井口健二のOn the Production
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2023年08月27日(日) 二十歳に還りたい。、さよならほやマン、北極百貨店のコンシェルジュさん、鯨の骨、カンダハル−突破せよ−

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
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『二十歳に還りたい。』
大川隆法製作総指揮・原作、幸福の科学出版製作によるファ
ンタシー要素の強い作品。
登場するのは功成り名を遂げた老人。しかし苦労の末の成功
では家族関係に恵まれず、介護老人ホームに入居した今では
面会者もほとんどいない。そんな彼の許にはヴォランティア
の女子大生が話し相手に訪れていたが…。
ある日、近くの高台に車椅子を押して登ってきた彼女は「日
没のときに祈ると一つだけ願いが叶う」と彼を促す。そして
彼が願ったのは二十歳に還ること。こうして大学生の身体に
宿った彼は大人の知恵で難題を解決して行く。
しかし彼の願いを叶えた神は、ある試練も彼に課していた。

出演は大川映画で出演や主題歌の歌唱も手掛ける田中宏明、
2012年7月紹介『かぞくのくに』などの津嘉山正種。それに
オーディションで選ばれた三浦理香子。さらに伊良子未來、
永嶋柊吾、上杉祥三らが脇を固めている。
監督は、2022年9月紹介『呪い返し師−塩子誕生』などの赤
羽博が担当した。
まあこの手の転生ものは過去作もいろいろあったと思うが、
ここまで明確に神の介在を謳うのはさすがに宗教団体製作の
映画というところかな。その分余計な説明がないのも良かっ
たところだ。
ただ主人公が転生前の自分に出会わないのは最後に納得でき
たが、ヒロインが同姓同名に気づかないというのはどうなの
かな。この辺はもう少し説明が欲しかった。パラレルワール
ドなのか、それともヒロイン=神なのか。
それに神が課した試練というのが、正直に言って陳腐という
か軽薄かな。それが不可侵なのは宗教としては致し方ないの
だろうが、神の試練というのは本来それを克服することが神
への報恩で、そこを逃げるは冒涜にも思える。
いずれにしても神を道具として使うのではなく、もっと真摯
に向き合った作品を作ってもらいたかったものだ。それが宗
教家としてあるべき姿ではないのかな。思い切り重厚な作品
が観てみたいものだ。
因に製作総指揮・原作の大川隆法師は2023年3月2日に死去
したはずだが、今回試写会で配布されたプレス資料にはその
ことは一切触れられていなかった。ひょっとして今後も作品
が続くことはあるのかな。

公開は9月29日より、全国ロードショウとなる。

『さよならほやマン』
CMディレクターの庄司輝秋監督が、自らの故郷である宮城
県石巻市の離島を舞台に描く長編映画デビュー作。
登場するのは、「東北のハワイ」とも称される島で素潜りに
よる「ほや」漁をする青年。少し障害のある弟と2人暮らし
の青年は、食事は1日1個のカップ麺しか口にしない。そし
て大切な船を借金の担保で取られそうになっている。
そんな2人の暮らす家に髪を青く染めた女性が転がり込んで
くる。実は彼女は弟が好きな漫画の作者で、ある事情で東京
を離れ、その島にやってきたのだが。電波が良いという理由
で上がり込んできた彼女と奇妙な3人生活が始まる。
一方その島での生活に行き詰まりを感じていた青年は、ふと
亡父がやっていた島興しのキャラクター=ほやマンを復活さ
せ、動画のSNSを始めてみるが…。

