井口健二のOn the Production
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2009年05月10日(日) 天使と悪魔、九月に降る風、MW、ダニエル/悪魔の赤ちゃん、刺青/背負う女/匂ひ月のごとく

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『天使と悪魔』“Angels & Demons”
2006年に公開されて世界的な大ヒットを記録したミステリー
作品『ダ・ヴィンチ・コード』=ロバート・ラングドン教授
シリーズの第2弾。なお、元々のダン・ブラウンの原作では
本作の方が前に発表されたものだが、映画化は後になってい
る。
その物語は、スイスの研究所で作られた反物質が強奪され、
ヴァチカンに脅迫状が届くのが発端。それは特殊な書体で記
されたもので、その謎解きのためにラングドンがヴァチカン
に呼ばれる。さらにその席にはスイスの研究所の女性科学者
も到着している。
一方、ヴァチカンでは前教皇が急死したことによる後任選出
のためのコンクラーベが準備されているが、脅迫犯によって
その有力候補4人が誘拐され、1時間ごとの公開処刑が通告
される。そして5時間後には反物質容器の電池が切れて、反
物質が容器内を落下するというのだ。
その5時間の刻限の中、脅迫状に記された書体を用いる秘密
結社イルミナティの存在を追ってラングドンの謎解きが開始
される。そこには400年前にヴァチカンが行った暗い過去の
歴史が関わっていた。
ヴァチカンは1992年にガリレオ裁判の誤りを謝罪したが、神
に挑戦する科学者と神を崇めるヴァチカンとの対立は常に存
在しているものだ。そしてついに、科学者たちによる秘密結
社がヴァチカンに向かって牙を剥く…そんな図式で物語は描
かれて行く。
その図式の中にラングドンは完全に中立の立場で登場するも
のだが、常に沈着冷静な主人公の姿はドラマ的にはちょっと
違和感のあるところかも知れない。しかし、主人公が前作の
跡を引き摺っている感じは、前作からの観客にはそれで充分
な人格描写にはなっているものだ。
それに今回は、謎解きも前作ほどは複雑ではないし、その分
アクションをたっぷり見せてくれる。さらには謎解きのため
ローマ市内各所を巡る観光映画的な部分もあって、どちらか
というと気楽に楽しめる作品というところだ。
その市内撮影のシーンは、試写当日に行われた記者会見によ
ると「違法行為はしていないが、無許可で撮影されたもの」
だそうだが、中には特別許可で撮影された歴史遺跡でのシー
ンもあり、ローマ市の協力は万全だったようだ。
そしてそれらのゲリラ的に撮影された背景に対して、無声映
画時代の手法から最新のCGIまでを駆使した映像化が行わ
れているとのこと。そこには期待した以上のシーンもあって
なかなか見事なものだった。
なお、心配された反物質の描写は、目視出来るほどの量とい
うのは確かにやりすぎだが、磁力で浮かせているという雰囲
気や、その危うさのようなものはそれなりに伝わってくる感
じだった。もちろん現実にはこうは行かないと思うが、映画
的にはこれでOKだろう。
それに反物質の製造までの描写には、昨年見学した高エネル
ギー研究所の施設を思い出させてくれる部分もあって、僕に
は納得ができた。
出演は、前作に引き続き主演のトム・ハンクス。それにユア
ン・マクレガー、さらに昨年2月に紹介した『バンテージ・
ポイント』などのイスラエル人女優アイェレット・ゾラーが
共演している。監督は前作と同じくロン・ハワード。
なお記者会見では、先に公表された第3作に関する質問も出
たが、製作者のブライアン・グレーザーがハンクスに、「君
は出てくれるかい」と訊くと、ハンスクは「このまま東京で
4日間話し合いをさせてくれるなら」との回答で、実現は間
違いなさそうだ。

