなくちゃいけない。 こんな時、前日の夕食がスープ類だと良い。ちょっと味を変えたり卵を足したりで、条件を一度に沢山満たすことができる。乳製品と果物の組み合わせも良い。簡単で美味しいし、見栄えも綺麗だ。 だけど、あんまり似たようなメニューを連日出すと、突然君主様は癇癪を起こす。 昨日はスープ系だったから、今日はオムレツにしよう。 それにパンとチーズ、オレンジとサラダ。 ひねりの無いメニューだが、たまにはこういうのも良いだろう。 君主様は玉座に掛けたまま、俺が差し出すそれを雛鳥宜しく平らげていく。 熱いものなら程よく冷ましてやらなければいけないし、大きいものなら小さめに千切ったり切ったりしてやらなくちゃいけない。全く手間が掛かる。 オレンジの最後の一房を食べると、満足したのか君主様は、果汁で濡れた唇を舐め、頬を緩めて頷いて見せた。 「御苦労、下がって良いぞ」ってか。 冗談じゃない。俺はクーデターを起こす。 軽く目を見開く君主様を玉座に組み伏せ、未だ甘い唇を啜る。 「この私に無体を働くか」 息継ぎの合間の不満そうな唸り声。 「不敬罪…反逆罪で処刑するぞ」 「悪いな『君主様』。なんせ腹が空いているもんで。 それに俺を処刑したら、明日っからの君主様の世話は誰がするんだ?」 俺の言い方にからかうような色を認めたらしい。彼はその細い眉を寄せて睨みつけてくる。 でも、そんな顔をしてももう遅い。 こいつはもう君主じゃないんだから。 魔法は解けて、玉座はただのベッドに、白い衣は体液の染み込んだシーツに戻る。 「元」君主様は大儀そうに溜め息をつき、抵抗を止める。 「……痛くするな……」 命令ではなく懇願を漏らして、その腕を俺の身体に絡みつかせてくる。 「まあ、考えておくよ」 寛大な俺は捕虜の言葉に小さく笑い、囁いた。 ――――― 昔のネタ帳から発掘。アゲインスト下僕大明神(byなるみ忍様)の精神で。 と言うかこれ打ってる最中に3回もメモ帳が落ちたのですが。 「何でも下僕の所為にするなよ」と仰る方は、一度同じ様な体験をしてみる事をお勧め致します。笑えなくなります。 ――――― 水曜に夜篠嬢と「死に花」(http://shinibana.jp/)を観てきました。 もう、素敵過ぎでカッチョ良すぎな映画でした。 ネタバレになりそうなので余り多く書けないのですが、何か……こう、元気が出ると言うか、年甲斐も無く張り切りまくりの爺さん達に萌えと言うか……!!! 本当、たまらん映画です。 夜篠嬢と考えていたネタがこの話の最後とモロ被りで愕然としたりもしましたが。 山崎努氏のベッドシーンや青島幸男氏の熱烈キッスシーンにビビリもしましたが……!! 判りやすいストーリーとキャラクタに、渋い巧い深いの三拍子揃った役者陣が絡むとどうなるか。 笑って感激してほろりとくる、正に「青春映画」ですわ。 お勧めです。 キャシャーンの方はビデオ待ちにしました。 次はキューティーハニー、それから69。 邦画バンザイ。
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