申し込んだバイトの登録番号が「174」で、静かに喜びを噛み締めているTALK-Gですこんばんは。 突然話は変わりますが、10月31日〜11月2日の三日間(正確には3日までの四日間なのですが、私の所属する夜間部の出店期間は2日までだったので)、私の通っている大学で学園祭があったのです。 で、その最終日、店をたたんで始末をした後に、特設ステージでの「閉会式」と「乱舞」というものがありまして。 「閉会式」はその名の通り、学園祭無事に終わってよかったね、協力してくれた皆様ありがとう、みたいなアレなのですが、それでは「乱舞」とは何かと申しますと。 夜間部のクラブの中でも、文化会・体育会・学術研究会といったカテゴリから独立している「応援団」の「発表会」でして。 言ってみれば体育祭の「組体操」や「応援合戦」みたいな。 他のクラブの者たちは、それに拍手をしたりぼんやりしたりしつつ、彼らの演舞や演奏を楽しむというものなのですが。 素晴らしい、気合のこもった熱い乱舞を見ながら、ふと思ったのです。 「応援団」という組織は、リューのパロ向きではないだろうかと。 ――――――――――――――――― 晴れて志望していた大学に入学したアレク…… 春のキャンパスで繰り広げられる、各クラブの新入生勧誘で、アレクは従兄のアデュー(三回生)に捕まります。 そのアデューは、前をはだけた黒の長ランに学帽、足には下駄を履き、何だか一昔どころか二昔は前の「番長」みたいないかつい姿です。 思わずびびるアレクに、ずいと迫って言うアデュー。 「応援団に興味ないか?」 アレクはもともと文科系です。体力や腕力もずば抜けているわけではなく、同じ大学に入った双子の姉とは正反対に大人しい……いかにも優しげでおっとりとした「体育以外は優等生」でした。 そんな自分が、応援団? 余りに似合わない組み合わせに慄然とするアレクですが、ちょっと覗くだけで良いからというアデューの言葉に、仕方なくついていくことになりました。 ついていった先は、五階建ての立派な建物。吹き抜けになっていて、上から見ると丁度「ロ」の字型です。 「此処はクラブハウスになっていて、二階が体育会、三階が学術研究系、四階が文科系のテリトリーになってるんだ。で、五階は防音のついた音楽練習所とかが入ってる」 では、一階には何があるのでしょう。 アレクが尋ねると、待ってましたと言わんばかりの笑顔でアデューが回答します。 「一階は、このクラブ全体を纏める執行部や多目的ホール……そして俺達応援団の部室があるんだ」 何でも、この大学に多々あるクラブの中でも、アデューが所属する応援団というのは歴史も実績も規模も桁外れで、別格の扱いを受けているのだそうです。 「うちのクラブが他のクラブより偉い、とかじゃなくてな。 文化、体育、学術研究、そういう枠から外れた場所に存在してるって事なんだよ」 「はあ……」 いまいちよく判っていないアレクでしたが、とりあえず相槌を打っておきました。 それにしても、アデューの言う「応援団」とは、実際どんな組織なのでしょう。 アレクの中の「応援団」というものに対するイメージと、アデューが案内の道すがら語ってくれた「応援団の活動内容」などを擦り合わせてみるにつけ、益々もってアレクには縁遠い世界に思えてきます。 (きっと皆、アデューさんみたいに逞しくて背が高くて熱血で酒豪で豪放磊落で声が大きい猛者ばかりなんだ) はっきり言って自分の様な華奢な男は、其処に座っている事すら出来ないに違いない、と、アレクは半泣きになって、アデューについてきた事を後悔し始めました。 そんなアレクの肩をばんと叩き(お陰で彼は吹っ飛びそうになりました)、「そんな緊張するなよ」と明るく笑っていたアデューでしたが。 不意に、その笑い声がやみました。 「―――――?」 不思議に思ったアレクが咳き込みながらも見上げてみると、彼は前方を見据え、口を引き結んで眉根を寄せています。 「どうしたんですか、アデューさ……」 言いながら彼の見やる方向へと視線を向けたアレクは、思わず「ヒッ」と息を呑み、その場に硬直しました。 見えたのは、檜の表札に墨黒々と書かれた「ヴァニール大學應援團」の文字。 それが掲げられた、閉ざされたドアの所に立つ一人の男――――― 黒い髪に黒い肌、一分の隙も無い詰襟長ラン革靴姿の、身長210はあるのではないかと言うとんでもない偉丈夫。 