2023年05月14日(日) |
世界のはしっこ小さな教室、NEW RELIGION、古の王子と3つの花、リファッション、ミート・ザ・フューチャー |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※ ※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※ ※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※ ※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※ ※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※ ※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『世界のはしっこ、小さな教室』“Être prof” アフリカのブルキナファソ、ロシアのサハ共和国、南アジア のバングラディシュ。それぞれの土地で初等教育に携わる女 性教師の姿を追ったドキュメンタリー。 最初に登場するのはブルキナファソの教師。2人の子供を抱 える女性だが、自らが教育を受けたことの恩恵を語る彼女は 国立初等教育学校を卒業、家族と離れて6年間の任期で僻地 の任地に向かう。 人口2150万のこの国では15歳以上の識字率が41.2%。しかも 公用語のフランス語の他に50以上の言語が話されているとい う。そして彼女がやってきたのは5つの言葉が話される村。 インフラもないこの場所で活動が始まる。 次の描かれるのは人口97.2万人というシベリアの小国。この 国でも4つの言語があり、しかも遊牧民のエヴェンキ族では その伝統や言語も失われつつあるという。そんな土地に生ま れた女性は、民族の伝統を守るため奔走する。 それはユネスコの支援も受けた教育とされるが、トナカイの 引く橇に教材や机を載せて遊牧民のキャンプを巡り、1ヵ所 10日間ずつの授業を行う移動式の学校だ。そして彼女は義務 教育だけでなく先祖の言語や伝統を伝える教育も行う。 最後に登場するのはモンスーンの影響で1年の半分は水に浸 かっているという北部の地域。ここでは結婚を勧める両親を 説得して高校を卒業し、教育者を目指したという女性教師が ボートスクールに子供たちを集める。 そして法律では禁じられている児童婚が常習されるこの土地 では、親を説得して子女に高等教育を目指させることが彼女 の使命にもなっている。そんな中で姉の結婚が進められてい るという少女が学校を休みがちになる。 監督は前作では定年間近の老教師の風変わりな授業を追った というエミリー・テロン。プロデューサーは2012年『世界の 果ての通学路』のバーセルミー・フォージェア。教育問題に 関心を寄せる両者が、世界の果てで教育に全てを捧げる女性 教師の姿を見事に記録した。 作品では3カ国の映像が入れ子で提示される。しかし風景や 展開も異なる3つの物語は混乱することもなく、すっきりと 見ることができた。そしてそれぞれの国での教育の抱える問 題点が巧みに描き尽くされている。 さらにそれぞれが、期待以上の成果を上げていることも見事 に描かれている作品だった。 公開は7月21日より、東京地区はヒューマントラストシネマ 有楽町、新宿武蔵野館他にて全国順次ロードショウとなる。
『NEW RELIGION』 第21回(2018年)文化庁メディア芸術祭で新人賞を受賞したと いう愛知県出身Keishi Kondoの脚本・監督・編集・プロデュ ースによるアブストラクト・SF心理ホラーと称する作品。な お本作はサンティアゴホラー映画祭にて審査員賞受賞の他、 今年のSlamdance Film Festival への参加も決まっているよ うだ。 主人公は幼い娘を亡くした母親。その後に離婚した女性は、 その悲しみを癒すためかデリヘルで働いている。そんな女性 が客から背骨の写真と撮らせて欲しいと頼まれる。写真撮影 は店からは禁止されていることだったが…。 ところが撮影が進む内に彼女は肉体の一部を喪失して行くよ うな感覚を覚え、それに併せて亡くした娘の存在を感じるよ うになって行く。しかしそれはある目的に向かって進む出来 事の序章だった。 タイトルは「新興宗教」というような意味合いだと思うが。 それを宗教と呼べるかどうかは判らないものの、それに似た 心理学的な事柄が描かれているようには見える。ただし物語 の本質は別のところにある。 出演は瀬戸かほ、岡サトシ、西園寺流星群、沼波大樹、水田 黒恵、ナカムラルビイ、永田祐己。主にインディペンデンス の作品で活躍の俳優や、ミュージシャン、コスプレイヤーと いった人たちが登場している。 上では宗教的な意味合いと書いたが、実は物語では蛾の繭か ら成体までの完全変態のことが語られており、そこに記憶を 注入するというような説明もある。これはつまり映画化もさ れたジャック・フィニーの『盗まれた街』なのかな。 他にも星新一のショートショートでもそんな話はあったよう に思うが、本作ではそれを記憶を盗まれる側から描いている ということようで、これはSF的にもなかなか興味を惹かれ る話になっていた。 ただしその点が映画の中で明確ではなく、観ていて混乱を生 じる。出来たらアブストラクトなどと言わずに真っ当なSF として描いて欲しかったかな。それに十分に耐える話だし、 それを描ける監督のようにも思える。 その点がちょっともったいなくも感じる作品だった。 なお公開は当初の予定では6月となっていたが、何かの事情 で延期になっているようだ。