『九月に降る風』“九降風”
昨年の東京国際映画祭では、『九月の風』の題名で「アジア
の風部門」に上映された台湾作品が日本でも一般公開される
ことになり、改めて試写が行われた。
物語の背景は1996年9月、台湾プロ野球界が八百長騒動に揺
れていた頃のこと。映画に登場するのは新学期を迎えたばか
りの高校生たち。彼らは1年生から3年生まで学年を跨いだ
グループだったが、何かと問題を起こしては教官室に呼び出
されていた。
そんな悪餓鬼グループの日常が、他の生徒たちや社会との交
流、そして台湾プロ野球界の動きも絡めて描かれて行く。そ
れは、野球の応援に興じたり、深夜の屋内プールに忍び込ん
で騒いだりといった他愛のないものだが、徐々にいろいろな
出来事が生じて行く。
物語の全体の流れは、ジョージ・ルーカス監督の『アメリカ
ン・グラフィティ』を髣髴とさせる。そこにはリーダーとな
る奴や道化や、学業ではちょっと優秀な奴もいて、悪ふざけ
や男女の関係や、そこから始まる深刻な事態などが描かれて
行く。
実は、僕は映画祭の時にも1度本作を観ているのだが、その
時の印象はあまり芳しくなかった。その理由は明確には思い
出せないが、多分登場する高校生たちの行動に違和感があっ
たのだろう。しかし今回見直していて、何となくそれは了解
することが出来てきた。
結局、彼らの行動の多くは多分自分でもその場にいたら同じ
間違いをしてしまうようなものであり、その結果には大きな
悔恨と後ろめたさが残るだろう。だが人間はそれを乗り越え
て生きて行かなければならない。そんな人間の生きて行く姿
が、高校生という青春の一時期を中心に描かれる。
脚本と監督は、助監督出身で本作が長編デビュー作のトム・
リン(林書字)。因に監督は、正に本作で描かれた時期に、
映画の舞台とされている地方の高校生だったとのことで、作
品は監督自身の物語でもあるようだ。
なお映画には、八百長事件で球界を逐われたプロ野球選手・
廖敏雄が実名で登場。また、主人公たちの会話の中には飯島
愛という名前も出てきた。いろいろな意味での一つの時代が
描かれた作品とも言えそうだ。

『MW』
漫画家、故手塚治虫の生誕80周年を記念して製作された実写
映画。原作は、手塚作品の中では問題作とされているものだ
そうで、映画の宣伝コピーには「手塚治虫最大のタブー」と
いうような言葉も見られる。
物語は16年前のとある事件から始まる。それは孤島の住民の
殆どが虐殺されたというものだったが、何故か事件は闇に葬
られる。
それから16年後、東南アジアのタイで日本企業の現地駐在員
の娘が誘拐される事件が発生する。その誘拐事件を追うのは
タイ警察への協力のため警視庁から派遣された刑事。刑事は
直感的に犯人を発見し、カーチェスなどの末に追い詰めて行
くが…
この事件は単なる営利誘拐事件として処理され、警察の発表
に基づく事件の報道もそれに終始する。ところが1人の女性
記者がそこに疑問を抱く。そして彼女の調査は、事件を16年
前に島民が全員離島したとされる孤島の問題へと結びつけて
行く。
一方、誘拐事件の首謀者は玉木宏扮するエリートビジネスマ
ンだったが、彼が事件を引き起こすのには、16年前の事件に
起因する理由があった。だが、彼の目前には国家権力という
分厚い壁が立ちはだかっていた。
この他、犯人に振り回される教会の牧師や、次期首相候補の
与党政治家とその秘書など、いろいろな立場の人間たちの物
語が事件を巡って交錯し、ドラマを作り上げて行く。
国家による犯罪。それは民衆の声を圧殺する一方で、それに
よって甘い汁を吸う者も生み出す。そんな矛盾に犯罪行為を
以て挑んで行く主人公。その止むに止まれぬ心情は現代人の
多くに理解されるものだろう。
しかし、主人公が行うのはあくまでも犯罪行為。それを容認
するかのようにも見えるこの物語には映画の製作者も相当に
苦慮したようだ。それは実際に映画の最後に掲示される1枚
のテロップにも現れている。
必殺シリーズやそれに類する作品では見られないこのテロッ
プが、この作品の重大さを物語っているようでもある。そし
てそれは、それほどにこの映画の製作者たちが真剣であった
ということの証でもあるのだろう。
玉木以外の出演者は、山田孝之、石田ゆり子、石橋凌。他に
山田裕典、山下リオ、鶴見辰吾、風間トオル、品川徹らが登
場する。監督は、テレビ『女王の教室』などの岩本仁志が担
当した。

