Leaflets of the Rikyu Rat
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どこぞの温泉が良いと聞けば母親は弟を連れて湯治に行き、 何某の薬が良いと聞けば高い金額を支払って弟に与えたが、大きな成果の出たものは無かった。 ステロイド剤は副作用が懸念されるため出来る限りは使いたくないと母は溢していたが、 劇的な効果を示すそれを使わざるを得ないこともあった。
東京の環境が悪いのだろうか、空気が良くないのだろうか。 そんな風に母親は呟くようになった。 今となっては、父親が脱サラし、実家のある鹿児島へ戻ったことの、大きな要因の一つであったような気もする。
だが、鹿児島に戻ってからも弟のアトピーはなかなか良くならず、 母親は片っ端から健康食品を買ってくるようになった。 それらも決して大きな効果は上げなかった。 しかし、ある時点から弟のそれは回復に向かって行った。 それはどれだけ回ったか分からない、最後の医者の助言によるものだった。
「痒いときは、我慢なんてしないで掻きたいだけ掻きなさい」
僕の目には、これまでも掻きたいだけ掻いていたように見えたのだけれど、違ったらしい。 眠っているときなどは制御が利かなくなっていたせいか無意識にがしがしと掻いていた。 起きている間は我慢と葛藤の末どうしても辛抱できないとき、掻くに至っていたようだ。 そしてその我慢や葛藤が精神的負担やストレスとして身体に影響が出ていたらしい。 弟はボリボリと身体を掻きながら、「すごくラクになった」と言った。
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