TOM's Diary
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S氏は駅でぼんやりと電車を待っていた。 普段電車には乗らないS氏であるが、ちょっとした用事で電車に乗ることになったのだ。
ふと視線を横に向けると売店があった。 なにげなく見ていると、みんな勝手に雑誌や新聞やガムを持って行っているように見える。 「もしかして店員が倒れて、その隙にみんな勝手に商品を持って行っているのか?」 よく見てみると先に客がコインを店員の前に置いて商品を持って行っているようだった。 店員はコインの数と商品の値段があっていれば特になにも言わないで、商品の整理をしているようだった。 たまにおつりが必要な客がいると、客がコインをおいて商品に手をふれたとたんにおつりを用意し始め、客が商品を手に取り反対の手を差し出したとたんにおつりが手の上に置かれる。 すばらしいとしか言いようがない。ほんの10秒ほど眺めていただけだったが、その間だけ10人ほどの客をさばいている。
S氏は試しに自分もそこで買い物をしてみようと思った。 客がいなくなった隙を見て売店に近づく。 気になっていた雑誌に手を触れる。 そのとたん、「280円」店員が言う。 S氏は慌てた。お金の準備をしていなかったのだ。 S氏がもたもたしていると次の客が後ろから来て「ちっ!」と舌打ちをされる。 たしかにここにいては邪魔だ。 S氏は慌てて一歩下がる。 するとまた新たな客が次から次へとやってきてせっかくコインが準備出来たのに売店に近づけなくなってしまった。
ようやく客が途切れる。 S氏は雑誌に手を触れる。 「280円」 慌ててコインをおこうとする。 だがどこにおいて良いか判らない。 なにしろ売店の前は雑誌が山積みだ。 いや、よく見ると雑誌の上にコインが置かれていた。 そうか雑誌の上に置けばいいのか。 だが、コインを置くスペースが無い。
店員が隅の方からコインを回収し始めていた。 店員がS氏の方をちらりと向く。 様子を察して手を伸ばした。 その上にS氏はコインを置いた。 後ろの客がS氏のもたもたした様子に「ちっ!」舌打ちをする。 S氏は慌てて一歩下がった。 「ちょっとあんたおつり!」 S氏はもう一度一歩前にでようとすると舌打ちの客にぶつかりそうになる。 「ちっ!」 S氏はおつりの20円を貰おうとしたが、10円を落としてしまった。 「ちっ!」「ちっ!」店員と客のダブルで舌打ちだ。 店員がもう一枚10円コインを取ってS氏に渡そうとしたが、S氏はそのときにはすでに逃げ出したあとだった。
S氏は自分が買った雑誌を見た。 なんと、欲しかった雑誌とまったく違う雑誌を買ってしまっていた。 S氏は翌日から駅の売店で買い物をするのに便利なアイテムの開発をはじめたが完成する前にそんなもの無くても買い物が出来るようになっていた。
困ったのは秘密組織の幹部たちだったが、優秀な工作員を使って開発を続けさせようとしてもS氏は駅売店の店員のワザと買い物をする自分のワザを自慢するだけで上手くいかなかったのだった。
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