2009年04月26日(日) |
Blood、マン・オン・ワイヤー、色即ぜねれいしょん、真夏の夜の夢、精神、BASURA、トランスポーター3 |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※ ※僕が気に入った作品のみを紹介しています。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『Blood』 2004年『花と蛇』などの艶技で話題を呼んでいる杉本彩が、 2000年『弟切草』などの下山天監督の許、女吸血鬼役に挑戦 した作品。 物語の主人公は、公安課から捜査1課に転属してきた刑事。 転属の理由は…多分熱血漢がそれにより詰め腹を切らされた というところのようだ。その刑事が、時効を迎えようとして いる14年前の殺人事件の再捜査を始めるところからお話は始 まる。 その事件は、古い屋敷のメイドが惨殺されたもので、内部の 犯行と見られるが関係者には全員アリバイが成立した。そし て刑事は、その屋敷の主だった女性の許を訪ねるが… この屋敷の主を杉本彩が演じ、刑事役を津田寛治、そして女 が犯人と名指しする黒沼と呼ばれる男を要潤が演じている。 他にモデル出身の山口小夜、元ジュノンボーイの松田悟志、 ガッツ石松らか共演。 またスタッフでは、企画原案脚本を2004年『IZO』などの 武知鎮典、音楽を『カンフー・ダンク』などの吉川清之、V FXは現在円谷プロの副社長を務める1994年『河童』などの 岡部淳也が担当している。 つまりスタッフもキャストも、上映時間85分の作品にしては そこそこの顔ぶれが揃っているもので、それなりに気合いの 入った作品と言えそうだ。 吸血鬼ものというのは、プレス資料にも作品リストが挙げら れていたが、古典的な名作も多くていろいろな制約もある。 それを如何に活かし、また新たな展開を生み出せるかが注目 となるものだが、本作はそれなりに考えられているように感 じられた。 特に、本物の吸血鬼となる為には血液が適合しなければなら ない。しかし一般人にも1滴の吸血鬼の血とワインの与え続 ければ不死性を保てる…という設定は、過去にもあるものか どうかは知らないが、いろいろな辻褄も合って良いアイデア に思えた。 そして、その血を持った男女の葛藤や争いが繰り広げられる という展開は、閉じた空間の中での物語とするには上手く作 られている感じがしたものだ。また映画では、その閉鎖空間 から一瞬外に出る展開も良い感じだった。 ただ、本作の結末部分は尻切れトンボとまでは言わないが、 ちょっと呆気なかったことは事実で、ここにもう少しドラマ か捻りが欲しかった感じもする。それを加えて100分ほどの 作品になっていれば、僕は大満足かな?というところだ。 なおプレス資料によると、監督は『ブレードランナー』を演 出の手本にしているのだそうで、従って津田と要の役柄は、 ハリスン・フォードとルトガー・ハウアー…。他にもいろい ろとSF映画への思い入れがあるようで、その辺はちょっと 気になる監督だ。
『マン・オン・ワイヤー』“Man on Wire” 今年の米アカデミー賞で長編ドキュメンタリー賞を受賞した 作品。 1974年、当時はまだ建設途中だったニューヨーク・ワールド トレードセンター(WTC)のツインタワー屋上間に密かに ワイアーを張り、無断の綱渡りを敢行したフランス人曲芸師 フィリップ・プティの記録を再現ドラマを交えて描いたドキ ュメンタリー。 プティはそれ以前にもノートルダム寺院やシドニーの河川橋 の基部のタワー間など、いろいろな場所で無断の綱渡りを敢 行してその度に逮捕されるなど、近年話題の高層ビルの外壁 を登る蜘蛛男のような活動をしていたようだ。 そしてその集大成とも言えるのがWTCだった訳で、この時 も逮捕はされるが、一般民衆には喝采を浴び、以後は各地の イヴェントなどに招かれて公式に綱渡りをするようになった とのことだ。つまりその宣伝効果は抜群だったということに なる。 なお映画は、プティの若い頃からWTCに挑むまでを描き、 そこでは恋人と一緒に綱渡りをするシーンなど、根っからの 綱渡り師であることが紹介される。一方、WTCへの挑戦で は、その準備段階から決行までの様子がインタヴューと再現 ドラマで描かれる。 ただし時代が1974年では、家庭用VTRも普及する以前とな るもので、残されている映像はほとんどがスチル写真、それ を何とか動画的に処理はしているが、正直には物足りなくも 感じてしまうところだ。 しかし本作は各地で評価の高いものだが、結局アメリカ人に は在りし日のWTCが映っているだけでも評価が高くなって しまう訳で、本作がそれを抜きにしても評価されたかどうか には多少の疑問も湧く。 