僕が小学校4年のときだったろうか。家に初めて電話が 入った。当時としては標準的な時期だったと思う。 黒いダイヤル式の今はほとんど見かけないジリリリン と鳴る普通の電話器だった。
祖父にはもちろん初めての家電話で、本人興味なさそう にしていたが、内心は興味深々だったのだろうと思う。 数日後、電話がなった。
まだ、殆ど電話番号を知らせていなかったので、かかって くるのは家族しかいない。母が電話に出て「もしもし?」 というと、電話の向こうから明らかに祖父の声が聞こえて きた。「どちら様ですか?」これは母の言葉ではない。 電話をかけてきた明らかに声でわかる祖父の言葉であった。
しばらくして、散歩から帰ってきた祖父は何食わぬ顔で 「電話がかかってこんなぁ」とのたまう。 僕は母とこっそり顔を見合わせたのだった。
|