『ダニエル/悪魔の赤ちゃん』“It's Alive”
1974年に公開されてラリー・コーエン監督の名を一躍高めた
ホラー作品のリメイク。因にコーエン監督は、その後に同作
の続編2本でも脚本と監督を手掛けているが、今回は脚本の
みの参加で、監督には1999年『13F』を手掛けたジョセフ
・ラスナックが起用されている。
母親の胎内で異常なスピードで成長した赤ん坊。その赤ん坊
の誕生の時、病院では血生臭い事件が起きていた。しかし麻
酔の施された母親にはその記憶がなかった。そして生まれた
赤ん坊は天使のように美しく、両親はその魅力に取り憑かれ
たようになって行く。
ところがその赤ん坊の周囲では異常な事件が起こり続ける。
そして警察から派遣された心理学者によって、母親は徐々に
真実を思い出し始めるが…
1974年のオリジナルでは、リック・べーカーによって製作操
演された異形の赤ん坊は、正に大暴れするクリーチャーだっ
た。それに対して今回のリメイクでは、赤ん坊は天使のよう
に美しいと表現されている。しかもその姿はスクリーンには
殆ど現れない。
赤ん坊が殺戮を繰り返す本作のジャンル分けはホラーとして
当然のものではあるが、本作の物語の中心は恐怖を引き起こ
す赤ん坊の行動よりも、その赤ん坊を守ろうとする両親の姿
だ。特に真実に気付きながらもそれに見て見ぬ振りをする母
親の哀感などが描かれる。
その描写は、実はオリジナルでも両親の微妙な心情などは描
かれていたものだが、さらに本作ではそこに主眼を置くこと
で、従来のいわゆるクリーチャー物とは一線を画した作品に
なっている。

このような新作の意図は、当然脚本に参加したコーエン監督
の狙いでもあるのだろうが、敢えて続編とせずにリメイクと
したことで、新たに物語の仕切り直しをすることにも成功し
ている。それもコーエン監督の狙いだったのかな。
出演は、2007年にクエンティン・タランティーノが製作した
ホラー作品『ホステル2』などに出演のビジュー・フィリッ
プスと、イギリスのテレビで活躍しているジェームス・マー
レイ。他に2005年『ナニー・マクフィーの魔法のステッキ』
などのラファエル・コールマンが共演している。

『刺青/背負う女』
『刺青/匂ひ月のごとく』
谷崎潤一郎原作の映画化では、2006年1月と11月にそれぞれ
1本ずつを紹介しているが、今回はさらに2本の新作が公開
されることになった。
原作とは言っても、映画化はいずれも物語を現代化したもの
で、女性が刺青を入れることによってその性格や人生を変え
て行くというコンセプトだけを残して、そこにいたる展開な
どは自由に発想されている。むしろインスパイアと言った方
が良いような作品群だ。
そこで今回の作品では、まず「背負う女」は、CMモデル出
身の井上美琴が扮する女性雑誌記者が主人公。その女性は、
妻子ある男性との不倫や両親の離婚・再婚などで落ち着かな
い生活を送っていた。
そんな主人公が、ふとしたことからやくざの男とつきあうよ
うになる。その男の背中には見事な刺青があり、一方、取材
で日本画の美術展を訪れた主人公は、そこに現れた女性刺青
師にも興味を抱く。
そんなことで生活にもちょっと張りの出てきた主人公だった
が…やがて起こる1つの悲劇が、彼女を刺青の世界へと導い
て行く。

このやくざの男を、2004年『パッチギ!』などの波岡一喜が
演じ、女性刺青師には2007年『バブルへGO!!』などの伊藤裕
子が扮している。監督は、2006年『ベロニカは死ぬことにし
た』などの堀江慶。
そしてもう1本の「匂ひ月のごとく」は、ホリプロ所属の井
村空美が主人公。さとう珠緒扮する姉と共に両親の遺したダ
ンススタジオを経営しているが、ダンスのチャンピオンを目
指し何事にも華やかな姉の陰に隠れた存在だ。
しかし主人公は徐々に才能を発揮し始め、それを疎ましく思
い始めた姉はある策略を思いつく。それは、最高の肌に墨を
入れることを夢見る刺青師との出会いから始まる。

この刺青師をモデル出身で映像作家でもある鈴木一真が演じ
ている。監督は、NHK「ソリトン」などを手掛けた三島有
紀子の映画デビュー作。
内容的な部分では、「背負う女」にはちょっと昭和の日本映
画の雰囲気もあり、それはそれで心地よく観られたものだ。
しかし「匂ひ月のごとく」の方は、ちょっと刺青師の出現が
唐突な感じで、ここにはもう少し捻りが欲しかった感じはし
た。
とは言えどちらの作品も、主演女優は共に大胆に肌を露出さ
せているし、その点では問題のない作品と言えるだろう。共
演者もそれぞれしっかりしているし、今後もシリーズとして
定着すれば面白くなりそうだ。
それから2006年11月の第2作紹介の時にも書いたことだが、
同年1月に紹介した第1作の脚本をもう少し練り直して、女
優も選んだ上でリメイクをして貰いたい。谷崎原作のコンセ
プトからは少しずれてしまうかも知れないが、第1作の背景
に進んでいた猟奇事件は面白く展開しそうで、ちゃんと完結
した物語として観てみたいものだ。
        *         *
 今回の製作ニュースは、新しい情報に目ぼしいものがない
ので割愛します。


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井口健二