2023年06月04日(日) |
インスペクション ここで生きる、アイスクリームフィーバー、破壊の自然史、キエフ裁判 |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※ ※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※ ※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※ ※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※ ※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※ ※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『インスペクション ここで生きる』“The Inspection” 2019年12月02日付題名紹介『ミッドサマー』などのA24製作 で、元海兵隊の映像記録担当という経歴を持つエレガンス・ ブラットン監督が、自らの体験を基に描いたとされる劇場映 画デビュー作。 主人公は黒人でゲイの若者。16歳の時に性癖を嫌った母親に 捨てられ、以来ストリートで一人で生きてきた。そんな主人 公が花束を持って母親を訪ねるところから物語は始まる。そ の目的は、海兵隊に志願するため出生証明書が必要だったか らだ。 こうして海兵隊に志願した主人公だったが、選考を突破して やってきた基礎訓練キャンプ(ブートキャンプ)では想像を絶 する体験が彼を待ち受けていた。性癖や人種、肌の色や宗教 などありとあらゆる差別がはびこる中で、果たして主人公は 難関を突破することができるのか。 海兵隊(マリーンズ)が米軍最強の軍隊であることは知ってい たし、それを支える訓練の厳しさも聞き及んではいたが、さ らにそこに差別という避けて通れない問題が横たわる。それ を目を背けることなく真摯に描き切った作品とも言えるだろ う。「真実が宿った作品」という評価も納得できる。 出演は、本作で本年度のゴールデングローブ賞にノミネート されたジェレミー・ホープ。他に2017年12月17日付題名紹介 『スリープレス・ナイト』などのガブリエル・ユニオン。ラ テン系俳優のラウル・カスティーヨ。さらにマコール・ロン バルディ、ボキーム・ウッドバインらが脇を固めている。 モスクワがキーウを攻めている今の時代に軍隊の内情を描く のはなかなか難しいことだと思うが、本作ではそれを差別と いう面から巧みに提示している。それは海兵隊という最も過 酷な訓練で知られる軍隊を背景にしたものでもあり、それで も差別の現実を描き切ったことにも賞賛する。 そしてそれはほぼ全ての面で、それらを凌駕する感動で物語 を包んでいる。これは本当に見事な作品と言えるだろう。正 に人間の愛の心を描き切った作品と言えるものだ。なお映画 の中ではサム・メンデス監督の『ジャーヘッド』(2005年)が 引き合いに出されてもいた。これも…だ。 それにしても難しいテーマに果敢に挑戦する制作会社のA24 にも称賛を送りたいものだ。 公開は8月4日より、東京地区はTOHOシネマズシャンテ、新 宿武蔵野館他にて全国ロードショウとなる。
『アイスクリームフィーバー(ICЁ CЯEAM FEVER)』 H&Mなどの企業のブランディングや広告宣伝から桑田佳祐 のCDジャケットまで様々なデザインを手掛けるアートディ レクターの千原徹也が、長年の夢の実現として制作した映画 監督デビュー作。 物語の中心は街角のアイスクリーム・ショップ。そこの雇わ れ店長として働く菜摘は、元はデザイン業界にいたが軋轢か ら仕事を止めて現職になった。しかし業界に戻ることも考え 始めている。 そんなショップに黒ずくめの衣装の女性がやってくる。その 女性が気になった主人公は言葉を交わすようになり、彼女が デビュー作で文学賞を受賞したものの第2作の執筆ができな いでいる作家だと判明するが…。 そしてもう1人、ショップの近所に住む一人暮らしの女性・ 優の家に突然姪が訪ねてくる。その姪は生き別れの父親を捜 しに来たと言い、それは優にも関りのある話だった。そんな 優は近所の銭湯を癒しの場にしていたが…。 こんな女性たちの物語が展開されて行く。 出演は、吉岡里帆、モトーラ世里奈、松本まりか、南琴奈。 それに「水曜日のカンパネラ」の二代目ヴォーカルの詩羽。 さらに安達祐実、ジャルジャルの後藤淳平、マカロニえんぴ つのはっとり。