井口健二のOn the Production
筆者についてはこちらをご覧下さい。

2024年06月16日(日) ザ・ウォッチャーズ、ぼくが生きてるふたつの世界、心平、箱男

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『ザ・ウォッチャーズ』“The Watchers”
アイルランド西部出身のホラー作家A・M・シャインの原作
小説を、製作を務めるM・ナイト・シャマラン監督の実娘の
イシャナ・ナイト・シャマランが、彼女の長編監督デビュー
として脚色・映画化した作品。
プロローグは暗い森の中を逃走する男性。彼はとある標識を
通り過ぎるが、日没までの期限で森を抜け出そうと走る彼が
辿り着いたのは先程と同じ標識の前だった。そして日が暮れ
てしまう。
物語の主人公はペットショップで働く女性。彼女は妹からの
電話に出ようとせず、過去に何か曰くがあるようだ。そんな
彼女は依頼された1羽のオウムを届けるために車で森を通り
抜けようとする。
ところが乗っていた車が森の中で故障。助けを求めて人影を
追った彼女は、森の中に建つ不思議なコンクリート造りの家
に辿り着く。そこには中年の女性と若くはない女性、それに
少年がいて彼女が入るなり扉が締められる。
そして入った部屋の一面はマジックミラーになっていて昼間
は外を見られるが、日が暮れると外部から何者かに監視され
ているものだった。そんな建物での奇妙な暮らしが始まる。
その外部にいるものとは…。

出演は、2018年6月紹介『500ページの夢の束』などのダ
コタ・ファニング。共演は2014年に英国アカデミー賞TV部
門で主演賞受賞のジョージナ・キャンベル。2012年2月紹介
『きっとここが帰る場所』などのオルウエン・フエレ。
それにアイルランド出身で主に舞台で活躍中のオリヴァー・
フィネガン、同じく舞台俳優で2012年12月紹介『レ・ミゼラ
ブル』に出ていたというアリスター・ブラマーらが脇を固め
ている。
物語はアイルランドの妖精伝説に基づいているそうだが、妖
精と人間との関係など中々興味深いものがある作品だった。
ネタバレになるので詳しくは書けないが、日本の人気アニメ
シリーズに通じるところもあってその辺も面白い。
因に原作者のサイトを調べたら2024年10月に原作小説の続編
が出版されるとのことで、映画の続編・シリーズ化も期待し
たくなるものだ。

公開は6月21日より、全国ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社ワーナー・ブラザース映画の招
待で試写を観て投稿するものです。

『ぼくが生きてる、ふたつの世界』
2014年2月紹介『そこのみにて光輝く』などの呉美保監督が
翌2015年発表の『きみはいい子』以来9年ぶりに監督した長
編映画作品。
主人公はコーダ(CODA:Children of Deaf Adults)と呼ばれる
ろうの両親の許に生まれた健常の子供。そこには障碍者に対
する様々な差別や、そんな環境に自分を生んだ両親への反発
など、通常にはない事態が横たわる。
しかも頑固者の祖父や宗教に傾倒する祖母など本作の主人公
だけに限らない社会的な問題も巻き起こる。そんな環境の中
で故郷を飛び出し、外部の世界に身を晒した中での主人公が
歩み続けた半生が描かれる。

出演は2017年10月紹介『斉木楠雄のΨ難』などの吉沢亮と、
忍足亜希子、今井彰人。他にユースケ・サンタマリア、烏丸
せつこ、でんでんらが脇を固めている。
原作は宮城県塩釜市出身のライター五十嵐大が2021年に発表
した自伝的エッセイ。映画的な脚色はあるが、実話に基づく
作品だ。脚本は、2017年9月17日付題名紹介『あゝ、荒野』
などの港岳彦が担当している。
この題材には、僕の世代だと1961年公開の松山善三監督作品
『名もなく貧しく美しく』が思い浮かんだが、同作で満員の
デッキを挟んだ2つの車両で窓越しに手話で会話するシーン
が、何となく再現されている感じなのは嬉しかった。
まあこのテーマでは誰しもが思い付くシーンなのかもしれな
いが、テーマを際立たせる意味では最高の演出と言えるもの
だろう。そんなシーンを挟みながら、作品ではある種の現代
の縮図を描き切ったとも言える。
それは差別の問題に関して、頭では理解していても何気なく
発してしまう言動など、自分は健常者の身として気付かず行
ってしまったことが取り返しがつかないものであったりもす
る訳で、そんな現実も突き付けられる作品だった。
その一方で手話における方言など、今まで日本語と英語の手
話が異なることは知っていたが、日本国内でもそんな事情が
あるとは考えていなかった。そんな知らなかったことを教え
て貰える作品でもあった。
そして映画全体では普遍的な家族の在り方が示される。そん
な感じもする作品だ。

公開は9月13日から宮城県で先行上映の後、東京地区は9月
20日より新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座他にて全国順次
ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社ギャガの招待で試写を観て投稿
するものです。

