井口健二のOn the Production
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2024年06月23日(日) サユリ、至福のレストラン 三ツ星トロワグロ、ジョン・ガリアーノ世界一愚かな天才デザイナー

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
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『サユリ』
発行累計20万部を超えているとされる押切蓮介原作ホラー漫
画を、2013年11月紹介『バイロケーション』などの安里麻里
と2015年5月紹介『戦慄怪奇ファイル超コワすぎ!』などの
白石晃士の共同脚本、白石監督で映画化した作品。
物語の舞台は住宅地に建つ戸建ての家。土地の斜面を利用し
た家は2階が玄関になっているようで、玄関から見下ろして
リヴィングがあるなどちょっと不思議な構造だ。そしてその
家には夫婦と2人の娘が住んでいた。
ところが上の娘は引き籠りになっており、部屋の前まで食事
を持ってきた母親が掛ける言葉にも激しい態度で応答するな
ど、家庭内暴力も思わせる状況になっている。そしてその家
で惨劇が起きてしまう。
それから数年後、何事も無かったかのように見えるその家に
主人公らの一家が引っ越してくる。そこは父親が頑張って手
に入れたマイホームで、今までは別居だった父方の祖父母も
同居することになるが…。
少し霊感の在りそうな弟が最初に異変に気付き、さらに主人
公は学校で別のクラスの女子から急に声を掛けられ、何か悪
いことが起こりそうだと告げられる。そしてその悪いことが
現実になって行く。

出演は2020年3月29日付題名紹介『燕 Yan』に出ていたとい
う南出凌嘉と、2022年のTVドラマ『金田一少年の事件簿』
で1話に出演の近藤華。そして根岸季衣。他に梶原善、占部
房子、きたろう。
さらに2017年11月5日付「東京国際映画祭」で紹介『アイス
と雨音』が主演デビューという森田想、2022年のTVドラマ
『ミステリと言う勿れ』で1話に出演の猪股怜生らが脇を固
めている。
家に憑りついた霊が後から入ってきた家族に悪行を働くとい
うのは、Jホラーでは定番中の定番と言う感じもするが、さ
すが安里麻里と白石晃士の顔合わせでは一癖もふた癖もある
作品に仕上げてきた。
それがホラー好きにも楽しめる展開になっているのは、見事
と言える。特に前半のしっかりと恐怖を描いた展開からの後
半の転換は、いやはやホラーを知り尽くした監督たちの至芸
と言える作品だろう。
新しいJホラーの開幕とも言えるかもしれない。ただ大元の
切っ掛けの話は敢えて無くても良かったような気もするが。

公開は8月より、全国ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社ショウゲートの招待で試写を観
て投稿するものです。

『至福のレストラン 三ツ星トロワグロ』
          “Menus-plaisirs - Les Troisgros”
2019年3月17日付題名紹介『ニューヨーク公共図書館』など
のフレデリック・ワイズマン監督が、フランスの三ツ星レス
トラン、トロワグロを撮った上映時間4時間途中休憩なしの
ドキュメンタリー。
ワイズマン監督のドキュメンタリーはいわゆる観察タイプで
ナレーションなども入らず、じっくり対象に対峙するもの。
でも4時間の長丁場を飽きさせず、画面を見続けられるのだ
から、それは被写体の選び方なのか編集の上手さなのか。
映像のメインはトロワグロ一家が2017年にオープンしたレス
トランの厨房及び食堂で撮影されているが、その間には酪農
家やブドウ園、チーズ製造所などを訪ねるシーンも挿入され
ており、全体でシェフが追及する「食」が描かれている。
それは以前に紹介した『ニューヨーク公共図書館』でも図書
館が行う様々な取り組みを紹介したのに通じているが、本作
では比較的3代目シェフとされるミッシェル・トロワグロが
中心に置かれており、その辺はちょっと趣向が違うかな。
でもまあそれらがすべて観察の範疇で繰り広げられるのは、
ワイズマン監督の真骨頂と言える作品だろう。「食」に関す
るいろいろな知見も得られるし、観ていてためになる作品と
言えるものだ。
それに日本人としては映画の始めの方で「活〆」という日本
語が出てきたり、中後半では「紫蘇」が連呼されるなど、観
ていてニヤリとするシーンも散見される作品だった。長丁場
をしっかりと準備して観たい作品だ。
それにしても客の好みからアレルギーまで事細かにチェック
してのメニューの組み立てやそれに関わる準備、接客など、
さすが三ツ星の名に恥じないサーヴィスの在り方もしっかり
と紹介され、これは教科書とも言える。
その一方で、調理法に困ったときには古典的な調理本や調理
の百科事典を参考にするなど、斬新さの中にも伝統を重んじ
る、そんな真摯な姿も描かれている。そんな調理への愛情も
感じさせるドキュメンタリーだ。
とは言え、作中ではヴィンテージワインの値付けに10000€と
いう発言が出てきたり、ちょっと庶民とはかけ離れた世界の
話かな。でもそれが世界なのだし、それを描くのがドキュメ
ンタリー、それを楽しむのも映画鑑賞だ。

