TOM's Diary
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2013年07月31日(水) 原爆考



明日から8月である。6日には広島、9日には長崎の原爆記念日である。
過去の原爆については、少なくとも国内では、これまでも議論されてきているし、これからも様々な議論がされるであろう。特にこの原爆記念日の前後になるとその議論は活発化する。
ところで原爆とはなんなのか、あらためて考えてみたい。

原爆と言うのは、ウランやプルトニウムを用いた破壊力の大きい爆弾である。
通常の爆弾と分けて考えられているのは、爆発の原理が全く異なるからだ。

理屈から言うとウランやプルトニウムの放射性同位体を核分裂させることで巨大なエネルギーに転換する。それだけで言えば原子力発電所と同じように聞こえるが、原子力発電所で使われる核燃料と、原爆の核燃料には大きな違いがある。

原子番号92のウランであれば、陽子の数が92個、中性子が146個で質量数は238である。しかし、中性子の数が3つ少ない質量数235のウランが天然ウランには0.7%含まれている。このウラン235に中性子をぶつけると中性子が吸収され原子核が不安定になり、核分裂を起こすことになる。
このウラン235の割合を人為的に増やす、つまり濃縮したものが原子力発電所の燃料となる。原子力発電所ではウラン235の割合を2〜5%程度まで濃縮したものが一般的に使われている。20%以下の濃縮ウランを低濃縮ウランと言う。

一方で、原爆に使われるウランはさらに濃縮度を高めてある。いわゆる高濃縮ウランである。
ウラン235の濃度が70%以上のものが一か所に集まると自然に核爆発を引き起こす。一般には90%以上に濃縮したものが核爆弾に使用される。ただし、臨界質量を越えなければ爆発は起こさないため原爆に利用させる場合は臨界質量以下の濃縮ウランを幾つかに分け、爆発させる際には通常火薬などで一か所に濃縮ウランを集めてやることで自然に核爆発が起こると言う仕組みになっている。

つまり、原子力発電所で使われている核燃料が核爆発を起こすことはありえない。だからと言って安全と言う意味ではないが、爆発は起こさないと言う意味では安全性が高い燃料だと言える。

(注)天然ウランのままでも中性子を当てればウラン235は核分裂を起こすことが出来るため、核燃料とすることは可能であり、黒鉛チャンネル炉や重水炉などでは天然ウランがそのまま核燃料として利用される。しかし、連鎖反応の起こりやすさや原子炉の構造の問題、制御のしやすさなどから濃縮ウランが使われることが多い。福島第一原発のような軽水炉で使われているのは、この低濃縮ウランである。

同じ原爆にはプルトニウム型と言うのもある。
プルトニウムは原子番号94、陽子数94、中性子数135、質量数239の物質である。これはほとんど自然界には存在しないが、原子力発電所のウラン燃料を燃やした後の副産物として得ることが出来る。つまり、排気ガスのようなものだが、これを燃料としてエネルギーを得ることも出来る。早い話安いコストで発電が出来るわけだ。これを燃料として発電することをプルサーマルと呼ぶ。

プルトニウムをクルマの排気ガスと同列に語るのはどうかと思われるかも知れないが、クルマの排気ガスにはNOXと呼ばれる窒素酸化物が含まれていて公害の原因となっているが、プルサーマルに使われるウランとプルトニウムの混合物をMOX燃料と呼ぶ。これは、なにか因縁めいたものを感じないだろうか。

話を戻して、プルトニウムは当然原爆の燃料にも使われる。
実際に広島に投下された原爆はウラン燃料であったが、長崎に投下されたものはプルトニウム燃料であった。

今、世界中で新たに原爆を開発しようとしている国がたくさんあるが、多くはウラン型の開発をしているようだ。プルトニウム燃料は濃縮などの手間がかからず、コストが安いのだが、プルトニウムは放射線を出すため扱いが非常に難しい。そのため、ウラン型の原爆の方が手を付けやすいと言う事情もあるのだろう。


同列のものとして考えられるものには水爆(水素爆弾)と言うものもある。
こちらは核分裂ではなく核融合を利用した原子爆弾(核兵器)のことであり、同じ核兵器でも、原爆とは原理が違う。原爆と水爆を合わせて原水爆と呼ばれることもある。
水爆の詳細な原理には触れないでおくが、起爆装置に原爆を用い、発生した熱と圧力を利用して水素の核融合を起こさせるものである。

余談であるが、起爆装置の原爆を使わない純粋水爆と言うものも開発中と言われている。これは、原爆を使わないため放射性降下物が少なくクリーンな核兵器と言われているが未だに開発には至っていないらしい。

また、劣化ウラン弾などと言われるものもある。
これは、核爆発を利用した兵器ではなく、ウランの比重(単位体積当たりの重さ)の高さを利用した砲弾のことである。つまり分類上は熱核兵器でもなく、大量破壊兵器でもないのだが、少しだけ触れておく(なお、あえて核兵器ではなく熱核兵器と書いたのは、核物質を利用した兵器であるため、個人的見解として核兵器の分類から外すことに違和感を感じたためである。また国連では、核兵器、化学兵器、生物兵器などの大量破壊兵器と同列の「無差別的な効果のある兵器」としてクラスター爆弾や、ナパームとともに劣化ウラン弾を分類するような動きがあるそうだ)。
原子力発電所で燃やした濃縮ウランを作る過程で出てきた、ウラン235の濃度が天然ウランよりも低いウラン(劣化ウラン)を砲弾に利用することで、戦車や分厚いコンクリートで出来た要塞などへの貫通性が高いことから利用されている。
この劣化ウランは低レベル放射性物質であることも問題でもあるが、それよりも化学的毒性のある重金属であることが大きな問題とされている。


さて、これらの核兵器の大きな問題は、その破壊力のすさまじさもさることながら、放射性物質をバラまいてしまうと言う点に尽きると言うことである。
攻撃を受けたその場だけでなく、被爆後しばらくしてから影響が出てきたり、被爆した人の子孫代々に渡り影響を与えかねない核兵器は、非人道的であるとしか言いようがない。特に天然の放射性物質と違い、人工的な放射性物質は、生物の体内で排泄される仕組みがないため体内に蓄積されやすいと言う説もある。
放射線については過去にも触れているので詳しくは述べないが、福島第一原発の惨状を見ればその恐ろしさは身を持って知ることが出来る。


「原爆を許すまじ」と言う曲がある。
そのなかにこんな歌詞がある。
「三度許すまじ原爆を」
1〜4番まですべてにこの歌詞が入っている。

ここにある原爆は原水爆と読み取っても良いだろう。
原発事故も含めても良いかもしれない。

「三度許すまじ原爆を」である。
許してはならないのである。



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