2023年09月03日(日) |
蔦哲一朗短編集、ドミノ、ラ・ボエーム、リバイバル69~伝説のロックフェス~、火の鳥エデンの花 |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※ ※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※ ※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※ ※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※ ※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※ ※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 蔦哲一朗短編集 『ワークショップ』 『新宿ステーション界隈の亡霊たち』 『ミカはヴィーナス』 2013年11月紹介『祖谷物語-おくのひと-』などの蔦哲一朗 監督による実験的な試みも含めた短編集。 1本目は、蔦監督自身が講師を務めて2017年10月に行われた 演技ワークショップで撮影された作品ということで、受講者 がなぜ俳優を目指すのかというテーマで独白を行い、彼らを 取り巻く様々な状況が語られる。 そこにはかなり感情の高まりを写したものもあるが、解説に は虚実織り交ぜてという言葉もあって、シナリオに基づく演 技の部分もあるようだ。その一方では飲み会のシーンで台詞 が他と被る部分もあって、それも演出なのかな。 映画というメディアに対して、いろいろ考察を巡らしている 面もあるような作品になっている。 2本目は8㎜フィルムを使った正に実験的な作品。コマ撮り で高速で動く人々の中に動かない被写体だけが浮かび上がっ てくる。手法的には過去に作品があるようにも思われるが、 その中で演技されているものもあって面白かった。 3本目は、一時期志村けんとのスキャンダルが話題になった モデルの奥村美香を主演に迎えた作品。YouTuberのラファエ ル、タレントの加藤沙里らを共演に迎えてこれも虚実入り混 じった作品になっている。 ただ途中に俳優の中村ゆうじを迎えて主人公の演技力を試す ようなシーンがあって、これが実力をさらけ出す、これは演 出なのか否か。正に芸能界の闇が写し出されたような作品に もなっている。 因に蔦監督はフィルムに拘って制作を続けているが、画面の 微妙な残像感などにこれがフィルムの特性なのかなと感じさ せてくれるものがあった。ヴィデオとは異なる質感は間違い なくあるようだ。 公開は9月15日より、東京地区はシモキタエキマエシネマK2 にてロードショウとなる。 映画ファンなら、観ればそれなりの何かは得られる作品だ。 なお来場していた蔦監督によると、新作の長編作品の準備も 進行中だそうだ。
『ドミノ』“Hypnotic” 2014年1月紹介『マチェーテ・キルズ』などのロバート・ロ ドリゲス監督が、2012年9月紹介『アルゴ』などのベン・ア フレックを主演に迎えて作り上げた大方のSF映画ファンを 唸らせる作品。 主人公は中年の刑事。彼は娘と行った公園で一瞬の内に娘を 見失ってしまう。その誘拐犯の男は捕まるが、男には犯行時 の記憶がなく、娘は見つからなかった。そして現在は心療内 科で治療を受けながら職務に就いていたが…。 そんな彼の許に、銀行が襲撃されるとの匿名の通報があり、 張り込んだ彼は1人の男に着目、男より先に貸金庫に入った 主人公は「レヴ・デルレーンを見付けろ」と記入された娘の 写真を発見する。 そして2人の同僚と共に屋上に男を追い詰めた主人公だった が、突然2人の同僚は暗示に掛かったように互いを撃ち、男 は屋上から飛び降りて姿をくらましてしまう。その後も次々 に謎の事態に遭遇した主人公は、ある女性占い師を訪ね… 共演は2013年8月紹介『エリジウム』などのアリシー・ブラ ガ、2013年7月紹介『ローン・レンジャー』などのウィリア ム・フィクナー。 