井口健二のOn the Production
筆者についてはこちらをご覧下さい。

2024年10月27日(日) パリ・オペラ座「白鳥の湖」IMAX、いもうとの時間、イマジナリー

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『パリ・オペラ座「白鳥の湖」IMAX』
    “Swan Lake/Le Lac des cygnes Filmd for IMAX”
ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー作曲によるバレエ
の最高峰ともされる演目を、ルドルフ・ヌレエフ振付を基に
2024年6月パリ・オペラ座で再演。その舞台をIMAX社が独自
に撮影した作品。
僕はバレエの公演を生では観たことも無い門外漢だが、この
名作に関しては2011年1月紹介『ブラック・スワン』などで
も聞き及んでおり、演目の様々な見どころなども知識として
は持っていたものだ。
そのせいもあってなのかスクリーンでの上映が始まりIMAXの
ロゴが終わった辺りからワクワク感と共に緊張が高まり、か
なり興奮もしてきていた。これがIMAXの臨場感ということな
のかな。そんな感覚を久しぶりに味わえた。
ストーリーは一般に知られた通りのもので、成人と妃選びの
祝宴を翌日に控えたジークフリート王子が悪魔の呪いで白鳥
に姿を変えられたオデット姫と出会い、呪いを解こうとする
が悪魔に妨害される…というもの。
そこにパロディでも有名になった4羽の白鳥の踊りや壮絶な
黒鳥の踊りなど様々な見せ場が挿入され、全体的には華麗な
群舞で物語が綴られて行く。それをヌレエフの高さのある壮
大な振り付けで演じているものだ。

出演は、2011年パリ・オペラ座バレエ団に加入、2021年6月
に同バレエ団でアジア人として初のエトワールに任命された
というパク・セウン。他にポール・マルク、パブロ・レガサ
ら総勢 150名とされる団員が舞台を彩る。
監督は2018年に『ボリショイ・バレエ in シネマ「コッペリ
ア」』も手掛けたイザベル・ジュリアンが担当した。
作品は、巻頭からジークフリート王子の横顔アップで入るな
ど映画的な演出も観られるが、全体的には客席からの視点を
一階席から上階席まで巧みに切り替えて、臨場感をそのまま
に観たいものを見せてくれる構成になっている。
そんな中での極め付きは天井カメラによる群舞や煙霧の演出
などの映像。これは客席からは絶対に観ることのできないも
のだが、正しく映像美に溢れたもので監督はこれを見せたか
ったのだろうと納得の映像だった。
そしてそれらがIMAXの大場面に展開される。因に画面の縦横
比はIMAX ratioとされているもので、IMAXスクリーンの全域
にフルサイズで投影されるものだ。

公開は11月8日より、全国のIMAXスクリーンで7日間限定の
ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社東宝東和の招待で試写を観て投
稿するものです。

『いもうとの時間』
2024年9月に紹介した『拳と祈り−袴田巌の生涯−』に続く
日本の裁判所と警察・検察の闇を描いたドキュメンタリー。
本作の背景となる「名張毒ぶどう酒事件」に関しては2019年
1月13日付題名紹介『眠る村』でも報告しているが、今回も
また東海テレビ放送が新たな取材も含めて再検証を行ってい
るものだ。
因にこの事件を扱った東海テレビ製作のドキュメンタリーは
2012年『毒とひまわり』に始まって4作目となるが、第2作
の2016年『ふたりの死刑囚』では袴田巌死刑囚(当時)も共に
描かれ、その袴田氏には2024年10月無罪判決が確定した。
それに対して本事件では、「袴田事件」と同様に証拠とされ
る物品の捏造が指摘されているのだが、その科学的な鑑定は
全て無視され再審の道は開かれない。そして時間だけが空し
く過ぎて行く。