「…………シュテル」 苦々しいアデューの呟きが聞こえたのかそうでないのか、鋭すぎる面立ちのその男は、黒で固められたその身の内で唯一異彩を放つ、火の様な真紅の眼をこちらに向けています。 暫しの沈黙の後、アデューは彼に言いました。 「……シュテル、お前そんな所で何突っ立ってんだ」 低い声。アレクが聞いた事も無いような、ドスの効いた声です。 それにシュテルという男は、唇の端を歪めて見せました。 「己は己の役目を実行しているのみ。 ふらふらと遊び歩いている貴様にとやかく言われる筋合いは無い」 これまた腹に響くような低い声。……はっきり言って怖すぎます。 周囲に流れる険悪な雰囲気から一刻も早く逃げ出さんと、アレクは回れ右をしましたが。 「はん、遊び歩いてなんていねえよ。新人勧誘してたんだよ、団長に言われた通りな」 アデューの声と共に、その肩をがっしりと掴まれました。逃亡失敗です。 「新人勧誘……?」 「そう、こいつだ」 ぐいと前に押し出されるアレク。シュテルの視線をもろに受け、彼は今にも失神せんばかりに緊張しています。 「貴方は……見学希望者か?」 こんな男に低く言われて、どうして「違います、帰らせて下さい」等と言えるでしょう。アレクは涙目でこくこくと頷きました。 「俺の従弟で、アレクって言うんだ。新一回生さ」 「アレク……」 何か思い当たる節でもあるのか、シュテルは刃物の様な目を微かに眇めました。 が、すぐに元の表情に戻り、 「ようこそ、応援団本部へ。歓迎します」 と、軽く頭を下げました。アレクは、頭を下げられている自分こそが見下ろされているような錯覚に陥り、そのプレッシャーに益々目を潤ませました。 (も、もう、さっさと見学を済ませて、何か理由をつけて帰ろう……) そう、固く固く心に誓うアレクをよそに、アデューは「団長は?」などとシュテルに尋ねています。 「団長は只今お休み中だ。来客があったら起こせと、そう仰られた」 「何、お休み中だと?!」 シュテルの返答に、拳を握り締めるアデュー。 「俺には外回りをさせといて、自分は優雅にお昼寝ぇ?! 許せん!俺が起こしてくる!!」 そう言ってドアに向かいますが、瞬間。 「―――――団長を目覚めさせるのは、このシュテルの役目だ。 貴様は外で待て」 肩で阻まれた上にドアノブに伸ばした手を掴まれ、アデューはぎりぎりと歯軋りしました。 「シュテル……お前、俺に何か恨みでもあるのか」 「『団長のジュース強奪事件』『団長のお召し物を上掛けにして居眠りをしていた事件』『試験の度に団長にノートと勉強会を強請っている事件』『打ち上げの際に酔っ払って団長を押し倒した事件』など、恨みを上げれば切りが無いが」 「どれもお前には直接関係ねえだろ」 「何を言う!!団長は我が命、団長を侮辱するという事はこのシュテルをも侮辱している事に他ならん!! 大体、貴様の様な下品な男が副団長であるという事自体、納得がいかんのだ!!団長の御傍に侍るのはこのシュテルだけで事足りると言うのに!!!」 「何ぃぃ?!手前、好き放題言いやがって!!ちょっと昔から団長の傍に居たからって、いつまでも自分だけが特別だと思うなよ!!俺だってお前みたいな奴が副団長だっていうのには、前から納得がいかなかったんだ!!副団長は俺一人で十分なんだよ!!!」 「……あ、あのー……」 突然罵り合いを始める大の男二人に、アレクはぽかんとするばかり。 為す術も無く其処に立ち尽くし、今にも殴り合いに発展しそうな二人のやり取りを見上げておりましたが。 カタン、とドアの方から響いた小さな異音に、思わず顔を向けました。 よくよく見れば、ドアノブがゆっくりと回っております。中から誰か出てくるのでしょうか。「副団長」二人はそれに気付いた様子も無く、未だぎゃあぎゃあ言い合っております。 (……誰が出てくるんだろう。ひょっとしてさっき言ってた「団長」?) こんなごつい男二人から、どうやら慕われているらしい「団長」なのですから、きっとそれはもう、雲つくような大男に違いありません。そう、きっと、凄い強くて、凄い怖くて、凄いいかつくて…… アレクが自分の想像にガクガク震えながら、徐々に開きゆくドアを凝視しておりますと。 「―――――騒がしいな、何事だ」 細く開いたドアの向こうから、低い――けれど決して野太くない、澄んだ綺麗な声が響きました。 途端。 「!!」 