実際に本作では上記の映像が揃っていないことも問題だが、 その他にもドラマによる再現も正確ではなく、特にWTCの 屋上での作業には、本当は3日間掛った筈なのにそのことが 明確に描かれていないのも変な話だった。 つまり、本当は4人だけでできた筈のないことが、さも頑張 りましたという風な感じで描かれていることには疑問も生じ てしまったものだ。実際に設営ではメインのワイアーの他に ステイを張るなどもしている訳で、本当の作業はこんなに簡 単にはできるものではない。 それを、取り落としたワイアーを引き上げるために苦労した ことばかりをメインに描かれても、何かなー…という感じに もなってしまう。できたら、その辺も含めた本当の正確な記 録を観てみたいものだ。 とは言え、「偉業」を行ったことへの達成感みたいなものは 伝わってくるし、空中を歩くことへの爽快感のようなものは あって、それらはそれなりに良い感じではあった。 監督は、2006年9月紹介の『キング/罪の王』なども撮って いるジェームズ・マーシュ。また、音楽を『リバティーン』 などのマイクル・ナイマンが付けている。
『色即ぜねれいしょん』 「マイブーム」「ゆるキャラ」など流行語の造語でも知られ る漫画家みうらじゅん原作の自伝的漫画の映画化。同様の自 伝的漫画『アイデン&ティティ』も先に映画化されており、 その際の監督田口トモロヲが本作も監督した。 その前作を僕は観ていないが、ロックミュージシャンを目指 す若者の話とのことだ。それに対して本作は、それより前の 主人公が高校1年生の時の物語となっており、1958年2月生 まれの原作者からすると1974年頃のお話となるようだ。 その主人公は京都の仏経系の高校に通い、本人的にはミュー ジシャンを目指して曲作りなどもしているようだが、特に何 かの目標があるような生活ではない。そんな主人公が友人に 誘われて隠岐島に行く話と、秋の学園祭でデビューを飾るエ ピソードが描かれる。 原作者については、個人的にはあまり興味が無くて、深夜の テレビ番組でくだらない下ねたを垂れ流している××文化人 ぐらいにしか認識していなかった。従って上記の前作も、確 か東京国際映画祭に掛かっていたとも思うが敢えて鑑賞はし なかった。 それで今回もあまり気乗りはしなかったのだが、貰った試写 状は無駄にしない建て前なので、舞台挨拶付きの完成披露試 写を観に行ったものだ。それで観ての感想は、これはありか なという感じの作品だった。 有名人の青春思い出話みたいな作品もいろいろ観せられてい るが、正直嘘っぽ過ぎて耐えられない作品が多い中では、本 作はそれなりに理解もできる範囲だった。特に隠岐島と聞い てニヤリとするのは…まあそんな時代のお話ということだ。 それでいて、そこからの主人公の行動がそれなりに常識的な ところも評価できるもので、結局のところ僕もいろいろな面 でこの主人公と同じような境遇だったから、その辺が理解し 易かったところなのかも知れない。 取り敢えず、体育会系でもなく全学連でもなかった当時の学 生の姿はこんなものだったというところだろう。その姿が現 代の若者に理解されるかどうかは判らないが、その時代を過 ごしたものにとっては懐かしくもあり、甘酸っぱい気分には させられた。 出演は、高校生バンド黒猫チェルシーの渡辺大知、銀杏BOYZ の峯田和伸、くるりの岸田繁などミュージシャンが多いが、 それなりの演技はしている。特に峯田は、先週紹介した『U SB』の時とはかなり違う好感の持てる雰囲気で驚いた。 共演は、映画出演は23年振りという堀ちえみが主人公の母親 役を演じている他、リリー・フランキー、モデルの臼田あさ 美。さらに大杉漣、塩見三省、山本浩司、木村佑一、安藤サ クラらも出演している。 なお脚本を、『リンダ・リンダ・リンダ』『ニセ札』などの 向井康介が担当しており、それもポイントだったようだ。
『真夏の夜の夢』 シェイクスピアのコメディ・ファンタシー戯曲を、『ホテル ・ハイビスカス』などの中江裕司監督が沖縄を舞台に描き直 した作品。 沖縄には昔、キジムンという精霊がいてそれぞれの島を守っ ていたが、やがて人々の心が自然から離れるに従って消滅し て行った。そんなキジムンが今でも島を守っている小さな島 =世嘉富島。主人公はそんな島で育ち、少女の頃にキジムン に出会い奇跡を貰った。 そんな少女は、やがて都会に出て恋を求めたが、破れて島に 戻ってくる。その島では村長の息子の婚礼を控えて人々はそ の披露宴の準備などに忙しかった。