さらに2020年『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』で トレドの父親を演じたJ・D・パルド、2015年7月紹介『タ ーミネーター:新起動/ジェニシス』などのダイオ・オケニ イ、2012年5月紹介『ダーク・シャドウ』などのジャッキー ・アール・ヘイリーらが脇を固めている。 実はいろいろあって原題を確認しないまま観に行ってしまっ たのだが、それが正解だったようだ。SFファンにはお馴染 みの単語だが、見事ネタバレしてしまっている。従ってでき れば原題を見ずに観て貰いたい作品だ。その点で邦題は実に ありがたいものになっている。 実際にこのテーマの作品は過去にもいろいろあるが、本作で はさらにそこにヴィジュアル・インパクトも追加して、それ は鮮烈な作品になっている。このヴィジュアルも過去にない 訳ではないが、その扱いが見事に嵌っていた。 そんなこんなで、SF映画ファンにはお楽しみが目一杯に詰 まった作品とも言える。しかもエンドロールにも仕掛けがあ って、これは見逃せない作品だ。監督と主演の2人は本当に SFが好きなんだなあとも思った。 公開は10月27日より、全国ロードショウとなる。
『ラ・ボエーム』“La Boheme” ジャコモ・プッチーニの作曲により1896年にイタリアトレノ で初演された歌劇を、2022年のニューヨークを背景に再構築 した作品。 開幕は都会の片隅で詩人と画家、哲学者、音楽家が共同で暮 らしているアパートの一室。大晦日の夜に暖炉にくべる薪も なく、寒さに耐えかねた詩人は遂に売れない自作の原稿を燃 やし始める。 ところがそこにパトロンが付いたという音楽家がワインと食 料を持って登場。祝宴となり掛かるが、音楽家の提案で食料 は残して酒場に向かことになり、作品を書き上げるという詩 人を除いた3人は出掛けて行く。 そして詩人だけが残った部屋に1人の女性が訪れ、停電が起 き…とまあ、物語はオリジナル通りに進行して行くものだ。 それが現在のトップクラスとされるオペラ歌手たちによって 演じられる。 出演は、中国人テノール歌手シャン・ズウェン、中国人ソプ ラノ歌手ビジョー・チャン、メキシコ系アメリカ人バリトン 歌手ルイス・アレハンドロ・オロスコ、プエルトリコ人ソプ ラノ歌手ラリサ・マルティネス。 さらに日本人バス歌手井上秀則、アフリカ系アメリカ人バリ トン歌手マーケル・リード、アメリカ人カウンターテノール 歌手アンソニー・ロス・コスタンツォ。 監督は、ヴィジュアル・アーチストでオペラ監督のレイン・ トレマーが長編デビュー作として担当した。 オリジナルのオペラは題名の通りボヘミアンの話だが、本作 ではそれが配役でも判る通りの東洋人を中心としたマイノリ ティに置き換えられている。そして原作で死をもたらす病が COVID-19と思わせるのも現代化のポイントだろう。 その辺が本作の特徴かな…。とは言うものの、歌われる歌曲 がプッチーニのそのままでは大筋の物語には変化の付けよう がないもので、オリジナルをただ背景だけ変えたものという 印象は拭えない。 敢えてミュージカル版とするには、『レント』という名作も あるのだし、その辺はちょっと中途半端な感じもした。ここ は無理をせずに、単に現代版ということで行った方が良いの ではないかな。オペラの部分は間違いなく本物なのだし。 公開は10月6日より、東京地区はTOHOシネマズシャンテ他で 全国ロードショウとなる。
『リバイバル69~伝説のロックフェス~』 “Revival69: The Concert That Rocked the World” 1969年9月13日にカナダで行われたone-day, twelve-hourの 音楽フェス‘The Toronto Rock and Roll Revival’ 開催の 顛末を描いたドキュメンタリー。 フェスが行われた60年代後半は、ヒッピーやフラワーチルド レンの台頭で旧来のロックンロールは廃れ始めていたのだそ うだ。そんな風潮の中で、カナダの若いプロモーターがロッ クの復権を賭けたフェスティヴァルを企画する。 そこには彼らの意気に感じたチャック・ベリーやリトル・リ チャード、ジェリー・リー・ルイスにジーン・ヴィンセント らが参集。