そして片桐はいり、MEGUMI、「水曜日のカン パネラ」の初代ヴォーカルのコムアイらが脇を固めている。 原案は芥川賞作家・川上未映子の著作『愛の夢とか』所載の 「アイスクリーム熱」とされており、脚本は2017年12月10日 付題名紹介『生きる街』などの清水匡が担当している。 映画はちょっと複雑な構成になっているが、それが何という か、カタルシスを生み出すほどでないのは少しもったいない かな。と言うか、出演者の顔ぶれがかなり煌びやかで、観客 としてはその方に目が行ってしまうから、それは致し方ない ところではある。 その辺を楽しめればそれはそれで充分な作品とも言えるが、 折角ならもっと捻りまくった作品にしても良かったかもしれ ない。その辺はこの監督なら次回作でやってくれるかな…。 そんなことも考えてしまうほどの期待を持てる作品だった。 もちろん本作も良くできた作品ではあるが。 なお WEB上には、本作を補完する短編『I SCREAM FEVER』も 公開されており、公開までにはいろいろとメディアクロス的 な展開も行われるようだ。 公開は7月14日より、東京地区は渋谷シネクイント、アップ リンク吉祥寺、TOHOシネマズ日比谷他にて全国ロードショウ となる。
『破壊の自然史』“The Natural History of Destruction” 『キエフ裁判』“Київський процес” 2022年8月7日紹介『バビ・ヤール』などのセルゲイ・ロズ ニツァ監督が2022年に発表した2作品が、「戦争/正義」と 題して同時公開される。 作品はいずれもアーカイヴァル・ドキュメンタリーと称され るもので、先の紹介作と同様のアーカイヴに所蔵された映像 を編集し、さらに効果音や音声も追加して観客が事実を理解 し易いように再構成しているものだ。 そして今回上映される1本目の『破壊の自然史』は、第2次 世界大戦で英国空軍が行ったドイツ各地の空爆攻撃の映像を 再構成したもの。 作中では1943年7月末〜8月始めに行われたドイツ北部の港 湾都市ハンブルグへの空爆の模様が、空爆前の美しい街並み の映像から昼間及び夜間の焼夷弾攻撃を上空から撮影した映 像、そして破壊された街の姿へと綴られる。 因に題名はドイツ出身作家ヴィンフリート・ゲオルグ・ゼー バルトが1999年に著した書籍“Luftkrieg und Literatur” の英語版の題名が基になっているもので、書籍の中ではドイ ツ文学における空襲への言及の欠如が論じられている。本作 はそんなタブーに挑戦した作品でもある。 このタブーは英米文学界でも同様で、僕自身はカート・ヴォ ネガットの原作を1972年にジョージ・ロイ・ヒル監督が映画 化した『スローターハウス5』でドレスデンの空爆の事実を 知ったものだが、この原作は合衆国では現代でも多くの州で 禁書の扱いになっているとされる。 実際に焼夷弾による空爆は全く非人道的なものであり、これ を行ったという事実だけでも非難されるべきもの。その事実 を英米軍は長きに亙ってひた隠しにしてきたものだ。その事 実がスクリーンに展開される。 中には特に夜間の映像を美しいと感じる人も居るようだが、 これが焼夷弾であり、地上では逃げ惑う一般の人々が焼き殺 されているという事実を知っていれば、僕はこれを美しいと 感じることはできない。そして映画でも美しくは描いていな かった。あくまでも事実を描いた作品だ。 そして2本目の『キエフ裁判』は、先の『バビ・ヤール』で も描かれたウクライナ・キーウ郊外の渓谷で、ナチスドイツ が起こした戦争犯罪を裁く裁判を、各被告人の証言を中心に 描いたもの。因に題名が「キエフ」なのは、この裁判がモス クワ主導で行われたことを表しているようだ。 そして本作では、この裁判がかなり恣意的に行われたこと。 さらに被告人全員が判決の罰を受けるほどの罪だったのかも 考えさせられる。これは日本でも『私は貝になりたい』のよ うな話があったことにも通じる、戦勝国の顕示が行われてい るようにも感じるものだ。これも事実を描いた作品だ。 ただし本作の場合は、やはり『バビ・ヤール』の印象が強烈 かな。特に最後に証言する女性は『バビ・ヤール』にも登場 した人で、そこからの流れは先の作品の同じになる。この作 品はあくまでも前作を補完する位置づけのようだ。両作とも 見るのが正しい見方だろう。 公開は8月12日より、東京地区は渋谷のシアター・イメージ フォーラム他にて2作同時ロードショウとなる。
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