京のいけず日記
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「若かりし頃のタミオ」
昔話の中の父の落書き。ちょっと、…どころか、かなり美形になった。 父を描こうと思ったのは○十年目にして初めて。歳三さんじゃないよ。
今年は落ち着かない年になりそうだ。
病室で皺だらけの母の顔を見ていると、大切なことにふと気がついた。 私は母のことも…。父のことも…。 単なる憧れである歳三さん以上に何も知らない。
まだ間にあう。母はまだそこに居る。
ふだんは実家へは寄り付きもしなかった兄が顔を見せる。 日頃、疎遠の者が顔を寄せる。みんながみんな優しくなる。 抱えきれない不安をみんなで分け合う。
そういう時でしか、みんなと会えないのなら。 私は、ひとりぼっちでいい。 優しくなんかなくたっていい。独りで薄情に生きてやる。
…気の弱い、逃げるところは、父親似だな。
病院から実家へ戻り、家の中に父子ふたり。 ダンナの迎えが来るまで、家の娘達のように、父と母の昔話をせがんだ。
今ではすっかり気が優しくなった父も、 若い頃は相当無茶をしたらしい。
瀬戸内海に浮かぶ島で三人兄弟の長男に生まれて、 祖父と派手に喧嘩をし、島を飛び出した。
幼い頃、ちらっと見たことがある。 祖父の肩から腕にかけては見事な刺青があった。 記憶違いかと父に聞いたら、確かにあったようだ。
刺青…。でも、昔は今と違い、色々と事情があった時代だ。 エキサイティングなパワフルな時代と憧れるのは しょせん、戦争を知らない世代だからか。
祖父は夏休みに遊びに来ている孫に見せまいと、 真夏でも七分袖をはおり隠していた。
思い出すのは砂浜で拾い集めた桜貝、 向いの小さな島へ、祖父が漕ぐ小さな舟で釣りに出たこと。 そんな記憶だけがまばらに残っている。
孫には優しい、おじいちゃんも、 土木関係の手配をする、やり手だったらしい。 その気丈な、父にしては巨大であったろう、祖父と 終戦後、南方から帰ってきた父は衝突し、勘当同然、島を飛び出した。 そして、その後で、母と知り合ったらしい。
父とはまったく性格の違う、真面目で、律儀な弟(叔父さん) 島での弟の結婚は大いに祝福され、兄貴として面白くなかったこと。 それでも父を頼って、島を出てきた弟夫婦の面倒を見たこと。
そんな昔話を懐かしむように父は話した。 どれほどの人生だったんだろう。今の父からは想像できない。
「親父と喧嘩しなければ、きっと、今とは違った人生送ってるな」
と、はにかむように笑う。
それは、あかん。あかんで、お父ちゃん。 例え、それが不本意だったとしても。 母と知り会わなければ、私も、兄も、姉も、この世に生まれていない。
私が生まれていなければ、うちの娘達も存在しない。
歳三さん達の時代がなければ 明治生まれだった祖父も、祖母も、この世にいなかったかもしれない。
みんな、つながっている。
話が聞きたい。声が聞きたい。遅すぎはしない。
Sako
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