あのカボチャのランタンは、ハロウィン終了後どうなってしまうのかが何より気になっているTALK-Gです漫画喫茶からこんばんは。 そう、ハロウィンですね、ハロウィン。萌えですね。良いですね。 黒とオレンジを基調にしたキュートなイラストとか描いてみたいですね。 描いてみたかったですよ。 此処はそれを昇華させるべく小話でも。 ――――― *大学教授×女子高生ネタです* 「ただいまー。……ガルデン、まだ帰ってないの? なーんだ」 少々がっかりしながらも、パティは自分の部屋に鞄を放った後、手を洗いに洗面所へと向かった。 ぱたぱたとスリッパを鳴らし、廊下を行く。と、その足音が、キッチンの前でぴたりと止まった。 「……何か良い匂い」 ふんわりと漂ってくる、甘い、香ばしい匂い。 それにつられるようにダイニングキッチンに入ってみると、中央に設えられたテーブルのこれまた中央、真っ白で大きな皿の上に、大きなパイがワンホール丸ごと置いてあった。 「わぁ」 思わず駆け寄り、そのつやつや輝くお菓子を見つめるパティ。 むら無く塗られた卵黄と適度な火の通し方ゆえか、実に実に美しい焼き色のそれからは、パイ生地の香ばしさと、恐らくそのパイ生地の中にたっぷり詰め込まれているであろう果物の甘い香りが、馥郁と漂ってくる。 「アップルパイかも……」 少しシナモンの利いたリンゴの甘煮。とろけるように柔らかくて、それなのに爽やかな歯触りが残っていて。そんな素敵なものをたっぷりと包んだアップルパイは、パティの大好きなお菓子のひとつだ。 が。 「……リンゴだけじゃなさそうなのよね」 パイやリンゴ、シナモンの香りに、ひっそりと加わっている香り。 リンゴよりも更に柔らかくて、ほっこりとした感じの甘い香り。 「何かしら?」 しばらく考えてみるパティだが、どうも思い当たる節が無い。 「………こんな時は」 実際に食べてみるのが一番。 こんな風にワンホールで置いてあるパイを勝手に食べる事に、若干の躊躇いはあったが、そんな事ではこの好奇心は止められない。 そう、好奇心だ、好奇心。中に何が入っているか、それが知りたいだけ。 決してお腹が空いたわけではない。断じて違う。 「ちょっとだけなら良いわよね」 パティはうきうきとナイフを持ってくると、では、と表情を引き締め、パイを小さく……ほんの八分の一程の大きさにカットした。 ざくざく、と小気味良い感触。ほわん、と溢れる湯気。中からとろりと零れそうなリンゴの甘煮。焼きたてのパイでなきゃ味わえない感激。 パティは普段から愛用しているケーキ皿に、急いで八分の一のそれを乗せた。 ……パイの端が少し皿からはみ出しているが、これは別に大きく切り分けすぎたのではない。元のパイが大きかったのだ。 キッチン中に広がる果物と生地とシナモンの香りに、パティはそもそもの「知的好奇心」も忘れ、早速フォークをパイに突き刺した。 「いただきまーす」 三角の先端を口に入れる。と、広がるのは、期待通り、期待以上のリンゴの甘さとパイの香ばしさ、そして――――― 「あ」 パティはようやく、その「リンゴ以外の何か」の正体に気づいた。 かぼちゃだ。 生クリームを加えて丁寧に裏ごしした、カボチャのペースト。 甘煮との二層になった、その上品で優しいほっくりとした甘さが、シナモンの利いたリンゴの甘さと融け合って。 何て魅惑的で、繊細で、懐かしくて、親しみ易い味――――― 気がつくと大きな皿の上のパイは、一欠けらも残さず消えていた。 「何だ、鍵が開いているな」 「この靴は……一足先に帰っておられたとは」 「!!」 気がつけば、玄関の方から声。それも聞こえてくるのは「彼」のものだけではない。 ゆっくりとした足音と共にキッチンに入ってきたのは、此処の家主たるガルデンと、見上げるような黒い偉丈夫…… 「……シュテル!」 「お久し振りです、パティ嬢」 鋭い面立ちのその男は、火のような紅い目を伏せ、慇懃に礼をした。 