『古の王子と3つの花』 “Le pharaon, le sauvage et la princesse” 2019年5月紹介『ディリリとパリの時間旅行』などフランス のアニメーション作家ミッシェル・オスロ監督による2022年 の作品。 前作の物語に時間旅行はなかったが、本作では約3000年前の 古代と中世、それに18世紀の3つの時代の3つの物語が描か れる。 その第1話「ファラオ」では、アフリカ・スーダンの王国を 舞台に絶世の美女に恋した王子が彼女の摂政である母親の命 に従いファラオになるため研鑽し南北エジプトの統一を成し 遂げる。 第2話の「美しき野生児」では、オーヴェルニュの城に暮ら す幼き王子は領主の父親からは疎まれていたが、牢獄の囚人 と話を交わす内に彼に同情し脱獄を手助けしてしまう。それ を父に話した王子は森で処刑されることになるが…。 第3話の「バラの王女と揚げ菓子の王子」は、謀反でモロッ コの王宮を追われた王子は隣国に逃げ込み、揚げ菓子の職人 の許で研鑽してその菓子が評判を呼び始める。そして王女に 献上することになる。 元々はパリのルーヴル美術館で2022年に開催された展覧会の ために第1話が制作され、そこから派生して他の2話が作ら れたそうだが、いずれも時代考証などは正確に作られている ようだ。 その中でも第1話ではエジプトの壁画風のヴィジュアルが見 事に物語に嵌っている。そして第2話では往時の城の姿など が綿密に調査され、その成果は本作だけでは収まり切れない ものだったとされる。 それに対して第3話の物語はかなりファンタスティックに展 開されるが、登場するお菓子やその他の食べ物には詳細な考 証がされたようで、それは観ていて食べたくなるようなもの ばかりだった。 声優は、ストーリーテラーとして2019年6月紹介『風をつか まえた少年』などのアイサ・マイガ。他に、2022年Netflix で配信『危険な関係』などのオスカル・ルサージュと、コメ ディ・フランセーズ所属のクレール・ドゥ・ラリュドゥカン が各話のヒーローとヒロインを演じている。 正に芸術的アニメーションという感じの作品だ。 公開は7月21日より、東京地区はヒューマントラストシネマ 有楽町、YEBISU GARDEN CINEMA、UPLINK吉祥寺他にて、全国 ロードショウとなる。
『リファッション』“reFashioned” 『ミート・ザ・フューチャー』“Meat the Future” 「エシカル・ライフ・シネマ特集」と題して上映される2本 のドキュメンタリー。 1本目は香港を舞台に衣服のリサイクルを目指す3人の企業 家を描く作品。 その1人目は衣服を繊維の段階にまで戻して新たな生地を再 生産する。2人目は高級子供服をリサイクルするためのシス テムを構築する。そして3人目はペットボトルのリサイクル を進めている。 そんな3人の仕事ぶりが、今回最初に紹介した作品と同様の ストーリーを入れ子にした構成で提示される。ただし本作で はいずれもが香港の話で、背景の区別も付き難く、観ていて 混乱を避けられない感じがした。 しかも内容的には互いに共通するものが薄く、もちろんリサ イクルという点では共通するが、全体としては統一感のない 作品になってしまっていた。それは同時に訴えるものも希薄 に思えたものだ。 これならそれぞれを独立させて、3部構成で描いた方が判り 易かったのではないかな。それと香港の特殊性みたいなもの が全く紹介されないのも奇異に感じたが、これは政治的な配 慮もあったのだろうか。 それに対して2本目は、動物の肉を培養して食肉として提供 できるものにするという壮大なもの。それをかなり初期の段 階から綿密に取材して描き上げたもので、これには見ていて 納得するところが大きかった。 原題は“Meat”だが、正に‘meet the future’ の感覚で見 られる作品になっていたものだ。これは本当にSFが現実に なってきているという感じもした。それに起業家の元職が心 臓外科医というのも関心した。 人造肉というと以前は大豆ミートや、中にはミミズバーガー なんて話題もあったが、こんな風に筋肉繊維を作り出せると は…。それが心臓外科技術の応用ということにも感激したも のだ。 そこに旧来の牧畜産業のロビイストが絡むのも現実的で、こ れは良く取材されているという感じもした。それにしてもト ランプ政権時代の話で、ロビイストがテンガロンハットとい うのには笑ったが。 いずれにしてもこれは見事なドキュメンタリーだった。 公開は2作一緒で6月9日より、東京地区はYEBISU GARDEN CINEMA、UPLINK吉祥寺他にて、全国ロードショウとなる。
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