ところがチケットは一向に売れない。そこで彼ら は当時大人気のドアーズにも声を掛け、参加が決まる。 しかし開催1週間前になってもチケットの売れ行きは向上せ ず、遂に彼らは秘策中の秘策としてジョン・レノン&オノ・ ヨーコによる新バンド「プラスティック・オノ・バンド」に 声を掛ける。そしてレノンは快諾するのだが…。 果たしてオノ・バンドは無事に出演し、フェスティヴァルは 成功するのか? 同フェスの映像では1971年に“Sweet Toronto” という作品 が公開されているが、本作は当時撮影されたフィルムと共に 新たに関係者に行ったインタヴュー、そして当時の音声の記 録などからロン・チャップマン監督が新たに再編集。 通常の演奏の映像だけでなく、そこに至る舞台裏の様子など も網羅された作品となっている。しかもそれがかなりドタバ タの連続で、これぞまさにフェスティヴァルの醍醐味という 感じにもなっている。 僕自身、若い頃にはフェスティヴァルに主催者側として参加 した経験もあるから、舞台裏の様子などには懐かしさという か、今にして思えば憧れのような感じもしてしまう。そんな わくわく感も思い出させてくれる作品だった。 目の前に想いもよらぬ大物が現れて、どうしていいか分らな くなる。それは多分この作品に登場する人たちも同じ感じだ ったのだろう。そんな感覚も見事に再現されている作品だ。 それにしてもジョン・レノンらの一行の護衛をバイカー集団 に任せるなんて。そんな無茶苦茶な状況もしっかりと記録さ れ、とにかく若さの勝利という感じの作品だった。 公開は10月6日より、東京地区はヒューマントラストシネマ 渋谷、角川シネマ有楽町他にて全国ロードショウとなる。
『火の鳥エデンの花』 漫画家手塚治虫のライフワークとされる『火の鳥』の中から 1976-78年に発表された『望郷篇』を初映像化した作品。 物語の背景は人類が大宇宙に進出している時代。そんな中で 人類が呼吸可能な大気を持つエデン17と名付けられた惑星に 男女のカップルが降り立つ。2人はある事情で地球を脱出、 無人のその星にやってきたのだが…。 その星には大気はあるものの水資源は枯渇しており、2人は 作物を栽培するための水の確保から始めなくてはならなくな る。そして女性が妊娠し、男性が水脈を発見したとき、不慮 の事故で男性は死亡してしまう。 そんな女性の壮絶なサヴァイヴァル劇や異星人との交流、さ らには文明の勃興、そして最後は原作の題名にある通りの地 球への望郷などが、1000年を超えるタイムスケールで壮大に 語られている。 監督は日仏合作の長編アニメーション『ムタフカズ』などの 西見祥示朗。キャラクターデザインは2006年11月紹介『鉄コ ン筋クリート』などの西田達三。音楽を2017年3月紹介『夜 明けを告げるルーのうた』などの村松崇継。製作は『鉄コン 筋クリート』などのSTUDIO4℃が手掛けた。 声優は宮沢りえ、窪塚洋介、イッセー尾形、ドラマ『大病院 占拠』などの子役の吉田帆乃華らが演じている。 手塚治虫の原作は紆余曲折があって何度も書き直され、様々 なヴァージョンが存在するもののようだが、上映時間95分の 本作ではそのエッセンスが見事に凝縮された作品と言えそう だ。 ただ原作の前半では、多少現代にそぐわないと思われる展開 もあったが、その点は巧みな改変で見事にクリアしている。 この展開は実は筒井康隆の『幻想の未来』などにもあって、 当時としてはタブーへの果敢な挑戦だったものだが、言論が 不自由な現代では描いたら炎上間違いなしだったろう。 その他にも現代の風潮に合わせたような改変はいくつか見ら れるが、それが全体のテーマを損ねるものではないし、その 辺は原作にリスペクトした上での見事な処置と言っていい。 多分手塚さんが存命ならこうしていたと思えるものだ。 そして何より原作が描いた壮大な宇宙観、人類の未来に対す る憂いみたいなものが、原作者の思想通りに見事に再現され た作品と言えそうだ。 公開は11月3日より、全国ロードショウとなる。
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