引き締まったその仕草、頭を下げられている側こそ背筋が伸びてしまいそうな折り目の正しさだが、両手に近所のスーパーの買い物袋を下げている所為で少し可笑しなものがある。 「い、一体どうしたの?シュテルがこっちの方に来るなんて……」 「いえ、ガルデン様に少々お話が御座いまして、不躾ながらお邪魔させて頂いたのですが」 「折角だから少しゆっくりしていって貰おうと思ってな。 ……で、パティ」 同じくスーパーの袋を床に下ろしながら、ガルデンが微笑む。 「制服も脱がずにそんな所で、一体何をしているのだ?」 「!」 素通しの奥の翠眼が一瞬きらりと光ったのに、パティは持っていた皿とフォークを慌てて背に隠した。 「あ、あの、その」 えへへ、と引き攣った笑いを浮かべてみるが、どうも誤魔化しきれていないようだ。 「其処にはパイが一皿、置いてあった筈なのだがな」 「な、何の事?」 「知らないか?」 「知らないわ」 「そうか」 ガルデンは眼鏡をくい、と上げると、少し考えるようにして呟いた。 「何処へ行ってしまったのだろうか……あのブルーベリーパイは……」 「ブルーベリー?嘘!リンゴとカボチャのパイだったわよ」 思わず声を上げるパティ。 ……しまったと口を押さえてももう遅い。 「やっぱりお前か!!!」 「あーん、ごめんなさい〜〜!!」 「つまみ食いだけならともかく、嘘をつくとは何事だ!!」 「だって、叱られると思ったんだもん!」 「当然だ!それに、着替えもせずにこんな所で立ったまま……行儀の悪い!!」 「き、キッチンの前通りかかったら、すごく良い匂いがして、それでつい……」 「……手は洗ったのか?」 「あ」 「………パティ………」 「あっ、あの、そのっ」 「今すぐ洗って来い!!!」 「はっ、はいい!!」 その後、見兼ねたシュテルが止めに入るまでに落ちた雷の数は、二度、三度ではなかったという。 ・ ・ ・ 「……結局あのパイは、御近所さんにお裾分けする分だったのね」 「そうだ。お前のクラスメートやアレクらにもな」 「ごめんなさい……」 「いえ、あの程度のパイ、焼き直せば済むことです」 「……シュテルが作ったの?」 「はい」 「本当にごめんね、折角作ってくれたのに」 「いえ……大した事ではないのです。あの程度ならば、片手間で出来ます故」 「……また焼いてくれる?」 「ええ、勿論」 「じゃあ今度は、ブルーベリーやポテトやバナナキャラメルパイも!」 「……レモンパイやマロンパイも作りましょう」 「……シュテル」 「は、ガルデン様……失礼致しました、差し出た真似を……」 「……私は甘いものが食えんから、ミートパイも作ってくれ」 「………畏まりました」 ――――― 済みません、全然ハロウィンと関係ない話になってしまいました。 でもきっとパティやアデューって、パイとか大好きだと思うのです。 ガルデンも小さい頃は、御母堂やシュテル(?)に作って貰っていたと思うのです。 カボチャとかリンゴとかワイルドベリーとかの素朴な甘いパイを。 そしてそれが過ぎ去りし日の幸せな思い出となっているのです。 ――――― <余談> 「………シュテル」 「何でしょうか、御館様」 「お前、何だか甘い匂いがしないか?バニラや卵やミルクの……」 「……実は、ガルデン様の御宅に御邪魔している間、何度となくパイやらケーキやらを作っておりまして……」 「何と……フフ、さぞやあの子と姫君も喜んでいたであろう」 「己の様な者の作る拙い菓子に、ああまでも賛辞を与えて下さり……恐縮し通しで御座いました」 「そう謙遜するなシュテルよ。……で、私が伝えておいてくれ、と頼んだ事は、あの子の耳に入ったのかな」 「…………」 「…………」 「……行って参ります」 「土産はいつもの酒で良いからな」
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