井口健二のOn the Production
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2023年04月30日(日) 青いカフタンの仕立て屋

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
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『青いカフタンの仕立て屋』
             “Le bleu du caftan/أزرق القفطان”
日本では2021年に公開された『モロッコ、彼女たちの朝』の
マリヤム・ドゥザニ脚本、監督による長編第2作。なお本作
はフランス、モロッコ、ベルギー、デンマークの共同で製作
されており、原題にはフランス語も併記されていた。
舞台は、モロッコの海沿いの町サレ。その旧市街にある仕立
て屋では父親の跡を継いだ主人のハリムが伝統的な手工芸の
刺繍を施した民族衣装カフタンを仕立てている。しかしそれ
は1着を仕立てるにも数カ月を要する至高の品だ。
そんな店では青い生地のカフタンの仕立てが進められていた
が、心無い客からは金を積むから早く仕上げろという催促も
受ける。そんな客に妻のミナは、無理をいうなら金を還すと
突っぱねる。
それでも夫婦は若い職人ユーセフを雇い入れ、主人がその技
術を指導するが、若者が主人を見る目は伝統の刺繍を作り上
げる職人への憧れだけではないようだ。こんな出だしだけで
3人の関係性が巧みに描かれている。
そんな仕立て屋だが、妻のミナは体調が思わしくなく、徐々
に店を休む日が多くなる。それでもハリムは妻が好きなミカ
ンの皮をむいて食べさせるなど、甲斐甲斐しく世話を続ける
が…。その一方で隠した性癖も明らかになる。

出演は、2019年10月20日付題名紹介『テルアビブ・オン・フ
ァイア』などのルブナ・アザバルと、2007年9月紹介『迷子
の警察音楽隊』などのサーレフ・バクリ。それに本作で映画
デビューのアイユーブ・ミシウィ。
妻の病名は映画の後半で明らかにされるが、多分そうかなと
感じていた自分には明らかになる直前のシーンが心に突き刺
さってくる感じがした。それはどうしようもない絶望が鮮烈
に描かれたものだ。
その一方で主人の性癖に関しては、ある種の現実からの逃避
かなとも考えたが、これも映画の後半の妻の発言で生来のも
のであることが巧みに表現され、それがタブーであることも
含めて夫婦の悲しい関係を描いていたものだ。
これらが正に至高の夫婦愛を描き出した作品とも言える、そ
んな素晴らしい作品だった。
なお映画ではカフタンの刺繍の見事さにも目を引かれるが、
ミナとハリムが互いに作る伝統料理の数々も素晴らしく美味
しそうに描かれていた。

公開は6月16日より、東京地区はヒューマントラストシネマ
有楽町、新宿武蔵野館他にて全国ロードショウとなる。


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井口健二