出演は、2019年8月25日付題名紹介『宮本から君へ』などに
楽曲提供をしているバンド「MOROHA」のMCアフロ。2017年
11月5日付「東京国際映画祭」で紹介『アイスと雨音』では
本人として登場しているが、本格的な主演は初めて。
共演は、NHK朝ドラに主人公の親友役で多く出演している
呉城久美と、2023年後期の朝ドラ『ブギウギ』に主人公の弟
として出演の黒崎煌代。他に津田寛治、松金よね子らが脇を
固めている。
主演のアフロは本格的な演技は初めてのようだが、監督が執
筆した脚本が当て書きだったらしく、正にらしくこの役を演
じている。因にアフロは出演のために小型船舶の免許も取得
し、ロープの結び方もしっかりと学んだそうだ。
物語は3・11を背景にしたものだが、それ以上に行き詰りを
感じる現代の若者に届く話だろう。目標を定めにくい時代、
自分が何をすれば判らない若者たちにそのヒントを与えてく
れるかもしれない作品だ。
最初は単純なご当地ものかなと思いながら観始めたが、予想
以上に奥が深く単なる復興ものでもない感動を与えられた。
主演の3人のバランスも良いし、ユーモアの描き方も適切に
感じられた。ベストな作品と言えるだろう。
それにしても劇中の新鮮なホヤの美味しそうなこと。東京だ
となかなかお目に掛れないし、あっても生臭さが先に立って
しまうが、現地で食べると本当に美味しいのだろうな、そん
な羨望も感じてしまう作品だった。

公開は11月3日より、東京地区は新宿ピカデリー他にて全国
ロードショウとなる。

『北極百貨店のコンシェルジュさん』
2015年公開『百日紅Miss HOKUSAI』でキャラクターデザイン
を務めた板津匡覧監督が、文化庁メディア芸術祭マンガ部門
で優秀賞を受賞した西村ツチカの原作をアニメーション映画
化した長編デビュー作。
従業員は人間だが、顧客は動物たちという「北極百貨店」。
その店でコンシェルジュとして働き始めた主人公は、先輩や
厳格な主任が見守る中で、様々な要求をしてくる顧客たちを
相手にその願いを叶えるべく奮闘する。
この作品も物語の展開は予想外だったかな。特にすでに絶滅
してしまった動物の扱いが、何というかすごく素敵に感じら
れる作品だった。しかもその描き方が理に適っているという
か納得できる。
これは原作がそういう作品なのだろうけど、主人公に与えら
れる問題とその解決策が、それに関連するギャグも含めてほ
のぼのというか、実に心が温まる展開なのだ。その描き方も
気に入ってしまった。
因に劇中での絶滅種はV.I.A(Very Important Animal)と呼ば
れているが、登場するのはワライフクロウ、ウミベミンク、
ニホンオオカミ。なるほどと思わせる選択で、それぞれが特
有の問題を抱えているのも上手くできたお話だ。
そしてその問題が主人公の大奮闘の末に解決される。それは
動物たちの問題でありながら、実は現代の人間たちの抱える
問題にも反映される。その辺の構成も巧みに感じられる作品
だった。

脚本はテレビドラマ『凪のお暇』などの大島里美。アニメー
ション制作は、2019年8月11日付題名紹介『銀河英雄伝説』
などのProduction I.G。また音楽を2018年6月24日付題名紹
介『寝ても覚めても』などのtofubeatsが担当している。
声優は川井田夏海、大塚剛央、飛田展男、藤原夏海、吉富英
治、福山潤、中村悠一。さらに立川談春、島本須美、寿美菜
子、家中宏、入野自由、花澤香菜、村瀬歩、陶山恵実里、氷
上恭子、清水理沙、諸星すみれ、七海ひろき、花乃まりあ、
津田健次郎らが個性的なキャラクターを演じている。
可愛い動物のキャラクターはお子様向けには絶好だが、大人
にも充分に楽しめる内容だ。それにしても、店のオーナーら
しきキャラクターと店の名前の関係は…。そこにもなかなか
深いものがありそうだ。

公開は2023年秋、全国ロードショウとなる。

『鯨の骨』
米アカデミー賞脚色賞にノミネートされた『ドライブ・マイ
・カー』の脚本を濱口竜介監督と共同で手掛けた大江崇允が
自らの監督作として公開するSF色も強い作品。
登場するのは婚約破棄された男性。不眠症になり落ち込んだ
彼は同僚の勧めでマッチングアプリに登録。返事をくれた若
い女性と喫茶店で待ち合わせて自室に誘うが…。シャワーを
浴びている間に彼女が自死、しかも遺体が消えてしまう。
そんなミステリアスな出来事の後、ARアプリ「ミミ」に参
加した彼は、街中に出現するアバターの中で消えてしまった
彼女に遭遇する。そして彼女がアバターを埋め込んだ彼の部
屋で、彼女は自死の理由を語っていた。