そしてキジムンは、その 披露宴で神称える歌“弥勒節”が歌われれば、人々の心にキ ジムンが復活すると考えていたが… 物語の全体は沖縄芝居の構成を採っており、最初には口上が あって、さらに劇中では披露宴の席で演じられる寸劇も挿入 されている。その沖縄芝居の構成演出は平良進・とみ夫妻が 手掛けていて、いつもの訥々とした感じとは違った平良とみ が観られるものだ。 撮影は、沖縄本島の北西約27kmの東シナ海に浮かぶ伊是名島 で行われ、島のシンボルでもある三角形の山や、数年前に発 見されたばかりという巨大なガジュマルの樹などの大自然が 見事に映像に納められている。 主演は、大河ドラマ『風林火山』などの柴本幸。また『ホテ ル・ハイビスカス』以来の映画出演となる蔵下穂波がキジム ン役を伸び伸びと演じている。因に映画のクライマックスで もある“弥勒節”のシーンは、蔵下自身が特訓の末に歌って いるそうだ。 その他、『イエスタデイズ』などの和田聰宏、『血と骨』な どの中村優子らが共演。さらに現地沖縄の演劇人も多数出演 している。また映画の終盤に登場する巨大魚ガーラは、海人 が特別に捕獲した本物とのことだ。 原作通りの恋の秘薬も登場してファンタスティックな物語が 展開されるが、その背景には自然破壊の乱開発や過疎の問題 なども描かれていて、正に現在の沖縄の実情を描いた作品に もなっている。 中江監督の作品は、前作のドキュメンタリーはちょっと意味 が判らなかったが、本作では再びファンタスティックな沖縄 に戻って安心な気分になれた。
『精神』 2007年5月に紹介した『選挙』の想田和弘監督による「観察 映画」の第2作。民間の精神病施設にカメラを持ち込み、そ こで観察された現在の精神病医療の実態が写し出される。 因に映画の中では撮影の協力を求める文書なども紹介され、 そこでは前作の評判も謳われていた。つまり監督はその実績 を踏まえて本作に取り組んでいるもので、それがこの作品を 可能にしたということでもある。それにしても重大なテーマ を選んだものだ。 撮影されているのは「こらーる岡山」という無床診療所。そ こは山本昌知医師という精神病医が中心となって1997年に設 立されたもので、精神病患者の社会復帰を目標に、軽作業の 作業所やショートステイの施設などが運営されている。 その施設の中にカメラが入り、診療の様子や患者の生の声な どが、すべて実名でモザイクなどの処理も一切なしに描かれ ている。そこに写る患者たちの姿は、正直に言って健常でな いことは明らかだが、同時にその苦しみも共有できるほどに 鮮明に描かれている。 精神病を扱ったドキュメンタリーでは、昨年11月にも『彼女 の名はサビーヌ』と『破片のきらめき』を紹介しているが、 どの作品も希望と絶望が表裏にあるようなものばかりで、そ の現状の厳しさが心に残ったものだ。 そして本作でもそんな患者たちの現実が描かれると共に、さ らに本作では日本の医療保険制度も見渡した厳しい現実も描 かれている。特に、保険制度の変更によりこのような診療所 の経営自体も立ち行かなくなると言う指摘には唖然とさせら れた。 因に、映画のエンドクレジットには「追悼」として映画に登 場する3人の患者の名前が出てくる。それを観るだけでもこ の患者たちの置かれた現実の厳しさが理解できるようだ。 なお本作は、昨年10月釜山国際映画祭でプレミア上映され、 上映後には当初40分の予定だった質疑応答が終電間際までの 1時間半に及ぶほどの関心を集めたそうだ。そして同映画祭 の最優秀ドキュメンタリー賞も受賞している。 精神病というのはとかく偏見が付き纏うものではあるが、こ の作品を観ていると偏見を持つことの愚かしさは明確に理解 できる。だからといって自分が何か行動が起こせる訳ではな いが、少なくとも偏見を解消する努力はしたいと思った。
『BASURA』 1995年に『忘れられた子供たち』という作品で、マニラ市郊 外のごみ捨て場スモーキーマウンテンでごみ拾いをして生活 する子供たちを描いた四ノ宮浩監督が、2001年の『神の子た ち』に続いて3度フィリピンの実情を描いたドキュメンタリ ー作品。 僕は前の2作は観ていないが、スモーキーマウンテンに関し てはテレビの情報番組などである程度の知識は持っていた。 その状況は、特に衛生面に関しては過去の映画で観てきたリ オやムンバイのスラムとは違った過酷さを感じたものだ。 そんな場所を再び取材した作品だが、実はスモーキーマウン テン自体は1995年に政府の手で閉鎖され、その後2002年には その傍に永住住宅が建てられて、以前にごみ捨て場に暮らし ていた人々の多くはそこに住居を与えられていた。 