京のいけず日記

もくじ前の日次の日


2006年01月07日(土) 星を眺めた犬 最期の一日 感想その2

「ああ、土方か、あいつは星を眺めている犬みたいな男だったな」
安部公房著の「榎本武揚」の中で、獄中にある榎本が土方をさして言う台詞。
創作には違いないのですが、実際そんな「ろまんち」な男だった気がします。

早春の函館大森浜海岸

早春の函館大森浜海岸



◎ 「新選組!! 土方歳三 最期の一日」 感想 その2 まったり編 ◎


見方、感じ方、考え方は人それぞれ。随分、ひねくれたことも書いていますが、一昨年、NHKが大河ドラマに新選組を取り上げてくれた事、今正月には三谷さんが土方歳三を描いてくれたこと、すごく嬉しかったです。

さて。感情移入できない。どっぷり浸かれない中にあって、今までになく、私がすごく面白いと感じたのは、土方×榎本×大鳥の台詞劇。

さすが三谷さん。緊迫した会話に引き込まれて目が離せない。
無茶なことをいえば、律儀に織り込んだ数々のエピソードや、回想よりも、ドラマのほとんどをそのシーンに費やしてもよかったと思う。

どんなになりきろうとも本人にはなれない。
本物の土方歳三がどういう心中であったのか、誰も分からない。
生きようとして死んでいったのか。死を覚悟しての闘いだったのか。
どれもこれも、どんな思いも、今はすべて推察に過ぎない。

それでも本人に会えるのなら、ぶつけたい。
あんたは何のために戦ったんだと。何で死んでいかなきゃいけなかったんだと。

同じ時代に生きた人に会えるのなら、ぶつけたい。
土方歳三とはどんな男だったのか。と。

三谷さんの土方や、榎本は、それを代わりにぶつけさせてくれた。
山本耕史さんの土方は、素の自身の言葉で向かっていってくれた。

すごく感謝している。

ただ90分のドラマとしては、「生きるために戦うんだ」という土方の言葉に、榎本が降伏をひっくり返してしまうのは、逆に榎本の覚悟がその程度のものだったのかと首を傾げる。

死ぬ戦いから一転して生きるための戦いに転じる土方にしても同じ。
ろまんち、という言葉は素敵だけれど。

討論している時とは逆で、こういう場面では喋り過ぎ…なのかな。
二人でくすぐったいことやってろよ、てな。

榎本が皆の前で降伏を告げ、不服とする兵達に迫られ、呆然とする榎本や、悄然とする大鳥の姿を見る土方の表情が映ったけれど。

その山本さんの視線だけでも、ラストシーンの「あんたは生き残って夢を実現するんだ」に通じるんじゃないかな。もっとも、そうなると降伏を決めた中、土方が兵を出す説明が必要になってくるんだけど。

三谷さんは、きっと土方が最後まで生きることをあきらめずにいた、と。
そこを描きたかったんでしょうか。

そうであってほしいと願ったり…。
あれだけの人の命をその手で奪い、仲間をことごとく失った人が、感傷的な句を詠む男が、新しくやってくる時代に希望を持っただろうか、とも思ったり…。

なんの。
ただ一生懸命に生きて、当たり前に死んでいったんだと。
そういうことかいなぁ。歳三さん。


ところで、意外に良かったのが、実は大鳥圭介でした。
この大鳥さん、しみったれで、軽くて、コミカルで…、かっこ悪いんだけど。
土方の死後、ジオラマをひっくり返すシーンには胸が痛かった。
お芝居や役者さんのことはあまり分からないんだけど、好きかも。
本人の写真とも似ているような…。

しっかし、この大鳥に対しては、この土方、めちゃ子どもでしたね。

実際、不仲説だの、いろいろと書かれていますが、一方的に土方の方が人物が上(ありえなさそう…)だったとか、そんなことはないと思います。

「君と大鳥は愉快だね」(笑)の場面を求めて、いろんなもの読んでいきたいな。


Sako