井口健二のOn the Production
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2024年10月20日(日) 35年目のラブレター、追悼:西田敏行氏

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
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『35年目のラブレター』
家庭の貧困などで教育を受けず社会に出た男性が、定年後に
夜間中学で勉強して、長年連れ添った妻に自筆のラブレター
を贈ったという実話の映画化。
主人公の西畑保氏は1936年生まれ、和歌山県の山間部の炭焼
き小屋で育ち、貧困に起因する苛めのために小学校2年生か
ら不登校、このため読み書きはほとんどできなかった。そし
て10代前半から主に飲食店働き始めるが、そこでも字が読め
ないことで不遇な生活を余儀なくされる。
しかし一軒のすし屋の店主がその状況を見越した上で雇い入
れ、以後はすし職人一筋で人生を歩んエ行く。そして見合い
結婚もするが、そこでも読み書きができないことは隠してい
た。それがあるとき発覚することになる。それでも家庭を築
きあげた主人公が次に目指したのは…。

監督と脚本は、妻がニュースで観た実話に感動し、自ら企画
を立ち上げたという2019年4月7日付題名紹介『今日も嫌が
らせ弁当』や2017年12月紹介『レオン』などの塚本連平。
出演は笑福亭鶴瓶、原田知世、重岡大毅、上白石萌音、徳永
えり、ぎぃ子、辻󠄀本祐樹、本多力、江口のりこ、くわばたり
え。そして笹野高史、安田顕らが脇を固めている。
インターネットなどで調べてみると、映画のストーリーがほ
ぼ実話のままで、ほとんど脚色されていないことに驚かされ
た。これは実はに感動した監督自身が脚本も手掛けたことに
よる賜物だろう。
それは下手に第三者(他の脚本家)の目を入れなかったことに
もよるが、この物語に脚色の必要がないことは監督が一番判
っていたことなのだろう。それでもしっかりとドラマティッ
クな展開なのだから、その構成力にも感心した。
それに俳優たちの上手いこと。それにはいやはや見事に泣か
されてしまった。ドキュメンタリーからのドラマ化はいろい
ろあるけれど、僕は多分こういう実話の映画化を待望してい
たものだ。
1936年(昭和11年)生まれの人は知人にもいるけれど、正しく
戦前、戦中、戦後の激動の時代を生き抜いてきた訳で、そう
いう人たちの物語を今の時代に正しく伝えて欲しいものだ。
それが昭和世代の使命のようにも感じる。
でもまあこの映画は普通に感動できる作品だから、涙を流し
たいときに観るには最適な映画と言えそうだ。

公開は2025年3月7日より、全国ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社東映の招待で試写を観て投稿す
るものです。
        *         *
追悼:西田敏行氏
西田敏行氏の訃報に接した。
僕は特に故人と知り合いだった訳ではないが、実は一度だけ
故人が出席した酒宴に同席したことがある。
それはもう40年以上も前のことになるが、SF作家クラブの
パーティの流れで豊田有恒氏の奥さんから四谷で行われる二
次会に誘われた。そこにはテレビ出演後のタモリ氏も来ると
いうことで僕は迷わずお供することにした。
その会場には筒井康隆氏や矢野徹氏、それに山下洋輔トリオ
などもいて、そこにタモリ氏とテレビで一緒だったという西
田敏行氏がやってきた。そこからの饗宴は、後日、西田氏が
タモリ氏の番組で、「あれは本当に楽しかった。またあんな
会に参加したい」と述懐していたくらいのものだ。
それは『エイリアン』をモティーフに、最後に生き残ったパ
イロットがウナギが食べたいと思い付き、爆発までのカウン
トダウンが続く中でドタバタを繰り広げるというもの。それ
をアドリブの応酬で止め処なく続ける2人の、正しく至芸を
堪能した思いが今でも鮮明に記憶されている。
その後に「また」の会があったかどうかは知らないが、芸能
人と呼ばれる人が次々亡くなる中で、そんな思い出を残して
くれた西田氏に感謝だし、心からの冥福を祈るものだ。本当
にお疲れさまでした。
なおこの時、僕はバーカウンターのスツールを回して、少し
高みからから観ていたのだが、そんな僕の隣に後から1人の
客が座った。その客は常連らしく、カウンターにいたママか
ら「あら三木先生」と声を掛けられ、見ると三木のり平氏が
そこに座っていた。
そしてママからは「同席されてはいかがですか」などと促さ
れていたが、そこは「いやぁ」などといって固辞され、暫く
して席を立たれたが、それまでは無言で2人の芸に聞き入っ
ている感じではあった。
三木氏もすでに故人だが、あの世でそんな話でもしていたら
面白いだろうな。そんな記憶も甦ってきた。     合掌


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井口健二