今の今まで小競り合いをしていた副団長達が、慌てて背筋を伸ばして答えました。 「団長、見学者です。アデュー・ウォルサム副団長の従弟で、新一回生のアレク君だそうです」 「俺が連れてきたんだぜ。入団希望だってさ」 「!ちょ、ちょっと、僕はまだ入部するとは……」 「まあまあ」 流石に慌てて否定しようとするアレクに、アデューはにやりと笑いかけます。 「絶対入団したくなるぜ。うちの『団長』を見たらな」 小声で囁かれ、顎でしゃくって見せられた先。 シュテルが恭しく開くドアから、しなやかな仕草で歩み出てきたのは――――― 「ようこそ、ヴァニール大學應援團へ。 私が團長のガルデンだ」 アレクの想像など及びもつかない美青年。 黒の詰襟に銀の髪が映える、ほっそりとして背の高いその青年は、翠の瞳を抱く切れ長の目を眩しそうに細め、薄い唇を微笑ませてそう言いました。 その微笑に、シュテルはうっとりと見とれ、アデューは少し誇らしげに胸を張り、アレクは愕然としています。 ……まさかまさか、こんなごつい男たちの頂点に立つのが、こんな自分より華奢な人物だとは。 驚きに声も出ないアレクを見やり、ガルデンと名乗った美青年は不思議そうに首を傾げます。 「どうした?ええと、アレク…君。具合でも悪いのか?」 「いっ、いいえ!」 慌てて首を振るアレク。それに彼はまた微笑み、 「そうか、良かった」 言いながら、歩み寄ってきました。 そしてアレクの顔をすっと覗き込みます。 「?」 間近に迫る繊細で優美なつくりの面(おもて)に、アレクはどぎまぎとしながら、翠の目を見返しました。 吸い込まれそうな、深い深い瞳。 全てを見通すような、何も見ていないような……そんな不思議な瞳。 ……ふんわりとシャンプーの良い匂いがします。 「………良い目をしているな」 「は?」 少なからずぼうっとしていたアレクは、ガルデンの言葉に我に返りました。 「温和だが芯の強そうな、良い目をしている。 私は君のような目の者が嫌いじゃない」 「―――――」 ガルデンにとっては特にどうという事も無い意味の言葉なのでしょうが、それでも思わず赤面してしまうアレクです。 ついでに言うと、背中に刺さる強烈な嫉妬の視線が痛いです。 団長殿はそんなアレクの様子や副団長達の形相にも気付かず、ぽんとその肩に手を置きました。……しっとりとして柔らかい手。甘手というやつでしょうか。 「では、早速團内を案内しよう。 リーダー部、バトンチアリーダー部、吹奏楽部の三つのパートに分かれているから、何か興味を引くものがあれば、何時でも言って欲しい。詳しく説明させて貰う」 「は、はい」 言われるまま、導かれるままに、団長の後について行くアレク。 その頼りない一歩が、彼のこれからの大学生活を決定付ける事になるのですが…… 今は未だ、誰もそれに気付いていないのでした。 ――――――――――――――――― で、シュテルは旗手(でかい團旗を掲げ持つ人)、アデューは鼓手(拍子もの・歌ものをリードする太鼓を叩く人)、ガルデンは時に下駄に袴に鉢巻・扇子で舞ったりエールを送ったり、そのド迫力に新入団員のアレクがびびったり、ガルデンに一目惚れしたアレクの姉がバトンチアリーダー部に入ったり、その娘がまた素直で明るくてキュートなものだから諸先輩方(カッツェやイオリといったチアの姉さん方)に可愛がられたり、OBに何故かラーサーが居たり、ライバル校があったり、そのライバル校の「カオスティア大學」の應援團々長キルガインとガルデンの間には少なからぬ因縁があったり、ガルデンを狙う男が團の内外どころか大学内外にもやたらと居たり、そんな男の一人が打ち上げの席で不埒な真似をはたらかんとガルデンにやたら酒を勧めたり、その外見に反してザルでウワバミのガルデンはいくら飲んでもけろりとしていたり、酔ったアデューがガルデンを押し倒したり、途端にシュテルが日本刀を抜いてアデューに襲い掛かったり、その隙をついてアレクの姉がガルデンの隣に座ったり、アレクはアレクで酔い潰れた人達の世話でいっぱいいっぱいだったり、同じように世話をしている苦労性の先輩の名前がサルトビと言ったり、吹奏楽部の部長がグラチェスだったり、副部長がヒッテルだったり、そんな應援團の顧問を務めているのがパッフィーだったり。 どうですか。(どうですかって)
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