公開は8月23日より、東京地区はBunkamura ルシネマ澁谷宮
下、シネスイッチ銀座他にて全国順次ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社セテラ・インターナショナルの
招待で試写を観て投稿するものです。

『ジョン・ガリアーノ世界一愚かな天才デザイナー』
            “High & Low - John Galliano”
美術学校での卒業制作の発表から、瞬く内にディオールにま
で上り詰めた天才デザイナーが舌禍によって凋落。その顛末
に2009年4月紹介『消されたヘッドライン』などのケヴィン
・マクドナルド監督が迫ったドキュメンタリー。
映画はデザイナーが問題発言を放った酒場での映像で始まる
が、そこから溯ってデザイナーの来歴が紹介される。それは
正に華々しいファッション界の寵児と言う感じの映像が展開
されるものだ。
しかしそれが暗転、舌禍は元々は別の男性への全く異なる内
容の発言だったが、その後に冒頭の映像が拡散されて、一気
にデザイナーを追い込んだ。そしてディオールからの解雇な
どの凋落となる。
そんな顛末が丁寧に描かれ、さらにそこからデザイナー本人
へのインタヴューが登場して釈明や謝罪の言葉などが綴られ
て行く。そして3年後の電撃復帰など、正に波乱万丈の展開
となるものだ。
それは観ていてファッションなどに一切関心のない僕にとっ
ても興味が湧いたし、面白い作品に構成されていたものだ。
この辺は数々のヒットドキュメンタリーを手掛けてきた監督
の手腕と言える作品だった。

出演はジョン・ガリアーノ本人に加えて、ケイト・モス、ナ
オミ・キャンベル、ペネロペ・クルスらのモデル、女優。さ
らにディオール社の最高経営責任者のシドニー・トレダノ、
VOGUE 誌編集長のアナ・ウィンターらも登場する。
一方、デザイナーを最初に告発した東洋人の男性も登場する
が、彼はデザイナーが会見で語った謝罪を受け入れて告発を
取り下げようとしていたというのだが…。そこに冒頭の映像
が登場して事態が混乱して行く。
その冒頭の映像でのデザイナーの発言は、それは社会人とし
て愚かしいものであり、全く許されるものではないのだが、
果たして酒飲みが酒の席で放った戯言がそんなにも個人を貶
めてしまうものなのか? その恐ろしさに震撼した。
実際、日本でも2021年の東京五輪開会式に関連してよく似た
ことが起きた訳だが、それに関ったのと同じ団体がこの件に
も関っていたようで、特に最初に告発した東洋人男性の発言
の変化が、事態の恐ろしさを物語っていたものだ。

公開は9月20日より、東京地区は新宿ピカデリー、ヒューマ
ントラストシネマ有楽町他にて全国ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社キノフィルムズの招待で試写を
観て投稿するものです。


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井口健二