『心平、』
1986年生まれ日本映画学校卒業。石井岳龍監督、廣木隆一監
督、青山真治監督らの助監督を務め、2022年に『ダラダラ』
という作品で商業映画デビューした山城達郎監督の第2作。
物語の背景は2014年の福島県。原発事故による避難と帰宅規
制が続く中で人々は生き続けている。そして主人公は軽度の
知的障害を持つ男性。元々は父親と農業をしていたが事故の
影響で続けられず、父親は農地を手放したようだ。
そんな主人公には様々な仕事を斡旋されるが、どれも長くは
続かない。それどころか紹介された仕事の面接に行かなかっ
たりもする。それでも父親は息子に小遣いを与えてそれ以上
の期待は持っていないようだ。
そして息子はその小遣いで、手作り傘を買い集めたりしてい
たが…。そんな主人公の行動がある問題を引き起こす。

出演は、2012年3月紹介『サイタマノラッパー(SR3)/
ロードサイドの逃亡者』が初主演だったという2024年1月紹
介『湖の女たち』などの奥野瑛太。他に監督の前作にも出演
の芦原優愛、2018年5月13日付題名紹介『菊とギロチン』な
どの下元史朗。
さらに河屋秀俊、小林リュージュ、川瀬陽太、影山祐子らが
脇を固めている。
脚本は、2022年8月紹介『さすらいのボンボンキャンディ』
などの竹浪春花。本作は2014年に執筆されて山城監督が気に
入り、長年温存されていた企画が日本芸術振興会の若手映画
監督支援に選出されて実現したものだそうだ。
前の作品に続いて身体と精神の違いはあれど障碍者と社会と
の繋がりを描いた作品だが、実は同じ日に続けて試写を観て
その違いを痛感してしまった。それは2つのテーマの繋がり
が本作では何となくしっくり来なかったのだ。
実際に前の作品は障害者と差別社会という誰が観ても理解の
できる2つのテーマだったが、本作の障碍者と福島の問題は
部外者には容易にその繋がりが理解できるものではない。こ
のため観ていて違和感が拭えなかった。
それは知的障害も重要なテーマだし、原発事故の被害も重要
なテーマだが、作中でその2つを纏める意義が見出せない。
そのため見る側の意識も揺らいでしまう。ただそこに主人公
の活動があって、そこから何か生まれそうな気もするが…。
残念ながら本作はそこまで描き切れていなかった。
若手監督の映画製作で本作にも関わる公的な支援は、公開期
限が定められるなど特に時間的な制約が多いと聞くが、もう
少し時間を掛けてテーマを練り込んで欲しかったとは思って
しまったものだ。

公開は8月17日より、東京地区は新宿K's cinema他にて全国
順次ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社インターフィルムの招待で試写
を観て投稿するものです。

『箱男』
2018年6月紹介『パンク侍、斬られて候』などの石井岳龍監
督が、1993年に他界した原作者の安部公房から唯一生前に映
画化を託されていたという作者代表作の映画化。因にこの映
画化は1997年に一度始動したがクランクイン寸前に頓挫して
おり、今回はそのリベンジとなったものだ。
主人公のカメラマンは頭から腰まで段ボール箱をすっぽりか
ぶって都市を徘徊する箱男を目撃。その存在に興味を持った
主人公は、箱男の心情を探るため自らも段ボール箱を被って
みるが…。
そこに箱男の存在を乗っ取ろうとするニセ医者や、箱男を利
用して完全犯罪を実行しようとようとする元軍医などが登場
し、さらに主人公を誘惑する謎の女も絡んでくる。

出演は1997年時点で主演に決まっていたという永瀬正敏と、
2024年1月紹介『湖の女たち』などの浅野忠信。2人は『パ
ンク侍』にも出演していた。それに数百人のオーディション
で起用が決まったという白本彩奈。
さらに2023年1月紹介『せかいのおきく』などの佐藤浩市。
他に渋川清彦、中村優子、川瀬陽太らが脇を固めている。
脚本は、2017年12月3日付題名紹介『ニワトリ★スター』や
2023年3月紹介『忌怪島/きかいじま』などのいながききよ
たか。なおいながき脚本、石井監督では WOWOW放送の『ネオ
・ウルトラQ』シリーズなどもあるようだ。
安倍公房原作の映画化では、1964年『砂の女』、1966年『他
人の顔』、1968年『燃えつきた地図』などが記憶されるが、
いずれも観念的で判り難かった記憶を持つ。それらに比べる
と本作の展開は解り易いかな。
特に原作展開だと主人公が本物なのか偽物なのかもあやふや
なのだが、本作ではそれなりに明確化されており、その辺も
解り易く感じてしまうところかもしれない。映像にはそうい
う作用もあるものだ。
しかもそれを永瀬、浅野、佐藤といった面々が演技でぶつけ
合うのだから、これは映画として面白いとも言える作品だ。
中でも段ボール箱の覗き穴からの目だけの演技は見ものと言
いたいが、それが解り易いのは少し不満かな?
いずれにしても久しぶりに芸術映画を観たという感じもする
作品だった。

公開は8月23日より、全国ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社ハピネットファントム・スタジ
オの招待で試写を観て投稿するものです。,


 < 過去  INDEX  未来 >


井口健二