TOM's Diary
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2004年07月21日(水) 火星旅行その1

S氏は商店街の福引で1等を当てた。
ペア月旅行の旅だった。

当たり前の話だが、S氏はペアのチケットなど貰っても
使いみちが無い。旅行会社に相談すると、一人なら火星
旅行に変更してもよいと言う。さっそくS氏は休暇を
申請して、火星まで行くことにした。

旅行日当日、成田まで自家用車で行ったS氏は、成田でクルマを
受渡し出来て、挙句に洗車までしてくれて、一ヶ月5000円と
言う、クルマ保管業者に車を預けた。会社の名前を聞くと立派な
会社に見えるが、車を引き取りに来たのはいかにも農家のおっちゃん
という感じで調子が狂ってしまったが、このおっちゃんなら安心
して車を預けられそうな気がした。

空港に入ると、さっそくチェックインだ。
海外旅行などの場合、出発の1、2時間前に行けばよいが、
宇宙旅行の場合は2日前にチェックインしなければならない。
チェックインするとすぐに消毒室に入ることになる。
1時間ほど消毒室内で、雑誌を読んだりテレビを見ていると
ブザーが鳴って、入ったのとは反対側のドアが開いた。

ドアの前には案内ロボットが立っており、S氏をこれから
2日間過ごす部屋に案内される。

部屋に入ると、そこはすでに宇宙船らしい装飾に満たされていた。
この部屋は宇宙へ行く前のメディカルチェックや人間の消毒を
行うための部屋である。空気中には消毒成分が満たされており、
食べる食事も無菌状態でかつ消毒成分が含まれたものになる。
すなわち内蔵からなにからすべてが消毒されるのだ。

つまり宇宙へ余計な微生物などを持ち出し、その微生物が
強力な宇宙線で突然変異し、未知の生物に変化したものを
地上に持ち帰らないための措置である。

もちろんS氏はこっそりとガラスで封印した微生物を
持ち込んだのだがS氏が気がつかぬうちに、強烈なX線消毒で
S氏の持ち込んだ微生物は死滅していた。S氏のような
人物がいることは当局はお見通しなのだ。

さらにここでは、宇宙に出る際に必要な知識を勉強するための
時間でもある。
S氏はさっそく宇宙船シミュレーターを試してみる。もちろん乗客が
宇宙船を操縦することはないのだが、万が一の脱出のために
脱出船の電源の入れ方を覚えておかねばならないのだ。

だが、電源を入れるだけなら、ビデオでも観てもらえばよい。
わざわざシミュレーターなどと大げさなことはしなくてもよい
のだが、大事なお客様に退屈させてはいけないと言うことで、正しく
電源を入れることが出来ると実際に宇宙飛行を疑似体験できる
ように作られている。しかも、毎回違った宇宙空間を飛行する
ことができるので、まず退屈することはない。

もちろんS氏はそれだけでは空き足らず、何度もわざと間違えた
操作をしている内に、手動操縦モードへの切替方法を発見し
手動操縦を楽しんだ。と、言ってもわずか1分足らずで、ロボットが
部屋にやってきて、厳重注意を受けてしまった。

宇宙船シミュレータに飽きたS氏は宇宙遊泳のシミュレータを試す。
宇宙遊泳の練習をするにはまず、宇宙服(実際には水中服)を着る。
そして、部屋に設置されたエアロックに入るとエアロック内の
空気が抜かれる(実際には水が入ってくる)。その状態でスイッチ
を押すと宇宙に出られる(実際には水槽に入る)。
厳密には無重力ではないが、水槽の中で無重力に近い状態を
体験すると言うわけだ。

実際には宇宙遊泳をする機会など限りなくゼロに近いのだが
これも万が一のことを考えてのことだ。
水槽の内側はまるで宇宙空間のような装飾がほどこされて
いて、ほんとうに宇宙遊泳をしているような錯覚を覚える。
エアロックの場所さえもわからなくなる。
しばらく擬似宇宙の光景を楽しんだ後、救難信号灯のスイッチを
正しく押すことができると、エアロックの場所がわかるように
なっており、無事に宇宙空間で救出されることになるわけだ。
もちろん、宇宙服を着たままでストローから宇宙食を食べる
練習もできるようになっている。

さらに、排泄までも練習できるようになっているが、これを
練習した人は今まで一人もいない。
もちろんS氏は練習した。
だが、S氏は練習したことを後悔した。


その他様々な練習や勉強をしているとあっという間に
2日が経過し、出発時間が迫ってくる。

S氏はロボットに促されて、宇宙船に向かった。


・・・明日へ続く。


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