監督は第2作以降の3作を手掛ける鎌田麗香。ナレーション
は第1作から一貫して仲代達矢が務めている。なお仲代はそ
の間に事件を題材にした2013年1月紹介『約束』に主演もし
ている。
確か『ふたりの死刑囚』では名古屋高裁と名古屋高検の癒着
というかなれ合いぶりが指摘され、『眠る村』では一歩踏み
込んで事件の真犯人の追及が行われていたと思うが、本作で
はそれらの再考はせず、過ぎて行く時間が描かれる。
なお作中では無罪判決が確定した袴田氏のその後の様子も描
かれ、それは2024年9月紹介作では描かれなかった部分を補
完しているものだが、本件の死刑囚はすでに死去しており、
無罪となってもその喜びは描けない。
しかも本件では2024年1月に最高裁で特別抗告が棄却され、
死去した死刑囚本人に替わって唯一再審請求が可能な肉親で
ある妹もすでに94歳。その時間の限られていることが現実と
して描かれる。それは何とも言えない感覚だった。
冤罪は誰の身にも突然降りかかる可能性のあるものだし、い
ざ罪人となったら警察・検察が証拠を捏造してまでその罪を
押し付けてくる。そんな日本の現実が明確に描かれた作品と
言えるものだ。

公開は2025年1月4日より、東京地区はヒューマントラスト
シネマ有楽町、ポレポレ東中野他にて全国順次ロードショウ
となる。
なおこの紹介文は、配給協力ポレポレ東中野の招待で試写を
観て投稿するものです。

『イマジナリー』“Imaginary”
2023年4月紹介『ミーガン/M∃GAN』や2024年2月紹介
『ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ』など、上質の
ホラー映画を提供し続けているブラムハウス社が新たに公開
したホラー作品。
登場するのは絵本作家の女性とその夫、それに夫の連れ子の
2人の娘がいる4人家族。そんな家族が作家が幼い頃に暮ら
していた家に引っ越してくる。しかし作家自身は幼い頃にそ
の家を離れており、しかもその頃の記憶は曖昧だった。
それでも広い家に喜ぶ娘たちだったが…。幼い末娘が地下室
で古びたクマのぬいぐるみを見付けたことから事態が動き出
す。そのぬいぐるみは彼女の想像上の遊び友達となり、無邪
気な遊びを繰り広げるが、それが邪悪な色を持ち始める。

出演は、製作総指揮も兼ねる2022年『ジュラシック・ワール
ド 新たなる支配者』などのディワンダ・ワイズと、子役の
パイパー・ブラウン。他にテーゲン・バーンズ、トム・ペイ
ンらが脇を固めている。
さらに1976年版の映画『キャリー』で主人公を理解しようと
する女性教師を演じていたベティ・バックリーが、本作でも
キーとなる役柄で登場している。
脚本は2009年にディズニーで『プリンセスと魔法のキス』の
原案などを手掛けたグレッグ・アーブとジェイソン・オレム
ランド。そのオリジナルから2014年7月紹介『フライト・ゲ
ーム』で企画・総指揮などのジェフ・ワドロウが脚本・監督
・製作した。
タイトルからはイマジナリーフレンドを予想させるし、作中
でもそこへの言及は頻繁になされるが、そこからの意外な展
開に嬉しくなった。この辺のアイデアの勝利とも言えそうな
作品だ。
ただまあその展開自体は最近の流行りのような気もするが、
そんな部分も含めてブラムハウス社作品の先見というか、マ
ニア=ファンの心を捉える戦略みたいなものも感じさせてく
れる。安心して観ていられる作品だ。
しかも本作では、ホラー映画の定番であるコケ脅かしを極力
排除して、心理的にジワジワと迫る恐怖や想像力が痛みなど
を掻き立てる描写で、従来のホラーの在り方とは違う方向性
も試みている。それがまた上手い。
いずれにしてもブラムハウス社作品からは今後も目を離せな
いということだ。

公開は11月8日より、全国ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社東宝東和の招待で試写を観て投
稿するものです。
        *         *
 なお次週は試写を観る予定がないので、次回の更新は再来
週となります。


 < 過去  INDEX  未来 >


井口健二