しかし昨年来の世界不況では、フィリピンでも住まいはあっ ても職が無いという状況になり、しかもごみを拾う場所も遠 く離れてしまっていては、生活の術を奪われている住人も多 くなってきているようだ。 そしてマニラの町にはストリートチルドレンが溢れ、その様 子は四ノ宮が取材を開始した20年前とほとんど変っていない ようにも観えたとのことだ。もちろんここにも世界不況の影 響は否めないが、マニラの現状にはそれを超えている面もあ りそうだ。 そんなフィリピンの主に子供たちの状況が、明確に描かれて いる作品だ。そしてそれは、早急に援助の手を差し伸べなけ ればならないような、かなり切迫した状況に陥っているよう にも観えたものだ。 という作品なのだが、実は試写会では上映前に監督の挨拶が あって、フィリピンの窮状が訴えられた。さらに上映の後に も、僕は次の予定があって直ちに会場を出てしまったが、監 督からはさらにお話があったようだ。 一方、映画のエンドクレジットには、この映画の製作を支援 する人たちの長々とした名簿が上映されるなど、ちょっと異 様な雰囲気が漂っていた。 しかも映画の中では、他の取材チームから「クリスティーナ (取材対象の名前)を支援している人たち」という呼び掛け があったり、実際に監督がクリスティーナに仕事の手伝いを させているシーンなども登場しているのだ。 従って本作は「やらせ」ではないけれど、被写体のクリステ ィーナが意図的に動かされている場面もある訳で、これでも ドキュメンタリーなのだろうか…とも感じられた。 もちろん映画をこのような窮状を訴える手段として利用する ことは、方法としてはありだとは思う。しかしここまであか らさまにされてしまうと、何か小首を傾げてしまうような気 分にもなってしまう。 しかもそれが、特定の個人に向けられているように観えるの にも疑問を感じた。同様の作品では2月に『チョコラ!』を 紹介しているが、ドキュメンタリー製作者にはそれなりの冷 静さも欲しいものだ。現状がそれを許さない側面を持つこと も理解はするが。
『トランスポーター3』“Transporter 3” リュック・ベッソンの脚本製作で、2002年11月に初紹介した ジェイスン・ステイサム演じるプロの運び屋フランク・マー ティンが、2006年3月に紹介した第2作以来の復活をした第 3作。前作の紹介でも続きはありそうだと書いたが、その通 りの作品が2年振りに登場した。 しかも本作は、第2作がアメリカを舞台にしたちょっと小振 りの作品だったのに対して、ヨーロッパに舞台を戻し、正に 第1作の勢いを上回る大アクションの展開となっている。そ してその舞台はヨーロッパ全土に拡大されているのだ。 物語の発端では、前作に続いて主人公は危険な稼業を引退し たことになっている。しかしある経緯から現場に復帰。そし て今回の荷物は、大きな防水の袋2つと車に同乗している若 い女。しかも彼女と主人公の手首には、車から約20m離れる と爆発する装置が付けられていた。 この状況下で主人公は、携帯電話での指示に従いフランスか らハンガリー、ドイツ、ルーマニア、そしてウクライナへと 車を進めて行くことになる。そしてその間に、コリー・ユン 振り付けの華麗なカンフーアクションと、思わず拍手したく なるカーアクションが展開されるものだ。 しかもその背景には、ヨーロッパ国家間の環境保護条約締結 を巡って、危険な産業廃棄物の投棄を画策する政府間の陰謀 まであるという大スケールの物語が展開される。 共演は、テレビの『プリズン・ブレイク』が評判のロバート ・ネッパーと、本作でデビューを飾ったナターリャ・ルダコ ワ。他にシリーズ共演者のフランソワ・ベルレアンもフラン ス人刑事の役で再登場する。 因にルダコワは、ニューヨークで街を歩いているところをリ ュック・ベッソン発見され、演技のレッスンから学んで本作 に起用されたとのこと。ちょっと『ジャンヌ・ダルク』の頃 のミラ・ジョヴォヴィッチに似た雰囲気もあり、彼の新ミュ ーズとなりそうだ。 それにしても、主人公が車から離れられない設定の許、見事 なカーアクションが展開されるもので、そこには思わずニヤ リとする部分まで絶妙の緩急で物語が進行されていた。この 手の設定は結構ボロが出やすいものだが、その点の神経は行 き届いていたようだ。 監督は、2003年8月に紹介した『レッド・サイレン』などの オリヴィエ・メガトン。前作も高く評価したつもりだが、本 作でもそのアクション演出の切れ味は変っていなかった。た だしロマンスシーンでは、実はベッソン自身が演出を担当し ているそうで、新ミューズへの思い入れはかなり強そうだ。
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