出演は2018年6月紹介『私の人生なのに』などの落合モトキ
と、ミュージシャン/タレントで2016年12月18日付題名紹介
『咲-saki-』などにも出演のあの。あのは本作の主題歌も作
詞・作曲・歌唱している。
他に2020年1月26日付題名紹介『踊ってミタ』などに出演の
横田真悠、2022年7月紹介『夜明けまでバス停で』などの大
西礼芳、さらに前回紹介『市子』などの宇野祥平らが脇を固
めている。
リアルとヴァーチャルの境が曖昧になった世界という触れ込
みの作品だが、僕自身はAR=拡張現実に関しては知識とし
て持っていたものの、「ミミ」に関しては殆んど知らなかっ
た。ただ作中での扱いは少し批判的かな。
そんなこともあるせいか、ARアプリに群がる人々の描き方
には多少悪意も感じられたが、こういう群集心理的なものは
ARアプリに限らないし、そんな全般的な社会現象への批判
もあるのかもしれない。
ただし物語の結末に関しては少しリアルに寄せ過ぎな感じも
して、ここはもっとオープンな結末でもよかったかなという
感じはした。多分監督が真面目なところもあるのだろうが、
折角の設定が勿体ない感じもしたものだ。
とは言えこの説明をしないと意味不明と言い出す連中も出て
くるのだろうが…。出来ればもっとヴァーチャル側に寄せた
結末になれば、それは新機軸の展開として記憶に残る作品に
なったとも思えたものだ。その辺は次回作に期待かな。

公開は10月13日より、東京地区は渋谷シネクイント、シネマ
ート新宿他にて全国順次ロードショウとなる。

『カンダハル−突破せよ−』“Kandahar”
2019年10月13日付題名紹介『エンド・オブ・ステイツ』など
のジェラルド・バトラー主演、リック・ローマン・ウォー監
督で、潜入工作による作戦は成功したものの、機密漏洩で面
が割れた工作員が敵地からの脱出を図るアクション作品。
バトラーが演じるのは、MI6からの出向でCIAの作戦に
従事する潜入工作員。今回はイランの原子力施設の周辺で通
信回線に侵入路を工作し、CIAはその進入路を使って施設
のメルトダウンを引き起こす。
こうして世界をイランの核脅威から守ることに成功した主人
公だったが…。その直後、あろうことかCIAの内部告発に
よる機密漏洩で彼の存在が報道機関を通じて顔写真を含めて
公になってしまう。
このため帰路の飛行便への搭乗が不可能になった主人公は砂
漠を超えてアフガニスタン南部にあるCIAの基地を目指す
ことになる。その距離 400マイル、しかも救援機の離陸まで
30時間しか残されていなかった。
そしてその後を、国家の威信に掛けたイスラム革命防衛隊、
彼の身柄を金づると踏んだパキスタン軍統合情報局、さらに
タリバンの息が掛かったゲリラ、武器商人が率いる武装集団
などが追い始める。

共演は、イラン出身で2019年5月紹介『アラジン』などのナ
ヴィド・ネガーバン、インド出身で2015年『ワイルド・スピ
ード SKY MISSION』などに出演のアリ・ファザール、イラン
出身でスウェーデンで活動するバハドール・フォラディ。
さらにオーストラリア出身のトラヴィス・フィメル、イギリ
ス出身のニーナ・トゥーサント=ホワイトらが脇を固めてい
る。
脚本は、元アメリカ国防情報局の職員でアフガニスタンにも
何度も派遣されたことがあるというミッチェル・ラフォーチ
ュン。2013年のスノーデン事件の頃に職員だったという作者
の実体験の基づくとされる作品だ。
何と言ってもバトラーの主演だから劇中ハラハラドキドキは
たっぷりあるものの、観客は安心して観ていられる作品だ。
その分アクションはしっかりと観られるし、本作では脇を固
める若い俳優の活躍も楽しめる。
その顔触れが国際的なのも嬉しい作品だ。

公開は10月20日より、東京地区は新宿バルト9他にて全国ロ
ードショウとなる。


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井口健二